辞令:高飛車令嬢。妃候補の任を解き、宰相室勤務を命ずる

花雨宮琵

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第17話 おまいう!

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 そのまま殿下の左隣の席へと案内されると、着席するなり1号クロエがまくしたてた。

「デルフィーヌ様ったら、2ヶ月も学院をお休みになるんだもの。リリー様もそれはご心配されて、お見舞いに伺おうかと話していたぐらいでしたのよ?」
「それは、ご心配をおかけしました」
「ご実家の事情が事情でしょうから、遠慮いたしましたけれど」
「『事情が事情』とは?」
「それは、ほら。……ねえ?」
 1号クロエがみんなの顔をぐるりと見渡すが、声に出しては言う者は誰もいない。

「クロエ様。我が家には、隠すような事情は何もございませんが」
「デルフィーヌ様ったら。強がらなくても大丈夫ですのよ? 私たち、でしょう?」
「ご冗談を。わたくし、互いを高め合わない競争相手ライバルをお友達とはみなしません」
「なっ!!」

 1号クロエを押し黙らせるのに成功したと思ってしたり顔をしていたら、殿下にそっと耳元でささやかれた。

「――触れるぞ」

 触れるって、どこに? 何で今? いろんな意味でクエスチョンマークを浮かべていると、殿下に「言い過ぎだ」と額を小突かれた。コツン、と。

「っ、殿下?」
「何だ? 前もって「触れるぞ」と言っただろう?」
「そうじゃなくてですね! 『触れるぞ』の前に、どこに触れるのかを言ってくださらないと! 心の準備が……」
「ハァ――ッ。そんなのイチイチ言わないだろう? 額にちょっと触れたくらいで大袈裟だな」
「イチイチ? 大袈裟ぁ!?」
「デルフィーヌ嬢」
「なんですかっ!?」
他の妃候補かのじょたちが困惑しているのが分からないのか?」

 なっ!! おまいうお前が言うな
 たしかに、殿下とコソコソ額を寄せ合って言い合っていたものだから、皆の視線を痛いほど感じる。でもね。それって、私のせい!?
 
「んんんっ。コホン」
 2号が咳ばらいをしたと思ったら、待っていましたとばかりに口を開いた。
 
 ――えっと、2号の名前、何だっけ? 
 心の中で番号呼びしていたせいか、1号クロエ以外の本名、忘れちゃった。

「デルフィーヌ様、大変だったんですって? 取得単位が足りず、で追試を受けていらっしゃったとか。長年維持していた学年首位の座も、ついに明け渡したと噂になっていましたわ」
「先生方にはご負担をおかけしました」

 居残りでも追試でもないけどね。
 でもなぜかしら。なんて言われると、ムッとしちゃうわ。
 ソフィーが言うには、私の最大の弱点はプライドが高いところらしいけど、案外そうなのかしら?

 それにしても。
 王宮で出される料理はどれも豪華だけれど、正直、胃もたれしてしまう。辺境の地から戻ってすぐに試験を受け、それが終わったと思ったら離宮への引っ越し。体力も気力もかなり消耗していたから、食欲も減退していて、前菜ですでにお腹いっぱいだ。メインは全く食べられそうにない。

「……体調が悪いのか?」
「え?」
「無理して食べる必要はない」
「……ありがとうございます」
「もう休むといい」
「殿下」
「何だ?」
読めるんですね」
「あのな!」
「お言葉に甘えて、本日は退席させていただきます。皆さまはどうぞごゆっくり」
「あら。今夜はリリー様がリクエストなさった洋ナシのタルトですのに。残念ね」

 3号はそう言いながら、私にだけ聞こえるような声量でささやいた。「の貴女にお似合いなのに」と。

 殿下の指示を受けたのか、最近入ったという側近の一人、ジェローム卿が部屋まで送ってくれることになった。

「デルフィーヌ嬢のお住まいは、随分、本棟から離れた場所にあるんですね。不便ではありませか?」
「いいえ、全く。気分転換に森林浴もできますし、最高ですわ」
「森林浴? まさか、王家の黒い森へ!?」
「ええ。先程少し散歩をしたのですが、気持ちの良い場所ですね。――あの、何か?」
「いえ。しかし、あそこは――」

 急に黙り込んでしまったジェローム卿を不思議に思っているうちに別棟こやに着いた。

「ただいまー」
「お嬢様!? お早いお帰りですね」
「途中で退席してきたの」
「え? サボりですか? まさかの、仮病?」
「違うわよ! ちゃんと殿下の了承を得てるから!」
「殿下が退席を促すほどの嫌味攻撃を? そんなの気にするお嬢様じゃないでしょう? さては、豪華すぎるお食事が口に合わなかったんですね!?」
「だから、違うって!」 
「ぷはっ。いや、すまない。ついおかしてくて」

「ソフィー。こちらは殿下の新しい側近になられた、ジェローム様よ」
「っ、ご挨拶が遅れました。デルフィーヌ様の侍女をしております、ソフィーと申します」

 ジェローム卿は笑い上戸なのか、その後もケタケタと笑っていた。これまでの殿下の側近にはいなかったタイプだ。

「普通、主人が予定より早く帰ってきたら、体調を崩したのではと心配するものでしょう? それがサボりときたものだから、つい。あははは。2人は仲が良いんですね」
「幼友達でもありますから」
「それなら、私と殿下と同じだ。……あぁ、そうだ。殿下からこちらをお渡しするようにと」
「?」
「夜食用に包んでもらったデザートだそうです」
「まぁ!! お嬢様、早速いただきましょうよ」
「そうね。でしたら、ジェローム様もご一緒に如何ですか?」
「お邪魔ではないですか? 侍女殿も一人しかいないようだし」
「ご心配には及びません。準備に少々お時間をいただきますが、ちょうど庭の虞美人草ひなげしが見頃ですので、少し掛けてお待ちください」
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