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彼女の片想い*****
ヤダ、絶対。7
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喧騒が遠くから忍び寄って、意識が浮上する。
とても怖いことがあったのに、今は安心できる腕の中にいることが温もりと感触でわかった。
坂本くんの、その腕の中に収まってぼんやりと目が覚めた。眠っていたのか、気を失っていたのか……自分でもわからなかった。
「……3階の廊下で目出し帽の男と出くわして……身長は僕より高かった気がします。明らかに怪しかったから、咄嗟に顔を殴って……向こうが走って来たので、かなり重く当たって……」
利き手を誰かに見せている。視線を辿ると、調書をとる警官だった。
「犯人に心当たりは?」
坂本くんが首をふる振動が届く。声が出ないかも……と心配になったけど、頑張って口を開いた。
「……と、なりの……」
「っ美夜ちゃんっ!気がついた?大丈夫?」
坂本くんが目を合わせてくれたので、勇気が増した。
「となりの……お兄さんに、声が……似てた」
似てただけかもしれない。舌打ちと、防犯ベルの合間の悪態だけで判断するのは難しい。
でも、坂本くんの言いつけ通り、ドアを開ける直前に両端を見渡して、外の様子を見ながらドアを閉めたのだ。すぐに鍵をかけようとしたのに、扉は暴かれた。
あの目出し帽の男が隣のお兄さんで、部屋に潜んで様子を伺っていたら、可能なんじゃないかと思う。だって、本当に誰もいなかった。
「……挨拶しか、したこと、ないから……似てただけかも」
「隣か、可能性はあるな。誰も出ない」
警官が静かに呟いた。大音量の防犯ベルがしばらく鳴ったけど、片方のお隣さんしか出てこなかったらしい。
「美夜ちゃん、歩ける?寒いから、車の中で話す?」
坂本くんが立たせてくれた。女性警官が近づいて来て、私が気絶したから救急車も来ていると教えてくれた。
大事になっていて萎縮する。どこも怪我してなかったけど、頭を強打したから一応病院に行く事になった。私より、坂本くんの手の方が切れていて……それを見たら恐怖より怒りが湧き上がった。
坂本くんを他の警官が呼び止めた隙に、女性警官に申し訳なさそうに被害を聞かれた。
抵抗して、お腹をちょっと触られた辺りで防犯ベルを鳴らすことができたので、そのまま伝えることができた。
ホッとした様子で『彼氏の話と防犯ブザーのタイミングから、最悪の事態はないだろうと思ってたけど……怖い思いをしたよね』と肩に触れて労ってくれた。
それだけですんで良かったと、自分では思ったけど、十分に怖かった。だから、大したことない風に言われなかったのは慰められた。
脳に異常はないだろうと言われた。時間的に詳しく検査できなかったので、後日改めることにした。坂本くんも、骨に異常はなくて、利き手の切り傷と打撲。
泣きそうな顔で、イスに座って待っていてくれた。申し訳ない事に……兄と一緒に。
「……お兄ちゃん」
立ち上がった兄に、涙声で『ごめんなさい』と言った。
成人しているので、希望があれば家族には連絡しないと言われた。でも、学生さんだし……と言葉を濁され、自分でも仕送りをもらってる以上、結果未遂ですんだけど言わなくちゃと思った。
犯人が捕まるまでは部屋には戻りたくないし、ファミレスやカフェで数時間一人で過ごすのも怖かった。
あんなに嫌がってたのは私自身なのに、坂本くんに『泊めて』とか『始発までお茶に付き合って』なんて頼めない。
坂本くんも連絡した方がいいと言ってくれたから、早朝で申し訳なく思いながら電話したけど……父や母には怖くてかけられなかった。
結局兄に『痴漢にあって抵抗して頭を打ったから今病院にいる』と告げたのだ。
「……怪我がなくて、よかった」
言葉を選んでくれたのがわかった。多分、こんな時間に出歩いた事を責めたいのだと思うし、最悪、一人暮らしに反対されるかもしれない。
「……坂本くんが、助けてくれたの」
そう言った私の後を継いで、坂本くんが言葉を紡いだ。
「でも、こんな時間まで連れ回したのも僕です。っ申し訳ありません!」
そう言って最敬礼で謝る彼に、本当に申し訳なくて涙があふれた。心配して来てくれたのがわかるボサボサの頭で、眼鏡の奥で、兄が何を考えているのかが怖かった。
「取り敢えず今日は実家に。車だから坂本くんも送るよ」
兄がため息混じりに言うと、坂本くんはそれを固辞した。
「いえ……僕は頭を冷やしながら……」
「その方が美夜も心穏やかに居られると思うから、送らせてくれないか?」
兄の言葉に、結局坂本くんも車に乗った。
坂本くんを降ろして、自分の部屋に必要なものを取りに行った。
怖かったから、もちろん兄に部屋の中までついて来てもらった。
玄関、キッチン、枕元、ベランダ、バッグ。
狭い部屋と小さなバッグ合わせて5匹も猫の防犯ベル。
「……坂本くんが、助けてくれたの」
病院と同じセリフを伝えたら、兄が『……なるほど』と少し呆れたように独りごちた。
とても怖いことがあったのに、今は安心できる腕の中にいることが温もりと感触でわかった。
坂本くんの、その腕の中に収まってぼんやりと目が覚めた。眠っていたのか、気を失っていたのか……自分でもわからなかった。
「……3階の廊下で目出し帽の男と出くわして……身長は僕より高かった気がします。明らかに怪しかったから、咄嗟に顔を殴って……向こうが走って来たので、かなり重く当たって……」
利き手を誰かに見せている。視線を辿ると、調書をとる警官だった。
「犯人に心当たりは?」
坂本くんが首をふる振動が届く。声が出ないかも……と心配になったけど、頑張って口を開いた。
「……と、なりの……」
「っ美夜ちゃんっ!気がついた?大丈夫?」
坂本くんが目を合わせてくれたので、勇気が増した。
「となりの……お兄さんに、声が……似てた」
似てただけかもしれない。舌打ちと、防犯ベルの合間の悪態だけで判断するのは難しい。
でも、坂本くんの言いつけ通り、ドアを開ける直前に両端を見渡して、外の様子を見ながらドアを閉めたのだ。すぐに鍵をかけようとしたのに、扉は暴かれた。
あの目出し帽の男が隣のお兄さんで、部屋に潜んで様子を伺っていたら、可能なんじゃないかと思う。だって、本当に誰もいなかった。
「……挨拶しか、したこと、ないから……似てただけかも」
「隣か、可能性はあるな。誰も出ない」
警官が静かに呟いた。大音量の防犯ベルがしばらく鳴ったけど、片方のお隣さんしか出てこなかったらしい。
「美夜ちゃん、歩ける?寒いから、車の中で話す?」
坂本くんが立たせてくれた。女性警官が近づいて来て、私が気絶したから救急車も来ていると教えてくれた。
大事になっていて萎縮する。どこも怪我してなかったけど、頭を強打したから一応病院に行く事になった。私より、坂本くんの手の方が切れていて……それを見たら恐怖より怒りが湧き上がった。
坂本くんを他の警官が呼び止めた隙に、女性警官に申し訳なさそうに被害を聞かれた。
抵抗して、お腹をちょっと触られた辺りで防犯ベルを鳴らすことができたので、そのまま伝えることができた。
ホッとした様子で『彼氏の話と防犯ブザーのタイミングから、最悪の事態はないだろうと思ってたけど……怖い思いをしたよね』と肩に触れて労ってくれた。
それだけですんで良かったと、自分では思ったけど、十分に怖かった。だから、大したことない風に言われなかったのは慰められた。
脳に異常はないだろうと言われた。時間的に詳しく検査できなかったので、後日改めることにした。坂本くんも、骨に異常はなくて、利き手の切り傷と打撲。
泣きそうな顔で、イスに座って待っていてくれた。申し訳ない事に……兄と一緒に。
「……お兄ちゃん」
立ち上がった兄に、涙声で『ごめんなさい』と言った。
成人しているので、希望があれば家族には連絡しないと言われた。でも、学生さんだし……と言葉を濁され、自分でも仕送りをもらってる以上、結果未遂ですんだけど言わなくちゃと思った。
犯人が捕まるまでは部屋には戻りたくないし、ファミレスやカフェで数時間一人で過ごすのも怖かった。
あんなに嫌がってたのは私自身なのに、坂本くんに『泊めて』とか『始発までお茶に付き合って』なんて頼めない。
坂本くんも連絡した方がいいと言ってくれたから、早朝で申し訳なく思いながら電話したけど……父や母には怖くてかけられなかった。
結局兄に『痴漢にあって抵抗して頭を打ったから今病院にいる』と告げたのだ。
「……怪我がなくて、よかった」
言葉を選んでくれたのがわかった。多分、こんな時間に出歩いた事を責めたいのだと思うし、最悪、一人暮らしに反対されるかもしれない。
「……坂本くんが、助けてくれたの」
そう言った私の後を継いで、坂本くんが言葉を紡いだ。
「でも、こんな時間まで連れ回したのも僕です。っ申し訳ありません!」
そう言って最敬礼で謝る彼に、本当に申し訳なくて涙があふれた。心配して来てくれたのがわかるボサボサの頭で、眼鏡の奥で、兄が何を考えているのかが怖かった。
「取り敢えず今日は実家に。車だから坂本くんも送るよ」
兄がため息混じりに言うと、坂本くんはそれを固辞した。
「いえ……僕は頭を冷やしながら……」
「その方が美夜も心穏やかに居られると思うから、送らせてくれないか?」
兄の言葉に、結局坂本くんも車に乗った。
坂本くんを降ろして、自分の部屋に必要なものを取りに行った。
怖かったから、もちろん兄に部屋の中までついて来てもらった。
玄関、キッチン、枕元、ベランダ、バッグ。
狭い部屋と小さなバッグ合わせて5匹も猫の防犯ベル。
「……坂本くんが、助けてくれたの」
病院と同じセリフを伝えたら、兄が『……なるほど』と少し呆れたように独りごちた。
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