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第三章:不鮮明な苦悩
不鮮明な苦悩 1
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「あ、おはよう。奇遇だね、青年」
有野先生から、九条先輩の相談に乗ってあげて欲しいといった旨のお願いをされた翌日。
いつも通りの時間に起き学校へ向かっていた俺は、背後から聞こえた妃夏の声に足を止め、肩越しに振り向いた。
「おはよう。奇遇って、朝はしょっちゅう会ってるだろ」
半眼でぼやき、妃夏が横へ並ぶのを待ってから再び歩みを再開する。
俺と妃夏の家は歩いて四分かかるかどうかという近さであり、本当に幼馴染の間柄が相応しいくらい幼い頃から一緒に遊んで育ってきた。
小学校はほぼ毎日一緒に登校、中学の頃もどちらかが何かしらの用が無ければ大抵は一緒に登校、高校になった今もそれは変わらず、何だかんだでこうして並んで歩くことが多い。
故に、この状況を目撃したクラスメイトや知人からは、二人は付き合っているに違いないとか、いくら何でも堂々と交際し過ぎだろといったからかいの言葉をかけられたことは何十回も経験してきた。
最初の頃――一番初めに言われたのは、確か小学三年の時にクラスにいたお調子者がからかってきたときだった――は恥ずかしいのと腹が立つのとで本当に嫌だったものだが、今となっては流石に慣れてしまい適当にあしらう術も身についてしまっている。
いつだったか、中学のときに妃夏と二人でいた際にはクラスの女子から「もどかしいから、もういっそ付き合えば良いじゃん! お互い恋人いないんでしょ?」と、余計なお世話な言葉をかけられたことがあったのだが、そのときに妃夏が俺を上目遣いに見上げて言った言葉が、
“才樹、付き合ってる人とかいる? いないよね? じゃあ安心していいよ、あたしもいないから”
という、周りの女子のテンションへ油を注ぐようなものであったため――当然、女子に便乗し俺をからかうための意味で言った台詞だったが――、一時期は余計に面倒な日々を過ごすはめとなったりもした。
「しょっちゅう会ってても、今日の才樹と出会うのは今日が初めてだよ。初めまして」
「意味わかんねぇよ。朝から元気だな」
「そう。あたしはいつだって元気だよ。怪我したり風邪ひいたり、あと落ち込んだりとかしてるとき以外はね」
「うん、誰だってそうだ。ああ、そういや昨日の話はどうするつもりなんだ?」
くだらない会話に適当な返事をしてから、俺は九条先輩の件が気になり問いを投げてみる。
「昨日の? 九条先輩のこと? 今日にでも声かけてみようかなって思ってるけど。一応はちょっと様子を見てから判断はしようかな。有野先生はああ言ってたけど、先生の思い過ごしとか単に九条先輩の機嫌が悪かっただけとか、そういうことも無いとは言えないなって思ったから」
「そうか。まぁ、妥当な判断だろうな。でも、仮に九条先輩が何かに悩んでたとしても、あんまりしつこくしたりして強引に聞き出すような真似は本当にやめとけよ? 人間誰しも、人には話せない悩みだって一つくらいはあるんだしさ」
「もちろん、それくらいはわかってるよ。ただまぁ、あたしにはそんな悩み無いけどね。悩んだら割と簡単に人に話しちゃったりするし、その方が気持ちが楽になったり解決方法が見つかる確率が高くなったり、良いことが多いから」
「あ、おはよう。奇遇だね、青年」
有野先生から、九条先輩の相談に乗ってあげて欲しいといった旨のお願いをされた翌日。
いつも通りの時間に起き学校へ向かっていた俺は、背後から聞こえた妃夏の声に足を止め、肩越しに振り向いた。
「おはよう。奇遇って、朝はしょっちゅう会ってるだろ」
半眼でぼやき、妃夏が横へ並ぶのを待ってから再び歩みを再開する。
俺と妃夏の家は歩いて四分かかるかどうかという近さであり、本当に幼馴染の間柄が相応しいくらい幼い頃から一緒に遊んで育ってきた。
小学校はほぼ毎日一緒に登校、中学の頃もどちらかが何かしらの用が無ければ大抵は一緒に登校、高校になった今もそれは変わらず、何だかんだでこうして並んで歩くことが多い。
故に、この状況を目撃したクラスメイトや知人からは、二人は付き合っているに違いないとか、いくら何でも堂々と交際し過ぎだろといったからかいの言葉をかけられたことは何十回も経験してきた。
最初の頃――一番初めに言われたのは、確か小学三年の時にクラスにいたお調子者がからかってきたときだった――は恥ずかしいのと腹が立つのとで本当に嫌だったものだが、今となっては流石に慣れてしまい適当にあしらう術も身についてしまっている。
いつだったか、中学のときに妃夏と二人でいた際にはクラスの女子から「もどかしいから、もういっそ付き合えば良いじゃん! お互い恋人いないんでしょ?」と、余計なお世話な言葉をかけられたことがあったのだが、そのときに妃夏が俺を上目遣いに見上げて言った言葉が、
“才樹、付き合ってる人とかいる? いないよね? じゃあ安心していいよ、あたしもいないから”
という、周りの女子のテンションへ油を注ぐようなものであったため――当然、女子に便乗し俺をからかうための意味で言った台詞だったが――、一時期は余計に面倒な日々を過ごすはめとなったりもした。
「しょっちゅう会ってても、今日の才樹と出会うのは今日が初めてだよ。初めまして」
「意味わかんねぇよ。朝から元気だな」
「そう。あたしはいつだって元気だよ。怪我したり風邪ひいたり、あと落ち込んだりとかしてるとき以外はね」
「うん、誰だってそうだ。ああ、そういや昨日の話はどうするつもりなんだ?」
くだらない会話に適当な返事をしてから、俺は九条先輩の件が気になり問いを投げてみる。
「昨日の? 九条先輩のこと? 今日にでも声かけてみようかなって思ってるけど。一応はちょっと様子を見てから判断はしようかな。有野先生はああ言ってたけど、先生の思い過ごしとか単に九条先輩の機嫌が悪かっただけとか、そういうことも無いとは言えないなって思ったから」
「そうか。まぁ、妥当な判断だろうな。でも、仮に九条先輩が何かに悩んでたとしても、あんまりしつこくしたりして強引に聞き出すような真似は本当にやめとけよ? 人間誰しも、人には話せない悩みだって一つくらいはあるんだしさ」
「もちろん、それくらいはわかってるよ。ただまぁ、あたしにはそんな悩み無いけどね。悩んだら割と簡単に人に話しちゃったりするし、その方が気持ちが楽になったり解決方法が見つかる確率が高くなったり、良いことが多いから」
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