はかい荘のボロたち

コダーマ

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第3話 玉ネギ頭とタトゥー

タマネギ・命名

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~~~ツボ神秘~~~
   ※リストバンド中崎・魂のポエムその3


黄色の点字ブロックの上をおすすみください
足裏が刺激されて気持ちいいですよ
微妙などこかのツボに効くのです
          ツボ神秘!

アレ おかしいな
胃の中がひっくり返りそうだ
ツボをまちがえたのです
そんなこともある
そんなこともあるかも
          ツボ神秘!!

頭皮には数えきれないくらいのツボがあります
両手を広げて親指を耳のうしろに
そして自然に指のあたる所をギュッと押してください
グリグリッとやってごらん 効くよ
通勤電車の中でこれをやると なぜか涙でてきます
          ツボ神秘…!

手の平にもツボはいっぱい
たしか昔 敵を油断させ握手して
相手の手の平のツボを攻撃するという
スゴイ技を放つ敵がマンガに出てました
早速マネした
シェークハンド トモダチ増えただけ
シェークハンド トモダチ増えただけさ
          ツボツボ神秘!!!



   ※  ※  ※





「世界征服を企む悪の組織ブラックマジシャン。略してブラマジ。一言で言うと戦隊物と昼メロを合わせたようなドラマなんだ」
「ホゥ!」

「ブラマジの憎めない間抜けな悪逆非道ぶりと、ブラマジメンバーであるジェネラルと四天王達のロマンスの要素がドギツくて、そのへんがウケる」
「逆に面白そうダナ!」

「そう、逆に。総裁X様ってのが、いつも最後にシルエットで現れんだよ。あとの五人で色々悪巧みをするんだ。組織の実質上のトップはジェネラルで、部下に四天王がいる。そいつらが個性で……」
「ナニ? ナニ?」

「えっと、刃物使いダガーと、動物使いサファリ、カード使いタロットと、あと一人……こいつがいつも忘れる」
「手品使いミラクルか?」

「あっ! そうそう。でも何で知ってるの?」
「拾った新聞のテレビ欄に載ってる。ホラ、『第20話 手品使いミラクル、4針縫う』って」

「あぁ、そうか」
「で、その中にオンナはいるカ?」

「ああ、ジェネラルとサファリが女」
「ジェネラルはオンナか。そいつはカッコいいナ!」

「あとの三人は男。ダガーはゲイで……」

 そこまで黙って聞いていて、ようやくオレは気付いた。
 何だ、この光景。
 はかい荘の一室。このゴミ溜めの中、そろそろ暗くなってきているというのに、リストバンド中崎はなかなか電気をつけようとしない。

 最近ハマっているという昼メロの再放送の内容について熱心に説明するのはいいが、この四畳半にゴミと共に三人の人間がいるのを暑苦しいとか息苦しいとか……そういうことを先に考えてほしいものだ。

「なぁ、何でこの女がいるんだよ」

 たまらずオレは声を張り上げた。オレが座るところがねぇんだよ。

「うるさい、シン。ご近所迷惑だろ。壁が薄いんだから」
「あ、悪……。いや、そうじゃなくてよ」

 ボンジュールちゃんは結局『クラブ・ワールド・Fカップ』をクビになったらしい。
 今朝早く寮を追い出されたとスーツケースを持って、当たり前みたいな顔してはかい荘に転がり込んできた。

「この子の宿泊費三百円もお前が払えよ」
「何で……」

 そもそもお前が連れて来たようなもんだろ。そう言われ、オレはうなだれた。

「まぁ、シケた面ツラするなヨ」

 ボンジュールちゃんはすごい声で笑ってオレの背を叩いた。
 この女、本気で居座る気だ。


「お、女なんて泊めたら、お母さんが帰ってきたら怒るんじゃないか」
「大丈夫。お母さん忙しいから。あまり帰ってこない」

 中崎は中崎で、一日合計六百円入るからと機嫌を良くしている。
 それに、日本に身寄りのないボンジュールちゃんはラッ教祖として操りやすい、と強烈な独り言を吐いていた。

「ボ、ボンジュールちゃんはやっぱりフランスの人なんスか? 本当の名前は何ていうんスか?」
「名前だと? ボンジュールちゃんだゾ、コラ!」
「いや、あの……」
「キサマ、スゴイ頭だな、コラ! ずい分、髪が多いんだな。ものスゴイ髪型……分かった! つむじが二つあるんだな!」
「………………」

 ラチがあかない。
 ボンジュールちゃんは常に挙動不審気味だ。
 大概落ち着きがない。じっとしていられない。黙っているのも苦手なようだ。

 少々おかしいが、流暢な日本語を話す。
 不法滞在だから素性は知られたくないんだろ、と中崎は推察したが、オレはこの子がただのアホなんだと思う。
 ひょっとしたら日本人かもしれない…。

「テッペンだけツンツン立ってて……何かに似ているナ、コラ!」

 ボンジュールちゃんはもうオレの頭しか見ちゃいない。
 オレはヘビメタだ。つむじは確かに二つあるが、髪はいつもハードなジェルで固めている。
 短すぎてイマイチ固めきれないということもあるが。
 確かにテッペンだけツンツン立ってはいるんだが。

「そうだ、タマネギだ! オニオーン! タマネギ頭って呼んでいいカ?」
「タ、タマネ……」
 オレの中のヘビメタのイメージがガラガラ崩れた。

「な、何でですか! タマネギ頭ったら黒柳徹子さんじゃねぇんスか!」

 あの人の……あの髪型を想像しながらオレは叫んだ。
 あれこそまさにタマネギだ。あの人がユニセフの大使として世界中の痛みを癒そうと努力する姿をオレは尊敬している。
 その上で個性を埋没させることなく、強烈なキャラクターを発揮しているところも大好きだ。

「テツコって呼んでイイか? テツコ!」

 この罰当たりめ。
 助けを求めて見た中崎は、毛布にくるまってスヤスヤ眠っている。

「テツコ! テツコや!」
「……いや、もぅいいっス。オレのことはタマネギって呼んでください」

 オレはすっかりくじけてしまった。
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