遠い空のデネブ

雪鳴月彦

文字の大きさ
21 / 76
第三章:不鮮明な苦悩

不鮮明な苦悩 1

しおりを挟む
          1

「あ、おはよう。奇遇だね、青年」

 有野先生から、九条先輩の相談に乗ってあげて欲しいといった旨のお願いをされた翌日。

 いつも通りの時間に起き学校へ向かっていた俺は、背後から聞こえた妃夏ひめかの声に足を止め、肩越しに振り向いた。

「おはよう。奇遇って、朝はしょっちゅう会ってるだろ」

 半眼でぼやき、妃夏が横へ並ぶのを待ってから再び歩みを再開する。

 俺と妃夏の家は歩いて四分かかるかどうかという近さであり、本当に幼馴染の間柄が相応しいくらい幼い頃から一緒に遊んで育ってきた。

 小学校はほぼ毎日一緒に登校、中学の頃もどちらかが何かしらの用が無ければ大抵は一緒に登校、高校になった今もそれは変わらず、何だかんだでこうして並んで歩くことが多い。

 故に、この状況を目撃したクラスメイトや知人からは、二人は付き合っているに違いないとか、いくら何でも堂々と交際し過ぎだろといったからかいの言葉をかけられたことは何十回も経験してきた。

 最初の頃――一番初めに言われたのは、確か小学三年の時にクラスにいたお調子者がからかってきたときだった――は恥ずかしいのと腹が立つのとで本当に嫌だったものだが、今となっては流石さすがに慣れてしまい適当にあしらう術も身についてしまっている。

 いつだったか、中学のときに妃夏と二人でいた際にはクラスの女子から「もどかしいから、もういっそ付き合えば良いじゃん! お互い恋人いないんでしょ?」と、余計なお世話な言葉をかけられたことがあったのだが、そのときに妃夏が俺を上目遣いに見上げて言った言葉が、

“才樹、付き合ってる人とかいる? いないよね? じゃあ安心していいよ、あたしもいないから”

 という、周りの女子のテンションへ油を注ぐようなものであったため――当然、女子に便乗し俺をからかうための意味で言った台詞だったが――、一時期は余計に面倒な日々を過ごすはめとなったりもした。

「しょっちゅう会ってても、今日の才樹と出会うのは今日が初めてだよ。初めまして」

「意味わかんねぇよ。朝から元気だな」

「そう。あたしはいつだって元気だよ。怪我したり風邪ひいたり、あと落ち込んだりとかしてるとき以外はね」

「うん、誰だってそうだ。ああ、そういや昨日の話はどうするつもりなんだ?」

 くだらない会話に適当な返事をしてから、俺は九条先輩の件が気になり問いを投げてみる。

「昨日の? 九条先輩のこと? 今日にでも声かけてみようかなって思ってるけど。一応はちょっと様子を見てから判断はしようかな。有野先生はああ言ってたけど、先生の思い過ごしとか単に九条先輩の機嫌が悪かっただけとか、そういうことも無いとは言えないなって思ったから」

「そうか。まぁ、妥当な判断だろうな。でも、仮に九条先輩が何かに悩んでたとしても、あんまりしつこくしたりして強引に聞き出すような真似は本当にやめとけよ? 人間誰しも、人には話せない悩みだって一つくらいはあるんだしさ」

「もちろん、それくらいはわかってるよ。ただまぁ、あたしにはそんな悩み無いけどね。悩んだら割と簡単に人に話しちゃったりするし、その方が気持ちが楽になったり解決方法が見つかる確率が高くなったり、良いことが多いから」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

秘められたサイズへの渇望

到冠
大衆娯楽
大きな胸であることを隠してる少女たちが、自分の真のサイズを開放して比べあうお話です。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...