絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼の片想い******

きっとそうだよ。2

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呼び出した相手は、僕が着く前に待ち合わせ場所に来ていた。
「有志、急に呼び出してごめんね」
席に着くと、顔を上げた友人は、いつもの人のいい笑顔で口を開いた。
「おう。それはいいけど。悪かったな、近くまで来てもらって」
「いや。呼び出したのはこっちだし。真面目な話だったから。ちゃんと場を設けて聞いて欲しかったんだ」
普段なら、有志の部屋に上がりこむから、彼の家の近くのこのカフェは初めて入った。コーヒー1つでも種類豊富な中から、苦味とコクが強いものを注文する。
「急に改まってなんだよ?」
美夜ちゃんの勘違いの元になっているだろう有志に、感情的にならないように、でも、必ずわかってもらえるように。慎重に話さなければと思うと、少なからず緊張した。
本当はすぐにでも美夜ちゃんのお見舞いに行きたいくらいだし、こうしている間にも、美夜ちゃんがありえない勘違いをしていると思うと気が焦る。
彼女の誤解を解いたところで、僕がすぐに恋人になれるわけでも、美夜ちゃんの長年の想い人に成り変われる訳ではないとわかってはいるけど。

僕が、美夜ちゃんに想いを寄せていたように、美夜ちゃんも高校生だった僕に覚えがあるんじゃないか。お守りを拾ったことを覚えてやしないか。間違えて熱いコーヒーを買った男子高校生に優しくした記憶は残っていないか。確認しなかったわけはない。
それとなく、聞かれてもいないのに出身高校を告げてみたり、美夜ちゃんの高校の最寄駅で乗り換えていた話をしてみたり。祖母にもらったお守りの話をしてみたりもした。
バカみたいに緊張しては、美夜ちゃんの様子を伺った。
僕の高校時代の話になんかは反応が薄くて、唯一、お守りの話にだけは『おばあちゃんっ子だったんだね』と微笑んだ。
ちなみに、色づいた頬と、花がほころぶような、可憐としか表現しようのないその笑みに、いつものようにキスをせがんで……速攻で断られた。『絶対、イヤ』と。
有志が思い込んでいるまま、吹き込んでいるままに、僕がりこちゃんに想いを寄せていると、美夜ちゃんが誤解していたって、僕が美夜ちゃんの恋人に昇格できないこととは別問題かもしれない。
けれど、他に好きな人がいるのに、違う女の子を抱く男だとは思われたくない。それでいうと、美夜ちゃんだって……本当は、好きな人以外に肌を晒したりなんかしない子だと思う。

だけど、美夜ちゃんの好きな人は、僕じゃない。

あんなに熱い視線を送っていたのに、高校生の時の僕を、彼女は認識していなかったんだから仕方がない。
でも、きっとそのうち……絆されて、押し負けて、錯覚して。うっかりキスを許して、僕を好きなってくれる。
そうなって欲しいし、そうなる様に努力する。そのためにも、有志と話さなければいけない。
「そろそろ、本気で、真剣に、有志の誤解を解きたいと思って」
いつも以上にしっかりと友人の目を見て言った。
「誤解?」
「うん。誤解。大きな、大きな、勘違い」
心底わからないといった様子の有志に、どう伝えるのが1番有効的かを、頭の中で組み立てた。
ふと気付いたけど、美夜ちゃんに先に言いたいからって、有志にはっきり言ったことはなかったかもしれないなと思い当たる。
そうか。遠回しな言葉や、結論が後回しで最後まで聞いてもらえない説明や、曖昧な話し方ばかりをしてきたのかもしれない。有志の思い込みや鈍さも相当なものだったと思うけど。
言いたいことは、至ってシンプルだった。
「……『俺』ね。高園美夜さんが、好きなんだ。ずっと。高校生の時から」
有志の目が驚きに見開かれたのを見て、初めてこの話題が彼の元にきちんと届いた気がした。小さく『えっ?』と呟いて、そのままの形で閉じられない唇に、友人の驚きが伝わって、その分、信じてもらえる気がした。
「だって……高校の時からって……お守りを。りこちゃん、が」
うん。『高校の時に、お守りを拾ってもらってから、りこちゃんが好きなんだろう?』って言いたいんだとわかる。
いつもの飲みの席と違って、話を聞いてもらえそうだと思った。ちょうどそのタイミングで届いたコーヒーに、軽く口をつけて、その熱さに、たいして口の中に入れられずに香りだけを楽しんで。美夜ちゃんとの一方的なコーヒーの思い出に勇気をもらった。
「あの時、後ろ姿を見て、みんなが『りこちゃんだ』って言ったし、僕も最初は名前を『りこさん』だと思ってたんだけど。お守りを拾ってくれたの、美夜ちゃんなんだ」

眉を顰めて、疑うように僕を見た有志は、そのままたっぷり10分くらい動かなかった。何度も話しかけようとしたけど、眉根のシワは緩んだり刻まれたりしていたので、彼なりに何かを考えているようだったので待った。
最後に目を見開いたので、何かの結論に至ったかと思って口を開きかけたら、それより早く有志が声を出した。
「……俺、りこちゃんに会ってくる」
何を決意したのか、今日家を出る前の僕の様な、覚悟を決めた顔で、友人がそう告げた。
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