【完結】役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20

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15 カシウス

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 馬車の窓から景色を眺めている彼女の姿をチラリと盗み見る。五年もの間、彼女のことを忘れる日など一日もなかった。そんな恋い焦がれていた彼女が目の前にいる。何度もこれは夢なのかもと思ったが、緑色の髪に菫色の瞳をした初恋は、僕の目の前にたしかに存在していた。


 呪いを身に宿す僕は、隠されて育てられてきた。だから僕の存在を知る人はほんの一握りだ。
 成人になるまでに言語、歴史、マナー、音楽、芸術、剣術など様々なことを学び、十五歳を迎えると家から出て旅に出る。これが我が家の決まりで、まだ一度も会ったことのない兄や姉も十五歳で家を出たそうだ。そして僕も十五歳になると家を出た。この旅の目的はただ一つ。愛を知るためである。



 ◆◆◆



 遥か遠い昔、後に愛の女神と呼ばれるようになる女神が一人の男と恋に落ちた。男は人間だった。神と人間が交わるのは禁忌とされていたが、二人は一線を越え、女神は子を宿す。けれどそれに怒った他の神たちは、女神を神界から追い出してしまう。女神は地に落ちたが、それでも男を愛し続けた。男もまた女神に寄り添い続けた。そして子が生まれ三人幸せに暮らしていたが、ある時男が浮気をしてしまう。女神は許せなかった。自分はすべてを男に捧げたのに、男は簡単に自分を裏切ったのだから。

 女神は怒り、男に呪いをかけた。男の子孫に永遠に受け継がれる呪いを。そして女神は子を連れ、男の前から消えた。

 男と浮気相手の間に子ができたものの、不思議なことに十五歳から見た目が変わることがなかった。国中の医者に診せても原因はわからない。男は神に祈った。すると男の前に女神が現れ言ったのだ。

 本当の愛を知らなければ血筋は途絶える、と。

 男は女神に許しを乞うたが、女神は二度と男の前に姿を現すことはなかった。男は女神の愛がいかに深いものだったのかようやく理解した。それと同時にすべてを捨ててまで自分を選んでくれた女神を裏切ってしまった後悔に苛まれたが、血を絶やすわけにはいかない男は女神に生涯祈りを捧げ続けた。

 それから永い年月を経て、女神は人々から愛の女神と呼ばれるようになったのだ。



 ◆◆◆



 これはとある国の王家に言い伝えられている話だ。何も知らない人からすればただのおとぎ話に聞こえるが、これは遥か昔に本当にあったことだ。
 話の中に出てくる男とは当時の王太子のことで、記録によれば彼には四人の子どもがいたとされているが、その内三人は成人前に亡くなったことになっている。おそらくその三人の子どもは“愛の試練”を乗り越えられず、子どもの姿から成長できなかった。だから表舞台に出ることができず、亡くなったということにするしかなかったのだろう。

 そしてその呪いは今も存在しているのだ。
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