未希のツイノベ置き場

未希かずは(Miki)

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3.転移勇者は魔法使いのために生きることにする

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 君がかけてくれた保護魔法。
「1年しか保たないから、1年後また掛けてあげるよ」
 と言ってくれた君はもういない。
 もうすぐ俺にかけられた魔法が消える。
 その時、俺はここで生きていくことはできない。
 だからその前に、君の願いを俺が成し遂げるよ。
「さあ、魔王。決着を着けようじゃないか」

********************
 
 大学3年の夏。山岸やまぎし拓人たくとは無理やりこの世界に召喚された。
急に眩しい光に包まれて目を瞑った拓人。再び拓人が目を開けるとまさに異世界ファンタジーの世界だった。
 それを認識した途端、息ができずに苦しむ。
 近くにいた初老の男が拓人に語りかける。
「苦しいか?我々の勇者となり、魔王を討伐してくれると言うなら、お前の苦しみを取り除こう。さあ、我々と契約をするか?応えねばそのまま息ができずに死ぬことになるぞ。」
 初老の男の言葉は意識が混濁してきている拓人には伝わらない。気絶するかと思ったその時、突然白いローブを着た青年が魔法を唱える。途端に、拓人の呼吸が楽になる。だが、助けてくれたはずの青年は護衛騎士らしき者たちに捕らえられていた。拓人が慌てて止めると、先ほどの初老の男が口を開く。
「この者は我々の命に背いて、勝手にそなたを助けおった。それを許すことはできぬ。お主が勇者となって魔王を討伐してくれると契約するなら別だがな」
 自分を助けてくれた青年を見捨てる事は出来なかった拓人は、魔王討伐することを約束した。
それから一ヶ月。拓人は、勇者として動けるように剣の使い方を学んだ。
 触ったこともない剣であったが、勇者である拓人はメキメキと上達した。
 それでも怪我をすれば痛い。
 例え訓練でも人に向かって剣を向けることも辛かった。
 その度にあの時助けてくれた青年、ルゥイは
「あなたに全てを押し付けてしまってすみません」
と言って治癒魔法をかけてくれた。
 拓人が辛い気持ちを抑え込む様子もすぐに気付き、ひたすら背中を撫でてくれることもあった。

 剣の基礎を学び終えた頃、拓人とルゥイは必要最低限の荷物と共に魔王討伐の旅へと出発させられた。
 二人のお目付け役も兼ねた弓使いと魔法剣士も同行した。
 旅に出てすぐ、初めての魔物に遭遇した。拓人にとってそれは犬のように見えて、攻撃することに躊躇する。
お目付け役の2人は、勇者の修行のためと言って手を貸すことは無い。
 攻撃できずにいる拓人を魔法の壁で守るルゥイ。
 魔物がルゥイを襲おうとした時、拓人は魔物を斬りつける。
 魔物を倒すことはできたが、拓人にとってその出来事は衝撃的であった。
 肉を斬りつける感触。
 溢れ出る血とむせ返るような死の臭い。
 魔物の断末魔。
 平和な世界で生きてきた拓人にとって、全てが初めての事であった。
 
 その夜、拓人は食事を見た途端に吐き出してしまう。
 今まで抑えてきていた負の感情が、拓人の心を襲う。
心配してくれていたルゥイに向かって叫ぶ。
「なぜ俺だけがこんな目に会わないといけない!
これなら召喚された時に死んでしまえば良かった。
 なぜ俺を助けた。お前が助けなければこんな思いをすることも無かった!」
 ルゥイは、ひたすらごめんなさいと謝る。
「でも、あなたに生きていてもらいたかった。それが私の自己満足だとしても、あなたに死んで欲しくなかったんです。」
「どうしてそこまで俺の事を気にかけるんだ?」
拓人の問いにルゥイはゆっくりと自分の過去を話し始めた。
 

次からルゥイ視点です。

 ルゥイは元々山あいの小さな村に住んでいた。
 優しい両親、力持ちの兄と可愛い弟妹。穏やかでとても幸せな毎日だった。
 ある日、魔物が襲いかかってきて、村は一面焼け野原となる。
 ルゥイは兄と一緒に逃げ出すことができたが、多くの村人は魔物にやられてしまう。
 ルゥイも両親と小さな弟妹を失った。
 兄と共に近くの街へ逃れた。兄は家族の仇を取ろうと勇者を目指して冒険者として魔物討伐隊に参加していた。ルゥイも兄を助けようと教会で魔法を学んだ。兄はめきめきと頭角を現して、勇者検定を受けて合格した。
 勇者として魔王討伐の旅に、兄とルゥイ、剣士と魔法使い、シーフのメンバーで出発した。
 魔王をあと一歩というところまで追い詰めたが、剣士の裏切りに遭う。
 剣士は、ルゥイを人質に取り、兄の動きを止めた。その隙を狙った魔王に兄がやられてしまう。
 その瞬間ルゥイは自分の身体から眩い光が放たれるのを感じた。その光に飲み込まれた剣士は命を落とす。
 魔王はその光から逃れて姿を隠してしまった。ルゥイは失意のまま他のメンバーと城へと戻る。
 
 勇者である兄が亡くなった事で、ルゥイに次の勇者を探し出す力が与えられたことを神託で知った王が、早速ルゥイに勇者召喚をさせることとした。
 ルゥイはわけも分からず召喚をした。そこで現れたのが拓人であった。拓人が苦しむ姿は、兄の最後を思い出させた。
絶対に彼を助けたい。
その思いだけで命令を破り、拓人を助けた。
その後の拓人の苦悩する様子にルゥイも苦しんだ。
彼は、我々の世界と無関係の巻き込まれた被害者だ。
それなのに、周囲の人々は勇者としての責を押し付けるばかりであった。彼の苦しみを少しでも軽くできたらと考え、自分にできることがあるならば何でもしようと決心した。 
 拓人は、逆境に苦しみながらも根は強くて優しい人であった。初めは兄を見る様に拓人を見つめていたが、いつしかそれは恋に変わっていた。
 理由なんて無い。彼がいるだけでルゥイの気持ちは暖かくなる。一生彼の為に行きていこうと思った。
 
 そこまでを拓人に説明してから暫く目を閉じたまま動かない。それから拓人をまっすぐ見つめた。
「私は、あなたをこちらの世界に勝手に連れてきて縛り付けるという取り返しのつかないことをしてしまいました。本当はその贖罪のためにあなたの側に居続けようと思っていました。
 ですが、あなたを愛してしまいました。
 だからといってあなたに応えて頂きたいと思っているわけではありません。ただ、貴方を愛して支えたいと思う人がいると知ってほしいのです。死ねばよかったなどと決して思ってほしくないのです。
 貴方は生きているだけで価値がある。それは勇者だからではなく貴方だからだ。貴方に告白したのはそれを知って欲しかったから」
 ルゥイはそこまで一息に言って、またすみませんと頭を下げる。
「結局これも私のただの押し付けですね。貴方がどうしても生きていけないと思った時には私に仰って下さい私が貴方に掛けた魔法を解きます。
私にはその責任があるから」

 
次はまた拓人視点です。

 ルゥイはこんなに覚悟を持って俺の傍にいてくれたのか。
 ルゥイの圧倒的な強い思いを拓人は受け止めきれない。ルゥイだって魔王やこの国の被害者だ。魔王に家族を殺されて茫然自失な状態のなか、無理やり召喚魔法を使うよう国に強要されて、拓だと共に二度目の討伐に行かされているだけだ。
 それなのに自分が悪いと言うのか。責任を全て取ろうとしてくれるのか。拓人を愛してくれて、支えてくれようとしているのか。
 拓人は迷いながら口にする。
「俺を無理やり連れてきたこの世界を許すことはできない。でも、ルゥイの事は嫌いじゃない。
 ルゥイのおかげで俺は今生きているのだから、ルゥイが生きろと言うならば今は生きるよ」
それからは、拓人も魔物を討伐する事に躊躇しなくなった。
 だが、肉を食べることや食堂に入る事が一切できなくなり、そんな拓人のためにルゥイが木の実や魚などを調達して調理してくれるようになった。
 同行者とも少しずつ打ち解ける事ができた。皆、魔王に苦しめられた被害者だった。それからは、四人で協力して闘うようになり、だいぶ旅も楽になってきていた。
 拓人は、献身的なルゥイに対して好意を抱くようになってきていた。いや、今まで余り考えないようにしてきていただけで、ずっとルゥイの事は好きだったのかもしれない。 
 ある日、ルゥイに自分の気持ちを伝えた。ルゥイは涙を流して喜んだ。何より拓人が前向きになってくれた事が嬉しかったからだという。
 拓人は愛しさが込み上げてきて、ルゥイにキスをした。
 
 数日後、拓人の前に男の子が森から出てきて助けを求めてきた。聞くと、妹が魔物に襲われていると言う。
ちょうど拓人はルゥイと二人だけで行動していたため、拓人だけで助けに向かい、ルゥイには仲間を呼んできてほしいと伝えた。
 ルゥイは心配しながらも、それに従い仲間のところへと向かう。ルゥイは子供について行き、森の中へ入る。
 そこには魔物は既におらず、小さな女の子だけが切り株に座って泣いていた。ホッとして女の子に近づいた時、後ろから「危ない!」というルゥイの声がした。慌てて振り向くと、心配して戻ってきたルゥイが拓人をかばうように立ち、男の子であった筈の何者かがルゥイの腹に手を突き立てていた。魔物だった。女の子はまるで霧のように姿を消していた。
 騙されたと気づいた時には、魔物の腕はルゥイの血で真っ赤に染まっていた。
「ククク…勇者も大したことがないの。こんな若造に助けられるとはな。おや?こいつ見たことがあるぞ…」
 魔物は突然ハッとした顔をして焦り出す。
「あの時の小僧か!まずい、こいつの血をまともに浴びてしまったではないか。我は去ることにしよう。
またな、勇者殿」
 魔物は消えるようにしていなくなった。途端に地面に崩れ落ちるルゥイ。慌ててルゥイを抱き留めると、ルゥイは拓人に怪我はないかと心配する。
「何言ってんだよ!俺より自分の心配をするんだ!今止血してやるからな」
「いいえ、もう私は助からない。
あなたを助けられて良かった。
約束して下さい。
魔王を倒して貴方は自由を手に入れて…。
私がいなくなると、恐らく私の能力は他の人に引き継がれる筈です。その方から必ず一年に一度保護魔法を掛けてもらって…
貴方は…きっと幸せになれますから…
最後に…貴方を守れて良かった…
幸せになって…」
 薄く笑顔になるとそのまま目を瞑るルゥイ。拓人はルゥイを掻き抱く。
「ルゥイが生きろと言うから生きていたんだ!
 君のいない世界で生きたいと思えない!
 ルゥイ!お願いだから目を覚ましてくれ!
 ゔぁぁぁーーー――!!!」
 そのまま泣き崩れる拓人。
 夜中心配して探しに来た仲間は、ただ二人を見て立ち尽くすしか無かった。

 
 翌朝、ルゥイの墓を近くの丘に作り、別れを言う頃には、拓人は泣き止んでいた。ルゥイのいない今、拓人の生きる意味はルゥイの願いである魔王を討伐するためにのみある。最小限の休憩だけを取り、ただひたすら魔王のいる場所へと向かう。それを阻む魔物は容赦なく斬るが、ただそれだけだった。
 強くあるためにと肉も食べるようになった。
 仲間の二人は、拓人に保護魔法をかけてもらうために一度城に戻ろうというが、拓人はルゥイ以外に保護魔法をかけてもらうつもりはなかった。
 そして、魔王の元に着いた頃には拓人がここに来てからあと少しで一年となろうとしていた。魔王と対峙した時、拓人はその声に覚えがあった。ルゥイを殺したあの時の魔物だったのだ。
 拓人は笑いを堪えきれなかった。
「くくくっそうか。お前だったのか。
 ルゥイの願いの為だけでなく、俺自身にもお前を倒す理由ができたよ。
 さあ、魔王。決着を着けようじゃないか」
言うやいなや、魔王に切りかかって行った。仲間も勇者をサポートする。始めは魔王を押していた。
 だが、魔王は疲弊しない。少しずつ体力を奪われてきた拓人は、防衛に回る事が増えていった。そして、一瞬の隙を突いて魔王がとどめを刺しにくる。
 拓人が死を覚悟した瞬間、眩い光が魔王の腕から放たれた。
「この光は…」
 拓人は、ルゥイが放った光だと気づく。恐らく、死ぬ間際にルゥイが拓人の危機の時に光を放つように魔王の身体に自分の血で刻み込んだのだろう。
(死んでも尚、俺を守ってくれるのか?)
魔王はその光を放つ右腕を自身の左手で抱えて苦しみだした。
 その光が見守る中、拓人は魔王にとどめを刺した。
「これで終わりだ…」
 ほっと息をついた拓人は、そのまま気を失ったのだった。

 

 ―どのくらい時間が経ったのだろうか。
 拓人は元の世界の自分のベッドの上で目を覚ました。あれは夢だったのかと自分の手を見つめる。しかし、手に剣ダコや様々な傷を見つけて、現実だったのだと悟った。
 ゆっくりとベッドから体を起こし、携帯に手を伸ばす。特に着信もなく、日付は召喚された日の翌日であった。混乱しながらも、ベランダに出て、外を見るといつものアパートの管理人が道を掃除していた。
 管理人の姿が誰かに似ているような気がしてじっと見つめる。今まで見ていた顔よりもやや落ち着いた色味になり、日本人特有の顔立ちになってはいたがそれは確かにルゥイだった。
「ルゥイ?ルゥイなのか?な…ぜ…」
 管理人が拓人の声に振り向いた。拓人の顔を見て驚き、ふわりと笑う。
「おはようございます、拓人さん」
 拓人は慌てて外へと向かい、ルゥイに駆け寄る。
「無事だったのか?生きていたのか?良かった!良かった!」
 拓人は号泣し、ルゥイを抱きしめた。
 ルゥイの話によると、今から5年ほど前に魔王に倒されたあと、気づいたらここにいたそうだ。管理人のるいとしての記憶もあった為、戸惑いながらも生活を送れていた。拓人の姿も見かけたが、拓人は類を見ても分からない様子だったので、ただの管理人として接していたそうだ。
 拓人は、類と別れてから魔王を倒すまでを類に話す。
「俺がこうして生きて魔王を倒せたのはひとえにルゥイのおかげだ。ありがとう。
 俺は何度もルゥイに助けられてきた。
 これからは俺がルゥイ、いや、類を支えていきたい。
 これからもずっと一緒にいてくれないか?」
 向こうの世界にいた頃よりも大人になった類は、拓人の顔を見て涙を流し、こくりと頷いたのだった。

 
おしまい

 
 ルゥイのいた世界は実はゲームの世界を模した世界でした。
 ルゥイの兄が勇者として魔王を倒すはずだったのですが、魔王が一枚上手で剣士を裏切らせたせいで、兄が死んでしまい神様が慌ててルゥイに能力を与えて神殿に神託をし、拓人を転移させました。
 でも、拓人の苦しむ姿とルゥイの献身的な姿を見て、拓人の世界に二人を移したのでしたという裏話です。
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