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第2章「裏世界」

第61話「二人の正体①」

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 翌日、俺達は作戦前の確認をするためとの理由で探索者ギルドが管轄しているCランク迷宮区に向かった。

 え、あの二人の事については何も考えなかったのかって?

 そんなこと、考えているに決まっているだろう。もちろん、あの後。驚いた後に二人から色々と事情を話してもらった。

 まず、下田美玖。いつも俺の担当としてギルドの受付嬢をしてくれていた女性だ。クールでテキパキしていて、20代なのにその根からのミステリアスさと人への無関心さがあり、それでいて心配をしてくれる優しく強い女性だ。

 彼女が探索者として活動していた時期があることも知ってはいたがまさか、こんなところでバッタリ”探索者”として出会うなんて思っていなかった。

 しかし、彼女はいつも通りのクールな口調でこう言った。

「——今まで騙していてごめんなさい。実はあなたの監視を命じられていました。それで組織に加わったんです」

「え?」

 もはや疑問符だらけだった。ただ、話すところによると俺のスキルとステータスの値までも完璧に覗いてしまったことが原因でギルド退職かHYSOPPに加わるかを迫られたとのこと。

 一瞬、まじで凄い隊員なのかとも考えたがどうやら違うらしい。映画とかでのあれだ。『軍の秘密を知ってしまったお前には二つ選択肢がある。死ぬか、ここで働くかだ』っていう。

 なんかそう聞くとかっこよくも聞こえてくるのは俺の気のせいだろうか。

 うん、不謹慎だな。やめておこう。

 とまぁとにかく、そんなわけでギルド長に囲まれた下田さんだが探索者の履歴だけでも相当なものだった。

 さすがに黒崎さんの様にSとかではないがB級探索者として5,6年前活躍していたらしい。そのクールな性格と蹴ることに特化したスタイルから周囲からは『風脚』と呼ばれていたらしく、言われて思いだした。

 風の様に颯爽と現れて、得意の蹴り技でどんな魔物も一風する。

 正体は不明で当時は前までの俺の様にソロで迷宮区の探索に挑んでいた謎多きミステリアスな人物。

 しかし、ある時を境にめっきり噂も途絶えて————そして6年の歳月を経て俺の前で受付嬢をやっていた。

「じゃあ、その――いつから受付嬢になったんですか?」

「あなたが探索者ギルドに初めて来た日の半年前ですね」

「え、もっと前からだと思ってました!?」

「まあ探索者してましたからね……」

 たははと呆れたように笑みを浮かべ、俺に頭を下げる下田さんをすぐに止めて、次は隣で腕を組んでいる彼女——斎藤朱鳥さんに目を向けた。

 俺の知っているところでは同じ高校の探索者科専攻の先輩。クリスタルドラゴンから助けたところで、礼を言われたものの黒崎さんとの逢引き写真を撮られて一時危なかったがなんだかんだ公表しないでくれたおかげでなんとかなった明るくもピンチの時は妙に頼れる女子生徒。

 そんなイメージのはずが……そこにいる斎藤さんは俺の目からは頼もしく見えた。

「あ、あの、それで。斎藤さんは?」
「……ツカサッチ?」

 しかし、向けた視線も流されて彼女の目はその隣にいる黒崎さんの方へ向けられた。

「え?」

 不意に出る声。
 二人とも見つめ合って、負けたようにクスリと笑みを浮かべた黒崎さんはこう述べた。

「彼女は私よりも前からHYSOPPにいる先輩よ。実は色々あって騙してたの」
「え、ま、マジすか?」
「マジだよ~~、元春君には悪いけどごめんね! ツカサッチも仕事で悪気があったわけじゃないから許してね!?」

 テヘペロっと舌を出して上目遣いで魔の渓谷をぷるんと見せてくる斎藤さん。すぐに気づいた黒崎さんが「はぁ」とため口を吐いて突き返した。

「あ、あの——じゃああの写真は?」
「あれは演技よ?」
「え? い、意味はあるんですか?」
「実はあれ、二人の後ろにいた自衛隊の写真を撮ってたの」
「は、はぁ……」
「まぁ、ちょっと色々あってね? 黒沢の旦那が証拠写真を撮れって言ってきたからね~~まぁ、あまりにも元春君が早くてあそこでとるしかなかったけど!」

 笑い出す彼女。
 もはやついていけなかった俺はあとから色々と黒崎さんに聞くことになった。

 彼女曰く、もともとから俺と黒崎さんの2人の動向を監視するために来ただけで、それを隠すために黒崎さんも演技で仲悪そうに振舞っていたとのことだった。

 まったくもって、俺の周りが嘘で塗り固められていて不安になったが、仕事柄仕方がないのかもしれない。

 これでゆるしちゃう俺も相当なお人よしだが、なんだかんだ二人には色々と助けてもらったしチャラかなと妥協した。



 そして、今日はAランク迷宮区でやっていくための作戦準備と連携の確認だ。

「ライセンスの提示を」

 入り口に立つ自衛隊員にギルド長から貰った許可証を黒崎さんが見せつける。
 すると、少し通信してから戦車を移動させ、無言で手で指示。

『入れ』

 いよいよ様になってきた絵面に興奮する自分とやや不安になる自分に挟まれながら、深呼吸をする。

「——大丈夫ですか?」

 隣を歩くフル装備の下田さんに心配そうに見つめられ、俺は呟いた。

「緊張と言うか、ワクワクしてるだけですよ」

「ワクワクだなんてすごいね~。来週にはクリスタルドラゴンと再戦かな?」

「それは気合入れないとだわね」

 迷宮区の壁を伝って響く俺達4人の会話。

 その来週に自体をぐちゃぐちゃにすることが起きるとも知らずに俺たちは闇へと一歩近づいていくのだった。
 

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