絶対、イヤ。絶対、ダメ。

高宮碧稀

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閑話******

横山先輩はほくそ笑む。1

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サークルは、別に入らなくても良かった。好きな事はその気になればどこでもやれたし、誰とでも楽しめた。
大学の狭いコミュニティで、別にわざわざやらなくてもいいと、そう思ってた。だから、そう言って断わり続けてたのに。
合コンの席で『横山くぅん』と間延びする媚びた口調の左隣の女に勧められたサークルを断ると、向かいに座る彼女がこう言ったのだ。
「別にわざわざやらなくてもいいっていう気怠げな感じなら、やったっていいじゃない?人生の彩りよ?」

…人生の、彩り?

『そうか』と、何故か胸の中に素直に落ちて来た。
その言葉を発した、勝ち気そうな向かいの女を、顔を上げて初めてまともに見た。
合コンだって、別にわざわざ行かなくても、野郎だけで楽しく飲むので十分だった。数合わせで仕方なく参加を請け負ったのは、幹事に最近ちょっとした世話になったから。
場の雰囲気を壊さず、どの友人の邪魔もせず、ただソツなく時間を過ごして帰るつもりだった。
別に、アクティブに人生を謳歌してるつもりはなくても、消極的な方でも、取り立てて無気力な方でもない。
それでも、そんな前向きなお節介には、反発心や忌避感を感じる方だった。いつもなら。
見つめる先の女は、媚びるように甘い酒をチビチビ飲む女達とは違って、ビールを口に運ぶ。
余計なお世話なのに料理を取り分けては、気が利く女気取りの女達を尻目に、さっさと食べたいものを自分の皿に盛っている。
箸の持ち方は品が良く、気持ちよく料理が減っていく。
俺に発した言葉は、単に耳についた会話へ軽く口を挟んだだけのようで、俺の返事は期待してないようだ。

もう一度、こっちを見ればいいのに。
もう一度、声を出せばいいのに。

そう思うのに、その女は、勝手に食事をして、勝手に飲んで、たまに周りの話に口を挟んで。
どの男にも。媚びた上目遣いも、軽いボディータッチも、甘えた声も発せず。
なんだかんだと使い古されたそれらのあからさまな手法で狩りをする女にも、いい加減わかっていても簡単に引っかかる男にも、ニュートラルな視線を向けている。

パクパクと食べる女が、チラリと視線を走らせてこちらを見たときには、ちょっと心臓が跳ねた。
見ているのは、俺の顔って訳でも、たまに女に褒められる指先でもなくて、俺の近くの料理。
ちょっと落胆している、自尊心が傷ついてる自分を自覚しながら、皿を取って女に料理を渡した。
びっくりしたように、顔を上げた女に、心臓が音を立てた。
食べ物に気を取られていた事に。それに気づかれていた恥ずかしさに。はにかんだ笑みを浮かべた女。
少々キツく感じる顔立ちが、緩む様子に鼓動が急いだ。
「ありがとう。これ、おいしいよ?食べた?」
そう言いながら、自分の分をさっさと大目に小皿に移し、俺の分にと少し残したらしい料理を返してくる。
「…取り分けてくれる気はないんだ?」
望んでもいないのに、ついそんな言葉が口から出た。
会話を、続けたかったのかもしれない。
「え?取り分けて欲しいの?自分のタイミングで食べたい人かと思った」
そう言って、取り皿を取ってくれようとする。
「ああ、いや。自分でやる」
そう言って、彼女おすすめの料理を皿に自分で盛った。
「やだぁ!横山くん、自分でー?私してあげたのにぃ!」
左隣の女が、甘えた声で話しかけては腕に触れてくる。
「綾ったらー!取り分けくらいしてあげなよー」
彼女を貶めつつ、自分なら気が利くとアピールする姑息さに、辟易した。

『あや』と言うのか。名前。
気にしてなかったから、誰の自己紹介も聞いてなかった。
彩?絢、綾、亜矢、亜弥…?
漢字はどう書くのかなんて、想いを馳せてる自分を自嘲しながら、彼女を観察する。
「ああ、ごめん。なんでも自分でやる男が好きなの」
なんて言うから。
思わず一人暮らしで自炊も家事もまあまあこなす俺はクリアだな、なんて。バカな事に胸を躍らせた。
「…自分は、なんのサークルに?」
左隣の女を無視して『あや』に問う。
「ん?見学に来る?」
そう言いつつ、いつも集まる部室を説明している。
『連絡先交換しよう』とはならないらしい。
その後軽く話されたサークルの内容より、彼女が顔を出す場所だってだけで、部室の階や場所を心の中で復唱する。
そんな自分が、滑稽だったけど、不快ではなかった。
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