55 / 76
第五章:未来への兆し
未来への兆し 6
しおりを挟む
3
「おう、才樹。朝っぱらから何してんだよ? 真面目に勉強するようなタイプでもないくせに」
まだ授業が始まるまでには余裕があるのを良いことに、大学ノートに思いつた長編のプロットを書いて時間を潰していると、悩みの欠片もなさそうな満面の笑みを浮かべた響平が俺の手元を覗き込んできた。
「おはよう。プロット書いてたんだよ。応募用でもないけど、面白いネタが浮かんだから忘れないうちにと思ってさ」
首の関節を鳴らしながら、ノートへ落としていた視線を響平の方へと上げて、俺はそのまま椅子へ背中を預けた。
「へぇ、そいつは邪魔しちまったかな。……ふーん、これがプロットっていうのか。設定、みたいな感じか?」
興味ありげにノートを覗き込んでいる響平は、まだあまり進んでいない登場キャラの特徴と物語の舞台となる町の簡単な説明文を目でなぞりながら、小さく首を傾げて問うてくる。
「まぁ、そんなとこ。物語を創り上げていく上での、最低限の設定みたいなやつ。ま、実際に書き始めると考えた通りにいかないことも多いんだけどな」
「ふぅん? しかし、手間かかるんだな。話を創るっていうのも」
「そりゃそうだ。作業が軌道に乗ってるときは面白いくらいに順調に進むけど、逆にうまく書けなくなると一気に萎える。面倒くせぇってなっちまうし」
「それでも、止めずに最後まで書くんだろ? 大したもんだわ」
「普通だよ、自分が好きでやってることなんだから」
お世辞抜きで感心した声を漏らす響平に、まんざらでもない気分で言葉を返す。
「普通は、好きでやってることだからこそ、無責任に放り出したりしちまうもんだと思うんだけどなぁ。……あ、そう言えば」
両手を頭の後ろで組みながら俺の返答を聞いていた響平は、ふと何かを思い出したというように俺を指差してきた。
「何だよ?」
「昨日の帰りにさ、あの……えっと、九条先輩だっけ? 才樹がやってる部活の先輩」
「ん? ああ、九条先輩がどうかしたのか?」
まさかここでその名前が出てくるとは想定していなかったため、若干驚きはしたものの平静を装って言葉を返した。
九条先輩は一昨日の夕方に部室で会ってそれっきり。
帰ろうとした先輩を妃夏が追いかけていったが、説得を試みるも引き留めることはできなかったと、困ったように笑いながら結果報告をたのが、先輩に関する現時点で最後の話題か。
「うん。昨日学校の帰りにさ、駅前の本屋に立ち寄ったんだよ。そしたら、あの九条先輩のこと見かけたんだけど、何かすげー数の本買ってたんだよなぁ」
「本? 受験に使う参考書とかじゃないのか? 九条先輩、最近は勉強漬けで忙しいみたいなことずっと言ってたし」
いくら友人とは言え、活字愛好倶楽部の内情を部外者に話すのさすがに違うなと判断し、俺は当たり障りない範囲の言葉を返す。
「いやぁ、違かったな。何か、オレはよくわかんねーけどさ、人物の書き方とか文章構成のなんちゃらみたいな、そういう系の本ってあるじゃん? ああいうの買ってた。タイトルまでは見てないけど、先輩がいなくなってから本を物色してたコーナー見てみたら、そういうのたくさんあったからさ。才樹たち、ああいう本読んで勉強したり技術身につけたりしてんのかぁって思ったんだけど」
「おう、才樹。朝っぱらから何してんだよ? 真面目に勉強するようなタイプでもないくせに」
まだ授業が始まるまでには余裕があるのを良いことに、大学ノートに思いつた長編のプロットを書いて時間を潰していると、悩みの欠片もなさそうな満面の笑みを浮かべた響平が俺の手元を覗き込んできた。
「おはよう。プロット書いてたんだよ。応募用でもないけど、面白いネタが浮かんだから忘れないうちにと思ってさ」
首の関節を鳴らしながら、ノートへ落としていた視線を響平の方へと上げて、俺はそのまま椅子へ背中を預けた。
「へぇ、そいつは邪魔しちまったかな。……ふーん、これがプロットっていうのか。設定、みたいな感じか?」
興味ありげにノートを覗き込んでいる響平は、まだあまり進んでいない登場キャラの特徴と物語の舞台となる町の簡単な説明文を目でなぞりながら、小さく首を傾げて問うてくる。
「まぁ、そんなとこ。物語を創り上げていく上での、最低限の設定みたいなやつ。ま、実際に書き始めると考えた通りにいかないことも多いんだけどな」
「ふぅん? しかし、手間かかるんだな。話を創るっていうのも」
「そりゃそうだ。作業が軌道に乗ってるときは面白いくらいに順調に進むけど、逆にうまく書けなくなると一気に萎える。面倒くせぇってなっちまうし」
「それでも、止めずに最後まで書くんだろ? 大したもんだわ」
「普通だよ、自分が好きでやってることなんだから」
お世辞抜きで感心した声を漏らす響平に、まんざらでもない気分で言葉を返す。
「普通は、好きでやってることだからこそ、無責任に放り出したりしちまうもんだと思うんだけどなぁ。……あ、そう言えば」
両手を頭の後ろで組みながら俺の返答を聞いていた響平は、ふと何かを思い出したというように俺を指差してきた。
「何だよ?」
「昨日の帰りにさ、あの……えっと、九条先輩だっけ? 才樹がやってる部活の先輩」
「ん? ああ、九条先輩がどうかしたのか?」
まさかここでその名前が出てくるとは想定していなかったため、若干驚きはしたものの平静を装って言葉を返した。
九条先輩は一昨日の夕方に部室で会ってそれっきり。
帰ろうとした先輩を妃夏が追いかけていったが、説得を試みるも引き留めることはできなかったと、困ったように笑いながら結果報告をたのが、先輩に関する現時点で最後の話題か。
「うん。昨日学校の帰りにさ、駅前の本屋に立ち寄ったんだよ。そしたら、あの九条先輩のこと見かけたんだけど、何かすげー数の本買ってたんだよなぁ」
「本? 受験に使う参考書とかじゃないのか? 九条先輩、最近は勉強漬けで忙しいみたいなことずっと言ってたし」
いくら友人とは言え、活字愛好倶楽部の内情を部外者に話すのさすがに違うなと判断し、俺は当たり障りない範囲の言葉を返す。
「いやぁ、違かったな。何か、オレはよくわかんねーけどさ、人物の書き方とか文章構成のなんちゃらみたいな、そういう系の本ってあるじゃん? ああいうの買ってた。タイトルまでは見てないけど、先輩がいなくなってから本を物色してたコーナー見てみたら、そういうのたくさんあったからさ。才樹たち、ああいう本読んで勉強したり技術身につけたりしてんのかぁって思ったんだけど」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
負けヒロインに花束を!
遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。
葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。
その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる