絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼の片想い*****

せめて信じて。3

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焦って呼びかけても、昏倒した美夜ちゃんはピクリとも動かない。
胸元が上下しているので、意識を失っただけだとわかり、とりあえず冷静さを失わずにすんだ。
目立った傷はなかったが、何人か集まり出した住人がすでに警察への通報をしてくれたようなので、次いで救急車も頼む。
ただ気が緩んでの失神かもしれないが、本人の意識がないので念のため。
起き上がれなかった様子から、頭を打ったかもしれないのが怖かった。
警察官が到着し、座って美夜ちゃんを抱きかかえたまま質問に出来るだけ答えた。
美夜ちゃんが気になって、気もそぞろだったけれど。
動かさない方がいいとは言われたが、色々な場面に遭遇している警官たちも、恐怖が緩んだ為の一時的な失神だろうと言ってくれてちょっとだけ安心した。

状況説明しているうちに、美夜ちゃんが目を覚ました。
犯人の声が、隣人に似ていたという。
自信なさげな声だったけど、恐らく間違いない。美夜ちゃんが、確信めいた気持ちもなしに人を貶めるようなことを口に出すはずがない。
隣人だなんて、と思ってゾッとする。そんな場所に、毎回帰していたなんて。
後頭部を打ち付けられたと聞いて、念のため二人して病院に行くことにした。僕の手も擦り傷と打撲だとは思うけど、まだかなり痛む。
大げさにしたくないのか、美夜ちゃんが担架を拒否したので付き添って歩いた。
成人しているけれど、学生だし、家族へ連絡した方がいいとの判断で……渋々お兄さんに電話をしたようだった。
自分も、家族への連絡を進めた。直接、ご家族にお詫びをしなければと思った。
美夜ちゃんに今後会わせてもらえなかったら?そう思うと、犯人と対峙した時よりも震えた。

だけど。こんな時間まで引き止めた僕の責任は……重い。

ヒビなんかは入っていなくて、僕の手は打撲と擦り傷だけだった。
僕が、もっと痛い目に遭えばよかったのに。
血は犯人のものも付着していたようで、採取された。
美夜ちゃんを傷つけた犯人の血液なんて、穢らわしいと不快に思う一方で、一矢報いたという気もして少しだけ溜飲が下がった。
美夜ちゃんの検査は時間がかかるようで、廊下で待つ。しばらくすると、駆ける足音が近づいてきた。顔を上げると、眼鏡の男性が息を切らせて現れた。
尋ねなくてもわかる。男女の違いはあっても、面差しがここにはいない僕の想い人に似ていた。
立ち上がり、口を開く。
「……美夜ちゃ……美夜さんは、今検査中です……」
名乗るのももどかしくて勢いよく頭を下げた。
僕の謝罪に、どれほどの意味や価値があるのか。ただの自己満足だったとしても、許されなくても、謝らずにはいられなかった。
「申し訳ありません!……全て、僕の責任です!」
「……君は……?いや、美夜の、その……被害は?」
繰り返し謝罪して、果てなく責められたかった。
それは、ただの自分の願望だ。楽になりたいがための。
そんなことよりも、まずは美夜ちゃんの様子を知りたいだろう彼女の兄に、なるべく私情を挟まず経緯を話し出した。

自分の名前。美夜ちゃんの今の様子。二人の関係……『サークル仲間』としか言えないことが淋しいけれど、事実のまま。飲み会の後……遅くまで、引き止めたこと。建物の中に入るところまで見届けたこと。連絡がないから戻ったら、防犯ブザーが鳴り響き目出し帽の男がいたこと。
「っ、目出し帽……それで、坂本くんも……怪我を?」
「……自分は大したことなかったです……取り逃がして、申し訳ありません」
『それに……』と、続ける。
「美夜、さんがした思いに比べれば……」
不覚にも、涙が滲んだけど、目をそらすべきではないと思った。情けない。好きな子も守れない不甲斐ない自分に、反吐が出そうだった。
「男の目的は、その……?」
お兄さんが、遠慮がちに尋ねた。
「……金銭ではなく、美夜さん自身が、目的で……抵抗して……すぐにブザーを」
お兄さんが少し緊張を解いたのがわかった。反対に、自分の体が強張っていく。
「け、警察は……お腹を、触られた、くらいで済んでよかったと……でも、その数分間……どんなに、怖かったか……」
涙がさらに目から盛り上がって、ついには顔を伏せて拭った。改めて顔を上げる。
「美夜さんに、怖い思いをさせたのは、自分の責任です。……本当に、申し訳ありませんでしたっ……」
病院のロビーは薄暗く、少しの照明より非常灯の緑の光の方が目につく。
長い廊下は、トンネルを思わせるように静かに続いていて、僕の自己満足の謝罪を響かせた。
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