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「バッカスでしたね。わたくしからいくつか質問をさせてもらってもよいのかしら」
「なんなりと、奥様」
「ありがとう」
おそらく――王太子殿下の意図とは別に、彼らはわたくしたちを主人としてある程度敬ってはくれるだろうけれど、あくまで主人は王太子殿下だと思っているはず。
それについては当然のことと思うので、わたくしも気にはしない。
「あなたたちの主人は王太子殿下、そして役割は今後この館で正しく働く人材を育成し、わたくしたち自身も正しく主人として成長させること……で合っているかしら?」
わたくしの問いに何故かゼノン様が目を丸くなさったので、思わずわたくしもびっくりしてしまいましたが……。
バッカス以外の人たちも驚いているし、なんだったらエヴリンも「あんれまあ!」って大きな声を出すし。
「わ、わたくし変なことを質問したかしら……?」
「奥様。大変失礼ながら……それは我らの忠誠を疑ってのお言葉ですかな?」
「え? 疑うなどとんでもない!」
ああ、わたくしの言葉が足りなかったために誤解させてしまったのね!!
大慌てで否定をして、わたくしはゼノン様に弁明の意を込めて言葉を続けました。
「ゼノン様もそうですが、わたくしもあまり人と接する機会はなく、人を使うことに不慣れです。王太子殿下はお優しい方でそこを理解してくださった上であなたたちを派遣してくださったとゼノン様より伺っています」
「……ああ」
「ですから、あなた方ははあくまでこの館が将軍の館に相応しい形となるまで王太子殿下から派遣された人員と思って……その確認がしたかったの。誤解を招くような発言をしてごめんなさいね」
はあ、わたくしったら……ゼノン様のお役に立てるかと思ったのにやっぱり十才までの教育では女主人としてあれこれ足りなさすぎるのだわ。
思わずションボリとしてしまったところで、エヴリンがわたくしを見てにこにこしていることに気がついた。
「エヴリン?」
「あんれまあ、あたしゃ感激したんですよう! てっきりあたしゃ、旦那様と一緒に全部人任せにしちまうのかとばっかり……なんせ旦那様は生活能力皆無ですんでねエ」
「それを言ったらわたくしもそうでしょう? エヴリンに教えてもらわないとまだまだだもの」
「旦那様に比べりゃあ人並みってもんですよう!」
カラカラと笑ったエヴリンのその笑顔に、わたくしもホッとする。
少なくともポジティブに捉えてくれる人が近くにいてくれるというのは、とてもありがたいことだ。
(こういう時、お姉様だったらどうしたのかしら……)
華やかで、誰からも好かれる人だった。
両親の愛はそっくりそのまま姉に注がれていることを知っていて、走るあの姿にどれほど憧れたことか。
(でも、お姉様がこの戦を引き起こした……)
ゼノン様を『化け物』と呼ぶ人たちから見たらわたくしも『敗戦国の姫』ではなく『戦を引き起こした女の妹』なのだろう。
そう考えれば、両親とお姉様は正しくわたくしを『生け贄』として差し出したのだという事実にいきついて胸が苦しくなる。
この国に来たのは、家族に切り捨てられたから。
けれど、この国に来たおかげでゼノン様に出会えたのだ。
(でも……わたくしのせいで、ゼノン様の評判が落ちる可能性もある……)
お姉様のことを聞く前までは、わたくしがこの国では『慈愛の人』として大切にされるであろうことは少しずつ理解できるようになってきた。
なにより、この容姿のおかげでゼノン様がわたくしを求めてくださるならば、とても嬉しい。
だけど、お姉様が戦の原因だと知った今では将軍の下に憎き女の妹がいると、それだけで悪感情を持たれてしまうかもしれないということを理解した。
「バッカス、もし、わたくしの考えが間違いでなければお願いがあるのです」
「……お願い、ですかな。それはどのような?」
「わたくしに、よき女主人となれるよう教育を施す人を紹介していただけるよう手配していただきたいの。それと、あなたたちはそれぞれ自身を『長』と言っていたから人を雇うつもりなのでしょうけれど、その採用の現場に立ち会わせてもらえないかしら。口は一切挟まないと約束するわ」
「シア、なにを」
「わたくしは、この国を知りたい。ゼノン様の妻として、できることをしたいと思っております」
ゼノン様はお優しいから、わたくしがいるだけで良いと仰ってくださるでしょう。
わたくしも、ゼノン様がいてくださればいい。
だけど、それだけではいけないことも理解できているつもりだ。
王太子殿下が人を寄越したのは、ただ親切なだけではない。
その意図をくみ取って、正しく行動ができれば……それはきっとわたくしたちの幸せに繋がるのだと思う。
「ゼノン様にとって、王太子殿下はとても信頼の出来る方なのでしょう?」
「……ああ、そうだ」
「でしたら大丈夫ですわ」
わたくしたちは、わたくしたちだけの世界に閉じこもるにも『わたくしたちだけの』居場所を、これから作らねばならないのだ。
そう今度こそ言葉を選びながらゼノン様に告げれば、彼は嬉しそうに微笑んでわたくしの手を優しく握ってくださったのだった。
「なんなりと、奥様」
「ありがとう」
おそらく――王太子殿下の意図とは別に、彼らはわたくしたちを主人としてある程度敬ってはくれるだろうけれど、あくまで主人は王太子殿下だと思っているはず。
それについては当然のことと思うので、わたくしも気にはしない。
「あなたたちの主人は王太子殿下、そして役割は今後この館で正しく働く人材を育成し、わたくしたち自身も正しく主人として成長させること……で合っているかしら?」
わたくしの問いに何故かゼノン様が目を丸くなさったので、思わずわたくしもびっくりしてしまいましたが……。
バッカス以外の人たちも驚いているし、なんだったらエヴリンも「あんれまあ!」って大きな声を出すし。
「わ、わたくし変なことを質問したかしら……?」
「奥様。大変失礼ながら……それは我らの忠誠を疑ってのお言葉ですかな?」
「え? 疑うなどとんでもない!」
ああ、わたくしの言葉が足りなかったために誤解させてしまったのね!!
大慌てで否定をして、わたくしはゼノン様に弁明の意を込めて言葉を続けました。
「ゼノン様もそうですが、わたくしもあまり人と接する機会はなく、人を使うことに不慣れです。王太子殿下はお優しい方でそこを理解してくださった上であなたたちを派遣してくださったとゼノン様より伺っています」
「……ああ」
「ですから、あなた方ははあくまでこの館が将軍の館に相応しい形となるまで王太子殿下から派遣された人員と思って……その確認がしたかったの。誤解を招くような発言をしてごめんなさいね」
はあ、わたくしったら……ゼノン様のお役に立てるかと思ったのにやっぱり十才までの教育では女主人としてあれこれ足りなさすぎるのだわ。
思わずションボリとしてしまったところで、エヴリンがわたくしを見てにこにこしていることに気がついた。
「エヴリン?」
「あんれまあ、あたしゃ感激したんですよう! てっきりあたしゃ、旦那様と一緒に全部人任せにしちまうのかとばっかり……なんせ旦那様は生活能力皆無ですんでねエ」
「それを言ったらわたくしもそうでしょう? エヴリンに教えてもらわないとまだまだだもの」
「旦那様に比べりゃあ人並みってもんですよう!」
カラカラと笑ったエヴリンのその笑顔に、わたくしもホッとする。
少なくともポジティブに捉えてくれる人が近くにいてくれるというのは、とてもありがたいことだ。
(こういう時、お姉様だったらどうしたのかしら……)
華やかで、誰からも好かれる人だった。
両親の愛はそっくりそのまま姉に注がれていることを知っていて、走るあの姿にどれほど憧れたことか。
(でも、お姉様がこの戦を引き起こした……)
ゼノン様を『化け物』と呼ぶ人たちから見たらわたくしも『敗戦国の姫』ではなく『戦を引き起こした女の妹』なのだろう。
そう考えれば、両親とお姉様は正しくわたくしを『生け贄』として差し出したのだという事実にいきついて胸が苦しくなる。
この国に来たのは、家族に切り捨てられたから。
けれど、この国に来たおかげでゼノン様に出会えたのだ。
(でも……わたくしのせいで、ゼノン様の評判が落ちる可能性もある……)
お姉様のことを聞く前までは、わたくしがこの国では『慈愛の人』として大切にされるであろうことは少しずつ理解できるようになってきた。
なにより、この容姿のおかげでゼノン様がわたくしを求めてくださるならば、とても嬉しい。
だけど、お姉様が戦の原因だと知った今では将軍の下に憎き女の妹がいると、それだけで悪感情を持たれてしまうかもしれないということを理解した。
「バッカス、もし、わたくしの考えが間違いでなければお願いがあるのです」
「……お願い、ですかな。それはどのような?」
「わたくしに、よき女主人となれるよう教育を施す人を紹介していただけるよう手配していただきたいの。それと、あなたたちはそれぞれ自身を『長』と言っていたから人を雇うつもりなのでしょうけれど、その採用の現場に立ち会わせてもらえないかしら。口は一切挟まないと約束するわ」
「シア、なにを」
「わたくしは、この国を知りたい。ゼノン様の妻として、できることをしたいと思っております」
ゼノン様はお優しいから、わたくしがいるだけで良いと仰ってくださるでしょう。
わたくしも、ゼノン様がいてくださればいい。
だけど、それだけではいけないことも理解できているつもりだ。
王太子殿下が人を寄越したのは、ただ親切なだけではない。
その意図をくみ取って、正しく行動ができれば……それはきっとわたくしたちの幸せに繋がるのだと思う。
「ゼノン様にとって、王太子殿下はとても信頼の出来る方なのでしょう?」
「……ああ、そうだ」
「でしたら大丈夫ですわ」
わたくしたちは、わたくしたちだけの世界に閉じこもるにも『わたくしたちだけの』居場所を、これから作らねばならないのだ。
そう今度こそ言葉を選びながらゼノン様に告げれば、彼は嬉しそうに微笑んでわたくしの手を優しく握ってくださったのだった。
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