【完結】インキュバスな彼

小波0073

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第二章 バレた後

10.

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 みのりが口元を引き下げると、雄基はしょんぼり肩を落とした。

「リアルで一ノ瀬に会った後、こんなこともうだめだとも思った。こんな、俺のズリネタみたいな夢につきあわせるなんて、考えただけで顔を合わせられなかった。けど、結局はもう一回使ったんだ。もしかしたらただの偶然で、勝手な自分の思い込みで夢を見たかもって考えたのもあったし……。それにやっぱりどうしても、また一ノ瀬に会いたくて」

 二度目にみのりに会った時、そわそわしていたうぶな影は雄基の本心だったのだろう。深く頭を落としてうつむき、雄基はぼそっとつぶやいた。

「それで、また同じことが起こった。偶然じゃない、一ノ瀬に会えたって、その時は本当にうれしかった。でも夢の中で一ノ瀬に、『お前は誰だ』とか、『どうしてこんなことになったんだ』とか聞かれて……。説明しようとは思ったんだ、一応。ちゃんと俺だってバラした上で、その場で謝ろうと思った。でも婆さんに言われたとおり、言葉も通じないみたいだった。話もできない状態で本当に困ったんだけど、一ノ瀬はわけがわからない中でも俺に優しくしてくれて……うれしかった」

 ふせた表情は見えなかったけれど、真っ赤になった両耳が雄基の動揺を示している。
 みのりは自分も恥ずかしくなって、もじもじと膝を動かした。あの時は子供か大型犬にでもなつかれたような気がしたが、実は知性も常識もある立派な同級生だったわけだ。

「後はもう、毎晩夢で一ノ瀬に会えるのが楽しみで。でもリアルで一ノ瀬に会うと、当たり前だけどいつもと同じで……。そう考えると落ちこんだ。夢ではあんなに……なのに、どうしてこうなるんだって自分でもずっと悶々としてたら、それが原因で現実の一ノ瀬に盛大にカン違いされた」

 顔を上げ、苦笑いする。「自分がみのりを嫌っている」──そう思われていたことに気づいた時はショックだったらしい。
 雄基はわずかに体を起こし、真正面からみのりを見た。

「夢で会えても本物と距離ができたら意味がない。そこまで行って、やっと気がついた。だけど、それでもまだ夢での関係がおしくて。やっぱりまた悶々として……今度は夢でも嫌われた」

 再び肩を落とした雄基に、みのりは何だか彼のことが気の毒にさえ思えてきた。その悄然たる風体は、夢でみのりが拒否した際の影そのものの姿だった。

「そりゃそうだよな。夢と本物と、両方とうまくやりたいなんて。そんな自分勝手なやつ、どっちでも嫌われて当然だ。──それで、リアルでもう一度やり直そうと考えて、覚悟を決めて告白したんだ」

 思いを振り切るような動作で雄基は決然と顔を上げ、再度みのりを見直した。

「告白した後、やっぱりどうしてもそっちの反応が気になって。最後のつもりで指輪を使って、話が聞けてふっきれた。今さら言いわけに聞こえるだろうけど、ちゃんと夢の話も言うつもりだった。リアルの方の一ノ瀬は全然様子が変わらないし、もしかして本当に俺だけが変な夢を見てたのかもしれない。でも一応、聞くだけ聞いてみようかと……もしそれで本当に同じ夢を見てたんだったら、今度こそ謝ろうと思ってた。でも、いざそっちから夢の話を切り出されたら、どうしていいかわからなくなって。結局最後まで俺だって全然気づいてなかったし、一瞬、このままただの夢だって押し切れるかもって考えた。だけどそうしたらあっさりバレて」
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