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第49話 力作です!
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あの夕食会から数日後。
「ふぅー。何とかカタチになったわ」
300ページにも及ぶリシャール殿下に関する資料がようやく完成した。
通常勤務を終えた後、家に戻ってから夜な夜なまとめていたのだ。気乗りしない任務とはいえ、手を抜けないのがこの私。
今回も完っ璧に仕上げたわ。
明日はご褒美に新作のケーキを買って帰ろうっと。ふふふふふ。
――翌日。
その日は年末の生誕祭に行なわれる王室主催の夜会について打合せをしていた。
国を挙げての一大行事だから、今日も各部署の若手が集められている。エライザ様の話を聴いてからというもの、初対面の男性に会う時は自然と肩へ目がいくようになってしまった。
「……7。……8。殿下も片肩で4羽はいけるんだけど、5羽は難しいのよねぇ。帝国の鳥って、サイズが小さいのかしら?」
「デルフィーヌ、大丈夫か? 酷い隈だぞ?」
「殿下! 失礼しました。これ、依頼されていた資料です」
殿下へ向かって分厚い封筒を手渡した。
先輩たちがまとめた、年末に王室から国民へ向けて発表するスピーチの参考となる様々な資料をお渡しするよう頼まれていたのだ。
「すごい厚みだな」
「力作ですので!」
「そうか。後ほど確認させてもらう」
「お願いいたします。それでは」
回れ右をして宰相室へと戻った。
「おーいフィーヌ! 殿下へ資料、渡せたか?」
「はい。後ほど確認くださるそうです」
「そうか。よかっ――ん? 何だ? まだ手に持ってるじゃないか」
「え!?」
うそ、うそ、うそ――っ!!
同じような厚みだったから、エライザ様へ報告する予定のリシャール殿下に関する調査報告書を間違って渡してしまった。
よりによって、本人へ!!
――その頃、王太子殿下の執務室。
「殿下。年度末のスピーチ原稿の参考資料、届いていますか?」
「あぁ、さっき受け取ったよ。ほら、力作だそうだ」
「ほぉう。例年より分厚いですね。では、中身を失礼いたします。……………」
「どうした、ジェローム?」
「いえ、それが――」
【タイトル】
殿下の取扱説明書 (没)
王国が生んだ“白銀の青獅子” 20年の軌跡 (没)
THE RICHARD
【調査員】D
「タイトルが2回変更されていて、最終形は『ザ・リシャール』になってます。調査員はディー? これ、何の資料でしょう? 右上に『極秘』の朱色スタンプまで押されてありますが……」
「は? ちょっと見せてくれ」
【目次】
1 リシャール殿下誕生~幼児期
2 リシャール殿下 少年期
3 リシャール殿下 青年期
交友関係:同窓生R、J、S、A、T、Lの証言
異性関係:内容を鑑み、割愛
※ 閨教育担当B女史へ実施したロングインタビューの概要は口頭にて報告予定
4 総括
パタンッ。
「本案件は、俺が預かる。それから――今日の仕事はもう切り上げる」
渡し間違いに気づいてすぐに王太子の執務室へ駆け込んだが、タッチの差で間に合わなかった。
「殿下ですか? 申し訳ありません、5分程前に退室されました。明後日まで休暇ですから、また週明けにお越しください」
「そんなぁ!!」
「あ、大丈夫ですよ。デルフィーヌさんが提出くださった分厚い力作でしたら、手に持って退室されましたから。週末に熟読されるそうです」
それ、全っ然、大丈夫じゃないからぁぁぁ!
「お? フィーヌか。真っ青な顔してどうした?」
「ガブリエル隊長! え……5羽と5羽」
「は?」
うっそ! ガブリエル隊長なら両肩合わせて10羽、止まれる!!
もしかして、エライザ様の想い人って、殿下じゃなくてガブリエル隊長なの!?
私、ひどい勘違いをしちゃってたのかもしれない!
「し、失礼いたしました」
「なんだ、あいつ? 弾丸みたいだな」
「殿下の様子も変でしたけど、デルフィーヌさんもあんなに慌ててどうしたんでしょうね?」
◇◇◇迎賓館
「宰相室のデルフィーヌです。エライザ様への面会をお願いいたします」
「どうぞ」
一介の文官にすぎない私がなぜ易々と迎賓館へ出入りできるかというと、エライザ様がいつでも私が報告に来られるように、特別な入館証を発行してくださったからだ。
「エライザ様っ!!」
「そんなに慌ててどうなさったの?」
「急ぎ確認したいことがございまして! あの、その、エライザ様が慕っておられる御方って、もしかしてガブリエル隊長ですか!?」
「肩に小鳥を10羽も乗せられるような殿方、ガブリエル様以外にいらっしゃる?」
「だってだって、エライザ様はリシャール殿下との婚約が水面下で進められていらっしゃるんですよね? 普通、想い人って聞いたら殿下のことだと思いますよね!?」
「ごめんなさい。私もリシャール様もその噂、敢えて否定しなかったんよ。お互いに異性除けになるなら都合がいいし、そのままにしておこうって」
「え? そ、そうだったんですか!?」
「もしかして、これまで私に教えてくれていた情報、あれは殿下のものだった?」
「私としたことが、大っ変申し訳ございません!!」
「そっか、だったら良いんよ。ほんとに……よかった」
「え?」
「実はね、少し落ち込んでたんよ。だって、ガブリエル様の好みのタイプ、全然私に当てはまらなかったから。でも、勘違いならまだ希望が持てそう。私、もう少し王国に滞在したいって、両親にお願いしてみる」
「エライザ様、帝国へお戻りになるつもりだったんですか?」
「ええ。お相手にその気がないのなら、早く故郷へ戻ってお見合いしろって言われてて」
そんな、私の勘違いのせいで貴重な王国滞在を無駄にさせてしまっていただなんて!!
「エライザ様。明日、宰相閣下の邸宅へいらっしゃいませんか?」
殿下に渡し間違えた報告書の行く末も気になるけれど、それよりもエライザ様にご迷惑をかけちゃった分を取り戻す方が先だ!
――翌日。
「隊長! テオドール様! 稽古お疲れ様でした。今日は新作のお菓子ですよ~」
「わーい! やったぁ! 手を洗ってきます」
「フィーヌ、新作のケーキって何だ?」
「ふふっ。見てのお楽しみです。今日はスペシャルなゲストが一緒に作ってくださったんですよ?」
「ゲスト? ……姫様!!」
「ガブリエル様。こんにちは」
「隊長ってば、『姫様』だなんて。ちょっと堅苦しくありません? ねぇ、エライザ様」
「ええ。できたら家族と同じように『リズ』って呼んでくださると嬉しいわ」
「私は一介の護衛にすぎませんので」
「隊長だって、伯爵位を持ってるじゃないですか! それに、弱冠25歳で近衛騎士団長に就任するくらい有能なんですから、お似合いですよ?」
「フィーヌ? 姫様に失礼だぞ?」
「隊長。宰相閣下の邸宅は治外法権です。身分なんて関係ないんですから。ねぇ、エライザ様?」
「ええ」
「っ姫様!! その指、どうされたんですか!?」
「お見苦しくて申し訳ありません。慣れないことをするものではありませんね」
「痛みはあるんですか? 傷の深さは? 手当はされましたか? フィーヌっ!?」
「そんなにご心配なら、隊長が手当して差し上げたらどうですか? こういうの得意じゃないですか」
「デルフィーヌ様! 手、洗ってきました」
「はーい。じゃあ今日は二人でいただきましょうか? お師匠様は取り込み中ですからね」
「わぁー、お師匠様の奥様ですか? 僕、弟子のテオドールです。すごいなぁ。こんな、お姫様みたいにキレイな奥様がいるなんて、さすがはお師匠様!」
「おいっ、テオ! 奥様だなんて、姫様に失礼だぞ!?」
「大変失礼しました。姫様、師匠は男が憧れる男です。ケッコンして絶対に損はありません。どうか師匠のこと、末永くよろしくお願いします」
「はい」
「え? 姫様? 今、何と――」
「ガブリエル様。ふしだらな者ですが、末永く宜しくお願いいたします」
エライザ様、そこ! 『ふしだら』じゃなくて、『ふつつか』だから!!
全っ然、意味違うから!!
もしかして、これもリリー嬢の入れ知恵かなにかかしら。
隊長も黙ってないで何とか言ってよ!
あぁ、ダメだ。2人とも真っ赤になってフリーズしてる。
「テオドール様。ここはお2人にして差し上げましょうか」
「はい。お師匠様、姫様、父上は夕方まで戻りませんので、ごゆっくりどうぞ」
「隊長。1階の応接間、ご自由にお使いください」
「お、おうっ……」
あの感じだと、隊長もエライザ様に惚れちゃってるみたいね。
なぁんだ、両想いなんじゃない。
今夜の夕食、祝い繕にするよう料理長へ伝えておこうっと!
「ふぅー。何とかカタチになったわ」
300ページにも及ぶリシャール殿下に関する資料がようやく完成した。
通常勤務を終えた後、家に戻ってから夜な夜なまとめていたのだ。気乗りしない任務とはいえ、手を抜けないのがこの私。
今回も完っ璧に仕上げたわ。
明日はご褒美に新作のケーキを買って帰ろうっと。ふふふふふ。
――翌日。
その日は年末の生誕祭に行なわれる王室主催の夜会について打合せをしていた。
国を挙げての一大行事だから、今日も各部署の若手が集められている。エライザ様の話を聴いてからというもの、初対面の男性に会う時は自然と肩へ目がいくようになってしまった。
「……7。……8。殿下も片肩で4羽はいけるんだけど、5羽は難しいのよねぇ。帝国の鳥って、サイズが小さいのかしら?」
「デルフィーヌ、大丈夫か? 酷い隈だぞ?」
「殿下! 失礼しました。これ、依頼されていた資料です」
殿下へ向かって分厚い封筒を手渡した。
先輩たちがまとめた、年末に王室から国民へ向けて発表するスピーチの参考となる様々な資料をお渡しするよう頼まれていたのだ。
「すごい厚みだな」
「力作ですので!」
「そうか。後ほど確認させてもらう」
「お願いいたします。それでは」
回れ右をして宰相室へと戻った。
「おーいフィーヌ! 殿下へ資料、渡せたか?」
「はい。後ほど確認くださるそうです」
「そうか。よかっ――ん? 何だ? まだ手に持ってるじゃないか」
「え!?」
うそ、うそ、うそ――っ!!
同じような厚みだったから、エライザ様へ報告する予定のリシャール殿下に関する調査報告書を間違って渡してしまった。
よりによって、本人へ!!
――その頃、王太子殿下の執務室。
「殿下。年度末のスピーチ原稿の参考資料、届いていますか?」
「あぁ、さっき受け取ったよ。ほら、力作だそうだ」
「ほぉう。例年より分厚いですね。では、中身を失礼いたします。……………」
「どうした、ジェローム?」
「いえ、それが――」
【タイトル】
殿下の取扱説明書 (没)
王国が生んだ“白銀の青獅子” 20年の軌跡 (没)
THE RICHARD
【調査員】D
「タイトルが2回変更されていて、最終形は『ザ・リシャール』になってます。調査員はディー? これ、何の資料でしょう? 右上に『極秘』の朱色スタンプまで押されてありますが……」
「は? ちょっと見せてくれ」
【目次】
1 リシャール殿下誕生~幼児期
2 リシャール殿下 少年期
3 リシャール殿下 青年期
交友関係:同窓生R、J、S、A、T、Lの証言
異性関係:内容を鑑み、割愛
※ 閨教育担当B女史へ実施したロングインタビューの概要は口頭にて報告予定
4 総括
パタンッ。
「本案件は、俺が預かる。それから――今日の仕事はもう切り上げる」
渡し間違いに気づいてすぐに王太子の執務室へ駆け込んだが、タッチの差で間に合わなかった。
「殿下ですか? 申し訳ありません、5分程前に退室されました。明後日まで休暇ですから、また週明けにお越しください」
「そんなぁ!!」
「あ、大丈夫ですよ。デルフィーヌさんが提出くださった分厚い力作でしたら、手に持って退室されましたから。週末に熟読されるそうです」
それ、全っ然、大丈夫じゃないからぁぁぁ!
「お? フィーヌか。真っ青な顔してどうした?」
「ガブリエル隊長! え……5羽と5羽」
「は?」
うっそ! ガブリエル隊長なら両肩合わせて10羽、止まれる!!
もしかして、エライザ様の想い人って、殿下じゃなくてガブリエル隊長なの!?
私、ひどい勘違いをしちゃってたのかもしれない!
「し、失礼いたしました」
「なんだ、あいつ? 弾丸みたいだな」
「殿下の様子も変でしたけど、デルフィーヌさんもあんなに慌ててどうしたんでしょうね?」
◇◇◇迎賓館
「宰相室のデルフィーヌです。エライザ様への面会をお願いいたします」
「どうぞ」
一介の文官にすぎない私がなぜ易々と迎賓館へ出入りできるかというと、エライザ様がいつでも私が報告に来られるように、特別な入館証を発行してくださったからだ。
「エライザ様っ!!」
「そんなに慌ててどうなさったの?」
「急ぎ確認したいことがございまして! あの、その、エライザ様が慕っておられる御方って、もしかしてガブリエル隊長ですか!?」
「肩に小鳥を10羽も乗せられるような殿方、ガブリエル様以外にいらっしゃる?」
「だってだって、エライザ様はリシャール殿下との婚約が水面下で進められていらっしゃるんですよね? 普通、想い人って聞いたら殿下のことだと思いますよね!?」
「ごめんなさい。私もリシャール様もその噂、敢えて否定しなかったんよ。お互いに異性除けになるなら都合がいいし、そのままにしておこうって」
「え? そ、そうだったんですか!?」
「もしかして、これまで私に教えてくれていた情報、あれは殿下のものだった?」
「私としたことが、大っ変申し訳ございません!!」
「そっか、だったら良いんよ。ほんとに……よかった」
「え?」
「実はね、少し落ち込んでたんよ。だって、ガブリエル様の好みのタイプ、全然私に当てはまらなかったから。でも、勘違いならまだ希望が持てそう。私、もう少し王国に滞在したいって、両親にお願いしてみる」
「エライザ様、帝国へお戻りになるつもりだったんですか?」
「ええ。お相手にその気がないのなら、早く故郷へ戻ってお見合いしろって言われてて」
そんな、私の勘違いのせいで貴重な王国滞在を無駄にさせてしまっていただなんて!!
「エライザ様。明日、宰相閣下の邸宅へいらっしゃいませんか?」
殿下に渡し間違えた報告書の行く末も気になるけれど、それよりもエライザ様にご迷惑をかけちゃった分を取り戻す方が先だ!
――翌日。
「隊長! テオドール様! 稽古お疲れ様でした。今日は新作のお菓子ですよ~」
「わーい! やったぁ! 手を洗ってきます」
「フィーヌ、新作のケーキって何だ?」
「ふふっ。見てのお楽しみです。今日はスペシャルなゲストが一緒に作ってくださったんですよ?」
「ゲスト? ……姫様!!」
「ガブリエル様。こんにちは」
「隊長ってば、『姫様』だなんて。ちょっと堅苦しくありません? ねぇ、エライザ様」
「ええ。できたら家族と同じように『リズ』って呼んでくださると嬉しいわ」
「私は一介の護衛にすぎませんので」
「隊長だって、伯爵位を持ってるじゃないですか! それに、弱冠25歳で近衛騎士団長に就任するくらい有能なんですから、お似合いですよ?」
「フィーヌ? 姫様に失礼だぞ?」
「隊長。宰相閣下の邸宅は治外法権です。身分なんて関係ないんですから。ねぇ、エライザ様?」
「ええ」
「っ姫様!! その指、どうされたんですか!?」
「お見苦しくて申し訳ありません。慣れないことをするものではありませんね」
「痛みはあるんですか? 傷の深さは? 手当はされましたか? フィーヌっ!?」
「そんなにご心配なら、隊長が手当して差し上げたらどうですか? こういうの得意じゃないですか」
「デルフィーヌ様! 手、洗ってきました」
「はーい。じゃあ今日は二人でいただきましょうか? お師匠様は取り込み中ですからね」
「わぁー、お師匠様の奥様ですか? 僕、弟子のテオドールです。すごいなぁ。こんな、お姫様みたいにキレイな奥様がいるなんて、さすがはお師匠様!」
「おいっ、テオ! 奥様だなんて、姫様に失礼だぞ!?」
「大変失礼しました。姫様、師匠は男が憧れる男です。ケッコンして絶対に損はありません。どうか師匠のこと、末永くよろしくお願いします」
「はい」
「え? 姫様? 今、何と――」
「ガブリエル様。ふしだらな者ですが、末永く宜しくお願いいたします」
エライザ様、そこ! 『ふしだら』じゃなくて、『ふつつか』だから!!
全っ然、意味違うから!!
もしかして、これもリリー嬢の入れ知恵かなにかかしら。
隊長も黙ってないで何とか言ってよ!
あぁ、ダメだ。2人とも真っ赤になってフリーズしてる。
「テオドール様。ここはお2人にして差し上げましょうか」
「はい。お師匠様、姫様、父上は夕方まで戻りませんので、ごゆっくりどうぞ」
「隊長。1階の応接間、ご自由にお使いください」
「お、おうっ……」
あの感じだと、隊長もエライザ様に惚れちゃってるみたいね。
なぁんだ、両想いなんじゃない。
今夜の夕食、祝い繕にするよう料理長へ伝えておこうっと!
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