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第61話 残念。君は、不合格だ
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「たしかに。男は手に入らなかったものに執着する生き物だからね」
「デルフィーヌには、幸せになってほしいんです。籠の中の鳥になんて、させられません」
「だったら――リシャール第一王子、彼の婚約者にデルフィーヌを推薦するというのはどうかしら? さすがに陛下も息子の婚約者に手をつけたりはしないでしょう?」
「リシャール王子は王位継承順位が第一位の御方だ。その婚約者が侯爵家の養子というのは……」
「母親はアクロティア皇族の末裔よ? 平民との間にできた庶子とは全くレベルが違うわ。でも、そうね。私たちが推薦したとなると、あの2人がどう出てくるか分からない。特にブリジット。彼女、デルフィーヌと同じ年の娘がいるのよ」
「ブリジット夫人もカロリーヌ妃も、マグダレーナが出産したことすら知らないはずだ。デルフィーヌを見たところでマグダレーナの娘だとは分からないだろう?」
「あの容姿よ? すぐにピンとくるわ。女の勘は鋭いんだから」
「だったら、他薦という手はどうだろう?」
「そうね。マグダレーナ様、デルフィーヌは学業の方はどうなのでしょう?」
「要領は良い方だと思いますが、特別なことは何も……」
「入学までまだ5年あるわ。まず入学試験で1位を取り、学年首位を維持しつつ妃選びが始まったタイミングで学院長から推薦してもらう、というのはどうかしら?」
「学院長から?」
「貴族学院の代表理事は王族が務める習わしなの。成績優秀者が妃候補になるのは自然なことだわ」
「名案だね。それに、次期学院長には彼がなるはずだ」
「……」
「マグダレーナ? どうかしたのかい?」
「実は……。あの子、リシャール殿下と面識があるんです。先月解決された子どもの連続誘拐事件。殿下を救って、児童売買をしていた組織の認識阻害魔法を解いたのが、あの子なんです。お互い身分は明かさなかったようですが……」
「なんだって!? それに、魔法を解いたって、まさか――」
「あの子は、帝国皇族の魔力無効の力を受け継いでいます」
「なんと……」
「秘匿にすべきだろうね、その力は」
「はい。本人にも、強くそう言い聞かせています」
「力を悪用しようと近寄ってくる輩から守らないといけないわね」
「13になったらギュスターヴ様の知り合いの元へ預けて、身を守る術を覚えさせようかと考えていました」
「たしかに、実践で鍛えるのが一番なんでしょうけど。デルフィーヌ、運動神経はからっきしなのでしょう?」
「はい。薬師としての心得はありますが、運動神経は父親に似なかったみたいで」
「それは後々、考えていきましょう。殿下とは運命の再会って感じになる可能性もあるけれど、それは成長した2人が決めることだから、運命に任せるしかないわね」
こんな秘密の会合を経て、あなたのことを4人で見守りながら育てていくことにしたの。宰相様は、一足早く神の世界に旅立ってしまわれたけれど、その意思は息子のダヴィッド様が継いでくださった。
それに、貴族学院の学院長。
彼こそが、私とギュスターヴ様の結婚式を取り仕切ってくれた御方なの。
本当に、多くの人がデルフィーヌの成長を見守ってくれたのよ。
デルフィーヌ。
あなたは望まれて産まれてきたの。
人から見たら、不幸な出自かもしれない。でもね、あなたの人生の祝福は、母親が2人いるという奇跡なの。
だから、これからも逞しく生きていってちょうだい。
どんな困難な状況にある時にでも、お母さんは、あなたがそこから這い上がっていく様子をずっと見守っています。
大丈夫! 伊達にあなたのこと、柔に育てていないもの。
あら、そろそろ時間みたい……。
ほら、お父様もいらしてくれたわよ。
「お父さん?」
時空の潮流から、ふっと大柄な男性が姿を現した。
「デルフィーヌ。成人、おめでとう。美しくなったね」
「……お父さん?」
「あぁ、そうだ。会いたかったよ、デルフィーヌ」
父は私を軽々と抱き上げると、幼子にするようにギューッと抱きしめてくれた。
「我が子というのは、こんなにも愛おしいものなんだね」
父はそう言うと、私のことが可愛くて仕方ないといったふうに、何度も頬にキスをしてくれた。
はじめて会う父は、初めての感じが全然しなかった。だって――。
「君のお義兄さんに伝えてもらえるかな? これまで散々ヤンチャしてきたんだから、これからは奥さんを大事にするように、とね」
父は私にそう言うと、お茶目にウインクをした。
「じゃあね、デルフィーヌ」
父は母の肩を抱くと、2人して再び時空の潮流の中へと消えていった。
――ポツン――
あれ? 私、ひとり残されちゃった?
どうしたらいいんだろう。そう思っていたら、一人の青年が姿を現した。
「リ……レオナルド殿下?」
「ははっ。よく分かったね、デルフィーヌ嬢。会えて嬉しいよ」
10歳で亡くなったはずのレオナルド殿下は、リシャール殿下によく似た青年に成長していた。でも、殿下と同じロイヤルブルーの瞳に黄金の差し色はなかった。
アース・アイじゃ、ないんだ……。
レオナルド殿下は、想像していた王子様よりずっと砕けた話し方をする人だった。
「僕の描いた水彩画、見てくれた? あの”爆発寸前”みたいな顔をしたやつ。
あの日さ、僕の望みを叶えるために庶民街へ行ったリシャールが帰ってくるなりこう言ったんだ。『おもしろい女の子に会った』って。『いつか再会して借りを返さないといけない』って言うから、その子のことを忘れないように僕が似顔絵を描くことにしたんだ。
リシャールが話す君の特徴をもとに、いろんなパターンの絵を描いたんだよ? もっと可愛く描けたものもあったのに、兄があれを一番気に入ったんだ。
そしたらさ、びっくりしちゃったよ。君が馬車の中で兄にキスしたときの顔、あの絵とおんなじだったから。
え? 見てたのかって?
もちろん。兄のことは、いつだって空から見守っている」
嘘でしょ!?
だって、殿下ってば、さくらんぼの種飛ばし競争をしてる私の絵を見て『俺にはそんなヘン顔、絶対に無理だ』って言ったのよ?
人生初のキスをしたときの顔を、ヘン顔って表現される私って。
女として、終わってない!?
ショックで立ち竦んでいると、ヒラヒラと一枚の紙が降って来て、レオナルド殿下の手のひらにスッと落ちた。
「ふーん、残念。デルフィーヌ、君は不合格だ」
「え?」
「僕はね、冥界の王に仕えているんだ。現世での課題を全くクリアできていない人間を、あちらの世界へ送り返すのが今の僕の役割なんだけど――」
今の、聞き間違えかしら。
『課題を全くクリアできていない』ですって?
首席の座をぶっちぎりでキープしてきたこの私が、『不合格』ですって!?
「落第点が2つあんだよね。ひとつはダンス、もうひとつはロマンス――ねえ、聞いてる?」
今ひとつ納得できない。ダンスって、そんなに重要!?
「君の場合は、大事なんだよねぇ~。ってわけだから、こっちの世界に来るのは2つの課題をクリアしてからだね。そういうわけだから、送り返すよー」
レオナルド殿下は軽い口調でそう言うと、「神の祝福を」と私の額にキスをした。
チュッ。
その時不意に、リシャール殿下の声が聞こえた気がした。
「―――ヌ」
「―――フィーヌ」
「デルフィーヌ。君に、伝えたいことがある。聞こえるか? デルフィーヌ?」
「リシャール様?」
彼の名を口にした瞬間、ものすごい勢いで時空の切れ目へと身体が吸い込まれていった。
「デルフィーヌには、幸せになってほしいんです。籠の中の鳥になんて、させられません」
「だったら――リシャール第一王子、彼の婚約者にデルフィーヌを推薦するというのはどうかしら? さすがに陛下も息子の婚約者に手をつけたりはしないでしょう?」
「リシャール王子は王位継承順位が第一位の御方だ。その婚約者が侯爵家の養子というのは……」
「母親はアクロティア皇族の末裔よ? 平民との間にできた庶子とは全くレベルが違うわ。でも、そうね。私たちが推薦したとなると、あの2人がどう出てくるか分からない。特にブリジット。彼女、デルフィーヌと同じ年の娘がいるのよ」
「ブリジット夫人もカロリーヌ妃も、マグダレーナが出産したことすら知らないはずだ。デルフィーヌを見たところでマグダレーナの娘だとは分からないだろう?」
「あの容姿よ? すぐにピンとくるわ。女の勘は鋭いんだから」
「だったら、他薦という手はどうだろう?」
「そうね。マグダレーナ様、デルフィーヌは学業の方はどうなのでしょう?」
「要領は良い方だと思いますが、特別なことは何も……」
「入学までまだ5年あるわ。まず入学試験で1位を取り、学年首位を維持しつつ妃選びが始まったタイミングで学院長から推薦してもらう、というのはどうかしら?」
「学院長から?」
「貴族学院の代表理事は王族が務める習わしなの。成績優秀者が妃候補になるのは自然なことだわ」
「名案だね。それに、次期学院長には彼がなるはずだ」
「……」
「マグダレーナ? どうかしたのかい?」
「実は……。あの子、リシャール殿下と面識があるんです。先月解決された子どもの連続誘拐事件。殿下を救って、児童売買をしていた組織の認識阻害魔法を解いたのが、あの子なんです。お互い身分は明かさなかったようですが……」
「なんだって!? それに、魔法を解いたって、まさか――」
「あの子は、帝国皇族の魔力無効の力を受け継いでいます」
「なんと……」
「秘匿にすべきだろうね、その力は」
「はい。本人にも、強くそう言い聞かせています」
「力を悪用しようと近寄ってくる輩から守らないといけないわね」
「13になったらギュスターヴ様の知り合いの元へ預けて、身を守る術を覚えさせようかと考えていました」
「たしかに、実践で鍛えるのが一番なんでしょうけど。デルフィーヌ、運動神経はからっきしなのでしょう?」
「はい。薬師としての心得はありますが、運動神経は父親に似なかったみたいで」
「それは後々、考えていきましょう。殿下とは運命の再会って感じになる可能性もあるけれど、それは成長した2人が決めることだから、運命に任せるしかないわね」
こんな秘密の会合を経て、あなたのことを4人で見守りながら育てていくことにしたの。宰相様は、一足早く神の世界に旅立ってしまわれたけれど、その意思は息子のダヴィッド様が継いでくださった。
それに、貴族学院の学院長。
彼こそが、私とギュスターヴ様の結婚式を取り仕切ってくれた御方なの。
本当に、多くの人がデルフィーヌの成長を見守ってくれたのよ。
デルフィーヌ。
あなたは望まれて産まれてきたの。
人から見たら、不幸な出自かもしれない。でもね、あなたの人生の祝福は、母親が2人いるという奇跡なの。
だから、これからも逞しく生きていってちょうだい。
どんな困難な状況にある時にでも、お母さんは、あなたがそこから這い上がっていく様子をずっと見守っています。
大丈夫! 伊達にあなたのこと、柔に育てていないもの。
あら、そろそろ時間みたい……。
ほら、お父様もいらしてくれたわよ。
「お父さん?」
時空の潮流から、ふっと大柄な男性が姿を現した。
「デルフィーヌ。成人、おめでとう。美しくなったね」
「……お父さん?」
「あぁ、そうだ。会いたかったよ、デルフィーヌ」
父は私を軽々と抱き上げると、幼子にするようにギューッと抱きしめてくれた。
「我が子というのは、こんなにも愛おしいものなんだね」
父はそう言うと、私のことが可愛くて仕方ないといったふうに、何度も頬にキスをしてくれた。
はじめて会う父は、初めての感じが全然しなかった。だって――。
「君のお義兄さんに伝えてもらえるかな? これまで散々ヤンチャしてきたんだから、これからは奥さんを大事にするように、とね」
父は私にそう言うと、お茶目にウインクをした。
「じゃあね、デルフィーヌ」
父は母の肩を抱くと、2人して再び時空の潮流の中へと消えていった。
――ポツン――
あれ? 私、ひとり残されちゃった?
どうしたらいいんだろう。そう思っていたら、一人の青年が姿を現した。
「リ……レオナルド殿下?」
「ははっ。よく分かったね、デルフィーヌ嬢。会えて嬉しいよ」
10歳で亡くなったはずのレオナルド殿下は、リシャール殿下によく似た青年に成長していた。でも、殿下と同じロイヤルブルーの瞳に黄金の差し色はなかった。
アース・アイじゃ、ないんだ……。
レオナルド殿下は、想像していた王子様よりずっと砕けた話し方をする人だった。
「僕の描いた水彩画、見てくれた? あの”爆発寸前”みたいな顔をしたやつ。
あの日さ、僕の望みを叶えるために庶民街へ行ったリシャールが帰ってくるなりこう言ったんだ。『おもしろい女の子に会った』って。『いつか再会して借りを返さないといけない』って言うから、その子のことを忘れないように僕が似顔絵を描くことにしたんだ。
リシャールが話す君の特徴をもとに、いろんなパターンの絵を描いたんだよ? もっと可愛く描けたものもあったのに、兄があれを一番気に入ったんだ。
そしたらさ、びっくりしちゃったよ。君が馬車の中で兄にキスしたときの顔、あの絵とおんなじだったから。
え? 見てたのかって?
もちろん。兄のことは、いつだって空から見守っている」
嘘でしょ!?
だって、殿下ってば、さくらんぼの種飛ばし競争をしてる私の絵を見て『俺にはそんなヘン顔、絶対に無理だ』って言ったのよ?
人生初のキスをしたときの顔を、ヘン顔って表現される私って。
女として、終わってない!?
ショックで立ち竦んでいると、ヒラヒラと一枚の紙が降って来て、レオナルド殿下の手のひらにスッと落ちた。
「ふーん、残念。デルフィーヌ、君は不合格だ」
「え?」
「僕はね、冥界の王に仕えているんだ。現世での課題を全くクリアできていない人間を、あちらの世界へ送り返すのが今の僕の役割なんだけど――」
今の、聞き間違えかしら。
『課題を全くクリアできていない』ですって?
首席の座をぶっちぎりでキープしてきたこの私が、『不合格』ですって!?
「落第点が2つあんだよね。ひとつはダンス、もうひとつはロマンス――ねえ、聞いてる?」
今ひとつ納得できない。ダンスって、そんなに重要!?
「君の場合は、大事なんだよねぇ~。ってわけだから、こっちの世界に来るのは2つの課題をクリアしてからだね。そういうわけだから、送り返すよー」
レオナルド殿下は軽い口調でそう言うと、「神の祝福を」と私の額にキスをした。
チュッ。
その時不意に、リシャール殿下の声が聞こえた気がした。
「―――ヌ」
「―――フィーヌ」
「デルフィーヌ。君に、伝えたいことがある。聞こえるか? デルフィーヌ?」
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