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21.ループ
しおりを挟む侍女も下がらせ、静寂に包まれた部屋の中。ヴァイオレットは傷があった方の頬や、反対側の肩に触れたり、時折、ほぅ……と、熱い息を吐いていた。
触れる場所は、数時間前に想い人が触れた場所。
ジェラルドの手の感触や、支える力強さが、忘れたくないとばかりに、ヴァイオレットの脳に、肌に刻み込まれていく。
最後に彼が触れたのは、十年前のシンシアの誕生日パーティー。その時、周囲の計らいで会場を抜け出し、二人でこっそり会った時だった。
それだって、手を繋いだり、エスコートとして腰に手を添えるぐらいのもので、こんなにも異性を感じる触れ方をされたのは初めの事であった。
(意識している場合ではないのだけれど……)
騒動は鳴りを潜めたものの、まだ解決した訳ではない。それなのに、浮かれた行動を取ってしまう自分にほとほと呆れる。
(しっかりしなさい、ヴァイオレット。貴女は今、結果報告を待っているのよ)
今頃、クリフトフとエミリアは、ジェラルドやユリシーズから沙汰を言い渡されている筈だ。
少しすれば、ユリシーズかジェラルド、または使い魔たちが、クリフトフとエミリアの判決を知らせに来るだろう。それまで自室で待っているのだが、侍女がいないのも相俟って、ソワソワと知らせを待つか、ジェラルドの手を思い出して惚けるか、一人忙しくしているのだった。
(……クリフトフ殿下は、伯爵。最悪だと、地方の男爵まで落ちてしまうかもしれないわね)
クリフトフが臣下に降りる事を望んでいた事は、ヴァイオレット自身理解していた。だからこそ、せめて彼が伯爵ぐらいの地位は確保できる様に、ずっと手を出さずにいた。
エミリアに叩かれた時も、回避も防御も、なんなら反撃する事も容易に出来たが、あえてせずに受け入れた。
(私が無傷でいれば彼女の罪も小さかったでしょうけれど……仕方ないわね)
申し訳ないけれど、と、目が痛いピンク色の令嬢を思い、心の中で謝罪した。
立場が上のヴァイオレットに手を上げた時点で、エミリアの罪は重くなった。ただいつもの様に頭の悪い“振り”をしていれば良かったものの、余裕がなかったのか、ヴァイオレットの台詞に爆発してしまった。
(家に帰る事は出来なくなってしまったわね……男爵に取っては都合が良さそうだけど)
叩かれた頬に触れる。
シンシアが治療したお陰で痕もなく、普段と同じ肌触りの頬がそこにはあった。
──ヴァイオレット嬢に、何をした?
突如として思い出した声に、ボフン、と湯気が出そうなほど顔中に熱が集中した。
頬に触れていた手は汗をかきはじめ、自然と瞳も潤み始めた。
逞しく大きな手の感触とともに思い出すのは、自分の名を口にする低い声と、強い意志を孕んだ赤い瞳。
(あんなの……ずるいわ)
側にいなかった時間が長かったせいか、久し振りに寄り添ったジェラルドは、ヴァイオレットから見れば、成人した立派な男だった。
淑女の鏡として慕われるヴァイオレットとて、他の淑女同様、異性が気になるお年頃。
恋い焦がれてきた人から受けた、一人の女としての扱いに、戸惑いと慕情がない交ぜになり、彼女の胸を締め付けて来る。
(重症だわ……)
嫌ではない胸の苦しさに困惑する。
物思いに耽ったり、再び熱に浮かれたりを繰り返しながら、ヴァイオレットは彼らからの知らせを待ち続けた。
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