絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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彼の片想い******

きっとそうだよ。3

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りこちゃんに?彼女に会って、わざわざ確認するつもりだろうか?今までの勘違いの非礼を詫びるつもりだろうか?
僕も付いていった方が良いのかとも思ったけど、あまりに有志が真剣で、気後れしてしまう。
「え?……まあ、りこちゃんも、僕が美夜ちゃんを好きだと知ってるけど」
そう言うと、有志はびっくりした顔で僕を見た。
「は?何で知ってるんだよ?個人的に相談する様な間柄なのか?」
有志が剣呑な雰囲気を醸し出す。
まあ、美夜ちゃんの事で、便宜を図ってもらった事はある。
美夜ちゃんが同じ大学だって教えてくれたのもりこちゃんだし、美夜ちゃんと共に入っていたサークルに引き入れてくれたのも彼女だ。
だからといって、決して協力的ではなくて……『美夜ちゃんとどうなってるの?』とまなじりを釣り上げる割には、べったりと美夜ちゃんにくっついて、羨ましいだろうと言わんばかりに、にんまりと笑うのが常だった。

「そもそも、気持ちを隠したりしてないから、僕が美夜ちゃんを好きだって、みんな気づいてると思うよ」
有志が『そうなの?』みたいな顔をする。
「まあ、りこちゃんは1番早くから知ってるけど」
「……なんでだよ?俺のいないところで親しくしてたのかよ」
不機嫌そうな顔をする。
『おや?』と思った。友人の色恋にはあまり興味がなかったし、やたらと僕とりこちゃんをくっつけたがるから、それは考えたことなかったけど。ひょっとしてって思った。
恥ずかしすぎて、本当は言いたくなかったけど、今日こそはっきり誤解を解くと決めたので渋々口にした。

「卒業近くなった頃……美夜ちゃんと間違って、りこちゃんに告白しようとしたんだよ」
本当に、一生の汚点と言っていい。
美夜ちゃんの姿を、一度も近くで、まともに見たことがないくせに彼女に恋をした。その雰囲気と、姿勢と、凛とした佇まいに。やわらかな声と、優しさに。
遠くから見て、美夜ちゃんとりこちゃんを見間違うことなんて、ずっとなかった。名前だけは、みんなに教えてもらった『りこ』だと思ってたけど。
だけど、肝心の想いを告げる日。
緊張して、比喩でなく本当にめまいがするほどで、顔もろくにあげられなくて、後ろ姿を見て、美夜ちゃんだと思って呼び止めた。
勘違いしたまま『りこさん』と名前を呼んだから、りこちゃんはもちろん立ち止まってくれて、回り込んで連絡先を差し出した。
本当は、公衆面前でそんなこと嫌がるだろうなってわかってたけど、呼び出す方法なんてなかったし、それしかなくて。自分勝手だけど、認識してもらうことを優先して声をかけた。

『りこさん』がこちらに顔を向けたって、直視できなかった僕には別人だと気づけなくて、彼女が声を出して初めて気づいた。間違えたって。
僕の様子に、すぐに合点がいったようで、『後ろ姿がすごく似た子が居るんだよ』と教えてくれた。
『たまに間違えて、今日みたいなことがある』と言ったから、僕以外は全部目の前の『りこさん』に心変わりすれば良いのにと思った。友達を連れてこなくてよかったとも。
僕の好きな女の子が別にいることに、その子も男性を惹きつける魅力があるってことに、いたずらに気づかれたらたまらない。
もう一度本当の想い人に声をかける時も、友人に付き添ってもらうのはやめようと固く決心した。誰かが彼女を好きになってしまうかもしれない。
『りこさん』の話では、彼女の清廉で凛とした雰囲気に惹かれる男が、少なからず居るらしい。そこに友人達が加わるのではと焦って、心は狭くなる。
僕は相当絶望した顔をしていたらしく……本当の『りこさん』は、考えるように斜め上をちょっと見上げた後、僕の顔を見て、憐れんだ様な、それでいて面白がった様な顔をして『個人情報だけど、下の名前だけはいいかな?彼女、美しい夜って書いて、美夜ちゃんって言うらしいよ』と言って去っていった。

その日から『りこさん』は『美夜ちゃん』になったけど、それから大学生なるまで、一度も会えなかった。
毎日姿を見ていた訳ではないけれど、次に見たら、絶対に連絡先を渡そうと息巻いていたのに。
友達が一緒だったら、どうやって引き離して声をかけようかなんて、頭の中でシュミレーションまで繰り返して。いつでも出せるように、制服のポケットに入れた連絡先は、くしゃくしゃになる度に書き直して。
なのに。美夜ちゃんには、会えなかった。
そんな美夜ちゃんと、同じ大学だったのは奇跡みたいなものだ。実家から通うには少し遠いけど、部屋を借りるにもコストが低い土地柄で、学びたい学科があって、学力も釣り合っていてた今の大学。
最終的に選んだ当時の自分と、いくつかの中で迷っていた自分に『第一希望俺もそこだし、近いからあの大学にしろよ』と誘った目の前の友人に深く感謝した。

その友人は、いまや飲み物には口をつけず、間違ってりこちゃんに声をかけたと告白した僕を、呆れと侮蔑と憐れみを持って見つめていた。
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