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第22話 ミス・エライザの危機
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薔薇園へは、「リシャール様と何度も散歩をしたことがある」と声高にマウントを取ったリリー嬢がエライザ様を案内することになった。
「お嬢様は一緒に行かなくて良いんですか?」
「あれだけ金魚のフンがついて行ってるんだもの。護衛も一緒だし、大丈夫でしょ」
「あらら。“取り巻き”から“金魚のフン”へ降格ですか」
「だって彼女達ったら、全っ然、聖女を制御できてないんだもの」
給士をしていた侍女たちにも声をかけて、みんなで残りのお菓子を摘まむことにした。
「そうそう。さっき、エライザ様付の侍女から聞いた話なんですけど、帝国は冷夏で今年はあまり薔薇が咲かなかったんですって」
「そうなの? じゃあ、喜んでくださると良いわね」
侍女たちと気軽な午後ティーを楽しんでいたら、にわかに騒がしくなってきた。
「……何かあったのかしら? 薔薇園の方みたいだけど」
「お嬢様。あれ、ガブリエル隊長じゃないですか?」
「ほんとね。っ、大変!! エライザ様を抱きかかえてる!」
「え!?」
「ソフィー、貴女もついてきて」
「かしこまりました」
急いでガブリエル隊長のところへ駆け付ける。
デイドレスは来ているけれど、足元はヒールのない靴を履いている。
あの日、女官長の全速力を見た時から、「もうヒールのある靴は履かない」って心に誓ったのだ。
「ガブリエル隊長! 何かあったんですか?」
「フィーヌ! エライザ様が蜜蜂に刺された!」
「えぇっ!?」
エライザ様の全身に、赤い発疹が出ている。
「もしかして……。エライザ様、帝国で蜂に刺されたことがありますか?」
「……」
話すのも辛いのか、コクリと頷くのが精一杯のようだ。
「アナフィラキシー反応かもしれません。1度目よりも、2度目以降の方が強く出るんです」
「どうしたらいい?」
「身体を休められる一番近い部屋へ運びましょう。それから、足の速い衛兵を1人呼んでください」
離宮お抱えの庭師は仕事柄、蜂に刺されることもある。
こういう事態に備えて解毒剤を常備しているのだ。
ガブリエル隊長の俊足の部下へ庭師から解毒剤を貰って来るようお願いすると、そのまま隊長とともにエライザ様を最寄りの客間へと運んだ。
すぐに庭師を連れた衛兵がやってきて、無事に解毒剤を処方することができた。
報告を受けて駆け付けた宮廷医師とリシャール殿下がやってきた頃には症状も落ち着いていて、みな胸を撫で下ろしたのだった。
「治療にあたっては、くれぐれもミス・エライザの意思を尊重するよう、他の医師へも周知徹底してくれ」
「かしこまりました、殿下」
「ガブリエル卿。デルフィーヌ嬢。迅速な対応、適切な判断に感謝する」
「庭師のドミニクさんの協力なしでは、治療は困難でした」
「そうか。ドミニク、おかげで助かった」
「そんな、滅相もございません」
殿下は私たち3人に向かって軽く頭を下げた。
へぇー。ちゃんと御礼も言えるし、頭も下げられるんだ。
不思議なことに、レオに対する気持ちを手放した途端、今まで気づかなかった殿下の素顔がいろいろと見えるようになってきた。
恋は盲目というけれど、私の観察眼も甘々だったみたい。
客間を出ると、リリーと1~5号が待ち構えていた。
「デルフィーヌ様!! リリー様を差し置いて、何様のおつもり?」
早速、1号が食い掛ってくる。リリー嬢は何か言いたそうな瞳を向けてくるが、それだけだ。
ガブリエル隊長がいる手前、自分で文句を言うことはない。この人はいつもこうだ。直接的な指示は出さないものの、自分の利に適うよう周りの人間を使うのだ。
ズルい人。私はこういうタイプの人間に、ひどく嫌悪感を抱く。
彼女たちの言動はある程度予想はしていたけれど、流石にうんざりする。
「エライザ様をお助けするヒロインか何かになりたかったのかもしれないけれど、あんなの、リリー様が治療魔法をかければ一瞬で――」
「帝国国教会の信条を知っていたならば、そのような事、口が裂けても言えんだろうな」
「???」
「ここまで言っても分からないか。はぁ――っ。フィーヌ、行こう?」
頭の上に盛大なクエスチョンマークを浮かべている1号~5号及びリリーを放置して、ガブリエル隊長に促されるままその場を立ち去った。
そう。
帝国国教会では、治療魔法を受けることは禁忌となっている。
たとえ命を失うことになっても、身体に他人のエネルギーを取り込むこと自体が宗教条のタブーなのだ。だからガブリエル隊長は聖女リリーではなく多少の薬学知識がある私に助けを求めた。
あの様子だと、妃候補の誰もそのことに気づいていないようだ。
かくいう私も、義父の帝国土産話を偶然聞いていたから対処できただけで、偉そうなことはいえないのだけれど。
「解毒剤のストックがあって、本当に助かったよ」
「ドミニクさんのおかげですね」
「いやぁ、おいらは何も。でも、薔薇園のミツバチは大人しいんですけどね。団長さん、何か特別なことでもありましたか?」
「ん……特段これといって思いつかないんだが」
「おそらく、リリー様の香水と、エライザ様が身に着けていた衣装が原因かと」
「あちゃー、香水はダメだね。蜂は黒っぽくて匂いの強いものに反応するんです」
「そうなのか!?」
「私がもう少し早く気づいていれば。申し訳ありません」
「フィーヌのせいじゃないだろ? それに、聖女殿の香水がキツイから薔薇園へは案内できません、なんて言えないしな」
「それはそうですけど……」
「それにしても、なぜ過去にも刺されたことがあると思ったんだ?」
「聞いたんです、帝国は冷夏で薔薇が咲かなかったって。蜜が少ないと蜂は攻撃的になるでしょう? だから、もしかしてって」
「なるほどな」
「それにしても団長さんとデルフィーヌさんは随分、親しいんですね?」
「まあな。パートナーだもんな、俺たち」
「お2人とも王国では珍しい黒髪だから、てっきり兄妹なのかと思いましたよ」
「まあ、似たようなもんだ」
以前の騎士団長は、私を平民牢へ入れたことを機に身辺調査が行われ、あれよあれよと不正の情報が出てきたものだから免職処分となった。
なんでも、リリー嬢の義父・ソンブレイユ公爵家と近しい家の次男だったらしく、妃の有望株だった私にきつく当たっていたらしい。
そうして新たに近衛騎士団長に就任したのが、ガブリエル隊長というわけだ。
「そうだ! ガブリエル隊長。近衛騎士団長への就任、おめでとうございます」
「ははっ。サンキュー」
「考えてみたら、もう“隊長”じゃないんですよね?」
「そのまんまでいいよ。俺だってほんとは“デルフィーヌ嬢”って呼ばなきゃいけないんだからさ」
「お嬢様は一緒に行かなくて良いんですか?」
「あれだけ金魚のフンがついて行ってるんだもの。護衛も一緒だし、大丈夫でしょ」
「あらら。“取り巻き”から“金魚のフン”へ降格ですか」
「だって彼女達ったら、全っ然、聖女を制御できてないんだもの」
給士をしていた侍女たちにも声をかけて、みんなで残りのお菓子を摘まむことにした。
「そうそう。さっき、エライザ様付の侍女から聞いた話なんですけど、帝国は冷夏で今年はあまり薔薇が咲かなかったんですって」
「そうなの? じゃあ、喜んでくださると良いわね」
侍女たちと気軽な午後ティーを楽しんでいたら、にわかに騒がしくなってきた。
「……何かあったのかしら? 薔薇園の方みたいだけど」
「お嬢様。あれ、ガブリエル隊長じゃないですか?」
「ほんとね。っ、大変!! エライザ様を抱きかかえてる!」
「え!?」
「ソフィー、貴女もついてきて」
「かしこまりました」
急いでガブリエル隊長のところへ駆け付ける。
デイドレスは来ているけれど、足元はヒールのない靴を履いている。
あの日、女官長の全速力を見た時から、「もうヒールのある靴は履かない」って心に誓ったのだ。
「ガブリエル隊長! 何かあったんですか?」
「フィーヌ! エライザ様が蜜蜂に刺された!」
「えぇっ!?」
エライザ様の全身に、赤い発疹が出ている。
「もしかして……。エライザ様、帝国で蜂に刺されたことがありますか?」
「……」
話すのも辛いのか、コクリと頷くのが精一杯のようだ。
「アナフィラキシー反応かもしれません。1度目よりも、2度目以降の方が強く出るんです」
「どうしたらいい?」
「身体を休められる一番近い部屋へ運びましょう。それから、足の速い衛兵を1人呼んでください」
離宮お抱えの庭師は仕事柄、蜂に刺されることもある。
こういう事態に備えて解毒剤を常備しているのだ。
ガブリエル隊長の俊足の部下へ庭師から解毒剤を貰って来るようお願いすると、そのまま隊長とともにエライザ様を最寄りの客間へと運んだ。
すぐに庭師を連れた衛兵がやってきて、無事に解毒剤を処方することができた。
報告を受けて駆け付けた宮廷医師とリシャール殿下がやってきた頃には症状も落ち着いていて、みな胸を撫で下ろしたのだった。
「治療にあたっては、くれぐれもミス・エライザの意思を尊重するよう、他の医師へも周知徹底してくれ」
「かしこまりました、殿下」
「ガブリエル卿。デルフィーヌ嬢。迅速な対応、適切な判断に感謝する」
「庭師のドミニクさんの協力なしでは、治療は困難でした」
「そうか。ドミニク、おかげで助かった」
「そんな、滅相もございません」
殿下は私たち3人に向かって軽く頭を下げた。
へぇー。ちゃんと御礼も言えるし、頭も下げられるんだ。
不思議なことに、レオに対する気持ちを手放した途端、今まで気づかなかった殿下の素顔がいろいろと見えるようになってきた。
恋は盲目というけれど、私の観察眼も甘々だったみたい。
客間を出ると、リリーと1~5号が待ち構えていた。
「デルフィーヌ様!! リリー様を差し置いて、何様のおつもり?」
早速、1号が食い掛ってくる。リリー嬢は何か言いたそうな瞳を向けてくるが、それだけだ。
ガブリエル隊長がいる手前、自分で文句を言うことはない。この人はいつもこうだ。直接的な指示は出さないものの、自分の利に適うよう周りの人間を使うのだ。
ズルい人。私はこういうタイプの人間に、ひどく嫌悪感を抱く。
彼女たちの言動はある程度予想はしていたけれど、流石にうんざりする。
「エライザ様をお助けするヒロインか何かになりたかったのかもしれないけれど、あんなの、リリー様が治療魔法をかければ一瞬で――」
「帝国国教会の信条を知っていたならば、そのような事、口が裂けても言えんだろうな」
「???」
「ここまで言っても分からないか。はぁ――っ。フィーヌ、行こう?」
頭の上に盛大なクエスチョンマークを浮かべている1号~5号及びリリーを放置して、ガブリエル隊長に促されるままその場を立ち去った。
そう。
帝国国教会では、治療魔法を受けることは禁忌となっている。
たとえ命を失うことになっても、身体に他人のエネルギーを取り込むこと自体が宗教条のタブーなのだ。だからガブリエル隊長は聖女リリーではなく多少の薬学知識がある私に助けを求めた。
あの様子だと、妃候補の誰もそのことに気づいていないようだ。
かくいう私も、義父の帝国土産話を偶然聞いていたから対処できただけで、偉そうなことはいえないのだけれど。
「解毒剤のストックがあって、本当に助かったよ」
「ドミニクさんのおかげですね」
「いやぁ、おいらは何も。でも、薔薇園のミツバチは大人しいんですけどね。団長さん、何か特別なことでもありましたか?」
「ん……特段これといって思いつかないんだが」
「おそらく、リリー様の香水と、エライザ様が身に着けていた衣装が原因かと」
「あちゃー、香水はダメだね。蜂は黒っぽくて匂いの強いものに反応するんです」
「そうなのか!?」
「私がもう少し早く気づいていれば。申し訳ありません」
「フィーヌのせいじゃないだろ? それに、聖女殿の香水がキツイから薔薇園へは案内できません、なんて言えないしな」
「それはそうですけど……」
「それにしても、なぜ過去にも刺されたことがあると思ったんだ?」
「聞いたんです、帝国は冷夏で薔薇が咲かなかったって。蜜が少ないと蜂は攻撃的になるでしょう? だから、もしかしてって」
「なるほどな」
「それにしても団長さんとデルフィーヌさんは随分、親しいんですね?」
「まあな。パートナーだもんな、俺たち」
「お2人とも王国では珍しい黒髪だから、てっきり兄妹なのかと思いましたよ」
「まあ、似たようなもんだ」
以前の騎士団長は、私を平民牢へ入れたことを機に身辺調査が行われ、あれよあれよと不正の情報が出てきたものだから免職処分となった。
なんでも、リリー嬢の義父・ソンブレイユ公爵家と近しい家の次男だったらしく、妃の有望株だった私にきつく当たっていたらしい。
そうして新たに近衛騎士団長に就任したのが、ガブリエル隊長というわけだ。
「そうだ! ガブリエル隊長。近衛騎士団長への就任、おめでとうございます」
「ははっ。サンキュー」
「考えてみたら、もう“隊長”じゃないんですよね?」
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