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「ざまぁ」への道?
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「〈シナリオ〉とか言っていても実は台本は存在しないかもよぉ~。
お題の決まった即興劇を演じてるって方が近いってことはないかしら?」
塔のレストランでレイアは言った。
「婚約破棄だと言われた〈悪役令嬢〉は〈ヒロイン〉を虐めたと断罪されます。
虐めの内容はノートを破いたり服を破いたり階段から突き落としたり、です」
「その後〈悪役令嬢〉が地下牢に入れられ処刑または国外追放になるパターン、
虐めは実は〈ヒロイン〉の捏造だったとバレて〈ヒロイン〉の方が罪に問われるパターンがあります」
「ローズマリーさん、アリスさんたちは、王子様と〈ヒロイン〉が〈悪役令嬢〉を糾弾することを警戒して対策を練ると予想しています」
さらに、こうも言った。
「断罪による処罰を回避したい〈悪役令嬢〉は自分の無実を証明するために事前に手を打つことが多いです。虐め現場の不在証明に加え、〈ヒロイン〉が虐めを捏造している証拠を確保できれば幸いです。していないことの証明の難しさは一挙に解決し、〈ヒロイン〉——というより〈ヒドイン〉——を〈ざまぁ〉できます」
ではローズマリーたちは具体的にどのような行動を起こすのか、自分が彼女たちの立場だったらどう行動するだろうかと考え始めた四人は、そもそも捏造しようにも何も学園内での他人の私物の破損や他人への肉体的な暴力はほぼ不可能ではないかと、まずそこから頭をひねることとなった。
ノートや教科書を破く、ドレスを切り裂く、突き飛ばして噴水に落とす、階段から突き落とす等々、パーティーで〈悪役令嬢〉が糾弾されるという行為の数々は、それらの主な情報源であるアリスをも交えた集まりで、「あり得ない」と散々否定されたという。
——タブレットにしろ筆記具にしろ教室に無造作に放置とはどういう状況だ?
——羊皮紙の本を教材にする講座や羊皮紙に書き込む実習はあるにはあるが、自分の机に入れっぱなしにしていて盗まれる? 「自分の机」とは何のことだ?
——学園内で着用の衣装は素人が簡単に破損・汚損できるほどヤワではないぞ。
——他人の目も監視カメラやドローンの目もくぐり抜けて暴力行為かあ。
——目撃者がいなかった場合、名乗りでなかった場合は監視AI頼みだけど、そのチェックもすり抜ける巧妙な不正行為?
——王子の立場ならば特に、システムの脆弱性は学園に即刻報告しなくちゃいけないよなあ。学園主導の処分はパーティーまで待てと命令して、パーティーでいきなり〈悪役令嬢〉を自ら裁く? 色んな意味で無理無理。
それを踏まえてローズマリーやアリスたちは、〈ヒドイン〉が〈悪役令嬢〉に仕掛けてくる冤罪はどのようなものだと予想して網を張るのか。
「考えたくはないのですけれど、ローズマリーさんたちが楽をしたいのならば、〈ヒドイン〉は虐めを自作自演できる、王子は学園内で強権発動できる、だから無実の罪を着せられて処分されないか不安だと、あらかじめ騒いでみるのも悪い手ではないような気がします。こちらにとっては完全否定が難しいのが厄介です」
「こちらが冤罪をかけられる側になる訳ですね。なるほど僕とレイアさん、二人の力を合わせれば大抵のことができてしまうのが仇になる」
「いや、それならばいっそ本当に……」とジュールの考えが良からぬ方向にいきそうになったため、その場での話は打ち切られることになったのだが。
レイアは、マイルームの一壁面に紙でできた壁紙を貼る作業をしているロボットの動きをぼんやりと見つめていた。壁の一面だけとはいえ壁面全部を反射型の壁面ディスプレイから本物の紙に切り替えるなんて、粋狂だと言われても仕方ないかもと考えるかたわら、予言の自己成就について問い合わせた元同僚の言葉を思い出していた。
様々に分岐する未来を予知して、マルチエンディングの〈シナリオ〉の形で脳内に保存しているみたいにも聞こえるけれど、〈シナリオ〉の内容は結局は小出しにしかされないし、分岐を考慮しても予言の内容は一貫していないし的中率も高くないが、予言者本人は自信ありげに〈シナリオ〉を持ち出してくる——といったことを相談すると、彼女はこう言った。
「〈シナリオ〉とか言っていても実は台本は存在しないかもよぉ~。
お題の決まった即興劇を演じてるって方が近いってことはないかしら?」
アリスの脳内に膨大な分岐を含む分厚い台本など存在しないとするならば、台本の全貌がぜひ知りたいものだ、効果的に引き出す方法はないものかと思うだけ無駄となる。
台本ではなく設定だとしても全容を把握するのは容易ではないボリュームかとも思われるし、加えて即興で演じられる劇ならば、もしも設定を全部知っていたとしても結末は誰にもわからない。
(お題として提供される設定に則って主要人物がアドリブで役を演じるのを期待している? ローズマリーさんに〈悪役令嬢〉の役を割り振っているのは他ならぬアリスさん? アリスさんの望む結末は〈悪役令嬢〉のハッピーエンド——は良いとして、そこに至るのに必要なのは〈ヒロイン〉のバッドエンド? 〈ヒドイン〉への〈ざまぁ〉?)
レイアは超能力を使ってローズマリーとアリスの会話を盗み聞きしたくなる誘惑に一瞬かられたが、すぐにそれに打ち勝った。
ジュールたちに「できるのですか?」と尋ねられて「できるけど、できません」「相手に無断で盗聴器を設置するのと似たようなものです」と答えたことがある。
(法的にまずいだけでなく倫理的にも自分自身抵抗が強いし、自分が〈ざまぁ〉される可能性の高い道を一直線に進むなんてとんでもない)
そのためレイアは、ちょうどそのときローズマリーとアリスが交わしていた会話を知ることはなかった。
「あのね、アリス。
学園のお友達に聞いたんだけど、ラン塔ってあるでしょ、中世ヨーロッパ料理のお店がたくさん入っている——あの塔にあるレストランで、殿下とレイアさんが仲良くお食事していたんですって……」
「それは酷い浮気者ですねっ。あれ、でもぉ、学園の外なのに一緒にお食事って許されるんですかぁ、身分的に?」
「二人きりではなくてイザーク様と男性がお一人いらっしゃって全部で四人だったそうよ。男性がどなたかはわからなかったけれど、ウィリアムではないことは確かなのですって」
「どこの誰なのか気になりますぅ。美形ならば〈攻略対象〉の可能性もあるかも」
お題の決まった即興劇を演じてるって方が近いってことはないかしら?」
塔のレストランでレイアは言った。
「婚約破棄だと言われた〈悪役令嬢〉は〈ヒロイン〉を虐めたと断罪されます。
虐めの内容はノートを破いたり服を破いたり階段から突き落としたり、です」
「その後〈悪役令嬢〉が地下牢に入れられ処刑または国外追放になるパターン、
虐めは実は〈ヒロイン〉の捏造だったとバレて〈ヒロイン〉の方が罪に問われるパターンがあります」
「ローズマリーさん、アリスさんたちは、王子様と〈ヒロイン〉が〈悪役令嬢〉を糾弾することを警戒して対策を練ると予想しています」
さらに、こうも言った。
「断罪による処罰を回避したい〈悪役令嬢〉は自分の無実を証明するために事前に手を打つことが多いです。虐め現場の不在証明に加え、〈ヒロイン〉が虐めを捏造している証拠を確保できれば幸いです。していないことの証明の難しさは一挙に解決し、〈ヒロイン〉——というより〈ヒドイン〉——を〈ざまぁ〉できます」
ではローズマリーたちは具体的にどのような行動を起こすのか、自分が彼女たちの立場だったらどう行動するだろうかと考え始めた四人は、そもそも捏造しようにも何も学園内での他人の私物の破損や他人への肉体的な暴力はほぼ不可能ではないかと、まずそこから頭をひねることとなった。
ノートや教科書を破く、ドレスを切り裂く、突き飛ばして噴水に落とす、階段から突き落とす等々、パーティーで〈悪役令嬢〉が糾弾されるという行為の数々は、それらの主な情報源であるアリスをも交えた集まりで、「あり得ない」と散々否定されたという。
——タブレットにしろ筆記具にしろ教室に無造作に放置とはどういう状況だ?
——羊皮紙の本を教材にする講座や羊皮紙に書き込む実習はあるにはあるが、自分の机に入れっぱなしにしていて盗まれる? 「自分の机」とは何のことだ?
——学園内で着用の衣装は素人が簡単に破損・汚損できるほどヤワではないぞ。
——他人の目も監視カメラやドローンの目もくぐり抜けて暴力行為かあ。
——目撃者がいなかった場合、名乗りでなかった場合は監視AI頼みだけど、そのチェックもすり抜ける巧妙な不正行為?
——王子の立場ならば特に、システムの脆弱性は学園に即刻報告しなくちゃいけないよなあ。学園主導の処分はパーティーまで待てと命令して、パーティーでいきなり〈悪役令嬢〉を自ら裁く? 色んな意味で無理無理。
それを踏まえてローズマリーやアリスたちは、〈ヒドイン〉が〈悪役令嬢〉に仕掛けてくる冤罪はどのようなものだと予想して網を張るのか。
「考えたくはないのですけれど、ローズマリーさんたちが楽をしたいのならば、〈ヒドイン〉は虐めを自作自演できる、王子は学園内で強権発動できる、だから無実の罪を着せられて処分されないか不安だと、あらかじめ騒いでみるのも悪い手ではないような気がします。こちらにとっては完全否定が難しいのが厄介です」
「こちらが冤罪をかけられる側になる訳ですね。なるほど僕とレイアさん、二人の力を合わせれば大抵のことができてしまうのが仇になる」
「いや、それならばいっそ本当に……」とジュールの考えが良からぬ方向にいきそうになったため、その場での話は打ち切られることになったのだが。
レイアは、マイルームの一壁面に紙でできた壁紙を貼る作業をしているロボットの動きをぼんやりと見つめていた。壁の一面だけとはいえ壁面全部を反射型の壁面ディスプレイから本物の紙に切り替えるなんて、粋狂だと言われても仕方ないかもと考えるかたわら、予言の自己成就について問い合わせた元同僚の言葉を思い出していた。
様々に分岐する未来を予知して、マルチエンディングの〈シナリオ〉の形で脳内に保存しているみたいにも聞こえるけれど、〈シナリオ〉の内容は結局は小出しにしかされないし、分岐を考慮しても予言の内容は一貫していないし的中率も高くないが、予言者本人は自信ありげに〈シナリオ〉を持ち出してくる——といったことを相談すると、彼女はこう言った。
「〈シナリオ〉とか言っていても実は台本は存在しないかもよぉ~。
お題の決まった即興劇を演じてるって方が近いってことはないかしら?」
アリスの脳内に膨大な分岐を含む分厚い台本など存在しないとするならば、台本の全貌がぜひ知りたいものだ、効果的に引き出す方法はないものかと思うだけ無駄となる。
台本ではなく設定だとしても全容を把握するのは容易ではないボリュームかとも思われるし、加えて即興で演じられる劇ならば、もしも設定を全部知っていたとしても結末は誰にもわからない。
(お題として提供される設定に則って主要人物がアドリブで役を演じるのを期待している? ローズマリーさんに〈悪役令嬢〉の役を割り振っているのは他ならぬアリスさん? アリスさんの望む結末は〈悪役令嬢〉のハッピーエンド——は良いとして、そこに至るのに必要なのは〈ヒロイン〉のバッドエンド? 〈ヒドイン〉への〈ざまぁ〉?)
レイアは超能力を使ってローズマリーとアリスの会話を盗み聞きしたくなる誘惑に一瞬かられたが、すぐにそれに打ち勝った。
ジュールたちに「できるのですか?」と尋ねられて「できるけど、できません」「相手に無断で盗聴器を設置するのと似たようなものです」と答えたことがある。
(法的にまずいだけでなく倫理的にも自分自身抵抗が強いし、自分が〈ざまぁ〉される可能性の高い道を一直線に進むなんてとんでもない)
そのためレイアは、ちょうどそのときローズマリーとアリスが交わしていた会話を知ることはなかった。
「あのね、アリス。
学園のお友達に聞いたんだけど、ラン塔ってあるでしょ、中世ヨーロッパ料理のお店がたくさん入っている——あの塔にあるレストランで、殿下とレイアさんが仲良くお食事していたんですって……」
「それは酷い浮気者ですねっ。あれ、でもぉ、学園の外なのに一緒にお食事って許されるんですかぁ、身分的に?」
「二人きりではなくてイザーク様と男性がお一人いらっしゃって全部で四人だったそうよ。男性がどなたかはわからなかったけれど、ウィリアムではないことは確かなのですって」
「どこの誰なのか気になりますぅ。美形ならば〈攻略対象〉の可能性もあるかも」
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