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31 路面店の出店計画(1)

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 カフェ店舗のオープン計画は、着々進んでいった。
 サルヴァドール侯爵の友人の新興貴族やブルジョワたちも、テラスカフェを視察してスポンサーになってくれると申し出てくれた。結局、サルヴァドール侯爵を含めて十人の後援者が集まったことになる。
 これだけいれば、初期投資の費用としては十分だが、失敗したときのために実家にもお小遣いをせびってみる。
『流行のドレスを着た令嬢たちが素敵な殿方と仲睦まじくしているのを見ると、心が締めつけられるようです……社交費用を追加でいただけないのでしたら、わたくしは修道院で神の花嫁になりとうございます』
 要するに王都は物価が高く、ご令嬢たちとの社交にお金がかかる。
 月々送金いただいているもの以外にも、グラストン侯爵家から受け取った慰謝料があるのだから、その範囲内で融通して頂けないか、と――。
(まぁ、エルフィネス伯爵はケチじゃないから大丈夫でしょう!)
 そう思って、にやにやしているとマドレーヌがやってきた。
「お嬢様、月締めの帳簿を確認してくださ……え、どうしたのですか?」
「いえ、お小遣いをもう少しもらおうと思って」
 そう言いながら、私はマドレーヌから帳簿を受け取った。
「今のままでも、十分じゃございませんか! だって、お嬢様は王都に来てからドレス一枚あつらえてないでしょうに」
「むしろ、要らない宝石を売ったりしたわよ。だって、お菓子の材料を買うにも資金が必要だったんだもの……まあ、今じゃ利益で宝石なんて自腹で買えるけど、新しくお店をオープンするから余裕があったほうがいいと思って」
 マドレーヌは、私の手紙を覗き見て深く嘆息した。
「カタリナお嬢様、いい度胸していらっしゃいますねぇ。旦那様を相手にゆするだなんて……」
「人聞きの悪いこと言わないでよ! 予想外にあなたのチップが高騰しているからっていうのもあるんだから!」
「ふふ、仕方ありませんよ。伯爵家と取り交わした雇用契約の範囲外のこともやらされているんですから」
「そう言われると文句言えないけどさぁ……」
 唇を尖らせながら、蜜蝋を使って手紙に封をした。
 たしかに、マドレーヌは昼夜問わず働いてくれている。
 カフェの従業員の新人教育から実務、売上の集計と帳簿付け、屋敷に戻ったあとは新規店舗のポスター案の作成やメニュー表の準備までお願いしているのだ。
 前世の常識で考えても、求めるものがマルチタスクすぎる。
 さながら、そんなことを要求している私は、ブラック企業のワンマン社長というところか……。
「うーん……マドレーヌが過労死したらまずいから、路面店を始めたらテラスカフェのほうはやめようかしら?」
「えっ、もったいない! それこそ、ホテル側に売るべきじゃないですか!?」
 私の呟きから、また違うプロジェクトの芽が生まれる。
 ホテルのテラスカフェのオープンから、二ヵ月ほどが経とうとしている。
 その間の収益はかなり安定したものになっている。天気による売り上げの変化など、私は自分が後から見てわかるように前世の表計算ソフトを思い出しつつ、グラフを使ってまとめていた。
 それと、私が作ったメニューのレシピ、マドレーヌの描いたイラストが載ったポスターやメニュー表。
 それらを合わせて、事業家に売ればそれなりの収益になるのではないだろうか?

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