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それから
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その日、志津や浜の呼び込みの声はいつも以上の張りがあったように感じられた。その声を聞きながら、高弥は平次と共に料理をする。それは心から楽しいと、仕合せだと思える時であった。
「平次さん、鯖の船場煮、できやした。そっちの芋茎の皮は剥けやしたか」
「もうちっとで終わるぜ」
「じゃあ、次は茄子の志ぎ焼きをお願いしやす」
「おお、味噌は合わせてあんのか」
「へいっ」
忙しくも満たされている。
高弥はそれから一段落つくと帳場に出た。今日の客の数を訊こうと思ったのだ。
すると、帳場格子の中で元助が愛用の煙管を咥え、プカリと煙草をふかしながら帳面を開いていた。それは見飽きた、いつもの光景である。それが見られなかった数日がおかしかっただけなのだ。
やはり、元助にはそこにいてもらわなければ。
これで元通りだと、高弥は心底嬉しくなって戸に張りついたままでニヤニヤと笑っていた。それを元助が察知し、鋭く睨んでいた。
「ヘラヘラしてんじゃねぇよ。働け」
「へい」
あれが元助の照れ隠しだと思うと、そんな怖い顔をしても駄目だ。笑ってしまう。
「元助さん、今日のお膳はいくつ用意したらいいで」
「八つだ」
「わかりやした」
客がすでに休んだ頃、皆で夕餉を食べる。
いつもの顔ぶれに、ただそれだけで高弥は嬉しくなった。ていも正直なもので今日はしっかりと食べた。心なし顔色もいい。元助も少し痩せてしまったので、またもとに戻さねば。
浜はきゃっきゃと楽しげに食べている。最初はどうなることかと思ったが、来てくれてよかったと今では皆が思っているのではないだろうか。浜がいると場が明るくなる。
平次も恥ずかしいところをすでに見られたせいか、浜にはすっかり打ち解けていた。志津も慕ってくれると嬉しいようだ。
去った彦佐もいつか、こんなふうに誰かと楽しく飯を食べられるようになればいい。
それは何も特別なことではない。
自分自身がそれを望み、求めればいつかはどこかの輪の中にいる。彦佐が己の心に正直に向き合えば、そこに孤独はないのではないだろうか。
今はまだ暗い道を歩いている最中かもしれない。けれど、それは必要な道のりなのだ。
光を当てられたばかりでは、光のありがたみもわからないのだから。
誰もがそうした思いをして生きている。
だからこそ、いつかまた彦佐に会う時は、今回のことは忘れて、新たに初めて会うかのような心地で会いたいと思えた。
●
彦佐が去り、十日が経とうかとしていた。
そんな頃になるとすっかり、何もかもが元通りで、高弥もすっかり忘れてしまっていた。それをていのひと言が呼び覚ます。
「なんだか色々あって、お志津の嫁ぎ先を探すのが延び延びになっちまったね。ごめんよ、お志津。これからちゃんと探すからね」
その時、朝餉の味噌汁を啜っていた高弥は、危うく味噌汁を噴き出すところであった。それをなんとかして飲み込むと、恐る恐る志津を見た。
志津は顔を赤くしてゆるくかぶりを振った。
「いえ、わたしのことはいいんです」
「お浜がもうちょっと慣れてからじゃないと無理だけど、約束だけは取りつけておかないとね」
一難去ってまた一難というところだろうか。
どうしたものなのだろうか。ここは志津の仕合せを願って、すっぱりと諦めるべきなのだろうか。
けれどそれは、高弥自身が志津を仕合せにできないと逃げているともいえるのではないだろうか。
諦めるのは本当に志津のためなのか、それとも高弥自身のためなのか。
――そうかもしれない。
己のために逃げようとしている。
思う相手から拒まれるのはつらいから、余計なことは言えない。
けれど、そうして嫁に行く志津を見送った時、高弥はなんの後悔もしないでいられるだろうか。
もし、ほんの少しでも悔いが残るとわかっているのなら、言うべきことがあるはずだ。
高弥は朝餉の飯を噛み締めながら考えた。
こんな時、高弥は自らの両親のことを考えた。
父は母に想いを告げる時にどんな言葉を使ったのだろう。あの口下手な父が、若い娘が喜ぶような気の利いたことが言えたとは思えないけれど、きっとそれでも不器用ながらにも必死で気持ちを伝えたのではないか。
背も低く、幼く見られる、そんな高弥が恰好をつけたところで滑稽なだけだ。
それなら、素直な言葉で伝えるしかない。
井戸端で水を汲み終え、初秋の晴れた空をなんとなく見上げていると、いつの間にやら目の前に志津がいた。
「高弥さん、どうしたの。そんなにじっと見て、空に何か浮かんでいるのかしら」
志津のことを考えていた、などとは急に言えない。
「や、な、な、何もっ」
舌を噛みそうなくらいに慌てた。志津はきょとんとして首を傾げる。そんな仕草も綺麗だった。
志津は高弥の隣にしゃがむと、一緒になって空を見上げた。高弥はドキドキと胸が鳴るのを抑えきれずにいる。
「空が青くって綺麗ね。このところはそんなの眺めているゆとりもなかったもの」
穏やかな顔をして空を見上げる志津の横顔に、高弥は切ないような気持ちが募って、溢れ出て、自然に口を開いた。
「あの、お志津さん。今度の藪入りの時、板橋のうちの宿へ来てみやせんか」
えっ、と志津が声を出して振り返った。高弥はその時になって自分が口走ったことを後悔したのだけれど、一度口に出してしまった以上はもう取り消せない。下腹にグッと力を込めてうなずいた。
「一度来てほしいんで」
すると、志津はパッと顔を明るくした。
「ああ、藤助さんに会いにね」
それを言われるとは思わなかった。予想に反した答えに、高弥は小さく呻きながら、しどろもどろに言う。
「と、藤助も藪入りで実家に帰っていて、いねぇんじゃねぇかと」
「じゃあ、なんで」
志津はあっさりと訊ねてくる。
高弥は自分のうるさく鳴る胸を拳で叩き、精一杯落ち着いた顔をしようとしたけれど、多分失敗している。そんなゆとりはどこにもなかったのだから。
「お、おれが生まれて、これから守っていかなきゃならねぇ場所だから、お志津さんに見せてぇって思っただけでござんす。それから、おれの家族にも会わせてぇなって」
それが何を意味するのか、志津はわかってくれただろうか。
目を瞬かせ、唇を僅かに開いた。その口から言葉が零れるよりも先に、高弥は立ち上がる。
「返事は、次の藪入りの前でいいんでっ」
逃げるように立ち去った。事実、逃げた。今すぐに返事は聞けない。心の臓が持ちそうになかったのだ。
ただ――
立ち去る間際、目の端に入った志津の顔は、頬を紅色に染めて、不快そうではなかったかもしれない。それだけが救いである。
高弥は雑念だらけの頭を振り、台所に戻った。
「どうした、高弥」
平次の目にも様子がおかしく見えるのだろうか。高弥は閉めた戸に張りつきながらもつぶやく。
「い、いえ、今日の献立は何にしようかなって」
それは苦しい言い訳に聞こえただろうか――
〇
「ねえ、元助」
ていは帳場に座る元助の隣に膝を突いた。
「なんでしょう」
元助は目つきを和らげてていに顔を向けた。ていはそんな元助ににこりと笑う。
「お志津がね、嫁入り先を探すのは待ってくれって言うんだよ」
「待てって、そのうち年増になっちまうでしょうに」
今ならばどこでも喜んでもらってくれるだろう。けれど、年が行けばそうはいかない。行き遅れないうちに世話をしてやった方がいいとは思うけれど。
しかし、志津が嫁入りに乗り気ではないという話をしているにしては、ていの顔が明るかった。ていも志津がいなくなると寂しいということだろうか。
ていはフフ、と声を立てた。
「あの子も誰かいい人がいるのかもしれないよ」
「――お志津にですかい」
そう言われてもぴんと来ない。志津は見目はよいが、色恋に興味があるようには見えないのだ。好いた男がいれば、もう少し色気があってもよさそうなものだが。
それでも、ていは優しく微笑んでいる。
「開きかけの蕾みたいなものかしらねぇ」
「そいつは、まぁ――」
おかしな男に引っかかりそうならば止めてやった方がいいのかもしれないが、そうでもないのなら好きにしたらいい。ろくでもない男に惚れるほど莫迦な娘ではないはずだ。
一体どんな男に惚れたのか、その蕾が花咲く時には知れるだろう。
「ねえ、元助」
「なんでしょう」
「元助も所帯を持ちたくなったら言っておくれよ。住み込みじゃあなくて通いだって、来てくれるならいいんだ」
ていなりに気を遣ってくれているらしい。元助は苦笑してしまった。
「そんな気になったらでいい話でございやす。今のところ、そんな気はありやせん」
元助は、父なし子であった。母は男を狭い長屋に引き込んではよく元助を外へ出した。元助にはいつも居場所がなく、十を超えた頃にはあちこちを転々として生きてきた。それはあまり褒められた生き様ではなかった。
そんな元助がようやくここに安住の地を見つけたのである。
家族の縁が薄い元助が人に囲まれ、家族のような人々と暮らした。ここよりも居心地のよい場所は、正直なところない。
本当はそれを、嫌というほど知っていて、身に染みている。
「そうなのかい。でも、元助がいてくれて嬉しいよ。連れ戻してくれた高弥にも感謝しなくっちゃね」
「――あいつは蛸よりしつけぇんで、まとわりつかれてほとほと困りやした」
「ははっ、元助ったら」
ていの笑顔に、元助もかすかに口元を緩めた。
その時、台所から騒がしい声がした。
「あぁっ、高弥、鰹節が切れてるの忘れてたっ」
「おれ、ひとっ走り行ってきやすっ」
そんな声を聞き、ていと元助は顔を見合わせて笑った。
〈 それから ―了― 〉
「平次さん、鯖の船場煮、できやした。そっちの芋茎の皮は剥けやしたか」
「もうちっとで終わるぜ」
「じゃあ、次は茄子の志ぎ焼きをお願いしやす」
「おお、味噌は合わせてあんのか」
「へいっ」
忙しくも満たされている。
高弥はそれから一段落つくと帳場に出た。今日の客の数を訊こうと思ったのだ。
すると、帳場格子の中で元助が愛用の煙管を咥え、プカリと煙草をふかしながら帳面を開いていた。それは見飽きた、いつもの光景である。それが見られなかった数日がおかしかっただけなのだ。
やはり、元助にはそこにいてもらわなければ。
これで元通りだと、高弥は心底嬉しくなって戸に張りついたままでニヤニヤと笑っていた。それを元助が察知し、鋭く睨んでいた。
「ヘラヘラしてんじゃねぇよ。働け」
「へい」
あれが元助の照れ隠しだと思うと、そんな怖い顔をしても駄目だ。笑ってしまう。
「元助さん、今日のお膳はいくつ用意したらいいで」
「八つだ」
「わかりやした」
客がすでに休んだ頃、皆で夕餉を食べる。
いつもの顔ぶれに、ただそれだけで高弥は嬉しくなった。ていも正直なもので今日はしっかりと食べた。心なし顔色もいい。元助も少し痩せてしまったので、またもとに戻さねば。
浜はきゃっきゃと楽しげに食べている。最初はどうなることかと思ったが、来てくれてよかったと今では皆が思っているのではないだろうか。浜がいると場が明るくなる。
平次も恥ずかしいところをすでに見られたせいか、浜にはすっかり打ち解けていた。志津も慕ってくれると嬉しいようだ。
去った彦佐もいつか、こんなふうに誰かと楽しく飯を食べられるようになればいい。
それは何も特別なことではない。
自分自身がそれを望み、求めればいつかはどこかの輪の中にいる。彦佐が己の心に正直に向き合えば、そこに孤独はないのではないだろうか。
今はまだ暗い道を歩いている最中かもしれない。けれど、それは必要な道のりなのだ。
光を当てられたばかりでは、光のありがたみもわからないのだから。
誰もがそうした思いをして生きている。
だからこそ、いつかまた彦佐に会う時は、今回のことは忘れて、新たに初めて会うかのような心地で会いたいと思えた。
●
彦佐が去り、十日が経とうかとしていた。
そんな頃になるとすっかり、何もかもが元通りで、高弥もすっかり忘れてしまっていた。それをていのひと言が呼び覚ます。
「なんだか色々あって、お志津の嫁ぎ先を探すのが延び延びになっちまったね。ごめんよ、お志津。これからちゃんと探すからね」
その時、朝餉の味噌汁を啜っていた高弥は、危うく味噌汁を噴き出すところであった。それをなんとかして飲み込むと、恐る恐る志津を見た。
志津は顔を赤くしてゆるくかぶりを振った。
「いえ、わたしのことはいいんです」
「お浜がもうちょっと慣れてからじゃないと無理だけど、約束だけは取りつけておかないとね」
一難去ってまた一難というところだろうか。
どうしたものなのだろうか。ここは志津の仕合せを願って、すっぱりと諦めるべきなのだろうか。
けれどそれは、高弥自身が志津を仕合せにできないと逃げているともいえるのではないだろうか。
諦めるのは本当に志津のためなのか、それとも高弥自身のためなのか。
――そうかもしれない。
己のために逃げようとしている。
思う相手から拒まれるのはつらいから、余計なことは言えない。
けれど、そうして嫁に行く志津を見送った時、高弥はなんの後悔もしないでいられるだろうか。
もし、ほんの少しでも悔いが残るとわかっているのなら、言うべきことがあるはずだ。
高弥は朝餉の飯を噛み締めながら考えた。
こんな時、高弥は自らの両親のことを考えた。
父は母に想いを告げる時にどんな言葉を使ったのだろう。あの口下手な父が、若い娘が喜ぶような気の利いたことが言えたとは思えないけれど、きっとそれでも不器用ながらにも必死で気持ちを伝えたのではないか。
背も低く、幼く見られる、そんな高弥が恰好をつけたところで滑稽なだけだ。
それなら、素直な言葉で伝えるしかない。
井戸端で水を汲み終え、初秋の晴れた空をなんとなく見上げていると、いつの間にやら目の前に志津がいた。
「高弥さん、どうしたの。そんなにじっと見て、空に何か浮かんでいるのかしら」
志津のことを考えていた、などとは急に言えない。
「や、な、な、何もっ」
舌を噛みそうなくらいに慌てた。志津はきょとんとして首を傾げる。そんな仕草も綺麗だった。
志津は高弥の隣にしゃがむと、一緒になって空を見上げた。高弥はドキドキと胸が鳴るのを抑えきれずにいる。
「空が青くって綺麗ね。このところはそんなの眺めているゆとりもなかったもの」
穏やかな顔をして空を見上げる志津の横顔に、高弥は切ないような気持ちが募って、溢れ出て、自然に口を開いた。
「あの、お志津さん。今度の藪入りの時、板橋のうちの宿へ来てみやせんか」
えっ、と志津が声を出して振り返った。高弥はその時になって自分が口走ったことを後悔したのだけれど、一度口に出してしまった以上はもう取り消せない。下腹にグッと力を込めてうなずいた。
「一度来てほしいんで」
すると、志津はパッと顔を明るくした。
「ああ、藤助さんに会いにね」
それを言われるとは思わなかった。予想に反した答えに、高弥は小さく呻きながら、しどろもどろに言う。
「と、藤助も藪入りで実家に帰っていて、いねぇんじゃねぇかと」
「じゃあ、なんで」
志津はあっさりと訊ねてくる。
高弥は自分のうるさく鳴る胸を拳で叩き、精一杯落ち着いた顔をしようとしたけれど、多分失敗している。そんなゆとりはどこにもなかったのだから。
「お、おれが生まれて、これから守っていかなきゃならねぇ場所だから、お志津さんに見せてぇって思っただけでござんす。それから、おれの家族にも会わせてぇなって」
それが何を意味するのか、志津はわかってくれただろうか。
目を瞬かせ、唇を僅かに開いた。その口から言葉が零れるよりも先に、高弥は立ち上がる。
「返事は、次の藪入りの前でいいんでっ」
逃げるように立ち去った。事実、逃げた。今すぐに返事は聞けない。心の臓が持ちそうになかったのだ。
ただ――
立ち去る間際、目の端に入った志津の顔は、頬を紅色に染めて、不快そうではなかったかもしれない。それだけが救いである。
高弥は雑念だらけの頭を振り、台所に戻った。
「どうした、高弥」
平次の目にも様子がおかしく見えるのだろうか。高弥は閉めた戸に張りつきながらもつぶやく。
「い、いえ、今日の献立は何にしようかなって」
それは苦しい言い訳に聞こえただろうか――
〇
「ねえ、元助」
ていは帳場に座る元助の隣に膝を突いた。
「なんでしょう」
元助は目つきを和らげてていに顔を向けた。ていはそんな元助ににこりと笑う。
「お志津がね、嫁入り先を探すのは待ってくれって言うんだよ」
「待てって、そのうち年増になっちまうでしょうに」
今ならばどこでも喜んでもらってくれるだろう。けれど、年が行けばそうはいかない。行き遅れないうちに世話をしてやった方がいいとは思うけれど。
しかし、志津が嫁入りに乗り気ではないという話をしているにしては、ていの顔が明るかった。ていも志津がいなくなると寂しいということだろうか。
ていはフフ、と声を立てた。
「あの子も誰かいい人がいるのかもしれないよ」
「――お志津にですかい」
そう言われてもぴんと来ない。志津は見目はよいが、色恋に興味があるようには見えないのだ。好いた男がいれば、もう少し色気があってもよさそうなものだが。
それでも、ていは優しく微笑んでいる。
「開きかけの蕾みたいなものかしらねぇ」
「そいつは、まぁ――」
おかしな男に引っかかりそうならば止めてやった方がいいのかもしれないが、そうでもないのなら好きにしたらいい。ろくでもない男に惚れるほど莫迦な娘ではないはずだ。
一体どんな男に惚れたのか、その蕾が花咲く時には知れるだろう。
「ねえ、元助」
「なんでしょう」
「元助も所帯を持ちたくなったら言っておくれよ。住み込みじゃあなくて通いだって、来てくれるならいいんだ」
ていなりに気を遣ってくれているらしい。元助は苦笑してしまった。
「そんな気になったらでいい話でございやす。今のところ、そんな気はありやせん」
元助は、父なし子であった。母は男を狭い長屋に引き込んではよく元助を外へ出した。元助にはいつも居場所がなく、十を超えた頃にはあちこちを転々として生きてきた。それはあまり褒められた生き様ではなかった。
そんな元助がようやくここに安住の地を見つけたのである。
家族の縁が薄い元助が人に囲まれ、家族のような人々と暮らした。ここよりも居心地のよい場所は、正直なところない。
本当はそれを、嫌というほど知っていて、身に染みている。
「そうなのかい。でも、元助がいてくれて嬉しいよ。連れ戻してくれた高弥にも感謝しなくっちゃね」
「――あいつは蛸よりしつけぇんで、まとわりつかれてほとほと困りやした」
「ははっ、元助ったら」
ていの笑顔に、元助もかすかに口元を緩めた。
その時、台所から騒がしい声がした。
「あぁっ、高弥、鰹節が切れてるの忘れてたっ」
「おれ、ひとっ走り行ってきやすっ」
そんな声を聞き、ていと元助は顔を見合わせて笑った。
〈 それから ―了― 〉
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