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氷の王子、クラウス。シルビアへの、贈り物。

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王都の郊外に、大きな屋敷が有った。三大侯爵家と呼ばれる、ベクトル侯爵家である。
朝の訓練を終え、家臣達と庭で喉を潤していたアルベルトに突然の訪問者が現れた。
「ベクトル侯、クラウスは何処です!! 」
アルベルトは思い切り、騎士達に口の中の水を吹きかけた。
「「「御館様!! 」」」
案内人より早く、アルベルトの元に現れたアルバートは挨拶もせず姿を見た途端声を上げた。
「な、何!? 彼奴が、来ているのか!? 」
アルベルトは キョロキョロと、周りを見回す。
アルベルトは、クラウスの事があって夏から領地に帰らず 王都に滞在していた。愛娘と暮らせるのは喜ばしい事だったが、いつクラウスが現れるかと内心ヒヤヒヤしていた。

だが、静だ。

もしクラウスが来ているのなら、婚約破棄を騒いでいるはずだ。
「いや、まだ来てないのでは? 静だ。」
アルベルトは、家臣達を見る。家臣達は、頷く。

「あいつは、アンジェリカ嬢に贈った首飾りを狙っています。」
「首飾りだと? 」
アルベルトは、不快な顔をする。アルバートは、真面目に話す。
「あいつは、首飾りを取り戻せば婚約破棄が出来ると信じている。」
「何故、そんな事に? 」
「それは、俺がシルビアに装飾品を贈って無くて。シルビアがぶち切れて、婚約破棄をすると騒いだ事が発端 ん!? 」
アルバートは、何かに気が付いた。
「そうか、お前。もう婚約解消するのか。早いな、つい最近婚約したんじゃないのか。」
「婚約解消してねぇ!! て、やばい このままでは。」
アルバートは、装飾品を贈って無い事に気が付いた。
「クラウスの事は、頼みました!! 」
「えっ!? 待て、アルバート!! 彼奴と、二人にするな!! 」
アルベルトは、叫んだ。だが、クラウスとの駆けっこで足腰を鍛えられていたアルバートは遥か彼方。
アルベルトは崩れ落ちた、クラウスとの対面を恐怖して。
「「御館様。我々が、います。」」
「あてになるか!! お前らなんて、彼奴に急所蹴られて終わりだろ!! 」
その通りなので、家臣達は目を反らした。王家の者に何が、出来よう。
「其れより、御館様。早く行かないと、首飾りを奪われます。」
「そうだ、アンジェリカの部屋へ。」
アルベルトは、家臣を引き連れて娘の部屋へと急ぐのだった。


クラウスは、悩んでいた。
アンジェリカの部屋の前で、部屋の前とは言っても三階のベランダにどうやって上がって来たのか其処に居た。何故なら、クラウスはアンジェリカの部屋の場所を知らなかった。
屋敷の庭から見た時、この窓から姿を見せてくれた事があったから 此処に登って来ていたのだった。
「婚約者とは言え、黙って女性の部屋に入っては。」
クラウスは、戸惑っていた。だが、頭を振るう。
「これは、命が掛かっているのだ。アンジェリカも、許してくれるはずた。」
クラウスはベランダの扉の取っ手に手を掛ける。
「だが、アンジェリカの部屋だ。」
どきどき と、胸が高鳴る。女性の部屋など、母の部屋にしか入ったことは無い。
「何を戸惑う。これ位で戸惑っていては、立派な怪盗にはなれないぞ。」
主旨が、代わっている。
そんなこんなしている内に、アンジェリカの部屋にやって来たアルベルトと硝子越しに目が合った。
「クラウス!! そこで、何をしている!! 」
直ぐさま、アルベルトはベランダへの扉を開けた。
「違う、私はクラウスではない。私は、怪盗アルセイユだ。」
目元だけの仮面を被っていたクラウスは、咄嗟に名前を言った。

怪盗アルセイユは、子供の頃流行った物語だ。

「お前、阿呆だろ。その金髪、丸分かりだ。」
「馬鹿な、変装は完璧。」
クラウスは目元の仮面を、外して見る。
「物語では、これで顔を隠せばバレなかったはず。」

「こんな阿呆と、アンジェリカは婚姻しなければならないのか。」
ぼそりと、呟く。
「其れは、私とアンジェリカの婚約を解消すると言う事なのか!? 」
「違う!! この地獄耳が!! 」
クラウスは、前に出た。
「此処で会ったが、百年目。ベクトル侯、婚約解消に付いて深く話そう。」

アルベルトは、後に下がった。家臣達が、クラウスとの間に入る。
「俺が責任を持つ。其奴を捕まえろ!! 王城に、たたき返してやる!! 」
アルベルトは、家臣達に命令をした。
「「「はっ!! 」」」
家臣達は、クラウスを囲う。ベランダの柵まで、クラウスは追い詰められる。
「多勢に無勢とは、卑怯な。だが、私はまだ捕まる訳には行かない。」
クラウスは柵を乗り越え、飛んだ。
「馬鹿な!! 此処は、三階!! 」
身を乗り出して見ると、クラウスは近くの木に抱き付いていた。そのまま するすると、滑り降りる。
下に降りるとクラウスは、指笛を吹く。何処からともなく馬が現れる、其れに股がるとクラウスは去って行った。
「彼奴、何しに来たんだ? 」
アルベルトは、去るクラウスを呆然と見送った。

暫く馬を走らせクラウスは、気付く。
「しまった、首飾り。」
クラウスは怪盗になりすぎて、肝心なことを忘れていた。
「だが、今 私は自由だ。このまま、宰相か軍事総長の元に。」
夏に王都に帰って来た時以来、会っていない二人を思い馬を向ける。
「二人に婚約破棄を認めて貰えれば、きっと。」
クラウスは、馬を走らせる。
「必ず婚約破棄を、もぎ取ってみせる。」
クラウスは心を新たに、馬を王都中心へと走らせるのであった。

その頃、アルバートは。
馴染みの店に、顔を出していた。シルビアに贈る装飾品を、買うためだ。
「おっちゃん、首輪をくれ!! 」
言い方が、不味かった。
「おお、アルバートの坊ちゃんか。」
「おっちゃん、派手な首輪をくれ。」
「派手な首輪かい。」
アルバートは、鼻息荒く言った。
「他の奴等に、負ける訳にわ行かない。」
「戦かい? 」
「ああ、戦だ。」
確かに戦だった、令嬢達の。
「剣は、いらないのかい。」
「剣は、いらない。身に着ける物が、欲しいんだ。」
「なら、此なんてどうだい。」
亭主は、手袋を取り出した。細かい鎖で出来た手の甲と第一関節を覆った変わり種の手袋だった。関節の一つ一つに、小さなダイヤモンドが付いている。手の甲にも、大きなダイヤが付いていた。キラキラして、見た目は派手だ。
「これで、相手はイチコロだ。」
「イチコロ。」
その言葉に、アルバートは目を見張る。
確かに、これを手にはめて相手を殴れば イチコロだろう。何てったって、ダイヤモンド。一番硬い宝石だ。
「この、ダイヤ。ルビーに、ならないか? 」
「ルビーに? 」
「ああ、俺の髪の色の赤いルビーに。」
「出来るが、威力が落ちるぞ。」
「構わない。」
「まあ、確かにルビーの方が 似合ってて格好いいな。」
亭主は、アルバートを見た。赤い髪に、赤い手袋型のナックル。そう、
攻撃用ナックル手袋。
アルバートは焦る余り、入る店を間違えていた。

これを 贈ったアルバートは、手袋をはめたシルビアに思いっ切り殴られたのは後の話しだ。
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