辞令:高飛車令嬢。妃候補の任を解き、宰相室勤務を命ずる

花雨宮琵

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第47話 ガブリエル vs 殿下

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 そんな噂に頭を悩ませている大人たちがいることなど知る由もなく、今日という休日も私に求婚してくれた可愛い天使と一緒に過ごしている。

「デルフィーヌ様。僕、もっと強くなります。剣の師範を付けてくださるよう父上にお願いしました」
「じゃあ、もう私とは遊んでくれないの?」
「うっ……デルフィーヌ様とは、剣のお稽古の後にお茶をご一緒します」

 息子のお強請ねだりに弱い閣下がテオドール様のリクエストに応えて用意した剣の師範が――

「よぉ、フィーヌ! 元気か?」
「隊長っ!! テオドール様の師範って、ガブリエル隊長だったんですね!?」
「閣下に頼まれちゃってさ。あの人、息子に弱いから」
「ふふっ。ですよね」
「元気そうだな」
「おかげ様で」
「ところでフィーヌ。殿下とはどうなんだ?」
「ど、どうって……特に何も」
「は!? じゃあ、フィーヌに恋人ができたって話は本当だったのか?」
「恋人? 誰ですかそれ?」
「ん? フィーヌが求婚されてるって話を聞いたんだが、違うのか?」
「そんな奇特な人がいたら、とっくに隊長へ会わせてますよ。他国のスパイかもしれないもの」
「だよな。ってことは――宰相の早とちりか」

 そういえば、宰相閣下からも似た質問をされたような……。
 先週だっけ。お菓子の材料を買いに街へ行こうとしたら、呼び止められたのだ。

「デルフィーヌ。少しいいかな?」
「はい、閣下。何でしょう?」
「その……。あの、なんだ、殿下とは、外で会ってたりしているのかな?」
「いいえ。仕事以外でお会いすることはありませんが」
「そうか――今から、外出を?」
「はい。最近できたお菓子屋さんへ行こうかと」
「うん、いや、別に詮索するわけではないんだが……。誰か、心を許せるひとでもできたのかな?」
「心を許せる人?」
「そう、あれだ、強要するわけではないんだが。ほら、もしそういう人ができたのなら、ロワーヌ侯爵夫妻へも報せておいた方が安心するだろうなと思ってね」

 心を許せる人というか、このお家でエリー様、ラファエル様、テオドール様という良いご縁に恵まれて幸せに暮らしていると手紙に書いたばかりだ。

「でしたら、ご心配はご無用です。すでに義両親へは報せましたから」
「そっ、そうなのかい!?」
「はい。義母も大変喜んでおりました」
「っ、侯爵ミシェル夫人が(交際を許したのか)!? そ、その相手とは、どのくらいの仲……なのかな?」
「こんな言い方が許されるのであれば……家族のような温かい関係、でしょうか?」
「家族……。そうか、もうそこまで……。そうか、そうだったんだな、いつの間に……。うん、そうか…………。まいったな」
「閣下?」
「その、相手の名を聞いても?」
「もう閣下ったら、ご存知のくせに! 改まって聞かれると、照れちゃいます」
「っ、私の知っている人間なんだね?」
「毎日顔を合わせているじゃないですか」
「毎日!? (誰だ? 補佐官のあいつか? いや、最近入ってきたあいつか? それとも……)」
「閣下が紡いでくださった良縁に、感謝いたします」
「わ、わたしが!?」

 あの後、いつになく顔を青くした閣下は、休日だというのに何処かへ出かけて行ったっきり、翌日の夜まで帰ってこなかった。
 私、何かしたのかな?

「ま、いっか。さて、と。かんせーい!」

 今日は栗のタルトを焼いてみた。
 テオドール様の遊び相手を解雇されてしまった私は、剣のお稽古後に食べるお菓子作りにハマっているのだ。

「隊長! テオドール様! 稽古お疲れ様でした。今日は新作のお菓子ですよ~」
「わーい! やったぁ!」
「美味そうだな」
「デルフィーヌ様! 手、洗ってきました」
「はーい。じゃあ、お外でいただきましょうか? 今日は日差しが気持ち良いですからね」
「わーい!」

 庭の柔らかい土の上に布を敷いて、3人で足を崩してタルトを食べる。
 決して褒められた姿勢ではないけれど、美味しく食べているときにまでマナーがどうのとは言いたくない。お茶の時間が終わると、今度はお昼寝の時間だ。

「さぁ、今日はここで日向ぼっこしましょうか。隊長、あそこの枝に日よけの布を張っていただけますか?」
「ああ。これでいいか?」
「バッチリです。じゃあ、1時間したら起こしてください」
「フィーヌも寝るのか!?」
「もちろんです!」
「子どもかよ?」
「だってまだ未成年だもーん」
「はいはい。2人とも、おやすみ」

◆◆◆ガブリエル視点

――カツッ、カツッ、カツッ

 2人分の規則的な足音が、真っ直ぐにこちらへ近づいてくる。どうやら宰相が連れて帰ってきたようだな。

「これはこれは、殿下。わざわざ宰相閣下のお屋敷まで休日出勤ですか?」
「嫌味な奴だな。そっちこそ、休日まで剣の稽古とはご苦労だな」
「美味しい茶菓子と可愛い弟子たちとの交流を楽しんでいるだけですよ」
「デルフィーヌは弟子じゃないだろ。……何をしている?」
「寝顔に直射日光が当たらないよう、日除けの位置をズラしているところです」
「あんな場所で昼寝を?」
「まだ初秋ですからね、風邪を引く心配はありませんよ」
「未婚の令嬢が無防備にも程があるだろ。王宮での事件を忘れたのか?」

「殿下、心配ならご無用ですよ。ガブリエル卿が側にいますから」
「余計に心配だろう!?」
「心外ですね。私は殿下と違ってフィーヌによこしまな感情は抱いておりません」
「くっ……」
「ガブリエル卿。あまり若者を揶揄するものではないよ」

「どうやら歓迎されていないようだな」
「あれだけ殺気を放たれたら、休日気分も吹き飛びますよ」
「そんなものを放った覚えはない」
「無意識ですか。余計に性質たちが悪い」

性質たちが悪いのは直射日光だろう? 昼寝なら部屋でさせるべきだ」
「健康的に日焼けした肌を持つ女性の方が、病人みたいに真っ白な肌をした令嬢よりずっと魅了的だと思いますがね。それに、そういう女性の方が丈夫な子を産んでくれそうだ」
「それはガブリエルの好みだろう? それに、未婚の令嬢に向けたセリフとしては不謹慎だぞ」
「ほぉう。まさか殿下に倫理を説かれるとは」
「ガブリエル卿。これ以上、殿下を刺激するのは――」

「魅力的な女性に己の子を産んでほしいと願うのは男の本能ですよ、殿下」
「ガブリエル! ここへは剣を教えに来ているのだろう?」
「きっかけはそうですが、こうしてフィーヌと過ごすひと時も捨てがたい」

「……日が傾いてきた。風邪を引く前に彼女を部屋へ運んだほうがいい」
「それでは私が――」
「ガブリエルは末子テオドールの師範だろう? 側にいてやらないでどうする?」
「殿下。言っておきますが、無体は許しませんよ?」
「ガブリエルに許可を得る筋合いはないと思うがな」
「ロワーヌ侯爵夫人から直々にフィーヌの監視役を仰せつかっておりましてね。危険分子は迷いなく排除しろ、と」
「くっ……案ずるな。さすがに宰相の邸宅で無体を働くほど愚かではない」
「その言葉、お忘れになりませぬよう」
「分かっている」
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