絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼女の片想い*****

ヤダ、絶対。6

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「美夜のだったのか?ごめん。冷蔵庫に入ってたから、飲んでいいのかと思って」
『コーヒー飲めるようになったのか?買って返すよ』なんて言ってくれた。
やっぱり兄は部屋に入ってなかったらしい。そこはちょっとだけホッとした。
きっと、母だと思う。
ベッドに畳まれた洗濯物が置いてあった。母だって、たぶん悪気はなくて、私が飲めないのを知ってて持ち出したんだと思う。
でも……涙目で空き缶を握りしめて、何にも言えなかった。
浮かんだ涙に、兄があわてたのを感じたけど、言葉は紡げなかった。
その時、玄関の扉が開く音と共に、母の帰宅の挨拶が聞こえた。
今は、きっと責めるような言葉を吐いてしまう。
急いで部屋に駆け登った。
すれ違った母に『おかえり』も言えないまま。
階下で母が兄に『ケンカしたの?』なんて尋ねている声を締め出すように、急いで部屋のドアを閉めた。

しばらく顔を合わせたくなくて、兄と母にはメッセージを送った。
『態度が悪くてごめんなさい』と『しばらく放っておいてください』と。
兄から話を聞いたのか、母からは勝手に部屋から物を持ち出したことへの謝罪、兄からはコーヒーを飲んだことへの謝罪と母が気落ちしてるから、お腹が減ったら降りておいでという優しい言葉。
なんだか自分だけが子供で、自己嫌悪で泣きたくなった。
高校生にもなって……きっと、優しい『たくまくん』ならこんなことで怒らない。
そう思いつつ、すぐに下へは降りられなくて、せめて制服だけはシワにならないようにハンガーにかけて、部屋着でベッドに横になった。
また『たくまくん』に偶然会えた時、シワシワの制服なんてわけにはいかないから……なんて、本当に子供っぽい理由だった。

いつのまにか眠っていて、ノックの音で目が覚めた。
「……美夜?起きてる?」
いつも拗ねたり怒ると眠ってしまうから、見透かされてる。
すぐに開けるのはなんだかためらわれて、もう一度ノックされてからそっと扉を開けた。
「腹は?減ってないか?……目、腫れてるぞ。そんなに大事な物だったのか?」
兄の心配気な声。
兄は、年が離れているせいか、私にすごく甘い。
元々穏やかな性格なので、けんかもあまり記憶にない。
だから、謝り方もよくわからない。
「……急に怒って……ごめんなさい」
「確認してから飲めばよかったよ。ごめんな」
兄に続いて階段を降りる。
キッチンの扉を開くと、母が眉根を寄せて謝ってくれた。
「ごめんね。コーヒーだったから、誰かにもらったのを出し忘れただけだと思ったの」
「……うん。大丈夫。そうかなって思った」
ダイニングテーブルには食事が用意されている。
「……待たせてごめんなさい」
父にも謝って、食卓につく。誰一人『たかが缶コーヒーで』なんて言わないし、とりあえずそれ以上の追求もしない家族に、私はとても恵まれてるんだと思った。

母の食事はいつも通り美味しかった。
私の好きなものを作ってくれたようだということも、胸が暖かくなった。
食後に大好きなミルクプリンまで出てきて、まだ冷え切ってないその温度に、きっと急いで作ってくれたのだと思った。
母の謝罪の気持ちが溢れてる気がして。食器の片付けを手伝いながら、母にだけ打ち明けた。
「……好きな人から、もらったの」
何を、なんて言わなくても伝わって、びっくりしたように母が顔を上げた。
「だから、怒ったりして。ごめんなさい」
「……それは、お母さんが本当に悪かったわ。代わりのものじゃだめね。ごめん」
改めて謝ってくれた。そして、声を潜めて晩酌中の父と兄を見やる。
「彼氏じゃないにしても……二人にはまだ言わない方が良いわね」
『ショックでお酒の量が増えるわ』なんていうから、小さく笑ってしまって、母も安心したように微笑んだ。

部屋に持ち込んだ空き缶は、結局捨てられなかった。
今時小学生でもしないような稚拙な恋に、自嘲しながらも、洗ってまた元の場所に置いた。
一人暮らしの部屋にまで持ってきてるなんて知ったら……拓眞くんに気持ち悪がられるかもしれない。
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