未希のツイノベ置き場

未希かずは(Miki)

文字の大きさ
4 / 12

4.転移勇者 年越し編

しおりを挟む
 拓人と類(ルゥイ)がこちらの世界で付き合って初めての年越しを迎えた。
二人で新年を迎えようと、大晦日の夜から拓人のアパートで二人こたつに入ってのんびりとテレビを見ながら過ごしていた。もうすぐ年をまたぐという時間に差しかかった。
「初詣、どうする?」
拓人が尋ねると、類は首を少し倒して考える。
「そうですね。混んでる所は苦手ですから、家で新年をゆっくり二人で迎えたあとに夜中ですが近くの小さな神社に行きませんか?」
 「ーーー」
「拓人さん?どうしましたか?」
「あ、いや。可愛いなあって」
 しげしげと類の顔を見つめながら言う拓人。途端に顔を赤くして、類は自分の顔を隠した。
「貴方より年上になった私が可愛いって。そんなわけないでしょう?」
「いや?そんな事無い。類は幾つになっても可愛いよ。」
「もうっ、あちらの世界にいた時はそんな事仰らなかったじゃないですか!」
「あー、まあ。それどころじゃなかったしな。でも、あの時から類は可愛かったよ」
いたたまれなくなってこたつに顔を埋める類。
その時、テレビから新年のカウントダウンが聞こえてきた。
「るーい、新年になっちゃうよ?顔上げて、ほら」
類が顔を上げたその時、12時を知らせる鐘がなった。
「明けましておめでとう。今年もよろしくな」
「はい。明けましておめでとうございます。今年もよろしく。」
類が笑顔で答える。
途端に、拓人が笑顔から真面目な顔になり、じっと見つめる。類は、ビクッと肩を震わせた。
「た、拓人さん?」
「っあー、可愛い類が悪いんだからな!」
そう言って、拓人は類をヒョイと抱き上げて寝室へ向かう。
「悪いけど、初詣は昼間に行こうな。」
「えっえっ?」
 ベッドにドサリと降ろされた類。類に覆い被さるようにベッドに乗ってきた拓人は類の唇に軽くキスをする。
「こうして過ごせる日が来るなんて幸せだな」
 あちらの世界の日々を思い出したのか、少し複雑な顔をしながら拓人は類の体を確かめるように触れる。
「暖かい」
 類が冷たくなったあの日の事は、今でも夢に出てきて拓人を苛んでいる。類が拓人と夜を過ごす度、拓人は悪夢に飛び起きてはそばに寝ている類を確かめるように触れる事に類は気付いていた。その度に、類は拓人への罪悪感で苦しくなる。だが、その感情は拓人を困らせるだけと分かっている類は、寝続けている振りをし、後ろから抱きしめてくる拓人の手をさり気なく抱きしめていたのだ。
「ありがとうな」
 突然の言葉に類は戸惑い、彼の顔を見つめる。
 拓人は類の頬を撫でながら言葉を続けた。
「俺を呼んでくれてありがとう。
 俺を支えてくれてありがとう。
 弱い俺を好きになってくれてありがとう。
 今も俺の傷を知りながら、何も言わずに見守っててくれてありがとう。
 あの時お前に出会えて本当に良かった」
 初めてあの時のできごとを良かったと言う拓人が愛おしい。類は拓人を強く抱きしめる。
「こちらこそありがとう。
 貴方に出会えて良かった。」
「ずっと一緒にいような」
「はい」
 二人ともわずかに声を震わせながら、唇を合わせるのであった。
 
おしまい

 お正月にあげた番外編です。
 二人の出会いを知りたい方は、「勇者転位は魔法使いのために生きることにする」を読んでいただけたら嬉しいです。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

《一時完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ

MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。 「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。 揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。 不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。 すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。 切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。 続編執筆中

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

やっぱり、すき。

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
ぼくとゆうちゃんは幼馴染みで、小さいときから両思いだった。そんなゆうちゃんは、やっぱりαだった。βのぼくがそばいいていい相手じゃない。だからぼくは逃げることにしたんだ――ゆうちゃんの未来のために、これ以上ぼく自身が傷つかないために。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

どうか溺れる恋をして

ユナタカ
BL
失って、後悔して。 何度1人きりの部屋で泣いていても、もう君は帰らない。

処理中です...