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氷の王子、クラウス。招かねざる客、アルベルト侯爵。

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チッチッチッ、薄暗い部屋に時計の音が響いていた。円卓の椅子に座り、沈黙する王 宰相 軍事総長。壁の近くに椅子を置き、静かに座っているアルバート。父親に帰れと言われたが、一報が届く間ではと居座っている。主治医ブレイブは、王妃の部屋でクラリスに付き添っていた。
執事のジョルジュと何人かの使用人が、何度目かの蝋燭を置き換えた時。廊下から部屋に近付いて来る、足音が聞こえてきた。執事は直ぐさま、部屋の扉を開けた。
驚く事もなく、伝令は部屋に入り王の前に方膝を付く。
「それで、クラウスの行方は? 」
王カイゼル自ら立ち上がり、その者に問いかける。
「はっ、正門を通り東へと馬で駆け抜けたとの事です。」
「「正門だと!! 」」
宰相と軍事総長は、声を上げた。
正門とは、ベルハルト国の他国へと繋がる門である。
「国を、出たと言う事ですか。」
「おい、本当にクラウス王子か? 」
軍事総長は確認する為に、問いかける。
「はっ、昨日の夕刻。アナトリア学園の制服を着た金色の髪の青年が、制止も聞かず馬に寄って走り抜けたとの事です。」
ベルハルト国は茶系の髪が多く、金髪は珍しかった。
「クラウスか。」
王は、頭を抱え椅子に崩れ落ちる様に座った。
「それで、どちらに向かったのです。北ですか、南ですか。」
「まさか、隣の国に入るか? 鴨ねぎ、状態だぞ。草原を抜けて、東の国々へ行ったんじゃないのか。」
「そうだと、いいのですが。一応、探らせておきましょう。」
「まあな。軍事的にも、あいつらこの国を欲しがってるからな。」
軍事的にベルハルト国は、隣の両国の横っ腹から攻撃出来る場所にあった。
赤い髪を、軍事総長は掻きむしった。
「後腐れなく殺すか、人質か。しやっきりしろよ、カイゼル。」
「オヤジ。」
アルバートが、声を上げる。
「お前は、黙っていろ。」
ダイクン侯爵は、息子を睨み付けた。
「解っている、その時は。」
カイゼルは、静かに王の顔を皆に向けた。アルバートは、何も言えず押し黙った。
外は朝日を迎え、次の日へとなっていた。

昨日の学園の入園式。生徒会の新入生への挨拶は、アンジェリカ嬢に寄って恙無く終わっていた。
クラウス殿下は、水痘に寄って欠席と学生達伝えられていた。見舞いを申し出た者達は、移る病気だと断りを入れる。しかし一週間 二週間と続くと、水痘に寄って痕が残って出てこれないのではと噂か立ち。一ヶ月 二ヶ月となると、不治の病ではと囁き始めた。
そして、三ヶ月経ってもクラウスの行方は解らなかった。既に、この世には存在して居ないのかと諦め始めた時。招かねざる客が、登城して来た。

閲見の間にて、王の前で方膝を付く男。短い赤茶色の髪と鋭い緑色の瞳。武人に相応しい、難いの好い体をしている。
「お久しぶりで、ございます。カイゼル王。」
「大儀ないか、アルベルト侯爵。」
彼の名は、アンジェリカの父。アルベルト・フォン・ベクトル侯爵である。
三候と王は学友であり、名前で呼び合える程の仲であった。それが他の貴族達には、面白くは無かった。
「娘の休みに合わせて途上すれば、殿下の病気の事を聴き 取り合えず馳せ参じました。」
ベクトル侯爵は娘の夏休みに合わせて、途上して来たようだ。
「それで、クラウス殿下の容体は。」
閲見の間に、集まっていた貴族達は興味深く聞いている。もしクラウス殿下が、不治の病なら王位継承者は弟王子のアルファ殿下となる。だとすれば、色々考えなければならない。だが、クラウス殿下の病状は秘匿とされて解らなかった。
「その事は、別室で話そう。アルベルト侯爵。」
「仰せのままに。」
アルベルト侯爵は頭を、下げた。

別室に案内されたアルベルト侯爵の前に、王 宰相 軍事総長の三人が現れた。
「ジェラルド、エドガー、久しいな。」
三人は、口々に挨拶を交わす。
「それで、何があった。クラウス殿下が不治の病とは、どう言う事か。」
侯爵が、三人に問いただす。王は、答えた。
「その事だが、アルベルト。アンジェリカ嬢との婚姻の話しだが、 」
「私達が、お願いしておきながら、 」
「殿下が、今の状態では、 」
三人が、歯切れの悪い言葉を放つ。
「年下だが、アルファなど考えて見てもな、 」
「なら、私の息子もそれなりですねぇ、 」
「俺の愚息のアルバートは、どうだ。」
三人が、新たな婚姻を申し出るが歯切れが悪い。
「クラウス殿下との婚約を破棄、しろと? 」
侯爵の問いは怒りを含んだ、声色だった。
「取り合えず、クラウス殿下に合わせて貰おう。」
三人が三人共に、顔を伏せた。
「それ程、病状が悪いのか? 」
「いや、それは、 」
軍事総長のエドガーが、答える。
「合わせられない、理由があるのか? 」
「それは、その、 」
宰相のジェラルドが、答えを濁す。
「居ないのか? 」
「アルベルト、実は。」
王カイゼルが、顔を上げる。
「既に、亡くなっているのか? 」
アルベルトの問いに、今にも泣き出しそうな哀しげな顔をカイゼルは見せた。
壁の傍で控えていた執事ジョルジュも、沈痛な思いで王カイゼルを見詰めている。
この三ヶ月、隣国にも。他の国にも、クラウス殿下を見つけ出す事も行方を感じさせる噂さえ無かった。
例え金髪碧眼が多い他国でも、彼ほど目立つ者は居ないはずなのに。
『亡くなっている。』その言葉は、聞きたくも無い確認であった。

「フッ、フハハハハ!!」
沈黙する部屋の中で、アルベルト侯爵は一人高らかに笑い声を発した。
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