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第21話 帝国の公爵令嬢 ミス・エライザ
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王国軍の正装をしている殿下の腕に、帝国海軍の色でもある濃紺のデイドレスに身を包んだ見目麗しい令嬢が手を添えている。
これぞ、ザ・エスコート! 手首を持って連行するのとは次元が違うわね。
並び歩く2人の姿はまるで一枚の絵画のようで、思わず見惚れてしまう。
黄金色の長く美しい髪をふわりと靡かせている彼女は、他の妃候補やリリー嬢の嫉妬心を掻き立てるには十分すぎるほど、可憐な女性だった。
「彼女は、帝国のチェスター公爵令嬢、ミス・エライザだ。ミス・エライザ、ガーデニングの技術が大陸一と言われている貴国には敵わないだろうが、ここの薔薇園もなかなかだと自負している。ぜひ、楽しんでいってくれ」
「リシャール殿下。こちらまでのエスコート、ありがとうございました」
「みな、ミス・エライザのことを宜しく頼む」
「かしこまりました」
会話が聞こえない距離まで衛兵たちが下がると、なぜだかリリー嬢がホスト然として茶会を仕切り始めた。
エライザ様の隣にはリリー嬢が座り、2人だけで会話を進めていく。
さすが10歳から16歳までを帝国で過ごしていただけあって、リリー嬢の発音は完璧だけれど、私たちは蚊帳の外。
まるで着席を許された見物人のような気分だ。
最初に鈴を転がすような声で挨拶をしてくれたエライザ様だったけれど、今は鼻をつまんだような声になっている。
お気の毒に。香水の匂い、相当キツイだろうなぁ……。
そうこうしているうちに、帝国風アフタヌーンティーの準備が整った。
「本日は、私から皆さまへささやかな贈り物がございますの」
「まぁ、何でしょう?」
「この時期だけに採れる稀少な茶葉なのですが。ルビー色に輝くことから『宝石茶』とも呼ばれ、帝国貴婦人の間で大変な人気なのです。皆さまにもぜひ味わっていただきたくて」
「まぁ! それは楽しみですわ」
いやいやいや。
この状況で、どやってお茶の香りを楽しめと!?
リリー嬢にはせめて風下に座ってほしいところだけれど、どうせ腰巾着の1号~5号は何も言えないんだろうなぁ。……仕方ない。一芝居打つか。
「大変ですわ! リリー様のお顔に直射日光がっ! 一点の曇りのない陶器のように白く滑らかで美しい肌をお持ちのリリー様に日焼けは天敵。どうぞこちらの席へ。わたくしは色黒で肌も丈夫ですから」
これまでの人生で最大級のヨイショをしてリリー嬢を風下の席へ座らせることに成功した。それでもまだ残り香がキツイので、直射日光が当たらない位置までテーブルを移動させましょうとか何とか言って、セッティングをし直した。
これで少しはお茶の風味を楽しめるだろう。エライザ様も、隣が私となって明らかにホッとした表情を浮かべている。
「じゃあ、お願いできるかしら?」
エライザ様がご自身の侍女に合図を送ると、優雅な手つきでティーポットにお湯が注がれた。途端に爽やかな香りが立ち始める。
たっぷり2分ほど待って、ティーカップに注がれたお茶が各自に配られた。
「……なにこれ?」
真っ先に王国語でそう口を開いたのは、リリー嬢だった。
それが引き金となり、1号~5号の取り巻きたちが次々と王国語でつぶやき始める。
「これのどこがルビー色なの?」
「ただの、ドス黒いお茶じゃない」
「まるで泥水みたい」
「私たちをバカにしているのかしら?」
「まったく。嘘つきはヤぁね」
みんな、エライザ様が王国語を理解しないだろうと、どうして思うのだろう?
彼女の父親は皇弟。つまり、彼女は帝国皇帝の姪。
誰かさんと違って、由緒ある公爵家の生粋のご令嬢である彼女が最高水準の教育を受けてきたことは想像に容易い。
そこに、長年の同盟国でもある王国の言葉が含まれないわけがない。先程だって、リシャール殿下へ王国語でお礼を伝えていたのに。誰も気づいてないの!?
ていうか、客人の前で無礼にも程があるでしょ!!
女官長が言っていた、『客人に対する心遣いがない』って、このことだったのか。まったく!
「まあっ!」
少々大袈裟に驚きの声を上げると、みなの注目が私に集まった。
「科学の先生がおっしゃっていたのは、本当でしたのね?」
「デルフィーヌ様、何をおっしゃりたいの?」
「皆さんも習ったでしょう? 硬水で淹れると、紅色の茶が黒色になると。ほら! 中等部2年冬の期末試験にも出た問題ですわ」
「そ、そうでしたかしら……」
「そうですわよ! 『本当かしら?』って半信半疑だったではありませんか!」
「そ、そういえば、そうだったような?」
「エライザ様のウィットに富んだ素晴らしい演出に、改めて御礼申し上げます」
「いえ、わたくしはそんな――」
「知的好奇心が満たされるのは、いくつになっても嬉しいものですわ。今日はなんて良い日なのかしら」
「喜んでいただけたのなら、何よりです」
「エライザ様。実は、軟水のご用意もございます」
「まぁ! 本当に?」
「はい。王都は硬水ですが、東の地は軟水ですし、南部は中硬水と、地域によって水質が異なるんです」
ソフィーへ目で合図を送ると、軟水を沸かせたお湯で淹れた紅茶がサーブされた。
「――如何でしょう、エライザ様」
「帝国で淹れたものと同じだわ」
「本当に、美しいルビー色ですね。宝石茶と評されるのも分かります」
「他にも硬度が異なるお水があるようなら、飲み比べてみたいわ」
「ええ、ぜひ!」
それからは、それぞれのお水の硬度に合う茶葉を選び、軽食を取りながら風味の異なるお茶を楽しんだ。そうして日が傾いてきた頃、最後に薔薇園を散策することになった。
これぞ、ザ・エスコート! 手首を持って連行するのとは次元が違うわね。
並び歩く2人の姿はまるで一枚の絵画のようで、思わず見惚れてしまう。
黄金色の長く美しい髪をふわりと靡かせている彼女は、他の妃候補やリリー嬢の嫉妬心を掻き立てるには十分すぎるほど、可憐な女性だった。
「彼女は、帝国のチェスター公爵令嬢、ミス・エライザだ。ミス・エライザ、ガーデニングの技術が大陸一と言われている貴国には敵わないだろうが、ここの薔薇園もなかなかだと自負している。ぜひ、楽しんでいってくれ」
「リシャール殿下。こちらまでのエスコート、ありがとうございました」
「みな、ミス・エライザのことを宜しく頼む」
「かしこまりました」
会話が聞こえない距離まで衛兵たちが下がると、なぜだかリリー嬢がホスト然として茶会を仕切り始めた。
エライザ様の隣にはリリー嬢が座り、2人だけで会話を進めていく。
さすが10歳から16歳までを帝国で過ごしていただけあって、リリー嬢の発音は完璧だけれど、私たちは蚊帳の外。
まるで着席を許された見物人のような気分だ。
最初に鈴を転がすような声で挨拶をしてくれたエライザ様だったけれど、今は鼻をつまんだような声になっている。
お気の毒に。香水の匂い、相当キツイだろうなぁ……。
そうこうしているうちに、帝国風アフタヌーンティーの準備が整った。
「本日は、私から皆さまへささやかな贈り物がございますの」
「まぁ、何でしょう?」
「この時期だけに採れる稀少な茶葉なのですが。ルビー色に輝くことから『宝石茶』とも呼ばれ、帝国貴婦人の間で大変な人気なのです。皆さまにもぜひ味わっていただきたくて」
「まぁ! それは楽しみですわ」
いやいやいや。
この状況で、どやってお茶の香りを楽しめと!?
リリー嬢にはせめて風下に座ってほしいところだけれど、どうせ腰巾着の1号~5号は何も言えないんだろうなぁ。……仕方ない。一芝居打つか。
「大変ですわ! リリー様のお顔に直射日光がっ! 一点の曇りのない陶器のように白く滑らかで美しい肌をお持ちのリリー様に日焼けは天敵。どうぞこちらの席へ。わたくしは色黒で肌も丈夫ですから」
これまでの人生で最大級のヨイショをしてリリー嬢を風下の席へ座らせることに成功した。それでもまだ残り香がキツイので、直射日光が当たらない位置までテーブルを移動させましょうとか何とか言って、セッティングをし直した。
これで少しはお茶の風味を楽しめるだろう。エライザ様も、隣が私となって明らかにホッとした表情を浮かべている。
「じゃあ、お願いできるかしら?」
エライザ様がご自身の侍女に合図を送ると、優雅な手つきでティーポットにお湯が注がれた。途端に爽やかな香りが立ち始める。
たっぷり2分ほど待って、ティーカップに注がれたお茶が各自に配られた。
「……なにこれ?」
真っ先に王国語でそう口を開いたのは、リリー嬢だった。
それが引き金となり、1号~5号の取り巻きたちが次々と王国語でつぶやき始める。
「これのどこがルビー色なの?」
「ただの、ドス黒いお茶じゃない」
「まるで泥水みたい」
「私たちをバカにしているのかしら?」
「まったく。嘘つきはヤぁね」
みんな、エライザ様が王国語を理解しないだろうと、どうして思うのだろう?
彼女の父親は皇弟。つまり、彼女は帝国皇帝の姪。
誰かさんと違って、由緒ある公爵家の生粋のご令嬢である彼女が最高水準の教育を受けてきたことは想像に容易い。
そこに、長年の同盟国でもある王国の言葉が含まれないわけがない。先程だって、リシャール殿下へ王国語でお礼を伝えていたのに。誰も気づいてないの!?
ていうか、客人の前で無礼にも程があるでしょ!!
女官長が言っていた、『客人に対する心遣いがない』って、このことだったのか。まったく!
「まあっ!」
少々大袈裟に驚きの声を上げると、みなの注目が私に集まった。
「科学の先生がおっしゃっていたのは、本当でしたのね?」
「デルフィーヌ様、何をおっしゃりたいの?」
「皆さんも習ったでしょう? 硬水で淹れると、紅色の茶が黒色になると。ほら! 中等部2年冬の期末試験にも出た問題ですわ」
「そ、そうでしたかしら……」
「そうですわよ! 『本当かしら?』って半信半疑だったではありませんか!」
「そ、そういえば、そうだったような?」
「エライザ様のウィットに富んだ素晴らしい演出に、改めて御礼申し上げます」
「いえ、わたくしはそんな――」
「知的好奇心が満たされるのは、いくつになっても嬉しいものですわ。今日はなんて良い日なのかしら」
「喜んでいただけたのなら、何よりです」
「エライザ様。実は、軟水のご用意もございます」
「まぁ! 本当に?」
「はい。王都は硬水ですが、東の地は軟水ですし、南部は中硬水と、地域によって水質が異なるんです」
ソフィーへ目で合図を送ると、軟水を沸かせたお湯で淹れた紅茶がサーブされた。
「――如何でしょう、エライザ様」
「帝国で淹れたものと同じだわ」
「本当に、美しいルビー色ですね。宝石茶と評されるのも分かります」
「他にも硬度が異なるお水があるようなら、飲み比べてみたいわ」
「ええ、ぜひ!」
それからは、それぞれのお水の硬度に合う茶葉を選び、軽食を取りながら風味の異なるお茶を楽しんだ。そうして日が傾いてきた頃、最後に薔薇園を散策することになった。
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