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上司からの要望・1
シンが物思いのふけっていたところで、入室を求めるインターフォンが鳴った。
操作していたPCで廊下にたたずむ人物を確認すると、シンは少し目を見開いた。
なにかは釣れると思っていたが、意外とあっさり大物がかかった。
外したいたサングラスをかけ直すと、『ちゃんと急いで出ました』と言い訳できる程度の時間で、扉を開いた。
そのまま相手に向かって敬礼をする。
「お待たせして大変失礼いたしました。司令官閣下。お呼びいただければ出頭いたしましたが」
コールシュ=ボーレン大佐。
赴任初日に着任挨拶はしたが、その時の印象は『可もなく不可もなく』だ。
経歴を見れば、まぁ優秀な部類だが、隣でアーシェを見慣れてしまうと、シンにとって大概の人間は『まぁ、優秀』が最上位で、それ以下は『まぁ、使えるかな』だ。
シン自身も自分のことを『まぁ、使えるほう』と評価している。
基地司令官は通常少将以上が就くが、小規模やへき地の基地では極まれに大佐が、その基地の最高位になる。
ボーレン大佐はその『極まれ』な例だ。
「構わないかね?」
入室を促され、当然是と答える。
アーシェとの同室だが、シンは余計な軋轢は極力排除する平和主義だ、と自認している。アーシェとの認識の差は、当然、相手が埋めるべきだと考えている。
「申し訳ありません、サー。基地司令官閣下をお迎えするのに、なにを用意すべきかわからず」
それなりに申し訳なさそうな顔をして見せる。
アーシェだったら、『なんの御用でしょうか(早く俺とシンの部屋から出て行けよ。暇なのかよ)、サー』とあの美貌で無表情に対応すると、ごく一般的な美醜感覚を持っている人間ならば、撤退する。
シンには知り合った当初しか向けられたことはないが、無表情の美貌というのは、近寄れば自分の血の気が引くような恐怖を感じさせられる。
アーシェにいわせると、シンの一部の笑顔も似たような効果があるというが、まったく心外である。
とにかく、シンの予想としては、基地のロジスティックを掻きまわしていれば、当然それを管理・運営している者が気づく。
表面上引っかかることがなくとも、なにかやましいことを抱えていれば、新参の小僧に釘を刺しに来るだろう、と予想していた。
やましいことがなかったとしても、自分の縄張りを新参のもが得意げに嗅ぎまわっていたら、文句のひとつもつけにくるだろう。そこから基地の内情を聞き出して、と目論んでいたシンだったが、最初から基地内最高権力者に登場されてしまい、流石に意表を突かれた。
ロールプレイングゲームなら、さぁっ、魔王の城に突入だッ、と入った大広間でいきなり魔王登場、といった感じだ。
まぁ、装備もレベルも後れを取る気はないけれど。
「構わない。逆に何か持ってきた方がよかったかな? 手っ取り早く親睦を図るためには、飲食を共にするのがいいんだが。この基地の飲料用ディスペンサーで間違いないのはミネラルウォーター一択だが」
経費削減で『贅沢品』扱いの飲料用ディスペンサーの中身は、とてもシンプルな状態になっている。
士官が使用するエリアですらそうなので、兵士たちのエリアでは『悩む時間もいらない』状態だ。
「『君』にとっては、いささか不便かな、テクラダ特務少佐」
シン本人すら忘れていた『種族的特徴』を指摘された。
基地司令官なら当然閲覧権限のある情報だが、この場にアーシェがいたら、縄張りを荒らされた猫並みに毛を逆立てて威嚇していたことだろう。
「お気遣い恐れ入ります、サー。しかしながら小官は地球系の養父母に育てられましたので、身体的特徴以外は地球系として扱っていただいて問題ありません」
「そうかね。といっても、最もバラエティに富んでいるのが『地球系』だがね。私も前任地で他種族から、『地球系は雑多が過ぎて線引きがわからん』と文句をいわれたよ」
銀河に進出したのは他種族に比べて遅い地球系だが、その旺盛な繁殖力と、多種族との交接率の高さゆえ、今では『どこにでもいる』種族だ。
逆に、純血主義が台頭してきている。
シン自身には関わりのない話だが、バディは大いに巻き込まれている。
まぁ、勝手にやっているといい。
基地司令官をいつも戸口に立たせておくわけにもいかず、シンは部屋にボーレン大佐を招き入れた。
打ち合わせ用のソファに座っていただき、許可を得て自分も正面のソファに腰を下ろした。
ボーレン大佐はその職責から、現場より内勤の時間が多くなっているだろう、体の厚みが軍人にしては薄くなっている。
しかしソファに落ち着いて据わる姿勢には、軍人としての規律と、辺境とはいえ基地司令官としての威厳は十分に感じられた。
新任の士官だったら、緊張して汗のひとつでもかくんだろうな、と思いながら対面しているシンには、自分が一般的な新任の士官の感性を持っていないのを、100%アーシェのせいにした。
(アーシェの実家の親戚だけで、銀河連邦宇宙軍の一方面軍ぐらい動かせちゃいそうだったからね)
先日連れていかれたアーシェの実家の集まりでは、かつて養父母に習った故事成語を文字って『犬も歩けば将官or士官に当たる』といった具合だった。
(だってまさか、酔っぱらって延々と机を拭いているご老人が統合作戦本部次長だとはわからなかったし、その隣で酒で机に猫のいたずら書きしている女性が情報部参事官だとは思わなかったよ)
銀河連邦宇宙軍の中枢の前で、堂々と未成年飲酒をした身としては、記憶の彼方に追いやりたい。
事前情報を共有しなかったアーシェには、当然こぶしで教育的指導を行っておいた。
ボーレン大佐は部屋を見回した。
「シリル特務少佐は」
「イエス・サー。シリル特務少佐は、兵士たちの訓練に。そろそろ戻ってくる頃ですが」
赴任先の上官は、二人に、というより主にアーシェに用がある方が多い。
それがおもねる、へつらう、あげつらう、こびる等々どんな用事でも。
携帯末端でアーシェに連絡を取ろうとした芯を、ボーレン大佐は手で制した。
「いや、実勢経験豊富なシリル特務少佐からの実践訓練なら、兵士たちに大きな刺激になっているだろう。急いで戻らせる必要はない」
「では、小官がご用件を承ってよろしければ」
シンは誠実に見えるーーアーシェ曰く『幸福になるなにかを売りつけられそう』な――控えめな笑みを浮かべて基地司令官の言葉を待った。
「そう、構えなくてもいい。私も自分の息子よりも年下の君たちに、腹芸をする気はない。単刀直入に聞くとしよう」
ボーレン大佐は、サングラス越しにシンの目を見ていった。
「君たちは、なにをしにここに来たのかね」
操作していたPCで廊下にたたずむ人物を確認すると、シンは少し目を見開いた。
なにかは釣れると思っていたが、意外とあっさり大物がかかった。
外したいたサングラスをかけ直すと、『ちゃんと急いで出ました』と言い訳できる程度の時間で、扉を開いた。
そのまま相手に向かって敬礼をする。
「お待たせして大変失礼いたしました。司令官閣下。お呼びいただければ出頭いたしましたが」
コールシュ=ボーレン大佐。
赴任初日に着任挨拶はしたが、その時の印象は『可もなく不可もなく』だ。
経歴を見れば、まぁ優秀な部類だが、隣でアーシェを見慣れてしまうと、シンにとって大概の人間は『まぁ、優秀』が最上位で、それ以下は『まぁ、使えるかな』だ。
シン自身も自分のことを『まぁ、使えるほう』と評価している。
基地司令官は通常少将以上が就くが、小規模やへき地の基地では極まれに大佐が、その基地の最高位になる。
ボーレン大佐はその『極まれ』な例だ。
「構わないかね?」
入室を促され、当然是と答える。
アーシェとの同室だが、シンは余計な軋轢は極力排除する平和主義だ、と自認している。アーシェとの認識の差は、当然、相手が埋めるべきだと考えている。
「申し訳ありません、サー。基地司令官閣下をお迎えするのに、なにを用意すべきかわからず」
それなりに申し訳なさそうな顔をして見せる。
アーシェだったら、『なんの御用でしょうか(早く俺とシンの部屋から出て行けよ。暇なのかよ)、サー』とあの美貌で無表情に対応すると、ごく一般的な美醜感覚を持っている人間ならば、撤退する。
シンには知り合った当初しか向けられたことはないが、無表情の美貌というのは、近寄れば自分の血の気が引くような恐怖を感じさせられる。
アーシェにいわせると、シンの一部の笑顔も似たような効果があるというが、まったく心外である。
とにかく、シンの予想としては、基地のロジスティックを掻きまわしていれば、当然それを管理・運営している者が気づく。
表面上引っかかることがなくとも、なにかやましいことを抱えていれば、新参の小僧に釘を刺しに来るだろう、と予想していた。
やましいことがなかったとしても、自分の縄張りを新参のもが得意げに嗅ぎまわっていたら、文句のひとつもつけにくるだろう。そこから基地の内情を聞き出して、と目論んでいたシンだったが、最初から基地内最高権力者に登場されてしまい、流石に意表を突かれた。
ロールプレイングゲームなら、さぁっ、魔王の城に突入だッ、と入った大広間でいきなり魔王登場、といった感じだ。
まぁ、装備もレベルも後れを取る気はないけれど。
「構わない。逆に何か持ってきた方がよかったかな? 手っ取り早く親睦を図るためには、飲食を共にするのがいいんだが。この基地の飲料用ディスペンサーで間違いないのはミネラルウォーター一択だが」
経費削減で『贅沢品』扱いの飲料用ディスペンサーの中身は、とてもシンプルな状態になっている。
士官が使用するエリアですらそうなので、兵士たちのエリアでは『悩む時間もいらない』状態だ。
「『君』にとっては、いささか不便かな、テクラダ特務少佐」
シン本人すら忘れていた『種族的特徴』を指摘された。
基地司令官なら当然閲覧権限のある情報だが、この場にアーシェがいたら、縄張りを荒らされた猫並みに毛を逆立てて威嚇していたことだろう。
「お気遣い恐れ入ります、サー。しかしながら小官は地球系の養父母に育てられましたので、身体的特徴以外は地球系として扱っていただいて問題ありません」
「そうかね。といっても、最もバラエティに富んでいるのが『地球系』だがね。私も前任地で他種族から、『地球系は雑多が過ぎて線引きがわからん』と文句をいわれたよ」
銀河に進出したのは他種族に比べて遅い地球系だが、その旺盛な繁殖力と、多種族との交接率の高さゆえ、今では『どこにでもいる』種族だ。
逆に、純血主義が台頭してきている。
シン自身には関わりのない話だが、バディは大いに巻き込まれている。
まぁ、勝手にやっているといい。
基地司令官をいつも戸口に立たせておくわけにもいかず、シンは部屋にボーレン大佐を招き入れた。
打ち合わせ用のソファに座っていただき、許可を得て自分も正面のソファに腰を下ろした。
ボーレン大佐はその職責から、現場より内勤の時間が多くなっているだろう、体の厚みが軍人にしては薄くなっている。
しかしソファに落ち着いて据わる姿勢には、軍人としての規律と、辺境とはいえ基地司令官としての威厳は十分に感じられた。
新任の士官だったら、緊張して汗のひとつでもかくんだろうな、と思いながら対面しているシンには、自分が一般的な新任の士官の感性を持っていないのを、100%アーシェのせいにした。
(アーシェの実家の親戚だけで、銀河連邦宇宙軍の一方面軍ぐらい動かせちゃいそうだったからね)
先日連れていかれたアーシェの実家の集まりでは、かつて養父母に習った故事成語を文字って『犬も歩けば将官or士官に当たる』といった具合だった。
(だってまさか、酔っぱらって延々と机を拭いているご老人が統合作戦本部次長だとはわからなかったし、その隣で酒で机に猫のいたずら書きしている女性が情報部参事官だとは思わなかったよ)
銀河連邦宇宙軍の中枢の前で、堂々と未成年飲酒をした身としては、記憶の彼方に追いやりたい。
事前情報を共有しなかったアーシェには、当然こぶしで教育的指導を行っておいた。
ボーレン大佐は部屋を見回した。
「シリル特務少佐は」
「イエス・サー。シリル特務少佐は、兵士たちの訓練に。そろそろ戻ってくる頃ですが」
赴任先の上官は、二人に、というより主にアーシェに用がある方が多い。
それがおもねる、へつらう、あげつらう、こびる等々どんな用事でも。
携帯末端でアーシェに連絡を取ろうとした芯を、ボーレン大佐は手で制した。
「いや、実勢経験豊富なシリル特務少佐からの実践訓練なら、兵士たちに大きな刺激になっているだろう。急いで戻らせる必要はない」
「では、小官がご用件を承ってよろしければ」
シンは誠実に見えるーーアーシェ曰く『幸福になるなにかを売りつけられそう』な――控えめな笑みを浮かべて基地司令官の言葉を待った。
「そう、構えなくてもいい。私も自分の息子よりも年下の君たちに、腹芸をする気はない。単刀直入に聞くとしよう」
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