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承前

嵐の夜に

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「見つけたのは、ここか?」

 “人形”の一体が頷き、指を差し出した。その先に自分の指先を合わせて必要な情報を受け取り、小さく安堵の息を吐く。
 それから、ここまで天候が荒れることなんて滅多にないのにと、ひっきりなしに稲光が走り雷鳴が轟く空を睨んだ。これでは通信が安定しない。センサーも何もかも、今ひとつ働きが悪い。指示を待たずに行動を起こすにしても、天候の回復を待たねばならないだろう。

「忌々しい天気だ。せっかく私が出向いたというのに、これでは意味がない」

 そう呟いて、目的の家屋に目を向ける。
 軍部とも繋がりのある、魔導技師の家……か。
 バラされず見つからず、よくもまあ無事に潜んでいられたものだ。ここ数年のこととはいえ、およそ三百から四百年もこうして隠れ潜んでいたなんて。頑丈さが裏目に出たのか、それとも……。
 そこまで考えて、ひときわ大きな雷鳴に思考を邪魔された。

「ずいぶん近いんだな」

 不安になるほどの音と光に、もしかしたら危険なのかもしれないと考える。
 仕方あるまい、一時撤退としよう。
 そう、目の前に待機する“人形”たちに指示を与えようとした瞬間、視界がハレーションを起こして真っ白に染まる。
 何が、と反応することもできず、轟音とともに訪れたバチンという衝撃に、意識は闇に塗りつぶされた。


 * * *


 何度も何度もスキャンを繰り返す。
 損傷大。
 復旧……自己補修による完全復旧は不可。
 基本機能および基本情報の損傷は微小。

 薄く目を開く。
 基本機能に問題はなくても、利用できるリソースのほとんどは復旧に手いっぱいだ。本格的な活動が可能となるまで、まだまだ時間がかかる。

「あっ、目を開けた! ねえ、大丈夫? わかる? あなた、名前は?」

 視線カメラを動かすと、そこに映ったのは……。

「めが、み……?」
「え? 何? ね、あなたの名前。名前は?」
「なま……ヴィ、ト」
「ヴィト? ヴィトね?
 ――先生! 名前がわかったわ、ヴィトよ!」

 視界から入る情報量が多過ぎて、負荷が高い。
 小さく息を吐いて、彼……ヴィトは、また目を閉じる。

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