遠い空のデネブ

雪鳴月彦

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第五章:未来への兆し

未来への兆し 6

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「おう、才樹。朝っぱらから何してんだよ? 真面目に勉強するようなタイプでもないくせに」

 まだ授業が始まるまでには余裕があるのを良いことに、大学ノートに思いつた長編のプロットを書いて時間を潰していると、悩みの欠片もなさそうな満面の笑みを浮かべた響平が俺の手元を覗き込んできた。

「おはよう。プロット書いてたんだよ。応募用でもないけど、面白いネタが浮かんだから忘れないうちにと思ってさ」

 首の関節を鳴らしながら、ノートへ落としていた視線を響平の方へと上げて、俺はそのまま椅子へ背中を預けた。

「へぇ、そいつは邪魔しちまったかな。……ふーん、これがプロットっていうのか。設定、みたいな感じか?」

 興味ありげにノートを覗き込んでいる響平は、まだあまり進んでいない登場キャラの特徴と物語の舞台となる町の簡単な説明文を目でなぞりながら、小さく首を傾げて問うてくる。

「まぁ、そんなとこ。物語を創り上げていく上での、最低限の設定みたいなやつ。ま、実際に書き始めると考えた通りにいかないことも多いんだけどな」

「ふぅん? しかし、手間かかるんだな。話を創るっていうのも」

「そりゃそうだ。作業が軌道に乗ってるときは面白いくらいに順調に進むけど、逆にうまく書けなくなると一気に萎える。面倒くせぇってなっちまうし」

「それでも、止めずに最後まで書くんだろ? 大したもんだわ」

「普通だよ、自分が好きでやってることなんだから」

 お世辞抜きで感心した声を漏らす響平に、まんざらでもない気分で言葉を返す。

「普通は、好きでやってることだからこそ、無責任に放り出したりしちまうもんだと思うんだけどなぁ。……あ、そう言えば」

 両手を頭の後ろで組みながら俺の返答を聞いていた響平は、ふと何かを思い出したというように俺を指差してきた。

「何だよ?」

「昨日の帰りにさ、あの……えっと、九条先輩だっけ? 才樹がやってる部活の先輩」

「ん? ああ、九条先輩がどうかしたのか?」

 まさかここでその名前が出てくるとは想定していなかったため、若干驚きはしたものの平静を装って言葉を返した。

 九条先輩は一昨日の夕方に部室で会ってそれっきり。

 帰ろうとした先輩を妃夏が追いかけていったが、説得を試みるも引き留めることはできなかったと、困ったように笑いながら結果報告をたのが、先輩に関する現時点で最後の話題か。

「うん。昨日学校の帰りにさ、駅前の本屋に立ち寄ったんだよ。そしたら、あの九条先輩のこと見かけたんだけど、何かすげー数の本買ってたんだよなぁ」

「本? 受験に使う参考書とかじゃないのか? 九条先輩、最近は勉強漬けで忙しいみたいなことずっと言ってたし」

 いくら友人とは言え、活字愛好倶楽部の内情を部外者に話すのさすがに違うなと判断し、俺は当たり障りない範囲の言葉を返す。

「いやぁ、違かったな。何か、オレはよくわかんねーけどさ、人物の書き方とか文章構成のなんちゃらみたいな、そういう系の本ってあるじゃん? ああいうの買ってた。タイトルまでは見てないけど、先輩がいなくなってから本を物色してたコーナー見てみたら、そういうのたくさんあったからさ。才樹たち、ああいう本読んで勉強したり技術身につけたりしてんのかぁって思ったんだけど」
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