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12話 破壊者ラナ
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宿に戻って、依頼の成功を報告する。
クレセアさんは、僕達が無事に帰還したことを喜んでくれた。
僕は報酬の半分を受け取った。
宿代を免除してもらった僕はともかく、ソフィアさん達の懐具合は厳しい様子だった。
その夜は、ソフィアさん達と一緒に食事をすることにした。
しかし、席に着いて、すぐに僕は後悔した。
ラナはやたらと楽しそうであり、ソフィアさんもニコニコとしているが、リーザはとても不機嫌そうで、レイリスは顔を上げようともしない。
とても、楽しく食事ができる雰囲気ではなかった。
周囲の冒険者は、先日とは様子が異なる。
彼らの妬みの視線が、僕一人に集中していた。
女性だけのパーティーに加わったことが、そんなに羨ましいのだろうか?
男一人で女性に囲まれているのは、とても居心地が悪いのだが……。
「なあルーク。お前は、聖女様のパーティーに入るまで、誰と組むか決めてるのか?」
ラナが尋ねてきた。
「……いや、決めてないけど」
「だったら、あたしらと組もうぜ?」
「……まあ、君達がそれでいいなら、僕は構わないけど」
「駄目よ、そんなの」
案の定、リーザは反対した。
「そう言うなって。ルークの凄さは、今日見て分かっただろ?」
「だからよ。私達は、ルークと組んではいけないわ」
ラナが戸惑った表情をする。
リーザは、決して感情的に話しているわけではなさそうだった。
「ルーク。貴方の大精霊なら、仲間なんていなくても、大抵の依頼は簡単にこなせるわね?」
「……それは、確かにそうだけど」
「なら、貴方は一人でいるべきよ。聖女様以外とは、パーティーを組む資格がないわ」
「おい、そりゃ言い過ぎだろ!」
「なら尋ねるけど、貴方はルークと組んで、彼を頼らないって約束できる?」
「それは……仲間を頼るのは当然だろ?」
「それじゃ済まないから言ってるのよ。ルークと組んだら、大抵の人間は彼に依存してしまう。だから、私達は別々に行動した方がいいのよ」
「そんな無茶苦茶な! ソフィアさん、何か言ってくださいよ!」
「私も、ルークさんと組むことには反対です」
ソフィアさんは、にこやかな表情のまま言った。
「!?」
その場にいる全員が驚いた顔をする。
ソフィアさんが反対するとは、誰も思っていなかったのだ。
「ルークさんは強すぎるのですよ。しかも、その力をきちんと扱えていません。最悪の場合、味方を巻き添えにしてしまうかもしれないでしょう? 今のまま、誰かとパーティーを組んでも、悲惨な結果になることは目に見えています」
ソフィアさんが僕を見つめた。
今まで見たことのない、悲しげな表情をしていた。
「ルークさん。今日、私達を助けてくださったことには感謝いたします。ですが、これ以上は私達に関わらないでください。それがお互いのためです」
「そんな……」
「……待って」
突然、レイリスが言葉を発した。
ソフィアさんがキョトンとした表情になる。
「……私は、ルークと組むべきだと思う」
レイリスがそう言ったので、またしても、その場にいる全員が驚愕した。
「本当によろしいのですか?」
「……はい」
「でしたら、私は、もう反対しません。ルークさんの気が変わっていないのであれば、よろしくお願いします」
「あそこまで言っておいて、それはさすがに……」
リーザが、かなり気まずそうに言う。
「……ルーク?」
ラナも、僕の様子を窺ってきた。
「……組むよ。僕は、必ず力を制御できるようになってみせる。だから、君達にも、より良い冒険者になってほしい」
僕がそう言うと、ラナは安心した様子だった。
リーザは、雰囲気に飲まれたのか、改めて反対を訴える気はなさそうだった。
こうして、僕達はパーティーを組むことになった。
極めてギクシャクとした、最悪な雰囲気のパーティーを……。
その夜、僕はロビーにラナだけを呼び出した。
「それで、あたしに何の用なんだ?」
「実は、確認したいことがあって……。ラナは、どうしてもっと小さな武器で戦わないの?」
「その話か……」
ラナは顔を顰めた。
彼女達はそれぞれ問題を抱えているものの、戦闘に関することで、今すぐ改善できる問題を抱えているのはラナだけである。
彼女の剣は、本人の身体に対して明らかに大きい。
精霊の支援を受けているから自由に振り回せるが、そうでなければ持ち上げるだけでも一苦労なはずだ。
もっと小振りな剣に持ち替えるだけで、戦士として活躍できる可能性が高まることは明らかである。
しかし、そんな単純なことを、誰も指摘しないはずがない。
ということは、そういった指摘を拒絶するような強いこだわりを、ラナは持っていることになる。
僕としては、それを本人に確認しておきたかった。
クレセアさんに尋ねても良かったのだが、パーティーを組んだからには、直接話を聞いてみたいと思ったのだ。
「……あたしの剣が大き過ぎるのは、自分でも分かってるよ。でも、破壊者の能力を発動させるには、今の武器じゃないと駄目なんだ」
「それは、つまり……障壁を破る魔法が、小さな剣だと発動しないってこと?」
「全く発動しないわけじゃないが……威力が半減するのは間違いないな」
「でも、破壊者の力は、障壁を展開する相手以外には必要ないよね?」
「そりゃそうだけど……いざって時に、力が使えないのは困るだろ?」
「君達のパーティーには、戦士がいないじゃないか。ラナが戦士の役割を果たせれば、戦いがかなり楽になると思うんだ。だから……」
「……あたしは、戦士としては二流なんだよ」
ラナが悔しそうに言った。
「戦士の適性も調べてもらったけど、あたしには専門にできるほどのセンスがないって言われたんだ。腕力とか敏捷性とか、戦士に必要な才能が不足してるってさ。他の役割の適性も調べたけど、全部駄目で……。でも、最後に調べた破壊者としての才能だけは、専門にできるくらいあった。だから、あたしは障壁を破る力を極めるって決めたんだ」
「……だったら、せめて、もっとコンパクトに武器を振るえばいいんじゃないかな?」
「それじゃ駄目なんだよ。剣を小さくしても、振りを小さくしても、破壊者としての能力には影響があるんだ」
これは、とても困る話だった。
本来ならば、特定の条件下でなければ能力が満足に使えない、などということは起こらない。
無論、寝そべったまま魔法を使えば、普段より効力が落ちる、といったことはあり得る。
しかし、ラナの場合は条件が限定的すぎるのだ。
どうやら、彼女が大きな剣を力一杯振り回すのには、心理的な要因による能力の制限が関係しているらしい。
そういった現象自体は、他の冒険者でも起こることがある。
例えば、敵に対する恐怖心で攻撃魔法の威力が落ちる魔導師がいたり、大量の出血を見ると回復魔法の効果が落ちる回復者がいたりするのだ。
この症状に悩まされて、冒険者として伸び悩んだり、冒険者を辞める者も少なくないのである。
ラナも、症状が深刻だ。
自分が望んだ最高の状況でなければ力が出せない、となると、戦力として計算するのが極めて難しくなる。
おそらく、ラナは、自分に腕力がないことに劣等感を持っているのだろう。
だから、敵に対して強烈な一撃を当てる時以外の状況で、能力が落ちるのではないだろうか?
僕は、彼女の意外な一面を見た気がした。
普段は気楽に生きているように見えるが、かなり弱気な部分もあるようだ。
僕は決心した。
本当は使いたくない方法だったが、他に選択肢が思い浮かばなかった。
「ラナには、僕が、今よりも大きな精霊を買ってあげるよ」
「……は?」
ラナは目を丸くした。
「要するに、ラナの戦士としての能力を精霊に補ってもらえば、問題は解決するでしょ? だったら、もっとランクの高い精霊に守護してもらえば、問題は解決するよね?」
「……いや、そんな簡単な話じゃないのは、お前だって分かってるだろ! そもそも、あたしに、もっと上位の精霊が適合するのか? ていうか、金がないだろ、金が!」
ラナが言ったことは正しい。
「もっと大きな精霊が買えれば……」というのは、多くの冒険者の願望だが、そう簡単にはいかないのが現実である。
一番の問題は金だ。
精霊は高額で、Dランク以上の精霊となると、普通の冒険者の稼ぎでは買うことが難しくなってくる。
それに、精霊は、大きくなればなるほど、適合する者の数が減っていく。
それは、精霊の好みがシビアになっていくためだと言われている。
しかし、多少強引でも、今はラナを説得するしかない。
「お金は、時間をかけて何とかするよ。精霊との適合の問題は、経験さえ積めば大丈夫じゃないかな?」
「そんなに楽観的でいいのか!?」
「大丈夫だって。努力すれば、Dランク程度なら適合する精霊が見つかるって言われてるらしいから」
「……じゃあ、新しい精霊を買うまではどうするんだよ?」
「それなんだけど、ラナには小振りな剣を装備して、戦士として頑張ってほしいんだ。今は、精霊の力を腕力を補うために使ってるけど、それを他の能力に割り振れば、それなりの動きはできるはずだよ。破壊者の力は使えなくても、当分の間は、その方が活躍できると思う」
「……今よりも、足を引っ張るかもしれないぞ?」
「大丈夫だって。僕が戦いをサポートするから」
「……まあ、ルークがいれば、あたしが足手まといになっても大丈夫だよな」
一応、ラナは納得してくれた。
僕の説得が上手かったわけではなく、ソリアーチェがいれば何とかなるはずだ、という認識によるものだと思われるが、とりあえずは充分な成果だと言えるだろう。
当分の間、ラナは破壊者として活躍出来なくても良い。
これは、客観的な事実だろう。
この宿に、魔獣を狩るような依頼が来る可能性は、今のところ低い。
魔生物ならばなおさらだ。
魔法を悪用する人間と戦う機会があるかもしれないが……そもそも、障壁を破ることが出来たとしても、今のラナでは大抵の相手に敵わないはずである。
戦い方が隙だらけで、あっさりと負けることは目に見えているからだ。
ならば、せめて戦士のような戦いが出来た方がマシだろう。
ラナは、自分には戦士としての素質が欠けていると言う。
しかし僕には、ラナは充分な才能を持っているように見えるのだ。
戦士に必要な才能とは、主に、自分の身体と武器に対して補助魔法をかける能力のことである。
ラナは、破壊者として剣に魔法をかけているのだし、高速移動の魔法も使えるのだから、その条件を満たしているはずなのだ。
つまり、彼女は難しく考え過ぎている。
腕力などが多少劣っていても、精霊にそれらの能力を補ってもらえば良いだけなのだ。
ラナの精霊であるライアは、Eランクの精霊だ。
上手く活用すれば、超人的な動きをすることは可能なはずである。
だが、今は腕力の補助に力を使い過ぎているために、能力を充分に発揮していない。
能力の補助を、戦士として必要な要素に集中すれば、イノシシ一頭を一人で狩ることくらいは出来るはずである。
ラナは、剣を小振りな物に替えた。
他のメンバーは驚いた様子だったが、僕との話し合いの内容を二人で伝えると、彼女達はあっさりと受け入れた。
ラナには、障壁を破る能力にこだわるよりも、戦士の役割で戦ってほしい。
全員、本音ではそう思っていたようだ。
だったら、本人に直接言えばいいのに……。
そう思ったが、このパーティーの雰囲気では、メンバーのこだわりを覆すことは難しいのだろう。
このパーティーの人間関係も、僕が加わることで変わってくれたらいいのだが……。
クレセアさんは、僕達が無事に帰還したことを喜んでくれた。
僕は報酬の半分を受け取った。
宿代を免除してもらった僕はともかく、ソフィアさん達の懐具合は厳しい様子だった。
その夜は、ソフィアさん達と一緒に食事をすることにした。
しかし、席に着いて、すぐに僕は後悔した。
ラナはやたらと楽しそうであり、ソフィアさんもニコニコとしているが、リーザはとても不機嫌そうで、レイリスは顔を上げようともしない。
とても、楽しく食事ができる雰囲気ではなかった。
周囲の冒険者は、先日とは様子が異なる。
彼らの妬みの視線が、僕一人に集中していた。
女性だけのパーティーに加わったことが、そんなに羨ましいのだろうか?
男一人で女性に囲まれているのは、とても居心地が悪いのだが……。
「なあルーク。お前は、聖女様のパーティーに入るまで、誰と組むか決めてるのか?」
ラナが尋ねてきた。
「……いや、決めてないけど」
「だったら、あたしらと組もうぜ?」
「……まあ、君達がそれでいいなら、僕は構わないけど」
「駄目よ、そんなの」
案の定、リーザは反対した。
「そう言うなって。ルークの凄さは、今日見て分かっただろ?」
「だからよ。私達は、ルークと組んではいけないわ」
ラナが戸惑った表情をする。
リーザは、決して感情的に話しているわけではなさそうだった。
「ルーク。貴方の大精霊なら、仲間なんていなくても、大抵の依頼は簡単にこなせるわね?」
「……それは、確かにそうだけど」
「なら、貴方は一人でいるべきよ。聖女様以外とは、パーティーを組む資格がないわ」
「おい、そりゃ言い過ぎだろ!」
「なら尋ねるけど、貴方はルークと組んで、彼を頼らないって約束できる?」
「それは……仲間を頼るのは当然だろ?」
「それじゃ済まないから言ってるのよ。ルークと組んだら、大抵の人間は彼に依存してしまう。だから、私達は別々に行動した方がいいのよ」
「そんな無茶苦茶な! ソフィアさん、何か言ってくださいよ!」
「私も、ルークさんと組むことには反対です」
ソフィアさんは、にこやかな表情のまま言った。
「!?」
その場にいる全員が驚いた顔をする。
ソフィアさんが反対するとは、誰も思っていなかったのだ。
「ルークさんは強すぎるのですよ。しかも、その力をきちんと扱えていません。最悪の場合、味方を巻き添えにしてしまうかもしれないでしょう? 今のまま、誰かとパーティーを組んでも、悲惨な結果になることは目に見えています」
ソフィアさんが僕を見つめた。
今まで見たことのない、悲しげな表情をしていた。
「ルークさん。今日、私達を助けてくださったことには感謝いたします。ですが、これ以上は私達に関わらないでください。それがお互いのためです」
「そんな……」
「……待って」
突然、レイリスが言葉を発した。
ソフィアさんがキョトンとした表情になる。
「……私は、ルークと組むべきだと思う」
レイリスがそう言ったので、またしても、その場にいる全員が驚愕した。
「本当によろしいのですか?」
「……はい」
「でしたら、私は、もう反対しません。ルークさんの気が変わっていないのであれば、よろしくお願いします」
「あそこまで言っておいて、それはさすがに……」
リーザが、かなり気まずそうに言う。
「……ルーク?」
ラナも、僕の様子を窺ってきた。
「……組むよ。僕は、必ず力を制御できるようになってみせる。だから、君達にも、より良い冒険者になってほしい」
僕がそう言うと、ラナは安心した様子だった。
リーザは、雰囲気に飲まれたのか、改めて反対を訴える気はなさそうだった。
こうして、僕達はパーティーを組むことになった。
極めてギクシャクとした、最悪な雰囲気のパーティーを……。
その夜、僕はロビーにラナだけを呼び出した。
「それで、あたしに何の用なんだ?」
「実は、確認したいことがあって……。ラナは、どうしてもっと小さな武器で戦わないの?」
「その話か……」
ラナは顔を顰めた。
彼女達はそれぞれ問題を抱えているものの、戦闘に関することで、今すぐ改善できる問題を抱えているのはラナだけである。
彼女の剣は、本人の身体に対して明らかに大きい。
精霊の支援を受けているから自由に振り回せるが、そうでなければ持ち上げるだけでも一苦労なはずだ。
もっと小振りな剣に持ち替えるだけで、戦士として活躍できる可能性が高まることは明らかである。
しかし、そんな単純なことを、誰も指摘しないはずがない。
ということは、そういった指摘を拒絶するような強いこだわりを、ラナは持っていることになる。
僕としては、それを本人に確認しておきたかった。
クレセアさんに尋ねても良かったのだが、パーティーを組んだからには、直接話を聞いてみたいと思ったのだ。
「……あたしの剣が大き過ぎるのは、自分でも分かってるよ。でも、破壊者の能力を発動させるには、今の武器じゃないと駄目なんだ」
「それは、つまり……障壁を破る魔法が、小さな剣だと発動しないってこと?」
「全く発動しないわけじゃないが……威力が半減するのは間違いないな」
「でも、破壊者の力は、障壁を展開する相手以外には必要ないよね?」
「そりゃそうだけど……いざって時に、力が使えないのは困るだろ?」
「君達のパーティーには、戦士がいないじゃないか。ラナが戦士の役割を果たせれば、戦いがかなり楽になると思うんだ。だから……」
「……あたしは、戦士としては二流なんだよ」
ラナが悔しそうに言った。
「戦士の適性も調べてもらったけど、あたしには専門にできるほどのセンスがないって言われたんだ。腕力とか敏捷性とか、戦士に必要な才能が不足してるってさ。他の役割の適性も調べたけど、全部駄目で……。でも、最後に調べた破壊者としての才能だけは、専門にできるくらいあった。だから、あたしは障壁を破る力を極めるって決めたんだ」
「……だったら、せめて、もっとコンパクトに武器を振るえばいいんじゃないかな?」
「それじゃ駄目なんだよ。剣を小さくしても、振りを小さくしても、破壊者としての能力には影響があるんだ」
これは、とても困る話だった。
本来ならば、特定の条件下でなければ能力が満足に使えない、などということは起こらない。
無論、寝そべったまま魔法を使えば、普段より効力が落ちる、といったことはあり得る。
しかし、ラナの場合は条件が限定的すぎるのだ。
どうやら、彼女が大きな剣を力一杯振り回すのには、心理的な要因による能力の制限が関係しているらしい。
そういった現象自体は、他の冒険者でも起こることがある。
例えば、敵に対する恐怖心で攻撃魔法の威力が落ちる魔導師がいたり、大量の出血を見ると回復魔法の効果が落ちる回復者がいたりするのだ。
この症状に悩まされて、冒険者として伸び悩んだり、冒険者を辞める者も少なくないのである。
ラナも、症状が深刻だ。
自分が望んだ最高の状況でなければ力が出せない、となると、戦力として計算するのが極めて難しくなる。
おそらく、ラナは、自分に腕力がないことに劣等感を持っているのだろう。
だから、敵に対して強烈な一撃を当てる時以外の状況で、能力が落ちるのではないだろうか?
僕は、彼女の意外な一面を見た気がした。
普段は気楽に生きているように見えるが、かなり弱気な部分もあるようだ。
僕は決心した。
本当は使いたくない方法だったが、他に選択肢が思い浮かばなかった。
「ラナには、僕が、今よりも大きな精霊を買ってあげるよ」
「……は?」
ラナは目を丸くした。
「要するに、ラナの戦士としての能力を精霊に補ってもらえば、問題は解決するでしょ? だったら、もっとランクの高い精霊に守護してもらえば、問題は解決するよね?」
「……いや、そんな簡単な話じゃないのは、お前だって分かってるだろ! そもそも、あたしに、もっと上位の精霊が適合するのか? ていうか、金がないだろ、金が!」
ラナが言ったことは正しい。
「もっと大きな精霊が買えれば……」というのは、多くの冒険者の願望だが、そう簡単にはいかないのが現実である。
一番の問題は金だ。
精霊は高額で、Dランク以上の精霊となると、普通の冒険者の稼ぎでは買うことが難しくなってくる。
それに、精霊は、大きくなればなるほど、適合する者の数が減っていく。
それは、精霊の好みがシビアになっていくためだと言われている。
しかし、多少強引でも、今はラナを説得するしかない。
「お金は、時間をかけて何とかするよ。精霊との適合の問題は、経験さえ積めば大丈夫じゃないかな?」
「そんなに楽観的でいいのか!?」
「大丈夫だって。努力すれば、Dランク程度なら適合する精霊が見つかるって言われてるらしいから」
「……じゃあ、新しい精霊を買うまではどうするんだよ?」
「それなんだけど、ラナには小振りな剣を装備して、戦士として頑張ってほしいんだ。今は、精霊の力を腕力を補うために使ってるけど、それを他の能力に割り振れば、それなりの動きはできるはずだよ。破壊者の力は使えなくても、当分の間は、その方が活躍できると思う」
「……今よりも、足を引っ張るかもしれないぞ?」
「大丈夫だって。僕が戦いをサポートするから」
「……まあ、ルークがいれば、あたしが足手まといになっても大丈夫だよな」
一応、ラナは納得してくれた。
僕の説得が上手かったわけではなく、ソリアーチェがいれば何とかなるはずだ、という認識によるものだと思われるが、とりあえずは充分な成果だと言えるだろう。
当分の間、ラナは破壊者として活躍出来なくても良い。
これは、客観的な事実だろう。
この宿に、魔獣を狩るような依頼が来る可能性は、今のところ低い。
魔生物ならばなおさらだ。
魔法を悪用する人間と戦う機会があるかもしれないが……そもそも、障壁を破ることが出来たとしても、今のラナでは大抵の相手に敵わないはずである。
戦い方が隙だらけで、あっさりと負けることは目に見えているからだ。
ならば、せめて戦士のような戦いが出来た方がマシだろう。
ラナは、自分には戦士としての素質が欠けていると言う。
しかし僕には、ラナは充分な才能を持っているように見えるのだ。
戦士に必要な才能とは、主に、自分の身体と武器に対して補助魔法をかける能力のことである。
ラナは、破壊者として剣に魔法をかけているのだし、高速移動の魔法も使えるのだから、その条件を満たしているはずなのだ。
つまり、彼女は難しく考え過ぎている。
腕力などが多少劣っていても、精霊にそれらの能力を補ってもらえば良いだけなのだ。
ラナの精霊であるライアは、Eランクの精霊だ。
上手く活用すれば、超人的な動きをすることは可能なはずである。
だが、今は腕力の補助に力を使い過ぎているために、能力を充分に発揮していない。
能力の補助を、戦士として必要な要素に集中すれば、イノシシ一頭を一人で狩ることくらいは出来るはずである。
ラナは、剣を小振りな物に替えた。
他のメンバーは驚いた様子だったが、僕との話し合いの内容を二人で伝えると、彼女達はあっさりと受け入れた。
ラナには、障壁を破る能力にこだわるよりも、戦士の役割で戦ってほしい。
全員、本音ではそう思っていたようだ。
だったら、本人に直接言えばいいのに……。
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