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上司からの要望・2
「君たちは、なにをしにここに来たのかね」ーーーか。
なかなか想像を超えた状態になったな、とシンは思った。
突発的な出来事に直面した時、人は様々な対応をする。
そのままフリーズする者もいれば、とにかく慌て騒ぐ者。第三者に状況を転嫁しようとする者。
シンは穏やかな笑みに頬を固めたまま、現実逃避するタイプだ。
(これが学長だったら、
『実は、航路上邪魔なんで、この惑星を破壊するようにいわれてるんです。これがその装置です』
なんていって、アーシェの頭に突起をつけて、
『ハァーイ。ワタシガ惑星破壊機械ノ、クラッシャー53号デェース』
なんていわせてひとボケ取るのも面白そうだな。今度やってみよう。)
と一秒にも満たない現実逃避をして、衝撃を反らせてみた。
そして現実に戻る。
そもそも軍隊というものは、上意下達が大原則である。
命令系統の齟齬は、そのままその隊や、部隊、基地、軍全体の行動の成否にかかわる。
だから軍では完全に同一な者は存在しない。
たとえ同じ階級であっても、一日でも一秒でも先に任官した方が『先任』として指揮を執る。
シンとアーシェにしても、『メンドーだからじゃんけんで決めよーぜぇ』とアーシェがいって、シンが受けて三本勝負でシンが勝ったとしても、公的にはアーシェが先任士官だ。
つまり、この惑星上の軍隊で最先任士官である基地司令官が、士官としては最下位に当たるシンに対して、この基地に赴任してきた意図を問うたのである。
アーシェならひとこと、
『知るかよっ。赴任命令出した奴に聞いてみろよっ』
と一蹴するところで、シンもそれに同意だ。
しかしながら常日頃、アーシェの円滑な対人関係スキルの教師をもって任じているシンとしては、表現方法を変えてのアプローチをとってみた。
「申し訳ありません、サー。ご質問の意図を理解しかねております。
確かに小官はいまだ学生の身分ではありますが、銀河惑星軍の士官として命令であれば従います。その意図を想像することもありますが、それはあくまで小官の想像でしかありません」
お分かりですよね、の意を込めて笑みを少し深める。
アーシェが見たら『こんなところでまたいらぬ者を誑し込むのかその分を俺に回せよコラ』といいがかり必須の笑みだ。
シリル家の次期当主をも誑し込む笑みは、辺境基地の司令官にも有効だったようだ。
「あ、あぁ、すまないな、テクラダ特務少佐。銀連邦星軍の軍人として、ありえない質問だった。忘れてくれ」
「イエス・サー」
シンは理解の微笑みで答えた。
しかし残念ながら、正論よりもボーレン大佐は基地司令官としての責務に重きを置いているようだった。
「しかしな、どうしてもシリル家の意向を確認する必要がある。
こんな辺境基地にシリル家の人間が赴任してきたんだ。それも次期当主といわれる『黄金』が、だ。
方面本部でもその意向を知りたがっているし、軍とは関りのない惑星政府筋からも打診があってね。
できれば親睦を深めるための食事会を設けたい、と要請がすでに入っている。
今までは災害時にしか役に立たない税金泥棒としか思っていなかったくせに。まったく、政治家という輩は実に図々しい生き物だ」
どうやら二人の予想を超えて、『シリル家』は辺境では中央以上にネームヴァリューがある様子だ。
だからといって、アーシェがその対価払わなければならない義務はない。
「司令官閣下に具申申し上げます。ご許可いただけますでしょうか」
「あぁ、構わない」
「ありがとうございます。
シリル特務少佐も小官も、軍人としてこの基地に赴任の命を受け、その任を全うしようと努めております。
確かにシリル特務少佐の実家は、軍に隠然たる影響力を持っていますが、小官はシリル特務少佐がその特権を、」
……結構使ってる。結構ぶん回してる。結構私利私欲に使ってる。
「不用意に用いるのに接したことはありません」
そうだ、完全に意識してしか使っていない。
シンは、嘘ではない表現に変更した。
「ですので、司令官閣下も外からの声に煩わされることなく、銀河惑星軍の基地司令官として、シリル特務少佐にも小官にも職務を命じていただければと考えております」
心の中のアーシェが、『うさんくささ、百点満点!』といいながら拍手しているのを、小さな頭を摘まみ上げて壁の方を向かせる。
息子より年下の少年からの正論に、ボーレン大佐もいい募ることができない様子で、口ごもった。
なまじ無能な輩だったら、自分の主張を押し通すだけだが、いくぶんでも理性的で有能な人物だったら、自分がいっていることが軍人としておかしなことだと理解し、理解したがゆえに自縛してできなくなることもある。
おおよそシンが予想していた結末に向かいそうだ。
あとは、アーシェと鉢合うまえにご退出を願えれば、と言葉を継ごうとしたシンに、ボーレン大佐が先に口を開いた。
「正論は君のいうとおりだ、テクラダ特務少佐。しかし恥ずかしながら、私はこの基地の最高司令官として、できうる限り安全に基地運営をして、兵士たちや士官、その家族たちの安全を守りたい。
そして腹は立つが、惑星政府とも、少なくとも表面的にでも有効な関係を保っておく義務がある。
だからだ、テクラダ特務少佐」
ボーレン大佐は膝に肘をつき、組んだ手にあごを乗せた。
「私にはシリル家の意向を確認して、それとできうる限り対立しない行動が求められるのだよ。
そのためにはまず、シリル家の意向を知ることか必要だ。
銀河惑星軍の軍人としては、いささか不本意な『依頼』とは思うがね、これは君にしか任せられないことだ」
ボーレン大佐は、サングラス越しにシンと視線を合わせていった。
「もちろん、できる範囲でかまわないんだがね」
さすがに基地司令官ともなると、粘り腰の交渉をしてくる。
シンは、自分とアーシェが未だ身に着けていないスキル『年の功』を目の当たりにした。
なかなか想像を超えた状態になったな、とシンは思った。
突発的な出来事に直面した時、人は様々な対応をする。
そのままフリーズする者もいれば、とにかく慌て騒ぐ者。第三者に状況を転嫁しようとする者。
シンは穏やかな笑みに頬を固めたまま、現実逃避するタイプだ。
(これが学長だったら、
『実は、航路上邪魔なんで、この惑星を破壊するようにいわれてるんです。これがその装置です』
なんていって、アーシェの頭に突起をつけて、
『ハァーイ。ワタシガ惑星破壊機械ノ、クラッシャー53号デェース』
なんていわせてひとボケ取るのも面白そうだな。今度やってみよう。)
と一秒にも満たない現実逃避をして、衝撃を反らせてみた。
そして現実に戻る。
そもそも軍隊というものは、上意下達が大原則である。
命令系統の齟齬は、そのままその隊や、部隊、基地、軍全体の行動の成否にかかわる。
だから軍では完全に同一な者は存在しない。
たとえ同じ階級であっても、一日でも一秒でも先に任官した方が『先任』として指揮を執る。
シンとアーシェにしても、『メンドーだからじゃんけんで決めよーぜぇ』とアーシェがいって、シンが受けて三本勝負でシンが勝ったとしても、公的にはアーシェが先任士官だ。
つまり、この惑星上の軍隊で最先任士官である基地司令官が、士官としては最下位に当たるシンに対して、この基地に赴任してきた意図を問うたのである。
アーシェならひとこと、
『知るかよっ。赴任命令出した奴に聞いてみろよっ』
と一蹴するところで、シンもそれに同意だ。
しかしながら常日頃、アーシェの円滑な対人関係スキルの教師をもって任じているシンとしては、表現方法を変えてのアプローチをとってみた。
「申し訳ありません、サー。ご質問の意図を理解しかねております。
確かに小官はいまだ学生の身分ではありますが、銀河惑星軍の士官として命令であれば従います。その意図を想像することもありますが、それはあくまで小官の想像でしかありません」
お分かりですよね、の意を込めて笑みを少し深める。
アーシェが見たら『こんなところでまたいらぬ者を誑し込むのかその分を俺に回せよコラ』といいがかり必須の笑みだ。
シリル家の次期当主をも誑し込む笑みは、辺境基地の司令官にも有効だったようだ。
「あ、あぁ、すまないな、テクラダ特務少佐。銀連邦星軍の軍人として、ありえない質問だった。忘れてくれ」
「イエス・サー」
シンは理解の微笑みで答えた。
しかし残念ながら、正論よりもボーレン大佐は基地司令官としての責務に重きを置いているようだった。
「しかしな、どうしてもシリル家の意向を確認する必要がある。
こんな辺境基地にシリル家の人間が赴任してきたんだ。それも次期当主といわれる『黄金』が、だ。
方面本部でもその意向を知りたがっているし、軍とは関りのない惑星政府筋からも打診があってね。
できれば親睦を深めるための食事会を設けたい、と要請がすでに入っている。
今までは災害時にしか役に立たない税金泥棒としか思っていなかったくせに。まったく、政治家という輩は実に図々しい生き物だ」
どうやら二人の予想を超えて、『シリル家』は辺境では中央以上にネームヴァリューがある様子だ。
だからといって、アーシェがその対価払わなければならない義務はない。
「司令官閣下に具申申し上げます。ご許可いただけますでしょうか」
「あぁ、構わない」
「ありがとうございます。
シリル特務少佐も小官も、軍人としてこの基地に赴任の命を受け、その任を全うしようと努めております。
確かにシリル特務少佐の実家は、軍に隠然たる影響力を持っていますが、小官はシリル特務少佐がその特権を、」
……結構使ってる。結構ぶん回してる。結構私利私欲に使ってる。
「不用意に用いるのに接したことはありません」
そうだ、完全に意識してしか使っていない。
シンは、嘘ではない表現に変更した。
「ですので、司令官閣下も外からの声に煩わされることなく、銀河惑星軍の基地司令官として、シリル特務少佐にも小官にも職務を命じていただければと考えております」
心の中のアーシェが、『うさんくささ、百点満点!』といいながら拍手しているのを、小さな頭を摘まみ上げて壁の方を向かせる。
息子より年下の少年からの正論に、ボーレン大佐もいい募ることができない様子で、口ごもった。
なまじ無能な輩だったら、自分の主張を押し通すだけだが、いくぶんでも理性的で有能な人物だったら、自分がいっていることが軍人としておかしなことだと理解し、理解したがゆえに自縛してできなくなることもある。
おおよそシンが予想していた結末に向かいそうだ。
あとは、アーシェと鉢合うまえにご退出を願えれば、と言葉を継ごうとしたシンに、ボーレン大佐が先に口を開いた。
「正論は君のいうとおりだ、テクラダ特務少佐。しかし恥ずかしながら、私はこの基地の最高司令官として、できうる限り安全に基地運営をして、兵士たちや士官、その家族たちの安全を守りたい。
そして腹は立つが、惑星政府とも、少なくとも表面的にでも有効な関係を保っておく義務がある。
だからだ、テクラダ特務少佐」
ボーレン大佐は膝に肘をつき、組んだ手にあごを乗せた。
「私にはシリル家の意向を確認して、それとできうる限り対立しない行動が求められるのだよ。
そのためにはまず、シリル家の意向を知ることか必要だ。
銀河惑星軍の軍人としては、いささか不本意な『依頼』とは思うがね、これは君にしか任せられないことだ」
ボーレン大佐は、サングラス越しにシンと視線を合わせていった。
「もちろん、できる範囲でかまわないんだがね」
さすがに基地司令官ともなると、粘り腰の交渉をしてくる。
シンは、自分とアーシェが未だ身に着けていないスキル『年の功』を目の当たりにした。
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