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第09部 魔王たちの産声 歪

第4幕 第7蒐 神経衰弱2

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「俺は支配人に10コイン」
「俺は昨日の勝負痺れたから蒐集家殿に」
カジノの客全員がフロントで賭けを行う、支配人トラングの方に賭けている客が多い。
「昨夜のリベンジさせて頂きます」
「よろしくお願いします」
用意された長テーブルに均等に並べられた104枚、背後の巨大モニターには手元が映され客達もゲームをしつつ、モニターに釘付けだった。
「では、昨日私が勝ったので支配人さんからどうぞ」
「承知しました」
言い方にイラっとしつつトラングからゲームがスタートする、まずは適当にカードを捲る作業が互いに始まった。

「おーあーやってみるとあいつ以外と整ってんだな、昼間のあいつの顔も良かったし」
「服装に目がいきがちですが、美しい容姿といえるのでは?」
「あの人…目の色がわかんない」
「…認識阻害だな…私も解らないがこの男…何だ?何も…視えない…神々は知っているのか?」
ジラが持ち込んだソファに座りモニターを眺め笑う、ラジカも頷き晴海は首を傾げて、千眼が目を細めた。
「神々からは放っておけとだけだ」
「僕も解らないね、人でもない魔王でも魔人でもない。もしかしたらこの世界の生物ではないのかもね」
「僕達のように召喚され転移したのでしょうか?」
「異界渡りで来た可能性が高い…」
「そっちの方が可能性はあるかな…神々に聞いても答えは返ってこなさそうだしね」
「それが出来るのは異界の魔王や神クラスですね」
「すごいんだね!」
千歳の千眼の推察もあくまで推察止まり、答えは本人のみぞ知る所だろう、晴海が興味深そうにモニター越しに見ていた。

「外しました」
「1ペアで外しました」
カードを捲る音、トラングと蒐集家の声、104枚中々ペアが揃わない所を蒐集家が揃え始めていた。
「2ペアで外しました」
トラングが負けじとペアを揃えていく、互いに表情に変化はない。
「外しました」
「外しました」
カトゥーシュカが他のゲームで客の対応をしながらそんな2人を眺めながら、よくもこんな精神消耗戦を繰り広げると感心する、カトゥーシュカは分かりやすい戦いの方が良い、好きではないが肉体を使う方が健全な気がする、見ていても疲れてくる。

「1時間経過か、半分はいったようだな」
「トラング君が優勢という所かな」
「アイツに100コイン賭けたからな」
「私もです」
「どっちが勝つかなー」
「トラングさんが勝つ気がしますね」
「綴君が言うならそうなのかもね」
大河がモニターの時間を見て呟く、両者均衡を保ちながらもトラングが僅かにリードしている。
各々ゴーレムを直したり、ゲームをしたり自由に勝負の行く末を見守った。

「外しました、今夜は私の調子が悪いですね」
「そこまで差はないですから気を抜いたら抜かされそうだ」
蒐集家が笑う、残り半分弱カードは全て捲っている。
後は記憶力との勝負。
「3ペアで外しました」
「2ペアで外しました」
此処からが本番とも言える、蒐集家が揃えていく。
「調子が出始めました」
「そのようで」

「さてそろそろか」
「トラングか勝ち逃げてとこか」
「序盤で数稼ぎましたしね」
ジラが欠伸を噛み殺し勝負の決着を見届け、懐記や率も2人を労おうと思った。
「負けました」
「……」
「コインはお返しします、楽しめました」
「……」
「商業エリアで店を構えるので是非来て下さい、では」
蒐集家が立ち上がりそのままエレベーターに乗り込み、部屋へと戻っていった。
「トラング、カジノの営業は続いている」
黙り込んだトラングに仕方ないとカトゥーシュカが声を掛け、支配人としての立場を思い出させ営業を続けさせた。

「アイツ、最後に手を抜いたー」
「アイツはもう勝負しなさそうだな」
「あ~あー」
「ほら、飲むぞ。お疲れ」
髪を搔きむしり勝負の結果に納得しないトラングがあーあー
とスタッフルームで悔しがる、ジラが酒やつまみを収納から出して並べてやった。
「中々見ごたえあったな!こういう時は飲んで忘れとけ!」
「う~あ~飲む」
崇幸がトラングの肩を叩きコンビニスキルのワインを取り出し渡した、ラッパ飲みで燻製チーズを口に放り込む。
「トラング、楽しそうだったな」
「はあ?どごが」
「笑っていたじゃないか」
最近すっかり打ち解けたカトゥーシュカがジュースを飲みがら笑っている、プレイ中に無意識に笑ってようでバツが悪い。
「結局、鱗と食器は良いのかな?」
「ほしけりゃカジノに来るさ」
「腹立つから俺が交換するかな~」
「ま、いんじゃない?スタッフの遊戯は禁止にしてないし」
「蒐集家もあのダンジョンの攻略者ですから、イシュターさんの鱗が手帳にあればまたやるでしょう」
「その時堂々と勝てば良いだろ、風早、蒐集家の部屋にカウン酒とカノリ酒につまみを届けてくれ。トラングが勝った祝いだと」
『承知しました』
「なら、氷とカノリのジュースも贈って下さい。お酒飲めなかったら申し訳ないので」
『承知しました、マスター綴』
「それ、絶対喜ばないぞ。しかも勝った相手の祝いって、大河も嫌な事思いつくな」
「嫌がらせではあるからな」
「祝いの品ですから返すに返せないですよね、自分が負けたとはいえ」
「風早ちゃ~ん100年物を渡して~俺の金ね~奮発してやる」
『承知しました』
「なら、俺のコンビニからワインも出すか。運んでくれ」
トラングがニヤリと笑い崇幸がゴーレムにワインも渡す、大河も祝いと言うなで相手を困らせてみるだけだ、勝負を途中で捨てた意趣返しでもある。

「明日の礼でも用意するか」
蒐集家は部屋に戻りさっさと服を変え収納を漁る、このままでは借りが増えていくだけだ。
こんこんノックが聞こえドアに向かおうとするとドアが、勝手に開きゴーレムが3体酒とつまみを持って部屋の中に入ってくる。
「おい、勝手に入れるな」
『貴方の指示を聞く必要はありません、皆様から支配人が勝った祝いにと。カウン酒とカノリ酒とジュースとつまみです、カウン酒の100年物は支配人からです』
「プライバシーの侵害だろ?私の部屋じゃないのか、向こうが勝った祝い…嫌がらせか?わざと負けた意趣返しがこれか」
『問題ないと判断すれば入れます、この世界にその概念はありません』
「……ならクレームを付けても無駄なようだ」
『はい、どうぞ召し上がって下さい』
「……君達も食べるといい、味覚はあるんだろ?酒も飲むといい」
ゴーレム3体が互いに顔を見て蒐集家が収納からグラスを出してカウン酒を注ぐ、ソファに彼らを座らせつまみも置いて勧める。
「私も頂く」
ゴーレム達の向かいのソファに座り、崇幸のワインをグラスに注いでチーズを齧ればゴーレム達も飲み始めた。
『美味しいですか?』
「さあ」
『喜んでいたと伝えておきます』
「スキルが嘘をつくのか?」
『必要であれば』
「この世界の神々の能力を侮っていたな」
『なら、評価を上げるべきですね』
「…考えておく」
『では失礼します』
「明日…今日は6時に起こしてくれ」
『承知しました』
ゴーレム達にお代わりを注いでやれば、ゴーレム達もワインを蒐集家に注ぐ、人間臭い仕草に笑ってしまった…。
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