辞令:高飛車令嬢。妃候補の任を解き、宰相室勤務を命ずる

花雨宮琵

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第46話 ライバルを助けてる場合じゃ…

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 エライザ様が滞在している迎賓館の客室へ案内されるなり、人払いがされた。
 どうやら人に聞かれてはマズい話題らしい。

「デルフィーヌ様は、その……。かの御方と、一番親しい異性だと耳にして」
「え……」
「昨夜も、口付けされていらしたから……」
 
 なんてこと! 
 やっぱり、あの既遂現場を見られてたんだ……。
 リシャール殿下とエライザ様の婚約がまとまったという正式発表はまだ耳に入っていないけれど、このままだと国家間の問題に発展しかねない。

 私、どんな罰を受けるんだろう。
 まさか、幽体離脱で見た未来って、エライザ様付の侍女だったとか?

「エライザ様。昨夜のあれは、単なる暇つぶしの戯れにすぎません。エライザ様がご心配なさるような間柄では――」
「彼も、だとは言っていたけれど。でも……」

 ううっ。自分で言っておいてなんだけど、改めて第三者から言われるとキツイ。

「私は、ただの茶飲み仲間のような存在です。そもそも、女性として意識されていませんから」
「そうなの? 本当に?」
「はい」
「あぁ、良かったわ」

 よほどの覚悟を持って私に打ち明けたのだろう。両手を身体の前で組んでほっと胸をなでおろすエライザ様のお姿は、同性の私から見ても心を奪われるほど可憐だ。

「恥を忍んで申し上げるのだけれど、私の恋愛相談にのっていただきたいの」
「私がですか!?」
「実はね。以前の公式訪問から帰国した後、王国語の猛特訓を始めたの。デルフィーヌ様には、王国語で会話をしても良いかしら?」
「それは、はい。もちろんです」

 エライザ様はふぅーっと深呼吸すると、愛の告白でもするかのようにささやいた。

「実はね……、一目惚れなんよ」

『なんよ』!? 
 エライザ様の王国語って、ちょっと訛ってない? 
 か、可愛いけど。けど……違和感がすごい。

 私の心中など露ほども知らず、エライザ様は恋に落ちた少女よろしく胸の内を語りながら、手ずからお茶を淹れてくれた。その所作は完璧だ。
 
「エライザ様。王国語はどなたからお習いに?」

 とりあえず、一番聞きたかったことを先に尋ねることにした。

「ふふっ。実はね、母の侍女が王国の出身で」
「ちなみに、その方の出身地はご存知ですか?」
「南西地方だと言っていたかしら。侍女といってもね、今年で50なんよ」

 なるほど。南西地方の方言なのね。うん、そっか……。

「一目惚れとはまた、どんなところに惹かれたのですか?」
「小鳥が10羽は止まれそうな、あの広い肩幅。周りの空気を一気に冷やす、あの射るような眼差し。帝国にはいないタイプの殿方なんよ」

 よく分からない例えだけれど、たしかに殿下は体格もいいし、眼差しも鋭い。

「それにね。……初めてやったんよ」
 エライザ様がポッと頬をピンク色に染めて、恥ずかし気にうつむく。

 ダメだ。方言が気になってエライザ様の話が今一つ頭に入ってこない。

「――初めてだったとは、何がでしょう?」
「殿方から叱られたの。対等に接してくれたのが、嬉しかったんよ」

 「あんなふうにお説教されたのは初めてで」と言いながらほっぺたに両手を当てるエライザ様は、まるで少女のように初々しい。
 いったい、こんな可憐な女性が何をして叱られたというのだろう。

「それで、わたくしはどんなお手伝いをすればよいのでしょう?」
「彼のことを教えてほしいの。好きな女性のタイプや、好きなものを」
「お教えできるほど、私も詳しくはございません。女官長様に尋ねてみては如何でしょう?」
「彼が、デルフィーヌ様は妹みたいな存在だとおっしゃっていたの。女官長より、素の彼をご存知なんじゃないかと思って」
「妹……」

 たしか、女官長の旦那ポールおじ様にもそう言われたような。まぁ、取り繕っていない殿下の姿を知っている自負はあるけれど。

「リリー様に相談したら、積極的な女性が好みだとおっしゃったから、お礼代わりにキスしようとしたら酷く叱られちゃって。『レディが軽率なことをするものではありません!!』って」

 リリー様に相談したですって!? それ、一番相談しちゃダメな相手だから!
 それに、キスしようとしたぁ!? 
 もう、どこから突っ込んでいいのか分からない……。

「いいですか? まずリリー嬢に相談するのは今すぐ! 即刻! お止めください」
「わ、わかったわ」
「それからエライザ様は十分魅力的な女性です。自分を安売りするような言動は今後一切、お控えください」
「安売りだなんて。キスといっても、頬にしようとしただけよ?」
「頬でもダメです! ご理解いただけましたね!?」
「うっ。デルフィーヌ様のその射抜くような眼差し、わたくし大好きだわ」
「目つきが悪いのは生まれつきでして。何卒、ご容赦願います」
「そんな! デルフィーヌ様の切れ長の瞳、とても綺麗だわ。憧れちゃう!」

 可憐な女性からそんなふうに心から褒められると、嫌な気はしないもので……。
 ソフィーの言うとおり、私ってば少しプライドをくすぐられるとすーぐ流されちゃうみたい。
 結局、エライザ様にうまく丸め込まれてしまった。

 殿下の好みを直接聞き出すなど、一介の文官にはハードルが高すぎる。キスを迫るくらい大胆なんだから、それくらい自分で聞けばいいのに。
 
 もぉ――う、恋のライバルを手助けしてる場合なんかじゃないのにっ!!


「はぁ――ぁ、すっごい疲れた……」
 
 ようやくエライザ様から解放されて宰相室へ戻ると、心配顔の宰相閣下に迎え入れられた。

「エライザ様から呼び出されたんだって? 大丈夫だったかい?」
「想定外の難題をふっかけられました」
「そうか、それは……。何か出来ることはあれば、遠慮なく言うんだよ?」
「閣下に折り入ってお尋ねしたいことがございます」
「ん? 何だい、改まったりして」
「実は――」
「殿下の好きな女性のタイプ? どうしてまた、そんなことを知りたいんだい?」
「今後の参考? にさせてもらおうかなって。アハハハハ」

 まさか、エライザ様から調べてくるように命じられたなんて言えないしなぁ。

――数日後。宰相閣下の邸宅。

「フィーヌ。その、なんだ……フィーヌは殿下のことが諦めきれないのか?」
「ちょっとラファエル様、唐突になんですかっ!?」
「殿下の好みを聞いて回っているそうじゃないか」
「それは……」
「昔、突然髪を切ったのもそのせいか? 殿下はショートヘアが好きだからな」
「へ? そうなんですか!?」

 あのとき髪を切ったのは傷んじゃったからであって、他意はない。

「あぁ。殿下は可愛い系より綺麗系、守ってあげたい系より自立系、フェミニン系よりは知的・サバサバ系が好みだからな」
「よくご存知ですね」
「同窓生だからな」
「!!」

 なんてこと!
 ラファエル様は殿下と同い年。貴族学院では同じクラスに所属していたらしい。
 年頃の男子同士、理想の女性像を語り合った過去があったのかもしれない。こんな身近に殿下をよく知る人物がいたとは。
 思わぬ収穫!!

 こんなふうにして、仕事と同じように全力で殿下の好みをリサーチしていたら、いつの間にかこんな噂がまことしやかに囁かれるようになった。
 
 『元・筆頭きさき候補にして身の程知らずの高飛車文官が、帝国の薔薇と名高いミス・エライザにライバル宣言したらしい』と。
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