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第四章 終焉の神
6 優勝者の望み
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何組かの試合が終わり、勝ち残った者達の五戦目が始まった。騎士ばかりが残るかと思いきや、意外にも一般参加の戦士も勝ち残っているので、街の人々の興奮の度合いも高い。
たくさんの観客が試合を観ているが、どうやら誰が勝つかの賭けも行われているらしい。熱が上がりすぎて喧嘩しだす輩もいて、警備の騎士達もあちらこちらと静止に忙しそうだ。
王の目の前ではレアルーダとリアムの戦いが繰り広げられている。年若いリアムは俊敏に動いてレアルーダの攻撃をかわしているが、隙のないレアルーダに斬り込むことができずに苦戦していた。反対にレアルーダの方はリアムの攻撃を完全に読んでいるようで、戦いを楽しむ余裕さえ感じさせる。
「凄い。リアムが遊ばれてる」
「レアルーダはエルガルフが鍛えた騎士だからね」
ギルバート王がエルディアにそう教えた。
「初耳です」
「彼は従騎士ではなく養成学校生だったから、甥というのもあってよく合間にエルガルフが剣を教えていたんだよ」
これはそろそろ決着が着くだろう。残念だがレアルーダに軍配が上がるに違いない。
そう考えて溜息をついた時、リュシエラ王女が眼下を見てエルディアをつついた。
「ロイゼルド様が来てますわよ。行かなくていいの?」
「行きます。陛下、殿下方、失礼します。リズ、行こう」
エルディアはリゼットの手を引いて、階下へ走って出て行く。
警備の騎士達が軍服姿のエルディアを見て少し驚いた様に固まったが、リゼットが優雅に微笑むとすんなりと道を開けてくれた。
下の広場に出ると、たくさんの人がひしめき合うように試合の様子を見ている。二人はその合間をぬう様に進んでようやく目的の場所へ辿り着いた。
「ロイ!」
声をかけると、ちょうどリアムが試合の結果をロイゼルドに報告しているところだった。
「団長、負けました」
「俺が来るまで残っていただけ褒めてやる」
悔しそうなリアムにロイゼルドはニヤッと笑って肩を叩く。早々に負けていれば罰を与えていたが、と付け加えた。そこそこ良いところまで残ったので、騎士団の面子は保たれただろう。
「次はあいつに勝てる様に稽古に励めよ」
「……はい」
エルディアとリゼットがリアムに駆け寄ると、ロイゼルドは慰め役が来たと言って、リアムを二人に任せてもう一方の試合会場を観に行ってしまった。
「リアム、お疲れ!」
「頑張りましたわね」
二人のねぎらいに、リアムは髪をわしわし掻いてぼやく。
「くっそ、シードの兄貴強すぎる」
「すごく強かったね。普段他の騎士団の人とこんな試合出来ないから楽しい。リアム面白かった?」
「……面白いっちゃ面白かったけど、やっぱり勝ちたかった」
ぐぬう、と唸るリアムにエルディアが首を傾げる。
「そんなに女の子にモテたかったの?」
リゼットが、ああ、それですの?と納得しかけるのを、リアムが慌てて否定する。
「ちげえよ!これ勝ったらウィードと当たるんだったんだ。残ってる奴で強いのは、もうあいつくらいだからな」
こちら側の組の決勝はレアルーダとウィードの対戦になりそうだ。
もう一つの組にはカルシードがいる。
「あっちはもう決勝?しまった、シードが残ってたのに」
それでロイゼルドはさっさと行ってしまったのか。見損ねた、と向こうを背伸びして見ると、ロイゼルドがすたすたと戻ってくるのが見えた。
エルディアが走り寄ると、彼は肩をすくめて苦笑いした。
「赤鷲騎士団の騎士が勝った」
「負けたの?シードは?」
「怪我をして救護所に運ばれた」
「え?大丈夫?」
「籠手で剣を受けた時に腕を切った。折れていたかもしれんが、アーヴァイン殿とルフィがいたから大丈夫だろう」
試合が始まってからずっとエルフェルムの姿を見ていないと思ったら、治療の手伝いに行っているらしい。
「赤鷲のユリウスか。殿下が欲しがっていたが、なるほどな」
ロイゼルドが呟いている。
エルディアは珍しくロイゼルドが褒めているので気になった。
「強いの?その人」
「ああ、かなり戦い慣れてる。最後の試合はユリウスとレアルーダだろう。戦いの参考によく見ているといい」
そこまで言って、はたと気が付きエルディアの顔をじっと見る。
それから彼は手で顔を覆うと、はーっと深く溜息をついた。
「これだから駄目なんだろうな」
「え?何が?」
「いやいい。こっちの話だ」
どうにも色気がないのは仕事のせいだ、とロイゼルドはぼやく。
同じ騎士団にいるせいで、どうしても男のように扱ってしまう。いつまでたっても師匠と弟子のままなのは、こういうところが原因だ。
王太子殿下も罪な事をしてくれる、と半分恨みつつ、ロイゼルドはエルディアの頭をぽんぽんと撫でた。
ロイゼルドの予想通り、御前試合の最後は赤鷲騎士団のユリウスと白狼騎士団のレアルーダの戦いで終わった。どちらも二十代半ば、玄人同士の試合は接戦ののち、ユリウスに軍配が上がった。
半ば騎士団同士の合戦状態になっていた会場は、王者がどちらか決定すると、赤鷲騎士団の大歓声と悔しがる白狼騎士団の溜息とに包まれた。されど他の観客達は勝敗を他所に、稀に見る巧みな剣技を見せた二人に惜しみない称賛の声をかけた。
優勝者には金貨五百枚が与えられ、国王より望みの品を賜ることが出来ることになっている。
「望むものを言ってみよ」
ギルバート王の言葉に片膝をついた黒髪金眼の美丈夫は、王の瞳をまっすぐ見上げ朗々とした声で答えた。
「王太子殿下に選ばれた鷲獅子騎士団の、双子の騎士と手合わせしたいと思っております」
たくさんの観客が試合を観ているが、どうやら誰が勝つかの賭けも行われているらしい。熱が上がりすぎて喧嘩しだす輩もいて、警備の騎士達もあちらこちらと静止に忙しそうだ。
王の目の前ではレアルーダとリアムの戦いが繰り広げられている。年若いリアムは俊敏に動いてレアルーダの攻撃をかわしているが、隙のないレアルーダに斬り込むことができずに苦戦していた。反対にレアルーダの方はリアムの攻撃を完全に読んでいるようで、戦いを楽しむ余裕さえ感じさせる。
「凄い。リアムが遊ばれてる」
「レアルーダはエルガルフが鍛えた騎士だからね」
ギルバート王がエルディアにそう教えた。
「初耳です」
「彼は従騎士ではなく養成学校生だったから、甥というのもあってよく合間にエルガルフが剣を教えていたんだよ」
これはそろそろ決着が着くだろう。残念だがレアルーダに軍配が上がるに違いない。
そう考えて溜息をついた時、リュシエラ王女が眼下を見てエルディアをつついた。
「ロイゼルド様が来てますわよ。行かなくていいの?」
「行きます。陛下、殿下方、失礼します。リズ、行こう」
エルディアはリゼットの手を引いて、階下へ走って出て行く。
警備の騎士達が軍服姿のエルディアを見て少し驚いた様に固まったが、リゼットが優雅に微笑むとすんなりと道を開けてくれた。
下の広場に出ると、たくさんの人がひしめき合うように試合の様子を見ている。二人はその合間をぬう様に進んでようやく目的の場所へ辿り着いた。
「ロイ!」
声をかけると、ちょうどリアムが試合の結果をロイゼルドに報告しているところだった。
「団長、負けました」
「俺が来るまで残っていただけ褒めてやる」
悔しそうなリアムにロイゼルドはニヤッと笑って肩を叩く。早々に負けていれば罰を与えていたが、と付け加えた。そこそこ良いところまで残ったので、騎士団の面子は保たれただろう。
「次はあいつに勝てる様に稽古に励めよ」
「……はい」
エルディアとリゼットがリアムに駆け寄ると、ロイゼルドは慰め役が来たと言って、リアムを二人に任せてもう一方の試合会場を観に行ってしまった。
「リアム、お疲れ!」
「頑張りましたわね」
二人のねぎらいに、リアムは髪をわしわし掻いてぼやく。
「くっそ、シードの兄貴強すぎる」
「すごく強かったね。普段他の騎士団の人とこんな試合出来ないから楽しい。リアム面白かった?」
「……面白いっちゃ面白かったけど、やっぱり勝ちたかった」
ぐぬう、と唸るリアムにエルディアが首を傾げる。
「そんなに女の子にモテたかったの?」
リゼットが、ああ、それですの?と納得しかけるのを、リアムが慌てて否定する。
「ちげえよ!これ勝ったらウィードと当たるんだったんだ。残ってる奴で強いのは、もうあいつくらいだからな」
こちら側の組の決勝はレアルーダとウィードの対戦になりそうだ。
もう一つの組にはカルシードがいる。
「あっちはもう決勝?しまった、シードが残ってたのに」
それでロイゼルドはさっさと行ってしまったのか。見損ねた、と向こうを背伸びして見ると、ロイゼルドがすたすたと戻ってくるのが見えた。
エルディアが走り寄ると、彼は肩をすくめて苦笑いした。
「赤鷲騎士団の騎士が勝った」
「負けたの?シードは?」
「怪我をして救護所に運ばれた」
「え?大丈夫?」
「籠手で剣を受けた時に腕を切った。折れていたかもしれんが、アーヴァイン殿とルフィがいたから大丈夫だろう」
試合が始まってからずっとエルフェルムの姿を見ていないと思ったら、治療の手伝いに行っているらしい。
「赤鷲のユリウスか。殿下が欲しがっていたが、なるほどな」
ロイゼルドが呟いている。
エルディアは珍しくロイゼルドが褒めているので気になった。
「強いの?その人」
「ああ、かなり戦い慣れてる。最後の試合はユリウスとレアルーダだろう。戦いの参考によく見ているといい」
そこまで言って、はたと気が付きエルディアの顔をじっと見る。
それから彼は手で顔を覆うと、はーっと深く溜息をついた。
「これだから駄目なんだろうな」
「え?何が?」
「いやいい。こっちの話だ」
どうにも色気がないのは仕事のせいだ、とロイゼルドはぼやく。
同じ騎士団にいるせいで、どうしても男のように扱ってしまう。いつまでたっても師匠と弟子のままなのは、こういうところが原因だ。
王太子殿下も罪な事をしてくれる、と半分恨みつつ、ロイゼルドはエルディアの頭をぽんぽんと撫でた。
ロイゼルドの予想通り、御前試合の最後は赤鷲騎士団のユリウスと白狼騎士団のレアルーダの戦いで終わった。どちらも二十代半ば、玄人同士の試合は接戦ののち、ユリウスに軍配が上がった。
半ば騎士団同士の合戦状態になっていた会場は、王者がどちらか決定すると、赤鷲騎士団の大歓声と悔しがる白狼騎士団の溜息とに包まれた。されど他の観客達は勝敗を他所に、稀に見る巧みな剣技を見せた二人に惜しみない称賛の声をかけた。
優勝者には金貨五百枚が与えられ、国王より望みの品を賜ることが出来ることになっている。
「望むものを言ってみよ」
ギルバート王の言葉に片膝をついた黒髪金眼の美丈夫は、王の瞳をまっすぐ見上げ朗々とした声で答えた。
「王太子殿下に選ばれた鷲獅子騎士団の、双子の騎士と手合わせしたいと思っております」
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