絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼の片想い*****

せめて信じて。5

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送ってもらって部屋に入り、1人になった。自責の念は絶えず襲ってきて、浮上しない。
美夜ちゃんの、泣きそうな顔を思い出した。
お礼を言って車のドアを閉めた僕を、わざわざ追って降り、目の前に立って。何かを言いかけてはやめて、結局涙目でうつむき、小さく言葉を紡いだ。
「あの……迷惑かけて……本当にごめんなさい。あ、の……」
やっぱり言いたいことがあるようだけど、続きを言いにくそうにしている美夜ちゃんに『もうサークル以外で会わない』なんて言われたらたまらない。
「美夜ちゃん、今日は心配だから安静にして。また……また、ゆっくり話そう?」
そう言うと、顔をぱっとあげ、緊張が少し緩んだような顔をした。
「……また……うん。また、ゆっくり。おやすみなさい。坂……あ、拓眞くん」
頬が赤いのは、寒さからなのか恥ずかしいからなのかわからなかったけれど、名前を呼んでくれて嬉しかった。
「……おやすみ。美夜ちゃん」
こちらは、お兄さんに失礼な気がして、美夜ちゃんの家族の前で呼び捨てにはできなかった。
少し明るい表情になった美夜ちゃんは、しばらく実家に身を寄せるという。ほっとした。
早く、犯人が捕まるといい。

もう一度、シャワーを浴びる。
タオルで髪をぬぐいながら、キッチンに立った。洗った食器をふせるカゴに、美夜ちゃんのカップが見える。モノクロの陶器が多い中、パステルカラーがより目立った。
ちょっと考えて、自分のものではなく美夜ちゃんのカップで飲み物を入れて飲んだ。
少しだけ、心の中の黒い塊が解けたような気がした。
ご両親は、どうするだろうか。美夜ちゃんの一人暮らしに反対するかもしれない。
僕と会う事も、嫌がられるだろうか。
情けないけど、映画を部屋で見る約束をしていたことにほっとした。
美夜ちゃんは多分、約束だからとそこだけは時間を取ってくれるだろうと思った。……万一、もう会わないと言われてしまったとしても。

飲み物がわずかになって、マグカップの底にあしらわれた青い鳥が見えた頃、メッセージを知らせる着信音が響いた。
もう夜は明けていたけれど、週末のこんな朝から連絡してくる人に心当たりはない。きっと美夜ちゃんだ。
手にとって確認すると案の定で。

『家に着きました。今日は助けてくれて、本当にありがとう』

とりあえず、メッセージをくれた事が何よりも嬉しかった。最悪、連絡自体が途絶えたらと怖かった。それに、別れ際のように『ごめんなさい』と言われなくて、少し気も楽だった。
続きを何気なく目で追う。その文字列を目にして、理解が追いついた瞬間、思わずふらついて流し場の縁を左手でつかんで堪えた。

『今度からは、部屋まで送ってくれますか?』

思っていたより、気を張っていたようで足に力が入らなかった。軽く震える腕、脱力した足、緩む視界。安堵が襲って、どんなに恐れていたかを知る。
美夜ちゃんが、また僕と会ってくれるつもりでいること。この部屋で過ごして、一緒に彼女の家路を辿ることを許してくれるらしいこと。
それらの事に、叫び出したいほど歓喜した。実際は喘ぐような言葉にならない吐息が口から漏れた程度だけど。

『ありがとう。また会ってくれるなら、なんだってする』

そう書いて、続きを躊躇した。意識が遠のく間際の、美夜ちゃんの言葉がよぎった。

「……りこちゃんを……好き、でも、い……から……」

確かに、そう言ったと思う。だから『行かないで』と。
前に、りこちゃんが僕に放った脅しが、今頃になって効いてくる。

『五十嵐くんの誤解ちゃんと解かないと、後悔することになるからね』

その忠告を、軽く思っていた罰だ。有志の誤解が、そのまま美夜ちゃんの勘違いに繋がっているなんて。
僕のなけなしの勇気を振り絞った言葉や、精一杯の抱擁より、有志の浮かれた噂話を信じるなんて。
ちょっとした……それでいて、重大な裏切りに感じた。
美夜ちゃんに会う事を許され、欲張りになっている自覚はあった。
落胆の中、思考を巡らせる。今、美夜ちゃんにはっきり思いを告げたとしても、直接じゃないと絶対に伝わらない。
でも……僕の言葉に、少しは振り回されてしまえばいいのに。

『僕の中に、美夜ちゃん以上に大事なものなんてないから』

散々迷って、それだけ絞り出して送信した。
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