黒猫ちゃんは愛される

抹茶もち

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時期外れの編入生が来るようです

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「怪我人はどこのどいつだぁ~?」

 風紀委員の皆さんと一緒に、無精ひげを生やしたやる気の無さそうなお兄さんがのんびりと歩いてきた。怪我人の所在を訪ねているからきっとあの人が保険医さんなんだろう。・・・・・・正直そうは見えないけど。

「保険医さんっ!こっちです。2人とも多分頬を殴られていて、吹っ飛んだみたいです。僕は見てなかったんですけど、目を覚ました時に天使が見えるとかなんとか言ってたので頭を打っちゃったんだと思うんです。動かしちゃだめだと思って・・・・・・呼びつけてしまって申し訳ありません。よろしくお願いします。あ、あと殴っちゃった子の方の手も痛そうだったので、あとで冷やすものを渡してあげてもらえませんか・・・・・・?」

 保険医さんがこちらに気付いて近くまで来てくれたので、現状をサラッと説明する。すると保険医さんは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして僕を見たかと思ったら、真顔で何事かを呟いた。

「いや、その天使絶対お前じゃん。こいつら頭なんて打ってねぇだろ・・・・・・」

「え?すみません、聞こえませんでした。えっと・・・・・・診察ですか?僕はどうしたら?」

 周りの声がうるさくって保険医さんの声が聞き取れなかった。状況的に診察するのかな?

「あぁー・・・・・・っと。お前、名前は?」

「僕ですか?水瀬遥です」

「そうか、遥、教えてくれ。なんで会長はハンカチを握ってブツブツ呟いているんだ?なんで副会長は遥の膝の上で満足そうに笑いながら遥の手を握ってんだ?」

 すごく真剣な顔で聞かれたので、これも診察に必要な状況説明というやつなんだろう。僕も真剣に答えなければ・・・・・・!

「えぇと・・・・・・まず会長様ですが、僕が傍に来た時には寝っ転がったまま口元から血を流して気を失っていました。なのでせめて口元の血だけでも拭ってあげようと思ってハンカチを当てたら、痛かったのか目を覚ましたんです。でもその時にここは天国か?天使がいるって言いだして・・・・・・。これは頭を打っちゃったんだって思いつつも、僕の膝の上には副会長様の頭が乗っかっちゃってたので動けなくって、とりあえずハンカチだけ自分で持ってもらったんです。それからずっとこんな感じで」

「・・・・・・なるほど。副会長は?」

「副会長様は、最初僕の後ろにある椅子にもたれかかるようにして口元から血を流して気を失っていたんです。口元の血を拭ってあげようと近付いたら、僕の方に倒れてきちゃったので、慌てて受け止めたんです。その時に僕のシャツが血を拭っちゃったので、もうこのままでいいやってそのまま僕の膝に頭を乗っけておいたんです。副会長様が目を覚ました時、会長様と同じように天使がいるって、天国に連れて行ってくれるんですねって言うので、副会長様も頭を打ってしまったんだと思って・・・・・・。ひとまず安静にしてもらいたかったので、目元を隠して安静にしてくださいって言ったら手を握ってほしいって言われたので、今こんな事になっています」

 ちゃんと過不足無く伝えられただろうか?こんな風に人に説明するのは初めてで不安だ。

「なるほどなぁ・・・・・・。って事はだ。遥はどういう経緯でこうなったのか見ていないけど、気付いたら倒れてた奴らを介抱したら、おかしなことを言いだして頭を打ったんじゃないかと予測して心配になったんだな?」

「そうです!2人とも幻覚が見えてるなんて・・・・・・心配で。そんな人に経緯を説明していただくのも気が引けてしまって、保険医さんに診てもらうのが一番いいと思ったんです」

「なるほどなるほど。つまりこの色ボケ2人は目覚めた瞬間遥にやられちまったけど、遥は純粋に2人を心配してこんな勘違いが起きたと。副会長はどさくさ紛れに遥に触りたかっただけだな。純粋培養で天然な美人の前じゃ学園のツートップも形無しって事か。こいつら殺しても死ななそうだけど・・・・・・まぁ一応ちゃんと診察しておくか」

「え?いろぼけ?ごめんなさい、またよく聞こえなくって・・・・・・なんて仰いました?」

「・・・・・・うん、ありがとう遥。この色ボケ2人は風紀に運ばせるから遥は教室に戻っていいぞ。大変だったな」

 呟くような声が小さくて、なんて言ってたかよく聞こえなかったから聞き返したんだけど、サラリとスルーされてしまい戸惑う。っていうか色ボケって今関係あった?会長様と副会長様って色ボケなの??それって学園大丈夫?

 きょとんとしながら保険医さんと副会長様達を交互に見つめていると、ガタイのいい風紀委員さんが4人ほど後ろから出てきて、会長様と副会長様を立たせて連れて行ってくれた。まぁ聞き返しても答えてくれないって事は大した事じゃなかったんだな、うん。学園の心配は僕みたいな一般生徒がしても意味無いしね。

 保険医さん曰く、動いても大丈夫らしいのでそのまま風紀の人たちに任せた。プロに診てもらえるのなら安心だ。それにしても風紀の人たちは本当にいい筋肉してるなぁ。僕も筋肉ほしいなぁ。

 しかし最後まで会長様はどこかぼんやりしながらブツブツと呟いていて、ハンカチを返してもらおうと声をかけても握りしめて離してくれなかったし、副会長様は立てますかと手を差し出した風紀の人に舌打ちして、俺の天使、今度お礼をさせてください。と僕にいい笑顔を残して颯爽と去って行った。

 ハンカチはもう諦めよう。他にも持ってるし、もう生徒会の人達とこんなに近くで会うことも無いだろうし。それにしても副会長様、元気じゃない?と少し首を傾げてしまった。さっきまでまた倒れてしまいそうな儚い感じだったのに。まぁ元気になったならいいのか・・・・・・?

 少し釈然としない気持ちになりつつも、忙しそうな隆に手を振ってからとりあえず少し離れたところで食堂を観察していた律と颯汰の方へ向かって歩き出した。


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