あなたは私の、輝ける星 ーーYou're My Only Shinin' Starーー

藍川 東

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着任

 軍隊も組織である以上、様々な人材を必要とする。
 もちろん他の組織より圧倒的に必要とされるのは、実行部隊であり、想像される通り筋肉自慢の輩がいるが、それを機能的に動かすためには、兵站ロジスティクスが必要とされる。
 イベルドグラ=ファーニャウ中尉は兵站部隊に所属する自分の能力を、決して低いものとは思っていないが、暑苦しい筋肉を自慢とするマッチョな軍の風潮に染まっている輩からは、軽く見られているのを自覚している。
 軍の基準はクリアしているが、一般の平均男性並みの体格で、さらに着やせする。
 地球系として平凡な容姿にもかかわらず、ファーストネームに名前負けしている。
 家族仲は良好なほうだが、これだけは名づけの両親を少し恨みに思っている。

 今日も、本来の業務ではない仕事で、宇宙港に来ていた。
 宇宙港といっても、辺境のさびれた惑星であるクレイアでは、大気圏突入船が発着する滑走路は一本しかなく、しかも地表にむき出しだ。
 管制塔も『塔』とはおこがましく、『小屋』のほうが正しい表現な気がする。
 駐留している銀河連邦宇宙軍の異動でもない限り、ほとんど使われることはない。
 それも、こんな辺境の駐留基地では、離任する者はほとんどなく、掃きだめのように『不良』と評価された兵士たちが積み重ねられていくのが常だ。
 そんな基地に、今日はイレギュラーな存在がやってくる。

 本来なら赴任してくる者は、士官であっても宇宙港から自力で基地まで来る。
 基地に到着したのち、出迎えを受け、基地司令官に着任挨拶をするのが通例だ。
 しかし、今回はあまりにイレギュラーな存在、存在なため、基地司令官が迎えに行くべきか、それとも通常通りの対応をすべきか。
 喧々諤々があったあげく、折衷案として事務方のファーニャウが迎えに行くことになったのだ。
 最終的には、
 『特務少佐とはいっても、士官学校の在校生であり、18歳と未成年であるため』一応迎えに来た、という体裁になった。
 赴任してくる二人の内ひとりが、銀河連邦に所属している封建国家の血筋をいくつも継いだ、銀河連邦の政治面にも多大な影響力をもち、銀河連邦宇宙軍にも多大な寄付をしているシリス家の御曹司だから、では決してない。
 そこはしっかり伝えておくように、と上官にいわれたが、そんな十歳の子どもにも察せられてしまうような、媚びの混じった配慮の結果、ファーニャウはここにいる。

 大気圏突入船が停止し、空気圧の音をさせて扉が開いた。
 事前の立体映像フォログラフィで見ていた、たぐいまれは美貌をもつ少年達が、寂れた惑星の、さびれた宇宙港に現れた。
 その存在のあまりの落差に、目の前にありながら合成映像のように見えた。

 黄金の髪と瞳を持ち、いくつもの惑星王族と姻戚を持つ巨大財閥の後継者、アナスタシオス=アレクシエル=シリル特務少佐。18歳。
 そしてその『バディ』である、黒い強膜に白銀の縦長の光彩を持ち、地球外人でありながら地球人に育てられた、シン=テクラダ特務少佐。18歳。

 纏う空気に金粉が舞っているかにように見えるシリル特務少佐の、これの芸術品といっても過言ではない完璧な形の唇から第一声は、これだった。

 「うっわー。なんもないじゃんっ。なにこれっ。ウケるんだけど。
  なぁ、なぁ、シン。俺たちもしかして、フォロ三次元映像でも見せられてる訳?」
 軽薄な物言いと、周囲をまったく気にしない言動。
 さすが圧倒的な御曹司だとファーニャウは思った。そして頭痛を覚えた。

 「アーシェ。事前の資料を見ただろう? これがこの惑星の宇宙港なんだよ」
 しかし、それをたしなめるようにテクラダ特務少佐が口を開いた。
 事前の三次元映像フォログラフィで見た、地球人外の瞳は、遮光サングラスで隠されている。
 すると、地球人と差異は見られなかった。
 むしろ、シリル特務少佐を嗜めるような常識的な物言いに、ファーニャウは好感を覚えた。

 「え? マジで? こんな『超荒れ野』が宇宙港なわけ?
  うわっ。これならなにしても怒られなさそうじゃん。ラッキー」
 彼がなにをしても止められないだろう自分を、ファーニャウは理解した。
 故に、年長者としては情けないことながら、ちょっと期待してテクラダ特務少尉を見た。
 「そうだね。これなら地形を変えたって、文句はいわれないかもだね」
 テクラダ特務少佐は、柔らかく微笑みながら、シリル特務少佐に答えた。

 ファーニャウ中尉は納得した。
 やはり、こんな辺境の惑星の、ド貧乏な駐留軍に赴任してくる輩は、まともではない、と。
 
 自分より十歳年下で、階級が二つも上の、輝かしい少年たちは、やはりこの惑星に来るべくして来たのだろう。

 話しかけるタイミングを完全に逸したファーニャウ中尉は、敬礼をしたまま二人が自分に気づいてくれるのを、ひたすら待っていた。 
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