あなたは私の、輝ける星 ーーYou're My Only Shinin' Starーー

藍川 東

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「忙」話休題

 惑星クレイアの駐屯基地に配属されて1か月。
 オープンスペースでシンはいささか不思議そうな顔で、自分のPCの前に座っていた。
 シンの意識がPCにしか向いていないことを察し、斜向かいにいたアーシェが声をかけてくる。
(ちなみに、始めは隣同士で作業していたのだが、アーシェが机の下からも上からもちょっかいを掛けてくるので、斜向かいに追いやられた。)
「どうかしたのかよ」
「ん? 異動辞令が来てないな、って思って」
 シンの意識の一部が自分に向けられたことにやや満足し、ついでにもっとその領域を広げるべく、アーシェはシンの後ろにまわり、あごでシンの肩をグリグリとした。
「オキャクサン、凝ってマスネー」
「ふざけるな。良質の筋肉は柔らかいだろ?」
「うん。いつまでもウニウニしてたい」
「どっちなの」
 とりあえずの手癖で、シンはアーシェの柔らかい髪を撫でる。
 指の間を滑る感触が気持ちいい。
 その感覚に浸っていたいが、少し検討が必要な案件だ。
「来ないんだよ、異動辞令」
「あ? 俺らいま島流し中じゃん」
「こら、アーシェ。宇宙軍の赴任地に規模の大小はあっても、軍人として高低をつけるものじゃないからね」
「戦略上の重要拠点と、戦闘回数ゼロの弱小基地じゃ、何もかも違うだろ?」
「それでも、だよ。どんな場所にいようとも、どんな任務であろうとも、宇宙軍の軍人として最善を尽くすと、入隊のとき宣誓しただろう? それを忘れてはいけないよ」
 通りすがりにシンの言葉を聞いた兵士が、
(そうだっ。僻地の基地だからといって、軍人の誇りを忘れてはならないっ)
 と感動し、足早に仕事に向かっていくのが数人現れた。
 知らぬ間に、クレイア駐屯基地の戦意を向上させていた。
 しかし、本人はいたって平常運転だ。
「んでも、シンにとってどーでもいい基地とか任務とかあるだろ?」
「それはそうだよ。この基地の存在意義ってなんなんだろうね」
 労働意欲を一気にマイナスまで下降させる一撃である。
 幸い、この言葉が聞こえる範囲にはアーシェしかいなかった。
「とにかく、住居の移転を伴う異動辞令は、1か月前に発令されるのは知っているだろう?」
「そうだっけ?」
 しれっと答えたアーシェに、シンがデコピンする。
「痛っったっ。頭蓋骨割れたらどうすんだよっ」
「きれいだろうから、復元して大事に飾っておくよ」
「……最終的には、それも惹かれる」
 アーシェが真顔で呟いた。
「おバカ。フレッシュ生身の方がいいに決まってるだろ。
 ほら、話がズレちゃったじゃないか。
 異動辞令が来ていないんだよ、私たちの」
 シンが業務連絡のMBメールボックスを開く。
「来てないな」
 速読したアーシェがいった。
「だろう? まったく人事部のミスじゃないかな」
 まったく正しいことをいっている顔で、シンが嘆く。
「なんで?」
「なんでって、1か月後には連絡船が来て、この惑星から出るだろう? まだ来てないのは、遅いんじゃないかな」
 アーシェがこてんと首をかしげる。
 子供っぽい仕草といわれるが、シンが覿面に和むのでOKである。
 今回も眉間のシワが取れて、愛しい者を見る笑みに変わった。
「なんで?」
 重ねてのアーシェの問いかけに、この世の摂理を解くようにシンは答えた。
「私たちふたりをこんな戦略的価値もない辺境のド田舎基地に追いやって、やってもやらなくてもいいような仕事をさせるほど、宇宙軍の人材は豊かじゃないだろう?」
 本当に心の底から真剣に思ってます、という顔でシンはいった。
 このひとことでこの基地すべてと宇宙軍上層部にガッツリ喧嘩を売っているが、本人は本当に、心の底からそう思っているのだ。
 同意しか求めていない遮光グラス越しの瞳に、アーシェは満面の笑みで答えた。
「そうだよな。俺たちふたりバディだし」
 サングラスに当たらないように、頬をシンの頬に擦り付ける。
 いつものこと、とシンはそのままPCで業務を続ける。

 その姿を見てどちらか一方を『推し』ている兵士たちは、それぞれ心で叫び声を上げた。
『テクラダ特務少佐っ。シリル特務少佐とあんな近くてっ。しかもほっぺたスリスリなんて、羨ましすぎますっ。私もいつスリスリされてもいいよに、頬を磨きあげますっ』
『シリル特務少佐殿っ。テクラダ特務少佐殿に頭を撫でていただけるなど、羨ましすぎますっ。自分もいつかテクラダ特務少佐に認めていただけるよう、筋肉を鍛えていきますっ』

『……っっ。いいっっ』
 その他、一部の女性兵士とごく一部の男性兵士たちは脳内麻薬を大量生成した。
 内容は、彼女ら彼らの脳内にとどめ置かれた、同好の士の間ではメール回線が加熱したという。
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