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どうしよう、やはり経って待っていた方が良いのでしょうか。
立場的にはわたくしは敗戦国とはいえ王女であるし、ゼノン様は将軍とはいえ平民出身であると聞いているし……ああ、いえ、もう結婚して妻となったのだからやはり夫よりも先に座ったりなど良くないことだと教本に書いてあったような気がする。
「待たせ……ました」
「は、はい。いえ、あの、貴方様のご自宅なのですから、そのような……」
「……その、『貴方様』というのは?」
少し眉を顰めて首を傾げるゼノン様は、なんというか……怒っているような顔に見えるけれど、どうやら困惑していらっしゃる……のかしら。
わたくしもどうしていいのかわからずにただ立ち尽くしていると、彼は考えるのを止めたようで歩み寄ってきて椅子をひいた。
「……どうぞ」
「えっ」
ああ!
そうだ、昔幼い頃にまだ教師がいた頃習った。
淑女に対して紳士はこのようにしてくれるんだったわ。ということは、ゼノン様は、わたくしを……淑女として扱ってくださっている、ということでいいのかしら。
「あ、りがとう、ございます……」
こんな扱いをされるのは初めて。
いいえ、ここに来て初めてのことばかり。
誰かに顔を背けられることなく、会話してもらえたことも。
わたくしの姿を見て、顔をしかめることがなかったことも。
美しいと褒められたことも。
……愛してほしいと、乞われたことも。
(いいえ、あれはわたくしの幻聴。愛されたいだなんて、今更……)
「まず、お互いを知るに、……俺は、あまり丁寧な喋り方が得意ではないので、ご承知おき願いたい」
「え? あの、それはお好きになさってくださいませ。特に、あの……わたくしと貴方様は夫婦になったのですし、気兼ねは……」
「その貴方様というのも。止めていただきたい」
「えっ?」
「……夫婦になったのに、他人行儀でしょう」
私はゼノン様の顔を見て、ハッと息を呑む。
何かを堪え、眉間に皺を寄せたその表情は怒っている――そう感じた瞬間、ざあっと体中から血の気が引くのを感じる。
「も、申し訳ありません……!!」
「……え? あ、いや、違う、別に俺は怒っているわけじゃ……!!」
「申し訳ございません、わたくしのような『厄災の娘』が妻と名乗るなど、それはおこがましいと理解しているのです。ですが、敗戦国の王女として、最期の勤めを果たせねば、わたくしは――」
「待て」
愚かにもうろたえるわたくしを、ゼノン様は制しました。
ああ、なんということだろう。
婚儀が決まってから、読んでおけと言われた本にも書いてあったではないか。
(『淑女として、妻となった女は、静かに微笑みただ夫の言葉に従うべし』とあったのに)
わたくしは至らなさから叱られることに怯え、このような醜態をさらすなんだなんて。
「そもそも、勘違いをしている。俺は、貴女が妻となってくれたことが嬉しい」
「……え?」
「やはり、そこからだな。まず、俺の話を聞いてほしい」
「は、はい」
改めてお互い座り直すと、わたくしは自分が情けなくてなんとなく俯いてしまった。
塔にいる時は、時折呼び出され、お父様たちに生きながらえた『厄災の娘』がいるから国内で災いが溢れたのだ、謝罪せよと折檻された。
そのたびに、時間が早く過ぎればと願って俯いていた。
顔を上げなくては。
そう思うのに、上げられない。
「俺は、……そうだな、まずは俺のことを話そう。もう知っておられるとは思うが、俺は平民だった。今も、そうだろう。俺は、人と少しだけ違う……それだけで、将軍にまで上り詰めただけの、この国では化け物なのだ」
「えっ……?」
化け物?
どうしてそんなことを言うのだろう。
だって、この方がいたからこそこの戦争でディーヴァス王国が圧勝したはずなのに。
思わず顔を上げた私に、ゼノン様は優しく笑った。
ああ、初めて笑った顔を見たかもしれない。
立場的にはわたくしは敗戦国とはいえ王女であるし、ゼノン様は将軍とはいえ平民出身であると聞いているし……ああ、いえ、もう結婚して妻となったのだからやはり夫よりも先に座ったりなど良くないことだと教本に書いてあったような気がする。
「待たせ……ました」
「は、はい。いえ、あの、貴方様のご自宅なのですから、そのような……」
「……その、『貴方様』というのは?」
少し眉を顰めて首を傾げるゼノン様は、なんというか……怒っているような顔に見えるけれど、どうやら困惑していらっしゃる……のかしら。
わたくしもどうしていいのかわからずにただ立ち尽くしていると、彼は考えるのを止めたようで歩み寄ってきて椅子をひいた。
「……どうぞ」
「えっ」
ああ!
そうだ、昔幼い頃にまだ教師がいた頃習った。
淑女に対して紳士はこのようにしてくれるんだったわ。ということは、ゼノン様は、わたくしを……淑女として扱ってくださっている、ということでいいのかしら。
「あ、りがとう、ございます……」
こんな扱いをされるのは初めて。
いいえ、ここに来て初めてのことばかり。
誰かに顔を背けられることなく、会話してもらえたことも。
わたくしの姿を見て、顔をしかめることがなかったことも。
美しいと褒められたことも。
……愛してほしいと、乞われたことも。
(いいえ、あれはわたくしの幻聴。愛されたいだなんて、今更……)
「まず、お互いを知るに、……俺は、あまり丁寧な喋り方が得意ではないので、ご承知おき願いたい」
「え? あの、それはお好きになさってくださいませ。特に、あの……わたくしと貴方様は夫婦になったのですし、気兼ねは……」
「その貴方様というのも。止めていただきたい」
「えっ?」
「……夫婦になったのに、他人行儀でしょう」
私はゼノン様の顔を見て、ハッと息を呑む。
何かを堪え、眉間に皺を寄せたその表情は怒っている――そう感じた瞬間、ざあっと体中から血の気が引くのを感じる。
「も、申し訳ありません……!!」
「……え? あ、いや、違う、別に俺は怒っているわけじゃ……!!」
「申し訳ございません、わたくしのような『厄災の娘』が妻と名乗るなど、それはおこがましいと理解しているのです。ですが、敗戦国の王女として、最期の勤めを果たせねば、わたくしは――」
「待て」
愚かにもうろたえるわたくしを、ゼノン様は制しました。
ああ、なんということだろう。
婚儀が決まってから、読んでおけと言われた本にも書いてあったではないか。
(『淑女として、妻となった女は、静かに微笑みただ夫の言葉に従うべし』とあったのに)
わたくしは至らなさから叱られることに怯え、このような醜態をさらすなんだなんて。
「そもそも、勘違いをしている。俺は、貴女が妻となってくれたことが嬉しい」
「……え?」
「やはり、そこからだな。まず、俺の話を聞いてほしい」
「は、はい」
改めてお互い座り直すと、わたくしは自分が情けなくてなんとなく俯いてしまった。
塔にいる時は、時折呼び出され、お父様たちに生きながらえた『厄災の娘』がいるから国内で災いが溢れたのだ、謝罪せよと折檻された。
そのたびに、時間が早く過ぎればと願って俯いていた。
顔を上げなくては。
そう思うのに、上げられない。
「俺は、……そうだな、まずは俺のことを話そう。もう知っておられるとは思うが、俺は平民だった。今も、そうだろう。俺は、人と少しだけ違う……それだけで、将軍にまで上り詰めただけの、この国では化け物なのだ」
「えっ……?」
化け物?
どうしてそんなことを言うのだろう。
だって、この方がいたからこそこの戦争でディーヴァス王国が圧勝したはずなのに。
思わず顔を上げた私に、ゼノン様は優しく笑った。
ああ、初めて笑った顔を見たかもしれない。
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