絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼の片想い*****

せめて信じて。6

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美夜ちゃんを襲った犯人が捕まったのは、彼女達と別れて5時間程経ってから。
連絡先を交換していたお兄さんが、夜に教えてくれた。
美夜ちゃんの証言通り、隣人の犯行だった。
未遂に終わった上、防犯ブザーで騒ぎになった事で焦った犯人は、どうせ捕まるなら1人でも女性を……なんて、浅はかで恐ろしい思考で犬の散歩をしていた若い女性をさらに襲ったらしい。
結果、女性の飼い犬に酷く噛まれ、手に怪我をした男について近隣の店舗に聞き込みをしていたところコンビニ近くで任意同行。隣人と判明した上に捜査通りの噛み跡もあって、事実上は御用となったそうだ。
美夜ちゃんともう1人の女性の恐怖を思うと……下半身を犬に食い千切られればよかったのにと、本気で思った。
とりあえず、美夜ちゃんの気が少しは休まるかもと安心した。

「それでね、坂本くん。両親が君に直接お礼を言いたいって譲らないんだよね。都合のいい日に、自宅を訪ねさせてもらう事は可能かな?」
「……っいえ!僕がお詫びする事はあっても、お礼なんて!こちらから、日を改めてと思ってました」
とりあえず、美夜ちゃんが少し落ち着いてからでないと、また可哀想なくらいに泣いちゃうだろうから。そう思って先送りにしていたけれど、娘さんを危険な目に合わせて、お兄さんにだけ謝って済ませる気はなかった。
「あー、それがね。被害にあった時間は両親に伝えてないし、その………勝手に坂本くんの事を美夜の彼氏だと思ってるんだよね」
間抜けな声が自分の口から出たけど、お兄さんは構わず続けた。
「だから、飲み会の後すぐに送ってくれた事になってるし、両親としては感謝しかないんだ。誰も得しないのに、わざわざ誤解を解かなくていいだろ?未遂の上に犯人が未成年だったらしくて、新聞にも載らなかったし、警察からの連絡は俺に来るようにしたし」
『だから、不自然に謝らないでね。両親の前で。黙ってたことバレたら俺もまずいんだ』なんて、軽く言う。
「でも、それだと……」
自分の気が収まらないと思いかけて、その傲慢さに言葉を続けられなかった。
「うん、だからね。それが償いだと思って甘受してくれる?1番堪える形になって申し訳ないけど」
確かに、そのいたたまれなさは1番の罰かもしれないけど。
「君を泣きながらかばう美夜を、もう見てられないし」
そう言われてしまったら、それ以上自分の我を通せず、せめて自分からご挨拶に伺う事で妥協してもらった。

飲み会は金曜日だったので、美夜ちゃんが少し落ち着くのを期待して日曜日に尋ねる予定だった。過去形なのは、それが叶わなかったから。
「ごめん。美夜が熱を出したんだ」
土曜日の夜からだと聞いた。頭を打ったことが原因じゃないかと、背筋が冷える。お兄さんに言わせると、知恵熱のような感だろうとのことなので少しホッとした。
一方で、その心痛を察すると泣きたくなる。好きな子1人守れない自分に辟易した。
すぐにでも会いに行きたい気持ちは、お預けを食らうこととなった。聞いたのは日曜日の朝で、空いた午後は別の人に会うことにした。
美夜ちゃんの勘違いを助長した1番の原因……有志の誤解を解いておかないと。
メッセージを送って予定を確認し、何度言っても聞き分けない友人に、どんな言葉を使えばわかってもらえるのかを時間いっぱい考えていた。

美夜ちゃんは、月曜と火曜、講義を欠席したようだった。熱自体は月曜日に下がったらしく、用心のためにもう1日。賢明な判断だと思う。
火曜は午後空いていたし、お兄さんも仕事が早くあがる日らしい。美夜ちゃんのお見舞いがてら、火曜日に伺う約束をしていた。
美夜ちゃんの実家は最寄駅から近く、すぐにわかった。病み上がりの彼女が迎えに来ると言ったけど、もちろん断って手土産を片手に向かう。
迷う覚悟をしていたけど杞憂に終わった。好きな女の子が生まれ育った町を、ちょっと迷いながら散策するのも楽しそうだったけど。
あまりに早く着き過ぎて、少し通り過ぎた辺りの公園で挨拶の練習をして時間を潰した。最近塗り替えたらしい不自然に鮮やかなイルカの遊具に、美夜ちゃんも昔乗っただろうかとぼんやり思った。

挨拶をブツブツ唱える若い男が不審者情報にあがる前に、公園を出て来た道を戻る。
インターフォンを押す指が震えた。……ちょっとね。
緊張したけど、迎えてくれた彼女のお母さんはとても美夜ちゃんに似ていて好感が持てたし安心感があった。
その後ろからこちらを伺う数日ぶりの想い人は、とんでもなく可愛くて。
「……坂本です。っはじめまして」
緊張して震えて上ずった挨拶は、仕方ないと思う。
好きな子の家族に会うのにこんなにも緊張する男を、彼女のお母さんも、奥の部屋から顔をのぞかせて会釈したお義姉さんらしき人も、無理からぬことと微笑むのに。
なのに、美夜ちゃんだけはなぜか意外そうにこっちを見ていた。
僕の好きな人は、気配り上手なのに鈍い。
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