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彼女の片想い******
絶対、ムリ。7
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『あのっ……りこ、さん!少しお時間ください!よかったら……後で連絡ください!』
聞こえた声が、幻聴だったらよかったのに。好きな人の声を、間違うはずなんてない。
雑踏の中でも拾うことができたその声は、間違いなく『たくまくん』の声だった。
前方で立ち止まる男女を、人々が避けながら追い越していく。微笑ましそうに見る人や、若かりし頃を思い出したのかにやける人、そんな人は数名で、大体が気になって見やるけど追い抜いて行く人と、最初から興味がないと言った風情の人たちだった。
足が急に機能を忘れたかのように動かなくなって、後ろから来る人にぶつかられたり舌打ちをされたりした。よろけるように端に寄ったけど、その様子からは目が離せなかった。
女子高生に声をかけた『たくまくん』の様子は、その女の子の体でよく見えない。ただでさえ、小さく折りたたんだ紙を女の子に突き出して、祈るようにお辞儀をしていたから、もっと近くてもわからなかったと思う。
告白とまでは行かなくても、明確な好意を持って声をかけたのは明白で、自分の連絡先を書いてあるだろう用紙を握りしめている所から、突発的なものでないことも伺える。
女の子が、人の流れを気にして端にずれて気づいた。私も知っている子だった。知っているけど、何にも知らない『後ろ姿が私と似ているりこさん』だった。
彼女が『たくまくん』に声をかけて、彼が弾かれたように顔を上げた。真っ赤な耳は、初めて見た。
ずっと盗み見ていた中でも、見たことがないくらいのびっくりした顔をして『りこさん』を瞳に映したところまで目で追って、それ以上はそこにいられなかった。
『りこさん』が、断るのか、連絡先を受け取るのか……本当は、最後まで見届けた方が良かったのかもしれないけれど、心臓が持ちそうになかった。
あの驚いた顔が、拒否の言葉によるものだったのか、それとも快諾に驚愕したものなのか、わからないまま踵を返して、下りの電車に乗った。
「美夜?忘れ物?……どうしたの?すごい汗!顔も真っ青よ?」
母が心配してくれたけど、逃げ帰ってきたとは言えなかった。母が貧血と判断してくれたので、その日は大幅に遅刻して行った。
自虐的だけど、駅に戻らずにはいられなくて遅刻だけにした。
時間がずれて、閑散とした駅。『たくまくん』が『りこさん』を呼び止めていた辺りで、連絡先が書かれていただろう紙が、しわくちゃになって落ちてたらいいのになんて、ばかな願望がよぎって自嘲した。
後ろ姿が似ているから、何度か『りこさん』と間違われて声をかけられた事がある。その時の男の子達とそっくりの、緊張と期待と紅潮。私の想い人も、落ち着いているようで、やはり普通の男子高校生だったようだ。
どうせ失恋するなら『たくまくん』も、間違えてくれたら良かったのに。どうせ失恋するなら、せめて初めて見るそんな『たくまくん』を近くで見たかったのに。なんて……あったらあったで立ち直れなかっただろう場面を夢想した。
それからは、その時間の電車は絶対に選ばなかった。
卒業までに帰りがけに何度か『たくまくん』を見かけたけど、逃げるように隠れた。
逃げるも何も『たくまくん』も『りこさん』も、私を知っているはずなんてないけど。でも、二人が待ち合わせをしていたりして、仲良く寄り添っていたりしたら立ち直れないと思った。
二人が付き合いだしたかは『りこさん』の方から調べられたかもしれないけど、そうしなかった。
そのまま卒業して大学に入学して。悪戦苦闘しながら授業を選択した。
友人が誰もとっていない講義の終わりに、一人で扉へ向かおうとした時、声をかけてきた女の子がいた。
「あの……美夜ちゃん!」
制服じゃなくなったから、ちょっと感じが変わっていて気づくのが一瞬遅れたけど『りこさん』だった。
「急にごめんなさい!私、あなたと同じ高校だった江頭りこです」
『りこさん』を、こんなに近くで見たのは初めてだった。
改めて、似ているのは後ろ姿だけなんだなって思う。顔が似ていたら、自分だって『たくまくん』の好みのタイプなのかもなんて自惚れることができたのに。
「私はあなたを知っていたけど、私のこと、知らないよね?」
見惚れていたら、不安そうに『急に話しかけてごめんね』なんていうから、あわてて私も知っていたことを告げる。よく『りこさん』の友人に間違われていたと言ったら、笑いながら『私も』と答えた。
「美夜ちゃんと間違って、告白してきた人もいるよ」
なんていうから、それは私の方がずっと被害を被っていたと笑い飛ばした。
「勝手にずっと美夜ちゃんって呼んでたの。このままでいい?」
なんて、断れるわけないくらい素敵な笑顔で言うから、私も『りこさん』から『りこちゃん』って呼ぶことにした。
りこちゃんに話しかけられた10日ほど後。彼女に紹介されたサークルに入った。
その更に1週間後、そのサークルに『たくまくん』が入会するなんて、その時は考えてもみなかった。
聞こえた声が、幻聴だったらよかったのに。好きな人の声を、間違うはずなんてない。
雑踏の中でも拾うことができたその声は、間違いなく『たくまくん』の声だった。
前方で立ち止まる男女を、人々が避けながら追い越していく。微笑ましそうに見る人や、若かりし頃を思い出したのかにやける人、そんな人は数名で、大体が気になって見やるけど追い抜いて行く人と、最初から興味がないと言った風情の人たちだった。
足が急に機能を忘れたかのように動かなくなって、後ろから来る人にぶつかられたり舌打ちをされたりした。よろけるように端に寄ったけど、その様子からは目が離せなかった。
女子高生に声をかけた『たくまくん』の様子は、その女の子の体でよく見えない。ただでさえ、小さく折りたたんだ紙を女の子に突き出して、祈るようにお辞儀をしていたから、もっと近くてもわからなかったと思う。
告白とまでは行かなくても、明確な好意を持って声をかけたのは明白で、自分の連絡先を書いてあるだろう用紙を握りしめている所から、突発的なものでないことも伺える。
女の子が、人の流れを気にして端にずれて気づいた。私も知っている子だった。知っているけど、何にも知らない『後ろ姿が私と似ているりこさん』だった。
彼女が『たくまくん』に声をかけて、彼が弾かれたように顔を上げた。真っ赤な耳は、初めて見た。
ずっと盗み見ていた中でも、見たことがないくらいのびっくりした顔をして『りこさん』を瞳に映したところまで目で追って、それ以上はそこにいられなかった。
『りこさん』が、断るのか、連絡先を受け取るのか……本当は、最後まで見届けた方が良かったのかもしれないけれど、心臓が持ちそうになかった。
あの驚いた顔が、拒否の言葉によるものだったのか、それとも快諾に驚愕したものなのか、わからないまま踵を返して、下りの電車に乗った。
「美夜?忘れ物?……どうしたの?すごい汗!顔も真っ青よ?」
母が心配してくれたけど、逃げ帰ってきたとは言えなかった。母が貧血と判断してくれたので、その日は大幅に遅刻して行った。
自虐的だけど、駅に戻らずにはいられなくて遅刻だけにした。
時間がずれて、閑散とした駅。『たくまくん』が『りこさん』を呼び止めていた辺りで、連絡先が書かれていただろう紙が、しわくちゃになって落ちてたらいいのになんて、ばかな願望がよぎって自嘲した。
後ろ姿が似ているから、何度か『りこさん』と間違われて声をかけられた事がある。その時の男の子達とそっくりの、緊張と期待と紅潮。私の想い人も、落ち着いているようで、やはり普通の男子高校生だったようだ。
どうせ失恋するなら『たくまくん』も、間違えてくれたら良かったのに。どうせ失恋するなら、せめて初めて見るそんな『たくまくん』を近くで見たかったのに。なんて……あったらあったで立ち直れなかっただろう場面を夢想した。
それからは、その時間の電車は絶対に選ばなかった。
卒業までに帰りがけに何度か『たくまくん』を見かけたけど、逃げるように隠れた。
逃げるも何も『たくまくん』も『りこさん』も、私を知っているはずなんてないけど。でも、二人が待ち合わせをしていたりして、仲良く寄り添っていたりしたら立ち直れないと思った。
二人が付き合いだしたかは『りこさん』の方から調べられたかもしれないけど、そうしなかった。
そのまま卒業して大学に入学して。悪戦苦闘しながら授業を選択した。
友人が誰もとっていない講義の終わりに、一人で扉へ向かおうとした時、声をかけてきた女の子がいた。
「あの……美夜ちゃん!」
制服じゃなくなったから、ちょっと感じが変わっていて気づくのが一瞬遅れたけど『りこさん』だった。
「急にごめんなさい!私、あなたと同じ高校だった江頭りこです」
『りこさん』を、こんなに近くで見たのは初めてだった。
改めて、似ているのは後ろ姿だけなんだなって思う。顔が似ていたら、自分だって『たくまくん』の好みのタイプなのかもなんて自惚れることができたのに。
「私はあなたを知っていたけど、私のこと、知らないよね?」
見惚れていたら、不安そうに『急に話しかけてごめんね』なんていうから、あわてて私も知っていたことを告げる。よく『りこさん』の友人に間違われていたと言ったら、笑いながら『私も』と答えた。
「美夜ちゃんと間違って、告白してきた人もいるよ」
なんていうから、それは私の方がずっと被害を被っていたと笑い飛ばした。
「勝手にずっと美夜ちゃんって呼んでたの。このままでいい?」
なんて、断れるわけないくらい素敵な笑顔で言うから、私も『りこさん』から『りこちゃん』って呼ぶことにした。
りこちゃんに話しかけられた10日ほど後。彼女に紹介されたサークルに入った。
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