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意向非確認
「はぁっ? 家の意向? んなもん知らねーよっ」
開口一番、アーシェがいった。
それはそうだろうな、とシンも思った。
大体アーシェが実家の『意向』に沿って動く人間だったら、こんな辺境の基地に赴任させられることはなかったし、シンとの『お付き合い』も継続してはいない。
(実際シンは幾度かアーシェの実家の『ご意向』を伝えられたことがあるが、爽やかにスルーしている。)
得意分野を交換して任務にあたったあと、アーシェとシンは士官食堂で落ち合った。
軍隊というところは、完全な階級社会であるため、士官専用の施設が存在する。
逆に『兵士専用』の施設は公式にはないが、その施設に士官が入れば、『道理を説いて丁寧にお引き取り』いただくのが軍隊の常識だ。
士官食堂では、司令官など幹部主催の正式な晩餐であれば礼装が必須だが、普段の夕食であれば制服を着用してさえいればいい。
なのでシンは仕事を終えたそのまま、アーシェは活動服から着替えた制服で席に着いている。
時間も夕食時なこともあり、席は8割方埋まっている。
アーシェの声は衆目を集めたが、本人がぐるりと見回すと、目を合わせる者はおらず逸らされた。
「そうはいってもねぇ、司令官殿としては自分の部下にシリル家の者がいるってのが落ち着かないんだろうね」
一応常識人ぶったシンがいう。
「それこそマジで知らねー。
大体、銀河連邦宇宙軍本部で石を投げれば、家の奴かなんか関係してるヤツに当てられるだろうーし」
それは軍内部でたまに聞く、シリル家に対する戯言だが、実際そうらしい。
「ま、本部の地球系が全部が全部ウチってわけじゃねーけどな。にしてもウザいな。ちょっと黙っとくよういわせとくか?」
「誰から?」
相手は痩せても枯れても、この基地の最高指揮官だ。
「あ? ここの方面本部にいるヤツ」
シンには嫌な予感しかなかった。
「それって、君よりだいぶ年上で、軍人としての階位も上で、だけど家の序列だけは君より下、って人?」
「そ」
アーシェは当たり前の顔でいって、チーズハンバーグを口に入れた。
子ども舌のくせに、所作は上品だ。
育ちの良さというのは、こういうところに出るのだろうなぁ、と庶民育ちのシンは常々感じている。
口の中のものをしっかり飲み込んでから、アーシェが口を開いた。
「ま、俺を動かしたんだから、なんかしらの思惑はあるんだろうけど、ウチなんて魑魅魍魎の跳梁跋扈だからな。ある奴の利益が別の奴の不利益なんてザラだし。
俺は俺の思惑でしか動く気ねーし」
家柄があるというのも大変だなぁ、と思いつつ、聞き流せないフレーズがあった。
「え? 私達の赴任って、この間のちょっとした騒動の反省を促すため、じゃないの?」
シンはそのつもりだった。
ちょっとした騒動については原因は完全に相手側にあるし、アーシェがはしゃぎすぎてしまったのを止めきれなかった責任だけは、やむを得ず取らざるを得ないな、というのがシンの認識だった。
アーシェからすれば、『お前、煽り散らかしてたじゃんっ』という意見もあった。
シンの追求に、アーシェはわかりやすく目を逸らせた。完璧な形の唇を尖らせて、口笛の真似をして息を出している。
『口笛が吹けないくせに一丁前に吹くまねをするアーシェ』はシンの中で結構上位にいる萌ポイントだ。
絶対調子づくから、本人にはいわないけれど。絶対。
これは自分に非があって、バレたら怒られるとわかっているときの仕草だ。
「アーシェ」
シンの声に、ごまかされてはもらえないと悟り、アーシェはシンを見た。
「いっても怒らねぇ?」
「内容による」
黄金の瞳が、信じされないほどの愛らしさでシンを見上げてくる。
身長はアーシェの方が少し高いのに、座高はほぼ同じというのが、たまにシンを苛つかせる。
「だってさぁ、最近働かされすぎじゃね? 俺ら。
いくら有能だからって、まだ学生なんだから、学業が疎かになるほど任務を与えられるって、おかしくね?」
正論に、シンが返す。
「で?」
「……シンとイチャイチャする時間を作りたかったから。
学校でももうわかってるってのに補講とかで時間とられるし。案件のある基地だとフツーに任務振られるし。
任務放っておくと、シン、怒るし。
暇な基地なら、いいかなって思って……」
同じくらいの座高なのに、なぜ上目遣いされているのか。
しかもこの顔は、マズイことしたのはわかってるけど、多分許してくれるよね、とわかっている顔だ。
事実なだけに、とてもムカつく。
「私の軍人としてのキャリアに瑕をつけてまでやること?」
アーシェといる限り今さら感のとこだけれど、一応抗議はしてみる。
「だってさぁ、武功なんていつでも立てられるけどさ、シンと過ごす18歳の日々は二度となかったりするわけだし……」
いたずらの言い訳を並べて、一生懸命母親の機嫌をとろうとする子どものような必死さに、心臓はキュンキュンと音をたてているが、外見は『不本意』顔を保った。
アーシェが眉尻を下げた顔で覗き込んでくる。
視線の外から女性士官の黄色い声や、男性士官たちの何かが抑えきれなくなった咳が聞こえてきている。
「有罪?」
あざと可愛い上目遣いに表情筋だけは屈することなく、シンは厳かに告げた。
「有罪」
「あーーっ」
罰として、アーシェが最後に残していた、デザートのチョコレートプリンを没収した。
胸焼けがするほど、甘かった。
開口一番、アーシェがいった。
それはそうだろうな、とシンも思った。
大体アーシェが実家の『意向』に沿って動く人間だったら、こんな辺境の基地に赴任させられることはなかったし、シンとの『お付き合い』も継続してはいない。
(実際シンは幾度かアーシェの実家の『ご意向』を伝えられたことがあるが、爽やかにスルーしている。)
得意分野を交換して任務にあたったあと、アーシェとシンは士官食堂で落ち合った。
軍隊というところは、完全な階級社会であるため、士官専用の施設が存在する。
逆に『兵士専用』の施設は公式にはないが、その施設に士官が入れば、『道理を説いて丁寧にお引き取り』いただくのが軍隊の常識だ。
士官食堂では、司令官など幹部主催の正式な晩餐であれば礼装が必須だが、普段の夕食であれば制服を着用してさえいればいい。
なのでシンは仕事を終えたそのまま、アーシェは活動服から着替えた制服で席に着いている。
時間も夕食時なこともあり、席は8割方埋まっている。
アーシェの声は衆目を集めたが、本人がぐるりと見回すと、目を合わせる者はおらず逸らされた。
「そうはいってもねぇ、司令官殿としては自分の部下にシリル家の者がいるってのが落ち着かないんだろうね」
一応常識人ぶったシンがいう。
「それこそマジで知らねー。
大体、銀河連邦宇宙軍本部で石を投げれば、家の奴かなんか関係してるヤツに当てられるだろうーし」
それは軍内部でたまに聞く、シリル家に対する戯言だが、実際そうらしい。
「ま、本部の地球系が全部が全部ウチってわけじゃねーけどな。にしてもウザいな。ちょっと黙っとくよういわせとくか?」
「誰から?」
相手は痩せても枯れても、この基地の最高指揮官だ。
「あ? ここの方面本部にいるヤツ」
シンには嫌な予感しかなかった。
「それって、君よりだいぶ年上で、軍人としての階位も上で、だけど家の序列だけは君より下、って人?」
「そ」
アーシェは当たり前の顔でいって、チーズハンバーグを口に入れた。
子ども舌のくせに、所作は上品だ。
育ちの良さというのは、こういうところに出るのだろうなぁ、と庶民育ちのシンは常々感じている。
口の中のものをしっかり飲み込んでから、アーシェが口を開いた。
「ま、俺を動かしたんだから、なんかしらの思惑はあるんだろうけど、ウチなんて魑魅魍魎の跳梁跋扈だからな。ある奴の利益が別の奴の不利益なんてザラだし。
俺は俺の思惑でしか動く気ねーし」
家柄があるというのも大変だなぁ、と思いつつ、聞き流せないフレーズがあった。
「え? 私達の赴任って、この間のちょっとした騒動の反省を促すため、じゃないの?」
シンはそのつもりだった。
ちょっとした騒動については原因は完全に相手側にあるし、アーシェがはしゃぎすぎてしまったのを止めきれなかった責任だけは、やむを得ず取らざるを得ないな、というのがシンの認識だった。
アーシェからすれば、『お前、煽り散らかしてたじゃんっ』という意見もあった。
シンの追求に、アーシェはわかりやすく目を逸らせた。完璧な形の唇を尖らせて、口笛の真似をして息を出している。
『口笛が吹けないくせに一丁前に吹くまねをするアーシェ』はシンの中で結構上位にいる萌ポイントだ。
絶対調子づくから、本人にはいわないけれど。絶対。
これは自分に非があって、バレたら怒られるとわかっているときの仕草だ。
「アーシェ」
シンの声に、ごまかされてはもらえないと悟り、アーシェはシンを見た。
「いっても怒らねぇ?」
「内容による」
黄金の瞳が、信じされないほどの愛らしさでシンを見上げてくる。
身長はアーシェの方が少し高いのに、座高はほぼ同じというのが、たまにシンを苛つかせる。
「だってさぁ、最近働かされすぎじゃね? 俺ら。
いくら有能だからって、まだ学生なんだから、学業が疎かになるほど任務を与えられるって、おかしくね?」
正論に、シンが返す。
「で?」
「……シンとイチャイチャする時間を作りたかったから。
学校でももうわかってるってのに補講とかで時間とられるし。案件のある基地だとフツーに任務振られるし。
任務放っておくと、シン、怒るし。
暇な基地なら、いいかなって思って……」
同じくらいの座高なのに、なぜ上目遣いされているのか。
しかもこの顔は、マズイことしたのはわかってるけど、多分許してくれるよね、とわかっている顔だ。
事実なだけに、とてもムカつく。
「私の軍人としてのキャリアに瑕をつけてまでやること?」
アーシェといる限り今さら感のとこだけれど、一応抗議はしてみる。
「だってさぁ、武功なんていつでも立てられるけどさ、シンと過ごす18歳の日々は二度となかったりするわけだし……」
いたずらの言い訳を並べて、一生懸命母親の機嫌をとろうとする子どものような必死さに、心臓はキュンキュンと音をたてているが、外見は『不本意』顔を保った。
アーシェが眉尻を下げた顔で覗き込んでくる。
視線の外から女性士官の黄色い声や、男性士官たちの何かが抑えきれなくなった咳が聞こえてきている。
「有罪?」
あざと可愛い上目遣いに表情筋だけは屈することなく、シンは厳かに告げた。
「有罪」
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胸焼けがするほど、甘かった。
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