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10.そんなに変わったか?

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「あんたが本当にヨアキムだって証拠はあるの?」
「そんなものは必要ない。俺は俺だ」
「いや必要でしょ。だってあんた、ヨアキムには全然見えないし」

 このまま寝てしまいたい誘惑にかられながら、ベッドのすみに追いやられて丸まってしまっていた上掛けを引き寄せる。
 素肌を隠したことに男がぴくりと眉間にシワを寄せたけど、とりあえずは何も言われなかった。

「そんなに変わったか?」
「自覚ないの?」
「……仕方ないだろう。のどかで平和なガキのままでは居られなかったからな。自分の外見に構ってる余裕もなかった」

 外見っていうよりももう顔つきなんだけど、言っても伝わらなさそうというか理解されなさそうというか。
 ただの適当な言い訳にも聞こえる。

 だってヨアキムってば本当に女の子の私よりよっぽど可愛い顔をしてたんだもん。
 それがこんな筋肉男になっちゃったなんて信じたくない。

 ちょっと拗ねた気分になったら、頬に大きな手が触れた。固い皮膚の親指に唇をなぞられる。

「あれは雪が溶ける前の事だったな」
「……みんなに内緒で、湖に行ったこと?」
「覚えていたか」

 忘れるはず、ない。

「ヨアキムに誘われて」
「大人に見つかると怒られるから、二人で手を繋いで」

 奥底に沈めて忘れた振りをしていた記憶が蘇る。

 ずっと雪が降り続いていて、何日かぶりの晴れた日だった。
 空気は相変わらず冷たくて、大人はみんな屋根の雪下ろしをしていた。

 ヨアキムといつもみたいに遊んでいて、湖まで行ってみよっかって誘われたんだ。
 村の外れにある湖は子供だけじゃ行っちゃいけないと言われていたけど、大人はみんな忙しそうで、でも行きたい誘惑には勝てなくて。

 こっそりと二人で家を出て行った。

「ほっぺたが冷たかった」
「二人して鼻も真っ赤になってて笑ったんだよな」
「雪の上に足跡付けて」
「アリーサが転んで大きな穴を作ってた」
「あれは、ヨアキムが手を引っ張るから」
「アリーサと二人で悪いことをしてるって、気分が昂ぶってはやってたんだよ」

 目を見合わせて、思わず笑い合ってしまった。

 小さな村だから雪の中で子供の足でもそんなに時間はかからなくて、湖にはすぐに着いた。

 雪の中、太陽に照らされた湖は白くキラキラと光っていた。とてもキレイで静かで、世界中にヨアキムと私と二人だけになったように思えたんだ。

 そうして、手を握って。

「アリーサ、好きだ」
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