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11.国中を彷徨ったよ

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 目の前の男と記憶の中のヨアキムが同じ言葉を言う。
 ゆっくりと近付いてくる顔。閉じられていく目まで、記憶とまるで同じ。

 ああ、ヨアキムなんだ。

 唇が触れ合って、私はやっと納得した。
 背中に手を回してその事実を受け入れる。何度も何度も、確かめるように二人でキスを重ねる。
 激しすぎるセックスよりずっと何かが満たされるような気がするのはどうしてなんだろう。

「……アリーサを探していた」

 唇が触れ合ったままヨアキムが言った。

「どうにかやっと村に戻ってもアリーサは出て行ったと言われるし、何処に行ったのかも知らないと」

 私はお父さんとお母さんにだけはここに住んでる事を伝えているけど、他の人には絶対に教えないでって頼んでいる。
 それでもヨアキムだったら教えただろうけど、多分お母さんたちも変わりすぎてて信じられなかったんだろう。

「手掛かりも何もないから、国中を探すつもりで彷徨ったよ。行く先々でいらんトラブルに巻き込まれたのは参ったが、それでもアリーサが見つからない事に比べれば些細な事だった」
「……もしかしてさっきの酒場での話って全部本当の事だったの?」
「疑っていたのか?」
「だって……ヨアキム、魔法が使えるの?」

 私はそんな話を聞いたこともなかったけど。
 魔法といえば大陸でも使える人が数人しかいないっていうくらい、とても珍しい。珍しいっていうよりも貴重な人だ。
 ヨアキムが?

 疑いを隠すのを止めた私を見て、ヨアキムが身体を起こした。
 つられるように私も起きると、するりと背中に回られる。お腹に手がきて、後ろから抱き締められた。
 寄りかかっていいというヨアキムに、遠慮なく体重をかける。カラダの怠さは確かだったからありがたい。背中に感じる胸板の厚さも安心感を覚えた。

 ……動いた瞬間に中からどろりと溢れたことには気付かなかったことにしよう。
 まだ入ってたのか。一体どんだけ出されたんだろう。

「小さい頃は俺も知らなかったんだ。魔法を初めて使ったのは、火事の日だった」
「……それって」
「ああ。……魔法を使える事も知らなかった俺は突然暴走させて、両親と家を焼いた」

 ぐっと、お腹に回されていた手に力が入る。
 もしかしたらヨアキムが後ろに座ったのは顔を見られたくなかったからなのかもしれないと思うと、振り返ることは出来なかった。

 代わりにヨアキムの手に手を重ねてみる。なのに避けられてしまって、今度はヨアキムの大きな手に包まれた。

「俺はすぐに教会に引き取られた。保護って言えば聞こえは良いが、実質的には隔離だ」
「隔離? どうして」

 魔法を使える人は貴重なんじゃないの?
 だったら大切にされるはずじゃ……。
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