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第四章 終焉の神
7 褒賞試合
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「双子の騎士と勝負がしたいと?望みはそれが良いと言うのか」
ギルバート王は少し困った様に首を捻る。
王が眼下の観客席を見やると、先程まで一緒に観戦していた少女は目立つ金髪のためすぐに見つけることができた。
彼女は栗茶の髪の背の高い青年の横で、何が起こっているのかわからない様子できょとんとユリウスを見ている。
王太子がバルコニーから降りてくる。
人垣が波が割れるように道を作り、その間をゆったりと歩いて来た彼は赤鷲の騎士の前に立った。
「希望の褒賞が更なる勝負とは、さすがユリウスだね」
膝をついたまま王太子の声を受けた騎士は微笑を浮かべ、その金の瞳で主を見返す。
「この御前試合には参加されておられず残念に思っておりました。殿下は彼等の為に鷲獅子騎士団をつくられたとも皆が噂をしております。王と国を守ることが騎士の役目。その実力がどれほどのものか、日々戦いに身を置くものとして不肖ながら試してみとうございます」
言葉は丁寧だが、要は鳴り物入りで入団した彼等の能力を疑っていると言いたいのだろう。
エルフェルムはロイゼルドの従騎士をしていた経歴があり、トルポント王国との戦いで魔物と呼ばれた事を知るものも一部いる。しかし、エルディアは騎士養成学校生でも従騎士でもなかった。
十七の少女が騎士団に入る。同じ歳の少年達は、およそその位の年に養成学校を卒業し正騎士となる。だが、魔術師団に護られていただけの貴族の少女に、同じだけの力があるとは思わないのが普通だ。
鷲獅子騎士団には数名の魔術師もいる。だが、彼等は幾度も戦や討伐に参加し、既に実績のある者ばかりだった。
王太子の気まぐれではないか?レンブルにいた者以外は、そう思っている者も少なくはないということだろう。
エルディアを守るように後ろに押しやり、ロイゼルドが進み出る。
「私が相手をしよう。騎士団の人選に疑念があるのであれば、団長の私にも責任がある」
それをアストラルドは片手を上げて押し留めた。
「エルフェルムは今、負傷者の治療にあたっているようだ。エルディア、どうだろう?このユリウスと試合をしてみるかい?」
エルディアを振り返り、アストラルドはまるでボードゲームでもするかの様に軽く言う。さすがにユリウスの方が疑問を呈した。
「彼女一人で?」
「彼等二人を同時に相手にするつもりだったのかい?それはやめた方がいい」
何を言うのかと肩をすくめ、王太子はふんわり笑って少女に確認する。
「ルディ、大丈夫だろう?」
「勿論です」
露ほどの躊躇いもなく、エルディアは答えた。
ロイゼルドが慌ててエルディアをつつく。
(あいつは剣では俺でも勝てるかどうかわからん相手だぞ)
(観ているだけじゃつまんなかったし、殿下も許可してる。ね?)
渋い顔で止めるロイゼルドに、きらきらと期待を込めた目で訴える。
王太子と本人にやると言われては、鷲獅子騎士団の団長も頷くしかない。
エルディアも好奇心だけで戦いたいと言っているわけではなかった。女である事を理由に能力を疑われるのであれば、実際の実力を見せるに限る。
特に軍のような力を尊ぶ集団では。
「魔術は使っても?」
アストラルドに確認をとる。
「攻撃魔法は禁止。他は自由に」
「わかりました」
頷く顔は真剣だが、内心エルディアはわくわくしている。
ペロリと唇を舐めてエルディアは、防具を渡そうと持って来た騎士に要らないと声を掛けた。魔術が使えるのなら、動きを遮るものは出来るだけはぶきたい。
アーヴァインの命令で試合場を囲むように配置されていた魔石が外へ向けられた。
内側を囲むように張られていた魔法封じの結界が、今度は観客を守るために張られる。
「念のためだが、暴発させるなよ」
そう言ってアーヴァインはエルディアに釘を刺す。
そして周囲が注目する中、彼女は黒髪の騎士の待つ試合場の中央へ歩いて行った。
屈強な男に対峙するその姿は、あまりに細く可憐だ。黄金の髪の美しい少女の姿は軍服に身を包んでいるとはいえ、この場にはとても不似合いに見えた。
見守る人々の間から、あんまりではないかと言う囁きが聞こえて来る。
だが、彼女は全く怖じることなく、手慣れた様子で腰の剣をゆっくりと鞘から引き抜いた。強化魔法を身体に掛けると、少しだけ剣の重みが軽くなる。
エメラルドの瞳は一片の恐れも抱いていない。
むしろ、純粋に戦いを楽しむかのように、薄く唇の端は弧を描いている。
彼女が右手で剣を構えた瞬間に、その纏う空気がガラリと変わった。本物の殺気が金の髪に纏わりつくように漂いはじめる。
剣呑な気配にユリウスはニヤリと笑った。
「ほう……魔術師と聞いていたが、お嬢さん、実戦の経験があるようだ。その細腕で何人殺った?」
「聞かないでよ。自慢するものじゃない。でも試合は好きだよ。特に貴方のように強い人とは」
生意気とも言える返答に、ユリウスはヒュウと口笛を吹いた。
「面白い。行くぞ」
「いつでも」
キイン
高い金属音をあげて二本の剣がぶつかり合う。
「止めた!」
見ているの者達の間から驚きの声が上がる。
二度、三度と打ち合わせ、その度にエルディアは正面からユリウスの鋭い刃を受け止め斬り返す。
体格差は誰が見ても明らかだ。
腕の太さも倍以上違う。
なのに、このしなやかな猫のような少女が、獰猛な虎の爪を軽々と受け止め、跳ね返している。
「……」
軽口が消えた騎士にエルディアが揶揄するように尋ねる。
「魔術師と戦うのは初めてだった?」
暗に身体強化している事を伝える。
「これが私の戦い方だよ。貴方の本気も出してよ」
見たいな、そう言って今度はエルディアが相手に斬り込み、正面から袈裟懸けに剣を振るう。難なく受け止めたユリウスは、心底楽しそうに笑った。
「重いな。これが強化魔法か」
ギリギリと押し合う力はほぼ互角。
自分の倍の体重はあろうと思われる相手に押し負けない力は、とても常識では考えられない。
「これはいい。殿下の資質を疑う愚を犯すところだった」
胴を薙ぐように振るわれた剣を、ふわり飛び越えてユリウスの背後へまわる。
「軽い!」
感嘆の吐息を斬撃の呼吸に変えて、ユリウスが躍りかかる。
立て続けに打ち合わされる剣が、青い火花をあげる。
(早い!さすが)
王国騎士団最強と呼べる勝者の剣はどこまでも鋭く正確だ。
こちらの隙を狙い、幾度も喰らい付いてくる。
体術にも剣術にも自信があったエルディアだが、打撃を重ねるにつれ、自分の動きを読まれまいとするのに苦心するようになった。
視線の動き、ちょっとしたステップで、何処を狙うか悟られている。
(これは長引くと不利だ)
経験の差か。
彼は相手の動きの癖を読むことに長けている。
エルディアは一気に身体に掛けた強化魔法を強めた。風のようにスピードが上がる。地面を強く蹴り、身体を低くして突き込まれる剣を避け、彼の懐に飛び込んだ。
ユリウスの目前に剣が迫る。驚く彼の瞳が見開かれた。
その時、金の瞳が光った気がした。
彼の姿が白い光で一瞬霞む。
チリリ
どこかで小さい金音の様な音が鳴った。
エルディアが咄嗟に自らの前面に結界を張る。結界にぶつかった白い光は、パリパリと氷の割れる様な音をたてて弾けて消えた。
ギルバート王は少し困った様に首を捻る。
王が眼下の観客席を見やると、先程まで一緒に観戦していた少女は目立つ金髪のためすぐに見つけることができた。
彼女は栗茶の髪の背の高い青年の横で、何が起こっているのかわからない様子できょとんとユリウスを見ている。
王太子がバルコニーから降りてくる。
人垣が波が割れるように道を作り、その間をゆったりと歩いて来た彼は赤鷲の騎士の前に立った。
「希望の褒賞が更なる勝負とは、さすがユリウスだね」
膝をついたまま王太子の声を受けた騎士は微笑を浮かべ、その金の瞳で主を見返す。
「この御前試合には参加されておられず残念に思っておりました。殿下は彼等の為に鷲獅子騎士団をつくられたとも皆が噂をしております。王と国を守ることが騎士の役目。その実力がどれほどのものか、日々戦いに身を置くものとして不肖ながら試してみとうございます」
言葉は丁寧だが、要は鳴り物入りで入団した彼等の能力を疑っていると言いたいのだろう。
エルフェルムはロイゼルドの従騎士をしていた経歴があり、トルポント王国との戦いで魔物と呼ばれた事を知るものも一部いる。しかし、エルディアは騎士養成学校生でも従騎士でもなかった。
十七の少女が騎士団に入る。同じ歳の少年達は、およそその位の年に養成学校を卒業し正騎士となる。だが、魔術師団に護られていただけの貴族の少女に、同じだけの力があるとは思わないのが普通だ。
鷲獅子騎士団には数名の魔術師もいる。だが、彼等は幾度も戦や討伐に参加し、既に実績のある者ばかりだった。
王太子の気まぐれではないか?レンブルにいた者以外は、そう思っている者も少なくはないということだろう。
エルディアを守るように後ろに押しやり、ロイゼルドが進み出る。
「私が相手をしよう。騎士団の人選に疑念があるのであれば、団長の私にも責任がある」
それをアストラルドは片手を上げて押し留めた。
「エルフェルムは今、負傷者の治療にあたっているようだ。エルディア、どうだろう?このユリウスと試合をしてみるかい?」
エルディアを振り返り、アストラルドはまるでボードゲームでもするかの様に軽く言う。さすがにユリウスの方が疑問を呈した。
「彼女一人で?」
「彼等二人を同時に相手にするつもりだったのかい?それはやめた方がいい」
何を言うのかと肩をすくめ、王太子はふんわり笑って少女に確認する。
「ルディ、大丈夫だろう?」
「勿論です」
露ほどの躊躇いもなく、エルディアは答えた。
ロイゼルドが慌ててエルディアをつつく。
(あいつは剣では俺でも勝てるかどうかわからん相手だぞ)
(観ているだけじゃつまんなかったし、殿下も許可してる。ね?)
渋い顔で止めるロイゼルドに、きらきらと期待を込めた目で訴える。
王太子と本人にやると言われては、鷲獅子騎士団の団長も頷くしかない。
エルディアも好奇心だけで戦いたいと言っているわけではなかった。女である事を理由に能力を疑われるのであれば、実際の実力を見せるに限る。
特に軍のような力を尊ぶ集団では。
「魔術は使っても?」
アストラルドに確認をとる。
「攻撃魔法は禁止。他は自由に」
「わかりました」
頷く顔は真剣だが、内心エルディアはわくわくしている。
ペロリと唇を舐めてエルディアは、防具を渡そうと持って来た騎士に要らないと声を掛けた。魔術が使えるのなら、動きを遮るものは出来るだけはぶきたい。
アーヴァインの命令で試合場を囲むように配置されていた魔石が外へ向けられた。
内側を囲むように張られていた魔法封じの結界が、今度は観客を守るために張られる。
「念のためだが、暴発させるなよ」
そう言ってアーヴァインはエルディアに釘を刺す。
そして周囲が注目する中、彼女は黒髪の騎士の待つ試合場の中央へ歩いて行った。
屈強な男に対峙するその姿は、あまりに細く可憐だ。黄金の髪の美しい少女の姿は軍服に身を包んでいるとはいえ、この場にはとても不似合いに見えた。
見守る人々の間から、あんまりではないかと言う囁きが聞こえて来る。
だが、彼女は全く怖じることなく、手慣れた様子で腰の剣をゆっくりと鞘から引き抜いた。強化魔法を身体に掛けると、少しだけ剣の重みが軽くなる。
エメラルドの瞳は一片の恐れも抱いていない。
むしろ、純粋に戦いを楽しむかのように、薄く唇の端は弧を描いている。
彼女が右手で剣を構えた瞬間に、その纏う空気がガラリと変わった。本物の殺気が金の髪に纏わりつくように漂いはじめる。
剣呑な気配にユリウスはニヤリと笑った。
「ほう……魔術師と聞いていたが、お嬢さん、実戦の経験があるようだ。その細腕で何人殺った?」
「聞かないでよ。自慢するものじゃない。でも試合は好きだよ。特に貴方のように強い人とは」
生意気とも言える返答に、ユリウスはヒュウと口笛を吹いた。
「面白い。行くぞ」
「いつでも」
キイン
高い金属音をあげて二本の剣がぶつかり合う。
「止めた!」
見ているの者達の間から驚きの声が上がる。
二度、三度と打ち合わせ、その度にエルディアは正面からユリウスの鋭い刃を受け止め斬り返す。
体格差は誰が見ても明らかだ。
腕の太さも倍以上違う。
なのに、このしなやかな猫のような少女が、獰猛な虎の爪を軽々と受け止め、跳ね返している。
「……」
軽口が消えた騎士にエルディアが揶揄するように尋ねる。
「魔術師と戦うのは初めてだった?」
暗に身体強化している事を伝える。
「これが私の戦い方だよ。貴方の本気も出してよ」
見たいな、そう言って今度はエルディアが相手に斬り込み、正面から袈裟懸けに剣を振るう。難なく受け止めたユリウスは、心底楽しそうに笑った。
「重いな。これが強化魔法か」
ギリギリと押し合う力はほぼ互角。
自分の倍の体重はあろうと思われる相手に押し負けない力は、とても常識では考えられない。
「これはいい。殿下の資質を疑う愚を犯すところだった」
胴を薙ぐように振るわれた剣を、ふわり飛び越えてユリウスの背後へまわる。
「軽い!」
感嘆の吐息を斬撃の呼吸に変えて、ユリウスが躍りかかる。
立て続けに打ち合わされる剣が、青い火花をあげる。
(早い!さすが)
王国騎士団最強と呼べる勝者の剣はどこまでも鋭く正確だ。
こちらの隙を狙い、幾度も喰らい付いてくる。
体術にも剣術にも自信があったエルディアだが、打撃を重ねるにつれ、自分の動きを読まれまいとするのに苦心するようになった。
視線の動き、ちょっとしたステップで、何処を狙うか悟られている。
(これは長引くと不利だ)
経験の差か。
彼は相手の動きの癖を読むことに長けている。
エルディアは一気に身体に掛けた強化魔法を強めた。風のようにスピードが上がる。地面を強く蹴り、身体を低くして突き込まれる剣を避け、彼の懐に飛び込んだ。
ユリウスの目前に剣が迫る。驚く彼の瞳が見開かれた。
その時、金の瞳が光った気がした。
彼の姿が白い光で一瞬霞む。
チリリ
どこかで小さい金音の様な音が鳴った。
エルディアが咄嗟に自らの前面に結界を張る。結界にぶつかった白い光は、パリパリと氷の割れる様な音をたてて弾けて消えた。
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