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第20話 そんなにダメダメなんですか?
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女官長から帝国の公爵令嬢を招いた茶会の招待状を渡されたのは、あれから1週間が経った頃だった。
「……パス」
「なりませんっ!」
「今までは見過ごしてもらえてたのに……」
「先週の殿下との晩餐会も、結局、早々に退席なされたとか。今回は帝国の公爵令嬢をお招きした正式なお茶会ですので、妃候補の参加は必須でございます」
「妃選びの最終選考なら、他の皆さんだけでどうぞと殿下へお伝えください」
「デルフィーヌ様のご参加が必要なのです。……違う意味で」
「……まさか。そんなにダメダメなんですか?」
「わたくしが言うのも憚られますが、デルフィーヌ様抜きではお茶会自体が成立しないかと」
妃候補はいずれも高位貴族の令嬢だ。
貴族学院の成績は良くもないが悪くもない、そんな感じだったと思うけれど。
女官長が言うには、マナーや帝国語は及第点だが、不安視されているのは客人に対する心遣いらしい。
「帝国の宗教や習慣、文化といったものには皆さん無関心のようで」
「でしたら、カロリーヌ妃殿下に仕切っていただいては?」
「……」
「もしかして――」
「正妃・コンスタンス様が亡くなられて以来、王妃の公務は陛下と殿下とが担っておられます。帝国語もどれ程お分かりになられるのか……。そもそも、滅多に王都へはいらっしゃいませんので」
カロリーヌ妃は、もう何年も南の地にある離宮でお過ごしになっている。
王都へ来るのも、年に数えるほどらしい。
社交界デビューを果たしていない私は、そもそも冤罪投獄事件以外で王宮に足を踏み入れたことはない。リシャール殿下の妃候補だというのに、国王陛下はもちろんのこと、カロリーヌ妃にさえ一度もお会いしたことがないのだ。
「えーっ!? それでお嬢様も、帝国の公爵令嬢を招いたお茶会に参加することになったんですか?」
「そーゆーこと」
「でもそれって、お嬢様の優秀さを逆にアピールしちゃうことになりません? マズくないですか!?」
「帝国の文化を熱心に学んできたのが裏目に出ちゃったみたい。妃候補から退いた後の滞在先にと思って勉強してただけなのに」
「できるだけ目立たないようにサポートするしかなさそうですね」
◇◇◇お茶会当日。
薔薇が咲き誇る庭園の近くに設けられたガゼボに、私を含めた妃候補6名とリリー嬢を加えた7名が集結するはずなのに、まだ誰もやってこない。
たっぷり40分は待ってから、ようやく皆が姿を現した。その間に太陽の位置もずいぶん動いて、ほんのり日焼けした感まである。
せっかく辺境勤務で日焼けしちゃった肌が元に戻りかけてたところだったのに!!
「あら、デルフィーヌ様がいらっしゃるなんて珍しいですわね」
「皆さまお元気そうで何よりです」
「てっきり、妃の座は諦めたのかと思ってましたわ」
「え?」
「だって……。ねぇ?」
1号が意味ありげにテーブルを見渡すと、5号がオドオドした感じで口を開いた。
「その……殿下がデルフィーヌ様とのお茶会だけ欠席なさっていると伺いました」
「ええ、まぁ」
欠席じゃなくて、延期ね。
それも、私サイドからのリクエストで、だけど。
「3回連続と伺いました」
「正確には、4回連続ですね」
「まぁ! いくら何でもそれは酷いわ。わたくしからリシャール様へそれとなくお伝えしましょうか?」
「どんなふうにですか、リリー様?」
「お茶会を避けるなんて遠回しなやり方ではなく、直接、デルフィーヌ様へ『お前を妃に選ぶことはない!』とお伝えした方が誠実ですわ、と」
今、さらっと私のことを『お前』呼ばわりしたわよね?
しかも、それのどこが『それとなく』なのよ。直球ストレートじゃないの、まったく!
この女は、仲間内だけになると本性を出す。第三者がいるときには儚げな仮面の下に隠している敵意を、ここぞとばかりあからさまに私へ向けてくる。
「そうしてくださるなら、大っ変、助かります」
「えっ!?」
「それでリリー様。そのお話、いつ殿下へお伝えいただけます?」
「そ、それは……」
自分で提案しておいて、どうしてそんなに狼狽えるのよ?
学院長の推薦だし、父侯爵も反対してるから、自分から辞退を願い出るのは難しい。卒業認定の結果はまだ時間がかかりそうだし、こうなったら性悪聖女の手を借りてでも殿下からスパッとビシッと引導を渡してもらった方がスムーズにいきそうだ。
「できれば、最速で――今夜にでもお願いできますか?」
「えぇ、……分かった、わ」
「ありがとうございますっ!!」
思わず立ち上がり、リリー嬢の手を強く握りしめた。
本当はハグして感謝の気持ちを伝えたいところだけど、リリー嬢の香水の匂いが強烈すぎてできなかった。
それにしても。リリー嬢が頼めば当日中の面会も可能なのね。私が面会を希望したところで、おそらく1週間は先になるだろう。
恐るべし、聖女の魅力!
「そういえば、今度の孤児院訪問、殿下が同行してくださることになりましたの」
「あら、クロエ様。それはいつ?」
「次の日曜日です」
「まぁ。じゃあ、わたくしもご一緒させていただこうかしら?」
「リリー様がいらしてくだされば、子どもたちも喜びますわ」
妃候補には慈善活動が奨励されていて、相応の予算まで渡されている。
聞いた感じだと、みんなが揃いも揃って孤児院への支援をしているようだ。
まさか、そんなフワッフワのドレスで、香水をプンプン漂わせながら訪れているわけじゃないわよね?
まさかね、いくらなんでもそこまで非常識じゃないわよね?
……いや、このメンバーだ。あり得なくもない。
ひとり不穏な予感を抱いていた頃、後ろにガブリエル隊長と衛兵を引き連れたリシャール殿下が帝国の公爵令嬢を伴ってこちらへやって来た。
「……パス」
「なりませんっ!」
「今までは見過ごしてもらえてたのに……」
「先週の殿下との晩餐会も、結局、早々に退席なされたとか。今回は帝国の公爵令嬢をお招きした正式なお茶会ですので、妃候補の参加は必須でございます」
「妃選びの最終選考なら、他の皆さんだけでどうぞと殿下へお伝えください」
「デルフィーヌ様のご参加が必要なのです。……違う意味で」
「……まさか。そんなにダメダメなんですか?」
「わたくしが言うのも憚られますが、デルフィーヌ様抜きではお茶会自体が成立しないかと」
妃候補はいずれも高位貴族の令嬢だ。
貴族学院の成績は良くもないが悪くもない、そんな感じだったと思うけれど。
女官長が言うには、マナーや帝国語は及第点だが、不安視されているのは客人に対する心遣いらしい。
「帝国の宗教や習慣、文化といったものには皆さん無関心のようで」
「でしたら、カロリーヌ妃殿下に仕切っていただいては?」
「……」
「もしかして――」
「正妃・コンスタンス様が亡くなられて以来、王妃の公務は陛下と殿下とが担っておられます。帝国語もどれ程お分かりになられるのか……。そもそも、滅多に王都へはいらっしゃいませんので」
カロリーヌ妃は、もう何年も南の地にある離宮でお過ごしになっている。
王都へ来るのも、年に数えるほどらしい。
社交界デビューを果たしていない私は、そもそも冤罪投獄事件以外で王宮に足を踏み入れたことはない。リシャール殿下の妃候補だというのに、国王陛下はもちろんのこと、カロリーヌ妃にさえ一度もお会いしたことがないのだ。
「えーっ!? それでお嬢様も、帝国の公爵令嬢を招いたお茶会に参加することになったんですか?」
「そーゆーこと」
「でもそれって、お嬢様の優秀さを逆にアピールしちゃうことになりません? マズくないですか!?」
「帝国の文化を熱心に学んできたのが裏目に出ちゃったみたい。妃候補から退いた後の滞在先にと思って勉強してただけなのに」
「できるだけ目立たないようにサポートするしかなさそうですね」
◇◇◇お茶会当日。
薔薇が咲き誇る庭園の近くに設けられたガゼボに、私を含めた妃候補6名とリリー嬢を加えた7名が集結するはずなのに、まだ誰もやってこない。
たっぷり40分は待ってから、ようやく皆が姿を現した。その間に太陽の位置もずいぶん動いて、ほんのり日焼けした感まである。
せっかく辺境勤務で日焼けしちゃった肌が元に戻りかけてたところだったのに!!
「あら、デルフィーヌ様がいらっしゃるなんて珍しいですわね」
「皆さまお元気そうで何よりです」
「てっきり、妃の座は諦めたのかと思ってましたわ」
「え?」
「だって……。ねぇ?」
1号が意味ありげにテーブルを見渡すと、5号がオドオドした感じで口を開いた。
「その……殿下がデルフィーヌ様とのお茶会だけ欠席なさっていると伺いました」
「ええ、まぁ」
欠席じゃなくて、延期ね。
それも、私サイドからのリクエストで、だけど。
「3回連続と伺いました」
「正確には、4回連続ですね」
「まぁ! いくら何でもそれは酷いわ。わたくしからリシャール様へそれとなくお伝えしましょうか?」
「どんなふうにですか、リリー様?」
「お茶会を避けるなんて遠回しなやり方ではなく、直接、デルフィーヌ様へ『お前を妃に選ぶことはない!』とお伝えした方が誠実ですわ、と」
今、さらっと私のことを『お前』呼ばわりしたわよね?
しかも、それのどこが『それとなく』なのよ。直球ストレートじゃないの、まったく!
この女は、仲間内だけになると本性を出す。第三者がいるときには儚げな仮面の下に隠している敵意を、ここぞとばかりあからさまに私へ向けてくる。
「そうしてくださるなら、大っ変、助かります」
「えっ!?」
「それでリリー様。そのお話、いつ殿下へお伝えいただけます?」
「そ、それは……」
自分で提案しておいて、どうしてそんなに狼狽えるのよ?
学院長の推薦だし、父侯爵も反対してるから、自分から辞退を願い出るのは難しい。卒業認定の結果はまだ時間がかかりそうだし、こうなったら性悪聖女の手を借りてでも殿下からスパッとビシッと引導を渡してもらった方がスムーズにいきそうだ。
「できれば、最速で――今夜にでもお願いできますか?」
「えぇ、……分かった、わ」
「ありがとうございますっ!!」
思わず立ち上がり、リリー嬢の手を強く握りしめた。
本当はハグして感謝の気持ちを伝えたいところだけど、リリー嬢の香水の匂いが強烈すぎてできなかった。
それにしても。リリー嬢が頼めば当日中の面会も可能なのね。私が面会を希望したところで、おそらく1週間は先になるだろう。
恐るべし、聖女の魅力!
「そういえば、今度の孤児院訪問、殿下が同行してくださることになりましたの」
「あら、クロエ様。それはいつ?」
「次の日曜日です」
「まぁ。じゃあ、わたくしもご一緒させていただこうかしら?」
「リリー様がいらしてくだされば、子どもたちも喜びますわ」
妃候補には慈善活動が奨励されていて、相応の予算まで渡されている。
聞いた感じだと、みんなが揃いも揃って孤児院への支援をしているようだ。
まさか、そんなフワッフワのドレスで、香水をプンプン漂わせながら訪れているわけじゃないわよね?
まさかね、いくらなんでもそこまで非常識じゃないわよね?
……いや、このメンバーだ。あり得なくもない。
ひとり不穏な予感を抱いていた頃、後ろにガブリエル隊長と衛兵を引き連れたリシャール殿下が帝国の公爵令嬢を伴ってこちらへやって来た。
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