【完結】竜の翼と風の王国

藤夜

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2 旅立ち2

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ーーーー時間は少しさかのぼる。
 
 
風が吹く。
緑の森に。
そこは見たこともないほど広い、延々と美しい緑が続いている。
遠くに街が見える。
と言っても、小さな建物の集まりみたいなもの。
でもその面積は凄く大きい。

何でわかるって?
私、風になってるみたい。
空の高いとこに漂っていて、そこから下を見下ろしている。

ああ、風が空を渡る。
私もジェットコースターに乗っているみたいに、みるみる街が近づいてくる。
これ日本じゃないわ。建物が外国してる。
街中よく似たお家ばかり。石と煉瓦で出来ている。
オレンジ色の屋根が太陽にキラキラしてる。

しいて言うなら写真で見たイタリアのフィレンツェに感じが似てるかも。
でも、中央には教会の代わりにでっかい堅牢なお城が建っている。
お城の中にはぽっかりと大きな丘があって、そのてっぺんにはギリシャの神殿みたいなのがあった。

あら?風はあの神殿に向かって吹いている。
私の身体も吸い寄せられるように近づいていく。

初めはおもちゃのようだったその神殿が、徐々に犬小屋みたいになり、自動車くらいになり、普通の家ぐらいになり………
もしかして、この神殿むちゃくちゃ大きい!

人が見えた。
大人の男の人が四、五人いる。
神父さんじゃないだろうか?
あの白くて長い服は聖職者って感じだ。

お城の方を振り返ると、門のあたりに兵隊さんが見えた。
いかにも中世ヨーロッパ風の鎧を着ている。

だんだん混乱してきた。何なんだコレ。


不意にヒヨコの声が聞こえる。
ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ
「はにゃ?」
すーっとフェードアウトする様に景色が消えて、私の意識も浮上する。
夢か。だよねー。
ピヨピヨピヨピヨピヨピヨ
ぱしぱしと枕元を何度か叩いて、ようやくヒヨコの頭に命中。
ヒヨコ型目覚まし時計は、ピヨともう一声念を押してからやっと止まった。

「んっくー!」

思い切り伸びをして起き上がる。
いつもの朝、いつもの私の部屋。
それにしても変な夢だった。いや、夢って大抵変なもんが多いけどさ。
なんとなく見たことある風景のように思うけど、気のせいだろう。テレビで見た事がある場所かもしれない。

あー、背中が痛い。
変な寝方してたのか?
 
「ルーラちゃん、朝よー」

ママの声。もうそんな時間?
よく見ると時計は七時を回っていた。
 
「やばい!」

念のために言っておくが、私は日本人だ。
もちろんハーフとかでもない。
普通の高校生だ。
名前は水城瑠羅みずきるら
昨今いうところのキラキラネームである。
近頃は読めない名前の同級生も多いので、友達もみんな慣れててルーと呼ばれている。
 
「悪いんだけど明後日までお留守番してくれない?」
朝ごはんのハムエッグをぱくつく私に、ママがにっこり笑って言った。
 
「なんでぇ?」
「パパがね、お休みとれたからって二泊三日の温泉旅行に連れて行ってくれるって。ルーちゃん学校だからね」

女子高生を一人でふた晩も留守番させるとは、なかなか度胸のある親だ。
 
「なんなら休んで一緒に行くか?一日ぐらい休んでも大丈夫だろう」

パパはそう言ってくれたけど、やっぱりお邪魔よね。そりゃあ行きたいけどさ。
 
「いいよ、二人で行ってきなよ。学校休んじゃまずいし。そのかわりお土産よろしく」
「うふふ、わかってる」
ママ顔がゆるみきってる。本当、可愛い。
うちのママは若い。今三十七歳だから、私を二十歳で産んだことになる。
パパはママより六歳年上。
年が離れているせいなのか、むちゃくちゃ仲がいい。ママ美人だし。
 
そういえば私はママには似てない。
私の髪はまっすぐストレートの黒髪だ。
ママに似てたらこの名前もピッタリくるようなふわふわ栗毛の可愛い女の子だったんだろうけどな。
 
「ごちそーさまっ!行ってきまーす」

私はそばの鞄を引っつかむ。
 
「鍵忘れないで。旅館の電話番号書いておくからねー」

後ろからママの声。
 
「はいはい」
「夜電話するからねー!」
「はぁい」

玄関の鍵のついたキーホルダーをポケットに滑り込ませて、私は外へ飛び出した。
 
 
 
テストも終わって、夏休みを待つばかりの学校はなんだか浮ついている。
真っ赤になった答案用紙が返ってくるけど、それよりみんな夏休みの計画に忙しい。

「なあ、肝試し行かないか?」

私と親友の那智が話しているところへ、クラスメイトの蓮と颯太が首を突っ込んできた。
 
「はあ?肝試し?どこへ?お寺でも行くの?」
「お前ら知らね?最近学校の裏の公園に幽霊が出るって噂」
「知らなーい」

 私達が首を振ると、蓮は二マリと笑った。

「裏の団地の人から結構目撃談が寄せられて、雑誌に写真も出たんだぜ」
「へえ、どんなの?」
「白い服を着た幽霊が空を飛んでるんだって。ふわふわと。そんで急に消えちまうらしい」
「それだけぇ?」
「ただの変質者じゃないの?」

つまんなーい。もうちょっと話すとか何かされたとかないのか。
 
「で、あんたらは何がしたいの?」

那智がじろりと二人を見る。
 
「そんな面白そうなのSNSにアップしたいじゃん?でも俺たちだけじゃ怖いなと思って」

なあ、付き合って、と拝んでくる。
 
「馬鹿じゃない?」

那智はけんもほろろにそっぽを向いたが、私はちょっと興味があった。
面白そうじゃん。幸い今夜から私はフリーだ。
一人で家にいるより楽しそう。
 
「私行ってあげてもいいよ。幽霊見てみたい」

やった、と蓮が飛び上がる。
 
「ルー本気?」

那智がしぶーい顔をしたけれど、私が頷くと仕方ないなあ、と腕を組んだ。
やっぱり一緒に来てくれるつもりだ。
 
「じゃあ、七時に学校の東のコンビニに集合な!」
「オッケー」

 ブンブン手を振った時、
 

「あ、痛」
ツクンと痛みが走った。
 
「どうかしたの?」

 那智が不思議そーに首を傾げる。
 
「なんか朝から背中痛いんだ」
「腰痛なんてババくさい」
「腰じゃないよ、せーなーか!」
「どこー?」
「肩の下の辺」

那智が背中を触って、低い声で言った。
 
「あんた、肩甲骨の上腫れてるよ。コブになってる。両方とも」
「え、嫌、嘘!」

情けない声を上げる私の肩をぺチコと叩く。
 
「ちょこっとだけよ。虫に刺されたんじゃないの?」
「両肩を?」
「あたしに聞かないでよ」

う、ごもっともです。
 
「後で薬でも塗っときな」
「うん……」

変なの。虫なんていたっけ?
網戸は閉めてたんだけどな。
 
でも、しばらくしたら痛いのも治って、私は肩のことなどすっかり忘れてしまった。
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