群青の空の下で(修正版)

花影

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第3章 ダナシアの祝福

33 叶わぬ恋に1

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プルメリア連合王国の概要おさらい

元々は大陸でもっとも古い国の1つだったが、内乱で分裂。
現在はブレシッド・ルデラック・リナリア・クロウェア・サーマル・シャスター・バビアナの7公国で構成されている。
首都はソレル
7公国はそれぞれ公王によっておさめられているが、意見の調停や対外的な問題を対処する為に公王の中から代表として首座を選定。国主と同等の地位に位置付けられている。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


今思えば、出会いは最悪だった。
まだ10歳になるかならないかの子供だったが、大陸で最も有名な夫婦の嫡子として既に国の内外から山の様に縁談が持ち込まれていた。
自分の娘といずれめとわせようと、周囲の大人の方が父母の目が届かないところで熱心に勧めて来るので、辟易した自分はどこか冷めた目で他人と接するようになっていた。
そんなある日、父と母が自分と同じくらいの子供を2人連れて来た。
黒髪にエメラルドを思わせる緑色の瞳。
片方はおしとやか、もう片方は勝気な印象を受ける双子らしい姉妹。
「ルイス、今日から家族になるのよ。仲良くしてね」
母の言葉に、自分の伴侶がもう決まったのだと思い込んだ。
「どちらのご令嬢が僕の伴侶になるのですか?」
自分の思い違いに両親が唖然としている間に、小さな拳で殴り倒されていた。
「俺は男だ!」
後になって2人は父の知人の姉弟で、両親が他界したのでうちで引き取ったのだと知った。ちなみに双子では無く年子なのも後から教えられた。
あらかじめ言われていたのだが、興味がなく、聞き流していて全然覚えていなかった。
これが、フレアとアレスとの出会いだった。



「あちぃ……」
 大陸最北の国から帰還して10日余り経っている。様々な事後処理が済んだルイスは今、ラトリでの命令無視の件で自室にて謹慎中だった。
 自室での鍛錬も書物を読むのも飽きてしまい、寝台で横になり昼寝をしていたのだが何しろ暑い。昨年の夏の終わりから標高の高いラトリに滞在し、つい先日までは大陸の北の端に居たのだ。涼しさに慣れた体には大陸でも南方に位置するソレルの暑さは堪えた。
「ルイス卿、首座様がお呼びでございます」
「分かった」
 侍官に声をかけられ、ルイスはのそりと体を起こす。暑さと過去の失態の夢でかいた汗をぬぐい、衣服を改めるとその侍官と共に父親の執務室へ向かう。
「ルイス・カルロスです。失礼いたします」
 扉を叩いて名乗ると、すぐに入室の許可が下りる。扉を開けると、相変わらず書類に埋もれた机に少々疲れた表情のミハイルが付いており、傍らには筆頭補佐官としてアリシアが控えていた。アリシアの留守中には非常に残念な状態になっていたこの執務室も、今は床に塵1つ落ちていない。父親が疲れた表情を浮かべているのは、おそらく溜まっていた仕事の所為だけではないだろう。
「お呼びでしょうか?」
 机の前に進み出ると、ミハイルは見覚えのある書類を差し出した。つい先日、報告書に紛れさせたソレル警備隊長の辞表である。
「これの説明をしてくれないか?」
「書いてある通りですが?」
 ルイスは至って真面目に答える。
「確かにラトリでの命令違反は厳罰ものだが、現在行っている謹慎と減俸か降格が妥当なところだろう。辞める必要は無いと思うが?」
「それですと、今回行動を共にしてくれた竜騎士達も罰を受けることになります。今回の件は私の一存によるもの。全ての責任は私にありますので、職を辞すことでその責任をとりたいと思います」
 淡々と答えるルイスの顔をミハイルもアリシアもしばらく無言で凝視する。何か裏があるのではないかと疑っている様だが、フレアをラトリから連れ出す決意をした時点で職を辞す覚悟を決めていたルイスは、臆することなく2人の顔を見返した。
「辞めるのを認めたとして、その後はどうするつもりか?」
 ミハイルはルイスがソレルの騎士団を辞めてもブレシッドに戻ればいいと安直に考えているのではないかと懸念しているのだろう。いくら公子といえども、状況を考慮せずに決めるのはあまりにも身勝手な振舞である。
「ブレシッドには戻りません。旅に出ようかと考えています」
「旅に?」
「自らを鍛え直そうと思います」
 今度はアリシアが眉をひそめる。厳しく育てたつもりはあるが、常に両親の名が付きまとう彼は本当の世間の厳しさまでは知らない。当人もそれを理解しているからこそ、この機会に言い出したのかもしれないが、それでも親としては容易く容認できるものでは無い。
「何処へ行った所で、アルドヴィアンがいればお前が私達の息子であることは隠しようがない。どこに居ても変わらない……むしろ外に出た方が気を使われて修行にはならないと思うぞ」
「アルドヴィアンは置いていくつもりです」
「何?」
 息子の答えにミハイルは声を荒げる。確かにそれなら身分を隠すことが出来るが、自分のパートナーを放棄するようなもので、竜騎士としてはあるまじき行為でもある。
「アレスに預けるつもりです。礎の里の今の状態では正式に復帰できてもすぐには飛竜を手配出来るとは思えません。クルヴァスもそろそろ引退させた方が良いし、その間のつなぎに使ってもらおうと思っています」
「勝手に決められるものでは無い」
「賢者様もアレスも了承してくれています。ディエゴ兄さんもそれなら問題ないだろうと言ってくれて、大陸の南部に駐留している傭兵団を紹介してくれました」
「……」
 息子は自分達の知らない間に着々と準備を進め、後は騎士団を辞めるだけという状態の様だ。決意の固さをうかがい知ることが出来るが、それでも容易に納得できるものでは無い。
「私が認めなければどうするつもりだ?」
「認めて頂くまで話を続けるつもりです」
 既にソレルの騎士団長には話が通してあるらしく、ミハイルもアリシアも彼から話を聞いて辞表の存在に気付いた。後任も決められており、辞める準備は着々と進んでいる様だ。この辺の手際の良さはディエゴの得意技だ。傭兵団への紹介からも分かる通り、彼を味方に引き入れているとなると、当人の希望通り息子の辞任を認めざるを得なくなるだろう。
「……」
「そもそも、長期間留守にするつもりは有りません。先程も言った通り、アルドヴィアンを預けるのはアレスの飛竜が決まるまでです。短期間でどれだけ鍛えられるかは分かりませんが、その頃には戻ってくるつもりです」
 一緒に育ったアレスもフレアも自分の道を歩む道を見つけているのに、自分は親の後を継ぎ、用意されている道をただ進むだけで良いのだろうかと長年燻らせてきていた。
 今回の件で騎士団を辞める決意をした。北の竜騎士達に出会い、その信念を知り得てからは自分を見つめ直す機会にしようと旅に出る決意を固めたのだ。
 もちろん、自分の立場は弁えていて、そう長くは留守に出来ないのも分かっている。ディエゴに相談したところ、素性を隠して行動してみるのもいい経験になるとアドバイスをもらったのだった。
 感情を抑え、淡々と自分の考えを訴えるルイスの姿に結局はミハイルもアリシアもしまいには根負けし、いくつかの条件を付けながらも彼の願いを受け入れることになった。

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