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彼の片想い*******
寝ても醒めても。2
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美夜ちゃんに許可を得て、トイレを拝借した。リフォームしたばかりのそこは洒落ていて、シックな内装は上品なお店のそれのようだ。
そこにある鏡に映る、不釣り合いな姿。目は真っ赤で、少し腫れている。
美夜ちゃんのお母さんに、お義姉さん。女性は鋭いから、すぐに泣いたのがバレてしまうだろうな……なんて思いながら出たら、廊下でお母さんと鉢合わせた。
「すみません。お手洗いをお借りしました」
今更だけど、恥ずかしくて少し伏し目がちに断りを告げる。
「畏まらずに、自由に使ってね」
そう微笑む姿は、美夜ちゃんに似ているけれど、彼女より社交的で気さくだ。
経験を重ねたせいなのか、美夜ちゃんの性格は父親譲りなのかと考えて、普段の彼女の所作に思いを馳せる。
そうして、改めて、美夜ちゃんがどれだけ家族に大切にされているかに思いあたった。
「あの……すみませんでした」
謝罪の言葉に、微かに首を傾げた美夜ちゃんのお母さんは、やっぱり美夜ちゃんに似ている。
「娘さんを、危険な目に合わせて」
「そんな、謝罪なんて。あなたみたいな彼氏がいて、良かったわ」
『彼氏』の一言に、胸がざわついた。
お兄さんの指示の通り、何食わぬ顔で美夜ちゃんの彼氏のふりを通してご両親と話すのは簡単だ。緊張するってだけ。
自責の念に目をつぶれば、周りから固めるいい機会ですらある。
だけど。そんな不誠実な態度で、美夜ちゃんの隣を得る資格は、僕にあるだろうか?
「彼氏……じゃ、ないんです。まだ」
真実を告げずに、ご両親に感謝されて、申し訳なさに恐縮する。そんな自分から逃げたかっただけかもしれない。
だけど、この先ずっと。美夜ちゃんの隣に並んで、目の前の女性と会いたいと思った。
『美夜ちゃんのお母さん』じゃなく、いつか『お義母さん』として。
「それなのに、遅くまで引き止めました。申し訳ありません」
びっくりした顔も、美夜ちゃんに似ている。
誤解を招きたくなくて、慌てて続きを口にした。
「あの!でも!絶対、美夜ちゃんに振り向いてもらいます!努力します!だから、また、美夜ちゃんに会わせてください」
驚きの表情が、僕の目を捉えて、考え込んで、細められた。柔らかい表情だけれど、どう思われたかはわからないから、執行を待つ犯罪者の様な気持ちで反応を待った。
「……そう。じゃあ、なおさら良かった」
その言葉に視線を上げると、彼女の母親は本当に嬉しそうに笑っていた。
「まだ恋人じゃなくても、美夜を送ってくれてありがとう。怪我しても、美夜を諦めないでくれてありがとう。私の娘を、好きになってくれて……本当にありがとう」
そんなことを言って、幸せそうに笑うから、緩くなった涙腺がまた、瞳に膜を張るのを容易く許してしまった。
「うちの息子、あんまりかわいくなく育っちゃったから。息子の恋の相談に乗ったり、協力したりってできなかったの」
そんな僕を気遣ってか、ちょっと視線を下げて、笑顔を曇らせそんなことを愚痴る。
「だから、坂本くんが美夜の彼氏になるために協力が必要だったら言ってね!」
弾む様にそう宣言してくれた。
「ありがとう、ござい……ます」
震えながら最後まで言い切って、深く頭を下げた。
少なくとも、美夜ちゃんの家族に拒否されないことで救われた。
美夜ちゃんのお父さんも、すごく好意的だった。
お兄さんの朝陽さんに加え、お母さんの小夜さんからも、本当のことを言うのは口止めされた。
「数年後にお酒の席ででも、謝罪したらいいじゃない」
なんて。美夜ちゃんのお母さんが、先の未来を口にするのが嬉しくて。つい、そのまま流されてしまった。
お父さんも優しかったけど、やっぱり『父親』は特別に緊張するから、へたれて言い出せそうにもなかった。
電車だけどお酒は固辞して、鮮やかに彩られた食卓を囲った。
小さい頃の話には、美夜ちゃんが顔を赤らめて静止し、自分の話が振られた時には誠実にお答えした。
お父さんからは、美夜ちゃんをたまに連れ出す許可をもらえた。
お兄さんも、事件の詳細を追って教えてくれると言った。
お母さんとも、連絡先をこっそり交換して、何かの時には相談に乗ってくれるという。
美夜ちゃんの家族は、美夜ちゃんを育んだだけあって、みんな優しい。
病み上がりの彼女の体調を慮って、長居しないようにご自宅を後にしたけど、家路は幸福な気持ちで満たされていた。
あの家族の中で、大切に慈しまれていれば、美夜ちゃんの傷は少しでも早く和らぐだろうと思ったから。
そこにある鏡に映る、不釣り合いな姿。目は真っ赤で、少し腫れている。
美夜ちゃんのお母さんに、お義姉さん。女性は鋭いから、すぐに泣いたのがバレてしまうだろうな……なんて思いながら出たら、廊下でお母さんと鉢合わせた。
「すみません。お手洗いをお借りしました」
今更だけど、恥ずかしくて少し伏し目がちに断りを告げる。
「畏まらずに、自由に使ってね」
そう微笑む姿は、美夜ちゃんに似ているけれど、彼女より社交的で気さくだ。
経験を重ねたせいなのか、美夜ちゃんの性格は父親譲りなのかと考えて、普段の彼女の所作に思いを馳せる。
そうして、改めて、美夜ちゃんがどれだけ家族に大切にされているかに思いあたった。
「あの……すみませんでした」
謝罪の言葉に、微かに首を傾げた美夜ちゃんのお母さんは、やっぱり美夜ちゃんに似ている。
「娘さんを、危険な目に合わせて」
「そんな、謝罪なんて。あなたみたいな彼氏がいて、良かったわ」
『彼氏』の一言に、胸がざわついた。
お兄さんの指示の通り、何食わぬ顔で美夜ちゃんの彼氏のふりを通してご両親と話すのは簡単だ。緊張するってだけ。
自責の念に目をつぶれば、周りから固めるいい機会ですらある。
だけど。そんな不誠実な態度で、美夜ちゃんの隣を得る資格は、僕にあるだろうか?
「彼氏……じゃ、ないんです。まだ」
真実を告げずに、ご両親に感謝されて、申し訳なさに恐縮する。そんな自分から逃げたかっただけかもしれない。
だけど、この先ずっと。美夜ちゃんの隣に並んで、目の前の女性と会いたいと思った。
『美夜ちゃんのお母さん』じゃなく、いつか『お義母さん』として。
「それなのに、遅くまで引き止めました。申し訳ありません」
びっくりした顔も、美夜ちゃんに似ている。
誤解を招きたくなくて、慌てて続きを口にした。
「あの!でも!絶対、美夜ちゃんに振り向いてもらいます!努力します!だから、また、美夜ちゃんに会わせてください」
驚きの表情が、僕の目を捉えて、考え込んで、細められた。柔らかい表情だけれど、どう思われたかはわからないから、執行を待つ犯罪者の様な気持ちで反応を待った。
「……そう。じゃあ、なおさら良かった」
その言葉に視線を上げると、彼女の母親は本当に嬉しそうに笑っていた。
「まだ恋人じゃなくても、美夜を送ってくれてありがとう。怪我しても、美夜を諦めないでくれてありがとう。私の娘を、好きになってくれて……本当にありがとう」
そんなことを言って、幸せそうに笑うから、緩くなった涙腺がまた、瞳に膜を張るのを容易く許してしまった。
「うちの息子、あんまりかわいくなく育っちゃったから。息子の恋の相談に乗ったり、協力したりってできなかったの」
そんな僕を気遣ってか、ちょっと視線を下げて、笑顔を曇らせそんなことを愚痴る。
「だから、坂本くんが美夜の彼氏になるために協力が必要だったら言ってね!」
弾む様にそう宣言してくれた。
「ありがとう、ござい……ます」
震えながら最後まで言い切って、深く頭を下げた。
少なくとも、美夜ちゃんの家族に拒否されないことで救われた。
美夜ちゃんのお父さんも、すごく好意的だった。
お兄さんの朝陽さんに加え、お母さんの小夜さんからも、本当のことを言うのは口止めされた。
「数年後にお酒の席ででも、謝罪したらいいじゃない」
なんて。美夜ちゃんのお母さんが、先の未来を口にするのが嬉しくて。つい、そのまま流されてしまった。
お父さんも優しかったけど、やっぱり『父親』は特別に緊張するから、へたれて言い出せそうにもなかった。
電車だけどお酒は固辞して、鮮やかに彩られた食卓を囲った。
小さい頃の話には、美夜ちゃんが顔を赤らめて静止し、自分の話が振られた時には誠実にお答えした。
お父さんからは、美夜ちゃんをたまに連れ出す許可をもらえた。
お兄さんも、事件の詳細を追って教えてくれると言った。
お母さんとも、連絡先をこっそり交換して、何かの時には相談に乗ってくれるという。
美夜ちゃんの家族は、美夜ちゃんを育んだだけあって、みんな優しい。
病み上がりの彼女の体調を慮って、長居しないようにご自宅を後にしたけど、家路は幸福な気持ちで満たされていた。
あの家族の中で、大切に慈しまれていれば、美夜ちゃんの傷は少しでも早く和らぐだろうと思ったから。
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