絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼の片想い*****

せめて信じて。4

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「……とりあえず、顔をあげて」
軽いため息の後、落ち着いた声音が耳に降り注ぐ。喋り方ひとつとっても、美夜ちゃんを形作るのに影響しただろう『家族』を感じさせられた。
「……美夜も子供じゃないし、特に彼女はちゃんと考えて行動できる。ましてや、坂本くんは美夜を守って付き添ってくれてる。まぁ、時間的な問題とか、関係性とか、改善点はあるにしても……これ以上頭は下げないで」
美夜ちゃんを『彼女』と表現するあたり、1人の人間として敬意を払っていると思う。僕が好きになった女の子が、丁寧に育てられたんだと思うと、なおさら自責の念にかられた。
家族で大切に見守っているだろう娘さんを、危険な目に合わせた罪は重い。
「……すみません……」
未練がましい詫言が小さく漏れた。
「とにかく、座ろう。坂本くんも怪我人だし」
そう言って、お兄さんが座ったので、お辞儀をして自分も腰掛けた。

「あー、その……坂本くんは、美夜の恋人ってわけじゃないの?」
サークルの飲み会には、後輩も参加したりする。責任者がいる時は、未成年に飲ませないよう指導しているし、帰りも終電までと決めていた。
朝帰りがサークルの飲み会のせいにならないようにと、飲み会の後、2人で過ごして被害にあった時間になったことは先ほどの経緯で伝えていた。
「……僕は、そうなりたいと思ってます」
どんなに責められても、美夜ちゃんを諦める選択肢なんてなかった。
お兄さんは、ちょっとびっくりした顔をしたまま、しばらく沈黙した。
「……美夜が、難色を示してるってこと?」
しばらく静寂を味わうように黙った後、落ち着いた声音で尋ねられた。
「……2人で、会ってることは誰にも秘密だし……他に好きな人がいるみたいです……」
こんな時だっていうのに、美夜ちゃんの家族に恨みがましくこんな事を伝えながらも、止めることができなかった。
「関係が、壊れるのが怖くて。告白はできないでいます」
情けない顔をしていると自覚していた。それでも、僕は本気だって伝えたくて、つい打ち明けてしまう。諦めるつもりはないから、お兄さんとも長い付き合いになることは僕の中で決定事項だ。

お兄さんからの視線が痛い。いたたまれなかった。
「そう……美夜からも、話は聞けると思うけど……とりあえず、2人がどんな関係だったとしても、今回一緒にいてくれてよかったよ」
「……っ一緒にいなかったら……」
『美夜ちゃんはこんな目に遭わなかった』と、そう思って、自分の顔が歪むのがわかった。
「もし、本当に隣人が犯人だったら……何時頃でも被害にあった可能性はあるよ」
その言葉に、改めて背筋が凍った。
何も言えないまま、しばらく2人で物思いにふける。どれくらいそうしていたのか、診察室の扉が開いて中の光が漏れ、心配げなお兄さんを照らした。僕の顔も同じような表情に違いない。
美夜ちゃんが医師にお礼を言いながら出て来た。大袈裟だと笑われるかもしれないけど……彼女が動いているのが奇跡みたいで、離れていたのはほんの少しなのに涙が出そうだった。

「……お兄ちゃん……ごめんなさい」
美夜ちゃんが、何にも悪くないのに涙声で謝罪した。何も言えない自分が歯痒い。
「……怪我がなくて、よかった」
お兄さんが、美夜ちゃんに責めるような事を言わなかったので安心した。今の美夜ちゃんを、これ以上傷つけたくない。彼女が受ける責め苦は、全て自分が負ってしまいたかった。
「……坂本くんが、助けてくれたの」
優しい美夜ちゃんが、僕をかばってくれる。
「でも、こんな時間まで連れ回したのも……僕です。っ申し訳ありません!」
もう頭を下げないように言われていたけど、謝罪せずにはいられなかった。
美夜ちゃんが嗚咽を漏らしたのが、何よりも堪えた。

お兄さんが車で送ってくれると言うけど、もちろん断った。そんな資格、自分にあるわけがない。僕に時間を割くなら、早く美夜ちゃんを落ち着けるところに帰してあげたかった。
だけど…僕の断りの言葉に、声を嚙み殺そうとして失敗した美夜ちゃんのしゃくりあげるその声が響いて、お兄さんと顔を見合わせた。
明らかに、彼も美夜ちゃんの涙に弱いらしい。
「その方が美夜も心穏やかに居られると思うから、送らせてくれないか?」
項垂れて、抑えようとする嗚咽を全然我慢できていない美夜ちゃんが可哀想で。断ったら、美夜ちゃんはもっと泣くんだろうなってわかりきっていて。
仕方なく、自分のちっぽけなプライドや自己満足なんて捻じ曲げて大人しく車に乗った。
そんな僕に、お兄さんが憐憫の眼差しを送ったのがわかった。
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